農文協創立70周年・亜農交創立50周年記念シンポジウム

中国農業の現在を知る、学ぶ

東アジア型農業・農村の根幹 家族経営とその組織化

 皆様のご協力により6月5日の農文協創立70周年・亜農交創立50周年記念シンポジウム「中国農業の現在を知る、学ぶ」が成功裏に終了いたしました。去る6月5日に、農文協創立70周年と(財)亜細亜農業技術交流協会創立50周年を記念して、中国から四人をお招きしてのシンポジウム「中国農業の現在を知る、学ぶ」が開催されました。農家、研究者、JA関係者、行政、農業資材生産メーカー、流通関係者など多分野にわたる200人以上が参加し、丸一日にかけ報告を聞き、交流を深めました。農文協の関係者にとりましては、本シンポジウムを通じて中国農業の現状が再確認でき、さらに今後日中農業交流の道筋、やるべきことも見えてきました。非常に有意義な記念シンポジウムとなりました。
 なお、参加者から回収したアンケート(41部)を集計した結果、全体的にシンポジウムの評価は「非常に良かった」が38人(93%)でした。講演内容への関心の高さが示されました。また農家を中核とする交流について多くが関心を示しています。 
報告者、中国農業科学院代表団及び農文協関係者 200名の参加者が会場を埋め尽くした
 開 会
主催者挨拶   (社)農山漁村文化協会会長 濱口義曠

 日本の農業が多くの困難に直面し、その発展の道を模索しているときに、同じ東アジアにあって、農民・農業・農村に関し積み上げてこられた中国の経験と現状を、また長い歴史を有する稲作の実情や有機農業の実践を直接聞くことができることは誠にうれしいことです。
 本日ご参集くださった皆様にとりましても得るところが大であろうと確信いたします。
 シンポジウムが成功裏に開催されることを祈念いたします。
 農文協日中農業交流の歩みと報告者の紹介   (社)農山漁村文化協会常務理事 斉藤春夫
 
 農文協は1940年に創立されたが、中国との交流を開始したのは1985年です。創立当時は戦争への反省から、農家の立場に立った出版物の在り方を探り、その方法として「現代農業」の直販という方法を発見し、財源を主として農家に頼って活動する団体へと変化しました。そして、かつてのアジア諸国への戦争協力責任を償う方法は何かを考えた時、中国の農業、農家との真の連携をめざすべきであると決断したわけです。以来、25年にわたり、書籍の翻訳出版、日本農業関連文献の寄贈及び中日農業科学技術交流文献陳列室の開設、さらに近年には河北省鹿泉市と江蘇省鎮江市で実施された農業・農村発展計画作成と、それにともなった農家間交流等、様々な交流事業を行ってきました。

 農家、農業の交流は、他国の農家を困らせる輸出拡大をすることが目的ではないです。それぞれの国の農家が築き上げてきた農法と経営様式、食文化を踏まえ、お互いに学びあい高めあうことこそが肝心です。それぞれがそれぞれの文化を土台に地域を発展させていく姿こそ、交流において大いに学びがいがあるものです。農家同士の交流はそれぞれがそれぞれの風土で豊かに生きていくことを前提にしたものです。
 交流は相互を尊敬し、学ぶために行う。その信頼が広範に確立するとき、真の団結ができ平和の基礎となるでしょう。それをもっともまともに行えるのが、家族と地域の発展を願う農家を中核とする交流の発展です。

 報 告

中国の農民組織=農民専門合作社の展開―成功の鍵は農民利益向上―
張暁山(Zhang Xiaoshan)

