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農文協トップ主張 2014年3月号

飼料米・飼料イネを所得確保と地域づくりに活かす

 目次
◆飼料の国内自給強化は国際的な課題
◆TPP推進派は「飼料米」優遇・振興を歓迎しない
◆農家も地域も元気に 飼料米・飼料イネの事例に学ぶ

飼料米・飼料イネを所得確保と地域づくりに活かす

 今年、2014年を「農政改革元年」と位置づける政府、その特徴的な点を挙げれば以下の3点であろう。

(1)「戸別所得補償制度」(安倍政権で経営所得安定対策に名称変更)により、米の生産調整に参加した販売農家に支給していた反当1万5000円を、14年度には半減し、5年後には打ち切る。また、「米価変動補てん交付金」は15年度で打ち切る。

(2)飼料用米に数量払いを導入し、最高で反当たり10万5000円(最低で5万5000円)を交付する。

(3)「農地中間管理機構」を設け、農地利用調整の主体を市町村から「機構」に移し、「公募」による農外企業の参入も含め、農地集積を促進する。

 5年後には米の生産調整(減反)を廃止し、米価補てんもやめ、米の需給を市場経済にまかせるというわけだ。TPPにはふれていないが、今回の農政改革の起点にTPPがあることは間違いない。だから「元年」なのだろう。TPP参加に加え生産調整をやめれば、米価は国際価格に近づくように低下する。これに耐えるためには規模拡大による一層のコストダウンが必要。かくして小さな農家のイネつくりはやめてもらい、その農地を「農地中間管理機構」によって効率的に集積しようというわけだ。

 米価が下がり、国際価格に近づくことで国際競争力も高まり、急速な農地集積によって生まれた大規模・企業的経営が米の輸出を本格的に展開する。これが、TPP参加を前提にした、「強い」経営による「攻め」の農業のシナリオである。

 この「農家減らし・米減らし」の意図が働いている農政改革で、「目玉」として話題を呼んでいるのが「飼料米」である。この「飼料米」振興、どう考えたらよいか。

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飼料の国内自給強化は国際的な課題

 農政の流れからみれば、飼料米の拡大によって「過剰」な主食米の生産の一部を飼料米に置き換え、主食米の米価の安定と飼料自給率の向上をめざすということになる。

 飼料イネも含め、飼料用米を推進する動きは1971年の米の減反の時から始まり、1980年の農政審議会『80年代の農政の基本方向』では「飼料穀物の国内生産については、食料の安全保障の観点に立って、長期的な課題として取り組む必要がある」とし、飼料用米の超多収品種の育成や、農家の収益の補てんの仕組みについての合意形成などを行なう必要があるとしている。こうして飼料用米の技術研究は進展したが、その普及は遅々として進まず、逆に飼料自給率は低下していった。

 飼料用米が本格的に注目される契機になったのは、2008年に始まる国際的な穀物の価格高騰である。途上国での穀物需要の拡大、アメリカでのバイオ燃料生産の推進、それに穀物輸出国での輸出規制や投機資金の流入も加わり、トウモロコシの国際価格は、それまでの一ブッシェル当たり2〜3ドルから7.5ドルにまで高騰。飼料価格も上昇し、畜産農家の経営に打撃を与えた。

 こうした状況の中で、国際市況に左右されず国内で生産できる飼料として飼料用米が注目され、2010年、民主党政権下で進められた「戸別所得補償モデル対策(水田利活用自給力向上事業)」では、飼料用米を自給率向上のための戦略作物として位置づけ、補償額も反当8万円まで引き上げられた。作付面積も2012年には飼料米が約3万5000ha、飼料イネ(WCS〈ホールクロップサイレ?ジ〉用イネ)も2万6000haと、急増した。

 1月号、2月号の主張でふれたように、国連・食糧農業機関(FAO)が今年、2014年を「国際家族農業年」と定めた直接の契機も2008年の穀物高騰・食料危機であった。この食料危機は、世界の小規模家族経営を苦しめ、小規模農家の状況改善なくして、世界の食料保障は実現できないことが認識されるようになった。こうして一部の『育成すべき経営』に政策や予算を集中させるのではなく、広く小規模家族経営全体の生産基盤や生産条件を改善することが、国際社会の政策課題として登場したのである。

