月刊 現代農業
ルーラルネットへ ルーラル電子図書館 食と農 学習の広場 田舎の本屋さん
農文協のトップ月刊 現代農業2019年2月号>台風・猛暑に負けなかったネギ品種

facebook twitter Google+

「台風・猛暑に負けなかったネギ品種」コーナーより

鳥取から
乾燥に強い「夏扇パワー」
台風に強い「関羽一本太」「名月一文字」

鳥取・河岡 誠

 鳥取県の弓浜地域で白ネギの周年栽培をしています。2007年に県の農業大学校を卒業して就農し、当時1haだった作付け面積を拡大していきました。2016年には法人を設立し、現在9.5haで家族3人と従業員13人の経営です。

筆者(32歳、中央)と従業員

 白ネギは各種苗メーカーから新しい品種が次々と出てきていて、何がよいのか僕だけでは選定しきれません。地域の若手農業者20名ほどで「NE∞T(ネクスト)」というグループを組み、月に1回程度集まって生産者の圃場の巡回をしたり、県の試験場で栽培されているネギを見て回っています。そのなかでよかった品種を選んで栽培しています。

冬に大雪、夏に高温・乾燥

 2018年の天候を振り返ると、1〜2月は雪が多かったですが、3〜6月はほとんど平年通り。7月上旬に大雨、その後8月中旬までまとまった雨はほとんどなくて圃場が毎日高温・乾燥状態でした。ほとんど枯れかかっている緑肥(ソルゴー)を、就農してから初めて見ました。

 9月以降は少しずつまとまった雨が降るようになってきました。でも、降る時にはドカッとたくさん降って水浸しになり、その後の防除や土寄せがやりづらかったです。8〜10月に台風の直撃はなく、台風よりも猛暑のほうが大変な年でした。

台風時期は葉の短い関羽、名月

 高温・乾燥が続いた18年の夏は「夏扇パワー」(サカタ)がよかったです。パワーは乾燥に強い。でも長雨で常に圃場が水浸しだと、ネギ自体が軟らかくなって、軟腐病が多発します。乾燥が続いた18年は平年よりも軟腐病がかなり少なかったです。

 一方、「関羽一本太」(トーホク)では萎凋病が多かったです。関羽は乾燥・高温では、萎凋病が出やすいイメージがありますが、他の品種に比べるとかなり葉っぱが短く、台風に強いと思います。台風で葉っぱが曲がってしまうと収量も落ちるし、箱詰めもしづらくて大変だから、僕はパワーよりも関羽を多くつくっています。

 新しい品種としては2017年から「名月一文字」(タキイ)を試験的に栽培しました。パワー、関羽と比較して、萎凋病、軟腐病も少なかったです。収量もあります。葉っぱも短くて、台風にも強いと思います。9月収穫ではこれからも栽培していけそうです。

 でも10月に入ると、なぜかネギ1本当たりの重量が関羽よりも名月のほうが軽かったです。圃場全体では関羽のほうが萎凋病による欠株が多いと感じましたが、重量がある分、収量は関羽に軍配が上がりました。名月が10月に軽く感じたという意見はその後のネクストの巡回でも指摘されていました。

2017年10月23日。台風21号通過後の「龍ひかり1号」(3月収穫)。元寄せが間に合わず倒伏。みんなで一本ずつ起こしたが、曲がりが多く加工用に。元寄せを済ませた「関羽一本太」(11〜2月収穫)は被害なし

台風前なら大地の響きもよさそう

 あと、18年は作付けしなかったのですが、「大地の響き」(トキタ)という品種も気になります。ネクストの巡回でもよい評価でした。葉っぱが長くパワーに似た品種で、8月の上旬までに収穫すればとてもよいネギのようです。8月下旬からは鳥取にも台風が来やすくなるから、葉っぱの短い関羽か名月だと考えています。19年の7、8月収穫では、僕もパワーと比較するために、大地の響きも栽培します。

 白絹病は、9月にまとまった雨が降るようになった途端に大量発生しました。ネクストのメンバーでもほとんどの方の圃場で発生していました。白絹病が発生しやすい高温・多湿の条件が揃っていたから、品種や防除に関係なく発生していたと思います。

2018年2月6日の大寒波での「龍ひかり1号」。雪中の葉はすべて折れるが、根が強い品種なので回復は早い

根張りが抜群、龍ひかり1号

 春ネギの定植は7〜9月だから、これも高温・乾燥に強くないといけません。僕が一番強いと思うのは「龍ひかり1号」(横浜植木)です。高温・乾燥に強いのは根がたくさん張るからだと思います。他の品種とは違って、手で収穫すると抜けずに軟白部が折れてしまうので、鍬を使います。

 それほど根張りがよいからか、冬に大雪が降って、葉っぱが折れてなくなっても、すぐに新しい葉っぱが生え揃います。葉の展開は龍ひかり1号が一番速いと感じます。でも、発芽率が悪いので、他によい品種がないか検討中です。