中国社会科学院農村発展研究所所長

1947年上海生まれ 中国社会科学院農村発展研究所研究室主任、副所長を歴任。中国農業経済学会副理事長、中国農村合作経済管理学会副理事長などの多くの役職を兼任。研究分野は、農業経済、組合経済理論と実践、農村の組織と制度。著書に『中国農村新型合作社探析』、『中国農村改革30年研究』など多数。
  2007年7月1日から「農民専門合作社法」が施行され、合作社すなわち農協が初めて法律で位置づけられた。法律により信用事業はやれないが、中国の農家は初めて、自分たちの組織をつくり、共同購入や共同販売、学習活動を行なうことが可能になった。
  中国共産党は「農家のためにつくる、加入・脱退自由、権利平等、民主的管理」を原則として「国内外の市場競争に参加できる近代的農業経営組織」を育成することを強調し、合作社の役割を極めて高く評価している(中共第17期中央委員会第3回全体会議)。中央政府も地方政府も合作社を重視し、一連の優遇政策を打ち出してきた。2009年末現在、全国で約25万の合作社が作られ、2100万戸の農家が参加している(総農家の8.2%)。
 こうしてスタートした合作社であるが、その多くは、「大規模農家牽引型」あでる。しかも大規模農家と言っても、農業参入した企業との線引きが難しく、実質的には企業が牽引したり資本提供したりする合作社も多い。それら企業が主導する合作社では、農家が参加したとしても、農家の力は弱いため、「協同」の精神に立った運営はなされず、事実上、企業の支配下に置かれたり、単なる賃金労働者になってしまう場合もある。
  税の優遇や、各級の政府が準備した資金を利用できるなどの一連の優遇措置を享受できるというので、目先のきく企業が看板を付け替え、合作社を名乗るわけである。小麦加工場が小麦合作社となり、食肉加工場が食肉合作社となる。農家のための合作社という性格からはずれる可能性もある。
  外来の工商企業が構成員になったり主導して合作社を設立したりすることを通じて、優遇政策を利用し、農地・資金を取得しようとすることに対し、警戒しなければならない。農家構成員の利益を侵害したり、合作社のイメージを損なったりする事件の発生を防がなければならない。

   
30年にわたる中国農村改革の到達点と課題―農業・農村現状の把握と中国農地制度の改革―
趙 陽 (Zhao Yang)

中央農村工作指導小組弁公室局長

1965年湖南省生まれ 長年にわたり中国農業政策のシンクタンクにて農業経済理論と政策の研究に従事。2003年より「一号文献」と称される中国政府の最重要農業政策の立案に参画。中国農業経済学会常務理事、中国農村金融学会常務理事などを兼任。著書に、『共有与私用:中国農地制度的経済学分析』、『中国農村改革30年回顧与展望』など多数。
  30年にわたる「農村改革」は様々な成果をあげている。とりわけ近年は、食料生産記録が連続的更新され、 農民の農外就業状況が好転し、そして農民所得は明らかに向上し、民生も大きく改善された。こうした前進していることを紹介しつつも、趙陽氏は憂うべき問題として農地減少の厳しい現状及び請負経営権維持の問題点、さらに農村・都市の所得格差拡大に歯止めがかからない状況について、問題提起をした。
  農地の減少は、この一二年間で一・二五億ムー(一ムーは六・七a、八三〇万ヘクタール、日本の耕地面積の二倍近い)。一方では人口が依然増え続けているため、土地と人口との矛盾が非常に突出している。また水資源が土地資源と比べると、人口一人当たり平均水資源量がわずか世界平均の1/4である。つまり、中国における将来の食糧生産は長期的に厳しいものとなる。それだけではなく、都市による農村侵食が進む結果、現在の都市と農村の所得格差は三・三対一だが、今のまま推移すると二〇二〇年には五・五対一になるとみられている。六倍近い格差である。この格差はますます、青壮年労働力を都市に向かわせる。土地と人が農村から奪われ、そして農村は企業による農業が主流となれば、残った農家は土地や経営を支配され、ますます所得格差がひろがっていく。

 今後こうした問題を解決するには、家族請負経営を堅持するもとで、農地流動化を推進し適正規模経営を実現する必要がある。と同時に、技術革新等を通じての農業生産性の向上、農民組織(合作社)の成長による農民地位と所得の向上も図らなければならない、と展望する。また、いわゆる大規模経営の実現は長期にわたる過程で、急いで結果を求めてはいけないとも指摘している。
  
句容市戴庄村農民合作社の成功―――村の8割近くが結集、有機農業を実践――
趙 亜夫 (Zhao Yafu) 

江蘇省鎮江農業科学研究所研究員、句容市戴荘村有機農業合作社顧問

1941年江蘇省生まれ 鎮江農業科学研究所所長、鎮江市人大常務委員会副主任などを歴任。農業技術、農民組織化の現場指導者として活躍中。また、1982年には、中国からの初期の農業研修生として訪日。以後、鎮江市の農村現場で、農業技術や理念を通した中日両国の交流を推進してきた。著書に『草苺品種及栽培技術』、『桃樹栽培技術図解』など。

