『みんなの有機農業技術大事典』刊行によせて
今なぜ、『みんなの有機農業技術大事典』を作るのか
技術伝承待ったなし
有機農業に取り組む農家(経営体)は現在、全国に約6万9000戸あるそうです(2020年センサス)。しかし、その63%は65歳以上で、このうち7割は後継者がいません。先駆者の知恵や技術が失われてしまう。「みどり戦略」は、その瀬戸際に発表されたわけです。 一方で今、新規就農者の約20%が有機農業に取り組んでいます。技術伝承は喫緊の課題ですが、それなら私たち農文協の得意分野です。ここは一肌脱ごうと考えました。
「みどり戦略」を農家のものにする
みどり戦略は有機農業への関心を一気に高め、強烈な推進力を発揮しています。これを一過性のブームに終わらせるわけにはいきません。本書は、農水省が作成した「みどりの食料システム戦略技術カタログ」にも対応しています。カタログで紹介されているさまざまな技術や研究を、より詳細に解説する内容です。 ただし、例えば「RNA農薬」や「ゲノム編集」などは掲載していません。すべての研究を載せるのではなく、「農家が本当に現場で使えるか」という視点で厳選しています。
官より民が先を行くのが有機農業の技術
本書は「共通編」「作物別編」各約1100~1200ページの2巻セットです。その核を成すのは、全国の農家事例。農文協の機関雑誌『現代農業』に登場する農家たちに、試行錯誤して磨き上げた農業技術を、改めて紹介してもらいます。 農研機構が有機農業の研究に本腰を入れたのは2006年制定の「有機農業推進法」以降。それも稲作が中心で、野菜や果樹は近年ようやく活発に研究されるようになってきました。農家のほうが圧倒的に先を行くのが有機農業の技術です。本書は、その集大成としたい。 アグロエコロジーやリジェネラティブ農業など、海外の考え方や技術が注目を集めていますが、日本の有機農業もまったく負けていないことが、本書を読めばよくわかるはずです。
有機JASも自然農法も環境保全型農業も仲間
有機農業にはさまざまな農法や流儀があります。耕すか耕さないか、固定種かF1品種か、動物性堆肥を使うか使わないか、JASで認められた農薬を使うか否か。本書では、それらの違いを乗り越えたいと思います。 もっといえば、無農薬や無化学肥料だけが有機農業ではありません。ベテランも新人も、農法の違いも関係なく、循環型で持続可能で生物多様性で脱炭素を目指す、すべての農家が有機的に繋がる本とします。そんな思いを、書名に込めました。