 穀物メジャーの世界戦略などでグローバルに動く穀物・飼料。しかしこれに身を委ねることは、各国の食料の安全と農業をおかしくし、日本が世界から穀物を買い集めることは、世界の民衆を苦しめる。日本でも、世界的にみても飼料の国内自給は、大変重要な課題になっている。世界の人口増や気象変動を考えると、なおのことである。

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TPP推進派は「飼料米」優遇・振興を歓迎しない

 飼料米・飼料イネを活用して飼料自給を強めることは、一時の政策ではなく、農政の本道をいく政策とみることができる。日本の現在の飼料自給率は約25%、うち濃厚飼料は約10%。アメリカから毎年、トウモロコシを1150万t輸入し、その金額は約4700億円にのぼる。これを日本で自給できれば、その分地域にお金も回る。「輸出1兆円で農業所得倍増」よりは、その価値も農家所得増の可能性もよほど大きいだろう。

 しかし、TPP推進の立場からみれば「飼料米」の優遇・振興は歓迎すべき話ではないようだ。

「兼業農家がエサ米を作れば、かれらが農地を手放して主業農家に農地が集積するという『中間管理機構』の前提条件が崩れる」などとTPP推進派の山下一仁氏(キャノングローバル戦略研究所)は発言している。さらに、飼料米の増産はアメリカからの輸入トウモロコシとぶつかり、貿易摩擦の火種にもなる。

 TPP推進派やアベノミクス農政には、「生産調整・戸別所得補償」の廃止による「農家減らし、米減らし」への反発を「飼料米」推進によって緩和するという発想はあっても、飼料自給や日本の畜産を本気で考えることは期待できない。飼料も畜産物も輸出したい農業大国のアメリカとオセアニアに日本の農産物市場を開放しようとするTPPに固執する限り、かれらは、飼料自給も日本の風土にあった畜産の未来も描くことはできないのである。

 1991年、『「新みずほの国」構想?日欧米 緑のトリオをつくる』(角田重三郎著・当時東北大学)という本を農文協より出版した。この本で角田氏は、ヨーロッパでは小麦、アメリカではトウモロコシという風土にあった作物を多収し飼料にも活用していることに注目し、日本はアジア的風土が育てた水田を大事にして米をたくさんつくり、主食用で余ったら家畜のエサにし、それでも余ったら燃料にしたらいいという持論を展開している。こうして、「日欧米 緑のトリオ」の「成熟社会」をつくる、これが「新みずほの国構想」である。

 しかし、グローバル大企業や穀物メジャーの利益を優先するアメリカも、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすアベノミクスも「成熟社会」からはほど遠い。

 農家・農業・地域を土台にしたまともな成熟社会を築くためにも、飼料米・飼料イネによる飼料自給の向上は欠かせない課題になっている。

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農家も地域も元気に 飼料米・飼料イネの事例に学ぶ

 飼料米の拡大・定着には、増収技術から保管、加工、流通、家畜への給与方法まで多くの課題がある。

 飼料米の流通は、農協が集荷して乾燥・保管し、飼料会社へ運ばれ破砕・圧ぺんなどの加工を行ない、配合飼料に混ぜて畜産農家に販売されることが多い。こうした広域流通では乾燥調製費、保管料、手数料、流通経費が上乗せされ、飼料米入り配合飼料はトウモロコシよりも割高になってしまう。畜産農家は生産物をブランド化して付加価値をつけないと採算がとれない、という話になったりする。

 大量生産・大量流通方式では飼料米も飼料イネも定着しない。基本は地産地消。栽培には、先の山下氏が恐れる兼業農家、小さい農家も参加する。小さな畜産農家も活用法を工夫する。家畜がいなくなった地域では、家畜のとりもどしに活かす。

