月刊 現代農業
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巻頭特集

(田中康弘撮影)

(田中康弘撮影)

農薬はいつどのタイミングでまく?
ノズルさばきはこれで合ってる?
そもそもまきすぎてない?
今まで当たり前にやってきたことを見直すと、
ムダな散布が減り、防除効果もグンとアップ。

その防除
「ノズルの目」に葉裏は見えてる!?
ノズルさばきと散布圧の話

奈良県農業水産振興課・國本佳範さん

國本佳範さん。元奈良県病害虫防除所長。農家や農業大学校の学生に農薬のまき方を指導してきた (写真はすべて倉持正実撮影)

「農薬をまいたのに全然効かへん」

 研究者として駆け出しだった頃の國本佳範さんは、農家からこんな相談が寄せられるたびに別の新たな剤をすすめていたという。しかし、のちのち後悔。じつは農薬のまき方にも間違いが多いと気づいたからだ。大切なのは、作物の葉裏にまでしっかり薬液を付着させること。

 國本さんによると、ベテラン農家ほど散布の動作がなめらかなのだが、「そのまき方、目的に合致してへんで」と思うこともあったという。

「農薬をまくときは、どこをねらうのか、どの方向に飛ばすのか、どうやって葉裏まで到達させるのか……というように薬液の粒子に意志を持たせることが重要です」

 そのための「ノズルさばき」を農家に伝えてきたつもりであった。

「ただね、薬液付着や動作改善の話はメッチャ評判悪いんですよ。防除のことは自分のほうがよく知っている、効かないのは農薬のせいだ、となりますからね。だから、農家のもとに足繁く通って信頼関係を築き、聞く耳を持ってもらうことから始めました。もしかして自分の防除は間違ってたのかな、と思ってもらえたら、こちらの勝ちです」

 そんな國本さんに農薬散布のいろはを教わった。

トマトのハウスでの話

寝転がってノズルになってみる

――トマトやキュウリ、ナスなどをつくっている農家は、普段どのように農薬を散布しているのでしょうか?

 多くの方は、ノズルを作物に対して横向きにして、上下に振っています。動きは上手そうに見えるんですけど、あれでは薬液が葉表にしかかかりません。葉裏にまで付着させるには、「ノズルは上向き」。私はよくトイレのウォシュレットを例にして、薬液を下から上に飛ばしましょうと話すのですが、口ではなかなか伝わらないんです。じゃあ、どんなまき方したらええねん?ってなりますしね。

 そこで、です。講習会などでは「つかみ」として、農家にまずこれをやってもらいます。

――えっ!? どうしたんですか、急に。地面に寝転がって。

 自分自身がノズルになってみるんです。もしノズルに目がついていたら、見える部分にしか薬液はかかりませんよね。

 今、通路の真ん中で仰向けになっているこのポジションからだと、葉裏は株の上のほうにある一部しか見えません。あとは葉表ばかり。体をずらして株元に接近してみると、下のほうの葉裏もだいぶ見えてきます。つまり、農薬を散布するときは、自分がいるこの位置までノズルを差し込まないといけない、ということです。

――私も……やってみていいですか? おおっ! 葉裏の見え方が本当にぜんぜん違う!

 寝転がると、ほかにもいろんなことに気づきますよ。たとえば死角の存在。葉と葉が重なり合っていたり、下葉がでっかくなって垂れていたりすると、ノズルを上向きにしても、薬液が葉裏まで届きづらくなってしまいます。これをわかっているのといないのとでは大違い。農薬のかかりにくい部分があるのなら、葉かきをして障害物を取り除いてから散布しようとか、葉がうなだれてくる夕方ではなくピンと立っている早朝に散布しようとか、そういった対策にもつながりますからね。死角を減らすわけです。

ノズルは上向きのまま

――では、実際に農薬を散布するときは、どういうふうにノズルを動かしますか?

 まず、ノズルを上向きにして株元へ差し込み、一呼吸置きます。これで株の下3分の1の葉裏には薬液が届くんじゃないでしょうか。次に、ノズルの角度を維持したまま下から上へ、先端までいったら上から下へ。主枝をなぞるように動かすわけです。これを株ごとに繰り返していけば、葉裏への付着はかなり向上すると思います。

――そうだ。先ほど「ノズルの目線」を教わりましたが、ノズルにスマホを取りつけて動画を撮れば、よりわかりやすくなるんじゃないですか。

 そんな映像、誰も見たことない!画期的ですね。やってみましょう。

薬液を下から斜め上に飛ばすと……

薬液を出せば、作物にたっぷり付着するように見えるが……

トマトハウスの通路の中央で仰向けになる。この位置からだと、葉裏はあまり見えない

株の上半分の一部の葉裏しか見えない。下半分は葉表ばかり

株の下半分の葉裏もよく見える

主枝に沿ってノズルを上下させ、波形にまいていく。 写真は後進して①を散布しているところ

株の下半分の葉裏もよく見える

①ノズルは上向きで、下から上へ動かす

②主枝の先端付近にアザミウマなどの害虫がいる場合は、ノズルを下向きにする

③ノズルを上向きに戻し、上から下に動かす

薬液のかかり具合を見るために、水に触れると黄色から青色に変わる感水紙を利用。ノズルを上向きにした場合と横向きにした場合で比べてみた。

ノズル上向き

葉表にはしっかりかかっている。葉裏もこれぐらい付着していれば、十分防除効果がある

ノズル横向き

葉表にはしっかりかかっているが、葉裏にはほとんどかかっていない

続きは本誌をお読みください

取材時の動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。「編集部取材ビデオ」から。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年6月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年6月号

特集:2019年減農薬大特集 もしかして間違ってる!? 農薬のまき方
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ハダニ防除ハンドブック ハダニ防除ハンドブック』國本佳範 編著

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