地域に根ざす食と健康の活動交流誌

食文化活動タイトル

「あぶら」のおいしさよりまず「だし」のおいしさを教えよう (一部をご紹介します)
京都大学農学研究科教授 伏木 亨

    ■離乳食の無国籍化

     数年前、若い主婦向けの雑誌で、離乳食の特集を調べたことがあります。数冊を見た時点で、驚きました。たいへんなことが起こっていると感じたからです。

     手にした数冊の雑誌の編集は、幼児の食体験を広げ、多くの食材を利用して、バランスの良い食事をさせる下地をつくろう、というのが狙いのようでした。チーズなどの乳製品や豆類をはじめ、多くの食材を使っています。調理法も、フレンチやイタリアン、中華など、種類も多く、いかにもおいしそうで、レストランのような豪華さです。子どもに食べさせたいという親心を満足させるものです。

    「なんにも、問題は無いじゃない」

    「食体験を広げることは、重要でしょう」

    「子どもにも、色彩の豊かな、おいしい物を食べさせたい」

     何が問題なのかというと、あまりに無国籍なのです。日本の子どもを育てるという明確なコンセプトも戦略も文化もない。日本語で書いてなければ、どこの国の離乳食かと思います(まあ、乳児の食事にこんな豪華な調理をするのは飽食日本か一人っ子中国ぐらいしか無いでしょうけど)。もっとひどい特集になると、味噌やしょうゆなど、和食に関わるものを、食べない方がよい食材に分類していました。塩分摂取が増えるからでしょうか。推奨されていたのは、チーズ、カッテージチーズ、ヨーグルトなどです。

    「無国籍のどこが悪い」

    「地球規模で考えるべき時代に逆行してる」

    「ちょっと国粋主義的じゃない?」

    反論はわかりますが、私の言いたいのはこういう意味です。

    ■無国籍離乳食の問題点

     ここで問題にした離乳食は、おそらく、欧米の食事が好きな大人が、幼児にも同じ食事を与えたいという発想で作り上げたものでしょう。欧米の味付けになじんだ子どもは、レストランの食事やファーストフードへは、容易に適応が可能ですが、日本の伝統的なだしの風味に興味を持たない可能性があります。現在の大人は、まだ、和食の経験がありますが、次の世代はわかりません。このままでは、一生日本食を食べない日本人も現れそうです。

    「欧米の食事のどこが悪いの」

    「おいしいし、種類も多いし、毎日でも食べたい」

     欧米型の食事は、栄養価は高いのでしょうが、欧米の食事のリスクまでを完全に背負ってしまうことにならないかと心配するのです。  欧米の食事の最大の欠点は、脂肪含量が高いことです。脂肪含量が高い素材を使うこと、素材よりもソースの味付けに頼りがちなこと。つまり、脂肪のおいしさによって高度な満足感を得るのが欧米の一般的な味つけです。さらに、主食がないという食の形態も高脂肪摂取につながります。主食がないので副食をいっぱい食べるからです。(後略)

■肥満は生活習慣病の悪化要因■欧米の食材は、日本人の体格を劇的に改善した■日本の食生活は理想的であった■おじさんは実は偉かった−守られた現在の日本の食形態■今後は、現在の日本食さえ危ない■ハンバーガーも学習によって好きになった■脂肪を豊富に含む食物はたやすく好きになる■やはり離乳食が大事■離乳食として重要なのは日本の味■天然だしかインスタントだしか、重要なのは香り■食事は文化を伝える重要な手段である■栄養学が食文化を破壊してはいけない


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