 そんな取り組みがすでに始まっている。この間、本誌で紹介した3つの事例に学んでみよう。

■自作の飼料米破砕機で、酪農家とイナ作農家が連携

 岐阜県大垣市の臼井節雄さん、成牛57頭と育成牛を飼う酪農家である。臼井さんは、ライスカウンターという一人で手間もかけずに飼料米を破砕する機械を自分で開発した。これを、搾乳牛1頭につき1日5〜6kg食べさせる。これまで使っていたトウモロコシを全量飼料米に置き換えた。折しもトウモロコシが高騰しているご時世、エサ代は年間400万円近くも節約できそうだという。

 2012年は飼料米を自分で2ha作付けし、地元の営農組合と10ha、個人農家8軒と10ha契約。合計22ha分、約120tを確保した。これだけ大量の飼料米を一戸の農家で引き受けられるのも、ライスカウンターがあればこそだ。飼料米を自家加工する機械があれば、地元の畜産農家と稲作農家が直接契約できる。これなら、飼料米は手軽なエサになるのだ。

 さらにムダな経費を抑えるため、イネの収穫を遅らせ立毛乾燥してもらう。モミの水分は17%くらい。これならそのまま長期間保存できる。

 稲作農家から買う値段はモミ1kg当たり2円。だが、地元の営農組合は喜んで契約。耕作放棄地を開墾してつくりたいという申し出もあるほど好評だ。

 というのも、臼井さんの住む地域は湿田が多く、これまで減反分は不作付にしている人が多かった。飼料米なら、稲作の作業をちょっと増やすだけで8万円の助成金がもらえる。飛騨牛農家にワラを売れば耕畜連携助成の1万3000円、ワラの売上が約1万8000円プラス。収入ゼロだった田んぼから、手間や経費をそれほどかけず反当たり11万1000円が生まれるのだ。

 せっかく始まった耕種農家と畜産農家の連携を軌道にのせるためにも、助成金は今のまま続けてほしいと臼井さんは願う。

「今まで酪農家は、安い輸入飼料のおかげで単独でもやってこれた。でも、これからは地域と助け合って飼料を自給しないと生き残れない時代だと思います。ライスカウンターには、日本の畜産のあり方に風穴を開ける機械になってほしいですね」(2013年3月号)

■放牧でWCSを活用、高齢農家も参加する「大子方式」

 次は小さな和牛農家が飼料イネ(WCS)を活かしている話。WCSの難点はその重さ。高価なベールグラブ(ロールをつかんで運ぶ重機)を持っていない小規模農家には扱いにくい飼料だ。

 その難点を乗り越える産地が出てきた。茨城県の最北西端にある大子町。一大和牛産地だが、繁殖雌牛の平均飼養頭数は3〜5頭と小規模だ。最近ここで、飼料イネのWCSを使う農家がどんどん増えている。

 これを支えているのが、チェーンを引くだけで重いものを上げ下げできるチェーンブロックをぶら下げた大きな三脚。2万〜3万円でつくれる。もともと造園業などで使われてきたが、これをWCSに使うアイデアは、中央農業総合研究センター(中央農研)が提案。以来、大子ではWCSを使う農家が急増した。

 WCSの生産は、大子町畜産農業協同組合が、おもに県内からWCSのロールを購入。組合員は軽トラで組合に来て、組合所有のチェーンブロック三脚を借りてロールを軽トラにのせ、牛舎や放牧地に運ぶ。自前のチェーンブロック三脚を持つ農家も増えている。

 中山間地の大子町では、高齢農家でも牛飼いが続けられるように、10年前から耕作放棄地を利用した放牧をすすめてきた。ここ数年は、研究機関や地域の普及センターなどと一緒に周年放牧にも挑戦。そして冬でも放牧するために目をつけたのがWCSだ。

 この放牧では中央農研で開発された「らくらくきゅうじくん」も活躍。丸い形で、転がしながら簡単に運ぶことができるすぐれもので、これを放牧地に点々と置かれたロールにかぶせる。移動に機械はいらない。食べ終わると移動させて次のロールにかぶせる。