 台風対策は土寄せと元寄せも大事です。元寄せとは、土寄せ後に鍬でさらに首元まで土を押し込む作業です。今までは「夏の高温期の土寄せ・元寄せは極力しないように」という指導でした。生育停滞中に根っこを切って株を弱めるからです。しかし、周年栽培ではそうはいきません。

 意欲のある生産者は周年栽培でどんどん規模を拡大しています。1〜12月までできるだけ、途切れることなく白ネギを出荷していくためには、夏の高温期でも気にすることなく土寄せをしていきます。5月下旬〜6月上旬に100日タイプの緩効性肥料を施し、夏場に肥料切れを起こさない工夫なども必要です。

周年栽培の品種構成

 僕の農園の品種構成を左の図を使って紹介します。一般に一定の大きさに達したネギはすべて、5月に抽苔して花を咲かせます。圃場のリセットです。だから、白ネギの栽培計画を立てるときは、5月下旬の夏ネギをスタートとします。

河岡農園の白ネギ周年栽培、作型と品種

▼夏ネギ(5月下旬〜9月)

 夏ネギの出荷スタートは、「初夏一文字」(タキイ)と「羽緑一本太」(トーホク)ですが(作型①)、どちらも6月下旬には首元が緩んできて、皮むきがやりづらく、収量も落ちてきます。だから収穫は6月までで終わりたいです。

 7月からは夏扇パワー(19年は大地の響きも)を収穫しますが(作型②)、8月下旬になると台風が発生しやすくなるから、葉っぱが長いパワーはできるだけ8月以内に収穫したいです。9月に入ると葉っぱの短い関羽一本太か名月一文字の収穫となります(作型③)。

▼秋冬ネギ(10〜2月)

 秋冬ネギは関羽と名月が中心となります(作型④、⑤)。冬は雪が必ず降るから、葉っぱの短い品種じゃないと葉折れで出荷できなくなります。今のところ、関羽です。

 ただ、関羽は12月以降の温度では葉がほとんど展開しません。9月中旬に追肥をし、夏で溜まった疲れを11月までに回復させておかないと、1月以降の収量が低くなってしまいます。1〜2月の低温下で関羽よりも葉の展開が速い品種を見つけたいです。それと、関羽は赤サビ病にかなり弱いから、防除の徹底も必要です。

▼春ネギ(3〜5月)

 3月以降は、大雪による葉折れからの回復が早い龍ひかり1号です(作型⑥)。ただ、4月中旬以降に気温が上がってくると、軟腐病が発生しやすいです。4月後半の収穫では「初夏扇1号」(サカタ)を栽培しています(作型⑦)。

 5月に収穫する羽緑は、冬の間は細出来で春から太ってくるイメージです。だから雪に弱いです。羽緑が収穫時期に仕上がったとき、僕のイメージでは、一年間でネギの葉っぱが一番長くなると感じます。葉の上にノズルを持ち上げて行なう防除作業も大変です。でも抽苔をしてくる時期がかなり遅く、5月採りに適しているので採用しています(作型⑧)。

 この時期は抽苔の時期の早さなどで判断して選択しますが、他にもよさそうな品種がいろいろありそうで、今後、検討していきたいです。

(鳥取県境港市)

2019年1月発売!

ネギ大事典

農文協編、B5判、756ページ、1万5000円+税

ネギの栽培技術の基本や、周年生産に応える抽苔対策、害虫対策、省力技術を徹底解説。資材問い合わせ一覧付き。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年2月号
この記事の掲載号

特集:タネの大交換会
今こそ 外国人が喜ぶ野菜/日本ワインは日本の気候に合うワイン用ブドウで/渋いリンゴ 酸っぱいリンゴが加工で化ける/国産オリーブ、有望品種を探せ/カレー好き集まれ!の品種選び/品種セットで売り上げアップ/直売所で目を引く品種ほか。 [本を詳しく見る]

ネギ大事典 ネギ/ニラ/ワケギ/アサツキ/リーキ/やぐら性ネギ類 ネギ大事典 ネギ/ニラ/ワケギ/アサツキ/リーキ/やぐら性ネギ類』農文協 編

 人気のネギ類の栽培事典が出ます! ネギやタマネギなどのネギ類は水田転作に、業務加工用に、直売所に大人気。

 ネギ大事典のネギでは、秋冬・夏秋・春・初夏どりから葉ネギ、短葉ネギまで収録。作型別の適品種、栽培管理、病害虫防除はもちろん、現場で問題となる春・初夏どりの抽苔、夏の生育停滞、出荷調製の省力化などの課題に応えます。生産者事例ページでは、JAあきた白神や、一時代を築いた品種の育種農家など、15事例ほどを収録予定。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

もどる