  戴荘村は鎮江市南部の句容市(鎮江市の中の小さい市、人口60万)にある村で、人口2800人、農家860戸、農地は1万ムー(670ha)。丘陵傾斜地が60%で、穀物、ナタネなどが中心だった。交通も不便で、句容市の中でも最も貧しい村の一つであり、2003年時点で、半分以上の農家は一人当たり3000元(一元一五円換算で4万5000円)の年収しかなかった。しかし、合作社を作り、総世帯の70%を超える農家を構成員として組織し、有機農産物の生産・加工・流通を開拓し、有機農業を活かしてグリーンツーリズムを推進し、南京や周辺の都市からお客を呼び込んだ。
 水田の80%、傾斜地の35%で有機農業が行なわれている。無化学肥料、無農薬の稲作とその裏作(野菜)導入でムー当たり2000元(3万円)以上の収益をあげた。果樹園や茶園では牧草を植え、ガチョウや鶏を放している。草中心で飼い、卵、肉の自給とともに肥料を節約する。精米工場を建設しモミガラは燻炭にし、モミ酢を活用する。アイガモによる除草で米とともにアイガモの肉を売る。有機米や野菜の100%は合作社を通して販売された。こうして、戴庄村有機農業合作社の農家は2009年には平均9000元(13万5000円)の年収となった。成果を実感した人々は農業への希望と自信を回復し、都市部への出稼ぎから戻ってくる村民も毎年のように現れている。
 合作社は小規模経営のために市場参入ができないという、個々の農家ではどうすることもできない問題の解決が可能である。農家個別経営と比べて、管理運営面ではよりコストがかかるが、一方で多くの農民による自主的経営への積極的な参画を可能にする。農業をするのは自分のためであって、雇用主のためでも、まして過去の人民公社のようにおかみのためでもない。今後合作社は行政等による様々な支援を得ながら、迅速かつ健全に発展を続ければ、将来かならず中国の近代的農業経営モデルの主流となろう。 
  
中国における稲作の現段階とこれからの方向性―多収、良質、抵抗性の協調発展戦略―
万 建民 (Wan Jianmin)  

中国農業科学院作物科学研究所所長

1960年江蘇省生まれ 稲の遺伝子や育種などを専門分野とし、在来品種の特性を活用した効率育種体系を確立。1990年代に、日本の大学と農業研究機関で研究を重ね、帰国後に、南京農業大学生命科学・技術学院院長、農学院院長を経て現職。中国作物学会副理事長、中国遺伝学会理事などを兼任。多くの学術論文を発表し、数々の特許や育種権を有する。
  急速な経済発展にともない、食料安全保障、生態環境維持、国民の健康改善そして農産物国際競争力及び農民所得の向上といった社会的需要がますます高まってきて、食料増産は依然として中国政府にとって農業政策の重要な内容の一つである。
  しかしながら、稲作をはじめとする主要食料作物の増産には厳しい現状がある。水稲の生産状況をみると、都市化の進展による農地の減少、地球温暖化に伴う自然災害の頻発及びそれによってもたらされた防除の困難等、稲作生産の増加に影響を与えている。一方、コメ価格が幾分上昇したものの、農業資材価格も上昇したため、稲作の収益性が下がっている。多くの農民が利益追求のためコメ作りから野菜、果樹栽培などに転向する農民のコメ作りの意欲が弱まっている。そのうえ、農村労働力の大幅な流動により稲作の生産者が量的にも質的にも下がり続けているため、先進的実用技術が有効に普及できない。
 こうした背景の下で、政府は様々な政策的措置を講じてきた。具体的には、関連予算の増加、一時的買付備蓄政策の実施、耕地保護と農地基盤整備の強化等。その結果、農業総合生産能力が向上した。2009年には水稲の作付面積は、4.452億ムーと昨年より658.5万ムー増加し、伸び率が1.5%である。また生産高は、1.89億トンで、2008年より390万トンぐらい増加し、伸び率が約2%である。と同時に、良質米の栽培面積が大幅に拡大し、98年にわずか31%だったが、2006年その割合は70%までに増加した。
 今後は多収量・高品質、低生産費・高収益 、耐乾性・節水、多抗性といった特徴の品種開発がより一層求められる。さらにトウモロコシ、高粱の特殊遺伝子の応用、低温や病虫害に強い稲の野生種の遺伝子の応用もしていく。また遺伝子組み換え技術による他の作物からの抵抗性遺伝子の導入等についての研究を強化する必要もある。
 
パネルディスカション
会場から質問が相次いだ 日本農業の現状を踏まえ、シンポジウムの内容を総括された
パネリスト黒澤賢治氏が感想を発表 パネリスト今村奈良臣氏が句容農業農村振興計画を紹介
懇 親 会
挨拶・感想発表
主催者代表 農家代表 資材メーカー代表
参加者歓談の様子
 
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