 地域で飼料イネの作付けを増やし、その栽培・収穫・調製を分業化する仕組みも計画されている。

「牛飼いも、一人でやる時代じゃないと思うんです。戸別所得補償制度(現・経営所得安定対策)の補助金8万円を分け合って、みんなで牛のエサをつくるというイメージです」

 こう話すのは若手の畜産農家、益子光洋さん。この計画を実現させるために、2011年の秋に畜産農家の有志5人で「大子町アグリネットワーク」を設立。飼料イネの生産調製作業を委託したい人、受託できる人双方に会員になってもらい、両者をつなげる役割を担い始めた。飼料イネ専用収穫機も購入し、高齢できつくなった作業は受託する。

 さらに、地域に多くある1a2aの田んぼでは、これまでどおり、バインダーで収穫する。束にしてアゼに集め、軽トラで牛舎まで運ぶ。それをカッター(イネ用ハーベスタ)で細かく刻みながら牛舎前の簡易サイロに詰めて密封するだけ。

 大子町では今も小さな水田ではバインダー収穫とハザ掛け乾燥が主流だ。脱穀・モミ摺りまで手間もコストもかかるが、飼料イネなら収穫した地上部を細断・密封するだけ。食用米に比べればラクで低コストだ。

 放牧や安い道具を使ってお金をかけずに牛飼いを小力化し、飼料づくりも分業化して、高齢農家に少しでも長く続けてもらう。これを「大子方式」と名付けた。

「『大子方式』を全国の山間地の和牛産地に参考にしてもらえば、みんなで楽しく農業を続けていける道が拓けるんじゃないかと思います」と、益子さんらは意気盛んだ(2013年9月号)。

■集落営農と地域住民で「家畜のいる風景」が蘇る

 個々の農家では難しくなった家畜の飼育を集落営農で取りもどし、飼料イネを生かす取り組みも始まっている。島根県邑南町の農事組合法人・須磨谷農場もその例。

 数年ほど前に、農地を守る手段として放牧に注目し、集落内に放牧組合をつくり、中山間直接支払いを活用して100万円ほどで繁殖和牛の雌牛3頭を購入した。

「放牧なら牛舎につながなくてもいい。糞尿処理もいらない。このやり方だったら、あと10年、いや15年はやっていける」と、集落の人も賛成してくれた。

 なによりいいのは転作に飼料イネができること。棚田のように面積が小さく条件の悪い田んぼでも、牛のエサとしてイネをつくってWCSにすれば転作にカウントされる。湿田でどうしようもないところは立毛放牧にする。

 3頭で始まった牛は、いまでは親牛13頭、育成牛3頭、それに子牛もいる。放牧地の面積も増え、山際の田畑を守るように山林を中心に、大小合わせて8カ所、合計で19haになった。イノシシ被害もめっきり減った。

「中山間地で牛を入れるメリットは大きいですよ。というか、牛がいないとどうしようもない。山が荒れて農地が荒れてくると、住んでいく人間がおらんようになる。それがいちばん怖いですからね」と、事務局長の太田忠男さんは話す(2012年12月号)。

 邑南町の出羽自治会では「お互い様の気持ち」を醸成しようと地域通貨を活用した「手間替えのシステム」をつくる取り組みを進め、地域住民が参加して遊休農地2haで飼料イネとダイズの栽培を開始した(2013年3月月号)。

 地域の住民も参加して、失いかけた「家畜がいる風景」が蘇ってきたのである。

 飼料米も飼料イネも「イネ」だから、湿田でも小さな田んぼでもつくれる。それを地域で活かす工夫を本格的に進める。畜産農家と連携した「堆肥栽培」で多収もねらう。主食用米を基本に、飼料米・飼料イネ、そして麦、ダイズなど、条件を活かして水田をフル活用し、TPPとは真逆の「新みずほの国」をめざしたい。

(農文協論説委員会)

※『水田活用新時代』(シリーズ『地域の再生』16・農文協刊)で谷口信和氏は、先進国では風土にあった穀物を最重要の飼料穀物と位置づけているとし、米を有力な飼料穀物として活かす道を実証的に提言。千田雅之氏は、飼料イネを活用した周年放牧や立毛放牧など、「放牧が水田農業と畜産の未来を拓く」と事例をもとに熱く構想を述べている。ぜひ、ご一読を。

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この記事の掲載号
現代農業 2014年3月号

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