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Ruralnet・農文協食農教育2000年冬 7号


「総合的学習の時間」こうすればスタートできる!

地域の教材化に向けて春までにできる四つの準備

編集部


・・・地域を教材にして豊かな授業を展開するためには、前もって地域の空間、歴史、そし
て「人々の暮らし」でつかんでおく必要があります。準備のポイントを挙げてみました・・・


Point1 地域のキーマンをつかもう---農協や役場でチェック---

わらじ
生活技術を知っている人、作付けが少なくなった作目にこだわっている人などがキーマン。わらじの編み方を教える。
 まずは、その人の体験を話してもらうことによって、子どもたちが地域の暮らしの変化を空間や時間の軸のなかでまとめられるようなキーマンを探しましょう。
 手始めに、農協や市町村役場の農林課、農業普及センターに相談してみましょう。その人が実際に体験したことを話してもらうわけですから、いわゆる「郷土史」に詳しい知識を持っている必要はありませんし、団体の役職を持っている必要ももちろんありません。農林課が持っている「集落別農業センサス」を閲覧させてもらうことできっかけをつかむこともできます。センサスは5年に一度農家全戸について調査した結果をまとめたものです。気をつけなければならないのは、センサスは農業を「生産力」から把握するために、労働時間や生産面積などに重きがおかれて調べられていることです。ですから、地域の「暮らし」の角度で再整理する必要がでてきます。センサスが優れているのは、農協や農林課から名前が上がりやすい、後継者がいたり施設で大きく野菜を作っているようないわば有名な農家だけではなく、地域のなかのすべての農家の様子がわかる点です。

たとえば昔から作っているものを今でも作っている人
現在の農村では昔からの養蚕やタバコ作や麦作などがだんだん減っています。また農作業で使われていた牛や馬を飼う農家も減りました。しかし、今でも続けている人がきっといます。みんながやめてしまったにもかかわらず、今でも続けている気持ちや理由の中に学ぶものは多いでしょう。見学や体験させてもらうこともできるかもしれません。しかし、実際にそれが誰なのかは、その集落に出向いて聞いてみるしかありません。

逆に最近地域で多い作目を最初に作りはじめた人
「その作物をなぜ作りはじめたのか、なぜその作物がこの地域に適しているのか」を、暮らしや生産の変化、地域の条件とあわせて聞けるはずです。仲間が増えていったようすを「誇り」を込めて話してくれるでしょう。


Point2 土地カンをつけよう---5万分の1の地図でチェック---

 地域の空間的な把握つまり、土地カンも必要です。そのためには、校区を含んだ国土地理院発行の5万分の一の地図を用意します。
 校長室に貼ってある地図をコピーしたものではなくて、4色印刷された実物が必要です。なぜならば、コピーでは小さな川や田んぼの印の「青」が消えてしまい、集落の中を流れている生活のための小川など重要なものが消えてしまうからです。
 入手したら、校区の範囲を囲んでみます。きちんと囲むためには、校区の一番遠い集落とそのむこうの集落の境目がどうなっているのかを把握する必要がでてきます。そのためには、実際にその集落で聞き取りをしなければわからないと思います。集落には詳しい人が必ずいます。その人がキーマンでもあります。「境目になにか目印はありますか」と聞けば、そこは山の稜線だったり小川だったりするはずですが、集落では名前をつけて呼んでいるはずです。その名前を地図にメモしていきます。山や川との付き合いの話はこれをきっかけにして出てくることが多く、もしもエピソードが聞けたら、それもあわせてメモします。
 地域のベースになっている自然空間の範囲を明確にすること、これが「生活空間」つまり、土地カンにつながります。
 現在の地図が頭に入ったら、八方手をつくして「10年前の地図」「30年前の地図」を探しましょう。そして同様に範囲を明確にして、どこに違いがあるのかを比べてみましょう。空間が歴史と重なります。この変化の前と後で、地域の暮らしや生産はどう変わったのかをつかむことができます。


Point3 農作業の1年のサイクルをつかもう---栽培暦をチェック---

 栽培暦とは、栽培している複数の作物のタイムテーブルのようなものです。いつ種をまいて、いつ収穫するのか、種播きの前にはなにをするか、収穫のあとは何をするか・・・・・・。
 まえもって1月から12月までの農作業のスケジュールをつかんでおくと、学校の授業の都合と地域の都合を調整して、授業への協力を無理なくお願いできます。春から栽培しなければ間に合わないイネのような作物と、夏が過ぎた頃にまいても年末に間に合うソバのような作物があることもわかります。
 地域の代表的な作物の栽培暦は、農協や農業改良普及センターに問い合わせればいただけます。また、農文協で発行している「そだててあそぼう」シリーズにはその作物の栽培暦を収録していますので参考になります。


Point4 昔の暮らしの様子をつかんでおこう---昔の食生活や農業のデータベースでチェック---

雪納豆
「日本の食生活全集」より。雪納豆
 地域の昔の暮らしをつかむには、その土地で長く暮らしてきたキーマン(多くはお年寄り)に聞くのが一番です。しかし「昔の農業、昔の遊び、昔の食べ物」というテーマでも、相手にとっては広すぎます。もっと具体的で相手が話しやすいテーマに絞ることが必要です。また、あらかじめ、多少なりとも昔の暮らしのイメージを持っていれば、「そのとおりだった」あるいは「このへんではそうではなくて、こうだった」と、地域の体験を引き出しやすくなります。
 そのための予備学習に、農文協で発行している「日本の食生活全集」(CD-ROM・書籍)が役立ちます。これは、日本全国を約800ヶ所に地域区分して、昭和の初めに台所をまかさせていたおばあちゃんたち5000人から「聞き書き」したものをまとめたもので、季節ごとに訪問して、当時の日常の食事を再現してもらって作ってあります。このデータは、単に「料理」のデータではありません。四季の自然と結びついた暮らしそのものの総合的なデータです。地域の独自性を生み出した背景を、自然や社会的なつながりのなかで明らかにできるものです。
 「農業、遊び、食べ物」は、昔は別々ではなく、つながりを持っていました。農業は産業ではなく暮らしそのものでした。ですから、それらを別々に聞いていくよりも、季節や時間や場所で区切ったり、具体的な作物や料理を柱にして聞いていき、あとで整理していく手法が有効なのです。

 


小さなモノや1人のヒトのなかに、地域の見えない空間や時間が込められ
ているというように考えて、この冬、テーマを拾っておいてはいかがでしょう。




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