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Ruralnet・農文協>食農教育>1999年夏 5号 |
「自分の家や学校以外にある木を一本だけ選びましょう。なぜ、その木を選んだかわけもちゃんと言えるようにね。」
「あなたの家の木を勉強に使わせてください」と自分で書いた手紙と校長・担任連名の文書を持って子どもがそれぞれの「木の持ち主」に直接お願いに行く。子どもたちはドキドキだ。自分でお願いにいくことなどめったにない。「断られたらどうしよう」「わかってもらえるんだろうか」という思いを抱いてお願いに行く。
ひろこちゃんが家の木を使わせてもらえないかと近所の人に相談に行ったらおばちゃんがこんな話をしてくれたそうだ。
「おばちゃんがまだ子どもの頃にな、お父さんがいつも庭のカキの木を見ながら、渋柿は寒い風に当たって、甘く甘くなるんだよ。おまえも世間の冷たい風にあっても他の人には優しく甘くなるんだよってはなしてくれたんで。お父さんの言っていたことが大人になってからよくわかったよ。だから、ひろこちゃんには渋柿の木を勉強で使ってほしいなあ」。
ひろこちゃんは何度もクラスの中でその話をしてくれた。
放課後、何日かかけて、木を使わせてくださる家を一軒一軒回って私は挨拶をしたが、どの家の人も非常に協力的で、ほっとした。
「まあ、よう来てくれた。あがっていっしょにお茶でも飲もうや」とすすめられ、延々二時間もしゃべりっぱなしなんてこともあった。「このナツメの木は息子は何度も切りたがるんじゃけど、おじいさんがどうしても残すとゆうて聞かん。息子はもうこんな木は役に立たんけぇ、切ってしまえと言っておったんですわぁ。となりのけんちゃんの勉強に役に立つなんか思うてもみなんだ。切らんで本当にえかったわぁ」。結局、この日は一軒だけしかまわれなかったが、こんな語らいがあると、疲れなんかどこかへ飛んでいってしまう。
★木の持ち主の感想
「孫が小学校の三年の時に植えた木ですが、実がなかなかならなかったのに、こんなことで役に立てるなんてよかったです。木の所まで除草剤をまいて危なくないようにしました」
「どの木がいいか相談を受けて、いろいろ(児童の)家の人と話をしました。私たちが子どもの時にはこんな実がおやつでした」
「他人行儀に言わなくてもどんどん使ってもらったらいいですよ」
「よその家の木を使う必然性」を理解していただけるかどうかは不安であった。そのぶん、うれしく、また、学区の人たちの学校に対する期待を感じ、またやる気と元気が出た。これも家庭や地域のおかげである。
※児童が選んだ「自分の木」
ミカン イチジク カキ ビワ イチョウ カキ カキ カキ プルーン リンゴ ミカン タラヨウ サクラ カキ ナギ ナツメ ビワ アセビ
都道府県の木を調べる活動は、夏休みの自由課題で「全国の都道府県の木・花・鳥」を調べて来た子のおかげで始まった。「この木、見に行けたらええのになあ」。ある子がつぶやいた。「そうじゃ!見に行けれんけぇ、送ってもらおう!(担任)」「どうやったら、ええん?(子ども)」「知事さんに手紙を書こう!」
子どもと担任からの手紙を投函、あわせて電子メールを全都道府県に送った。内容は、
・それぞれの都道府県の木に決まっている木の葉枝花実などの実物を分けてください。
・都道府県の木になった理由を書いた冊子などがあったら送ってください。
・都道府県民用の広報誌があったら送ってください。
・日野学級の「一人一本自分の木」のページに都道府県庁ぺージをリンクさせてください。
・木の実物や資料などを「一人一本自分の木」のページにのせさせてください。
返事は、すごかった。全都道府県から返事が来たのである。
自分の行動に反応があった。子どもたちは大喜びである。もちろんお礼の手紙にも熱が入るというものだ。知事さんや担当の方々からの激励のメールやお手紙、他にもホームページを見て岩手県の農家の方からリンゴ、埼玉の煎餅屋さんからは草加煎餅が応援の意味を込めて日野学級に届いた。
担当の方以外からも「いい勉強をしていますね。がんばってください」など複数のお返事が届いたり、いただいた資料を読んで新たに出てきた疑問をまたメールにして問い合わせたり・・・。
一人が二〜三県を担当したが、どの県からも電話もメールも返事もない子が三週間過ぎた時点で二人いた。休み時間ごとに玄関までおりていくまこちゃんとたっくん。そのうち授業中も外が気になり、お家の人たちも心配を始めた。他の子どもたちもずいぶん気にするようになる。
「先生、まこちゃんのとこの返事、まだ?」「たっくんの県、どうしたんかなあ」とまだ担当の県全部が揃っている訳でもない子どもたちまで、まこちゃんやたっくんを心配している。私も催促のメールや電話を入れた。毎日、祈るような気持ちだった。やっと全員に返事が届いた時はクラスに拍手が響いた。
いただいた資料や苗木・写真などは基本的には担当の子どものものにした。だが、自然に「木の持ち主の人にお礼をしたい」「友達に分けたい」と声があがった。