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農文協トップ主張 2019年8月号

下草刈り不要の森づくり 山に木を残す持続型森林経営

 目次
無人ヘリで山に除草剤散布試験
下草刈りは過酷な作業だが……
再造林軽視の「林業の成長産業化」
新植・下草刈り不要の林業経営
山を生かす若者たちの多彩な仕事づくり

無人ヘリで山に除草剤散布試験

 昨年11月、スギの丸太生産量28年連続日本一を誇る宮崎県でこんなニュースが流れた。県と宮崎大学などが連携し、苗木周辺の雑草を刈る下草刈り(下刈)の省力化のために、無人ヘリで上空から除草剤を散布する実証試験を宮崎市郊外の山林で始めたというのだ。2020年度から日本初の実用化をめざすという。

 これに対し、県庁ウェブサイトにはさっそく「これはコスト削減のために、先人が努力して守ってきた自然の森を県が主導して農薬汚染することと同じである。国際的な環境保護の流れに反するものであり、開発を中断してほしい」(40歳、女性)という声が寄せられた。県は、この声に以下のように答えている。

「本県の林業従事者は、平成7年の4232人から平成27年には2222人(高齢化率22・7%)に半減するなど、林業の担い手不足と高齢化が深刻化しています。全国有数の林業県である本県にとって、再造林を通じた次世代の森林造成は重要な課題であります。

 森林を育てる作業の中で下刈は、山間部の不安定な斜面において、暑い時期に多くの人手を掛け、ハチやヘビなどを避けながら行われるため、たいへん過酷な作業となっています。このため、新規林業従事者が定着できない原因の一つともなっており、今後、労働人口が減少する中で、人手不足から下刈できない箇所の増加が、懸念されているところです。

 御提言にありました、『無人航空機による下刈省力化技術開発』は、このような問題意識のもと技術開発を行うものであり、その実用化に当たっては、農薬の散布に関する懸念事項にも十分配慮して検討を進める必要があるものと考えております」(環境森林部山村・木材振興課企画・木質バイオマス担当、12月4日更新)

 こうした県の動きに対し、林業従事者からも声が上がった。今年6月、「山師兄弟Blog『林業ボブマーリー』」というブログに「宮崎からオーガニックが無くなる? 農薬林業と宮崎の未来」という記事が掲載され、フェイスブックで1000以上もシェアされるなど、県内外に大きな反響を呼んだ。書き手は「宮崎県美郷町渡川地区出身。山師歴11年目で元保育士の『山師弟』と、山師歴2年の新米、元アパレルの『山師兄』の山師兄弟」と自己紹介されている。少し長くなるが、紹介したい。

下草刈りは過酷な作業だが……

 まず筆者は、下草刈りの過酷さを実体験からこうつづる。

「6月〜10月のくそ暑い中に行われる『下草刈り作業』は、林業の作業の中で肉体的に最も過酷と言われています。宮崎の30度を超す真夏の気温の中、植えて1〜6年生の小さな木の苗の周りに茂る青草を、刈り払い機というエンジン付きの機械で、日中ひたすらに振り回して草を刈ります。陰は無い……山の上で太陽がなんだか近い……青草と言ってもむっちゃワイルドな草です。草って言うかむしろ木。畑の草とは大違い、場所によっては自分の身長を超す2mのススキを相手にしなければいけない場合もあります。『どんげかなるわ』とはこの事。1週間で軽く2、3s痩せます。熱中症なんか日常茶飯事。毎日軽度の熱中症です。(略)それが1週間で済めばいいけど、5か月続く」

「木を伐って造材する、木材生産部分は近代化し機械化しました。ですが、木を植えて育てるまでの造林業はこの30年で全く近代化していないのです。未だにほぼ人力、ほぼアナログ。木を植えるのなんていまだにクワ1本で植えてますから。一日300〜400本も山の急斜面で背負って、一本一本手植えする訳です」「宮崎の林業には偏りがあって、機械化した華やかで儲かる木材生産業には人が多く若者も多いですが、地味でアナログな植林・育林の造林業には人手が集まらず、若者も少なく高齢化しまくっています。なので下草刈り作業をする労働力は統計数字に出る以上に深刻なのです」

 しかし、だからといって、無人ヘリやドローンで山に除草剤を散布してよいかと、こう述べる。

「山に農薬を撒いてまでやりたい林業ってなんなのでしょうか? 山に農薬を撒いてまで残したい山ってなんなのでしょうか? 畑の草を枯らすのとは大違いなのです。エンジンが付いて、鋭い刃が高速回転する草刈り機じゃないと切れないような草です。それを枯らすほどの農薬ですよ」「労働力を省いてもできる、木材生産もあるはずです。小規模皆伐なのか、長伐期施業での間伐なのか、伐採量を制限するのか、議論の余地は沢山あります。時代に合った、宮崎に合った森林づくりを勇気を持って模索する時代に来ているのです!」「木材生産しなくても林業はできるんじゃないのか? 木材生産をしなくても山(森林)を守って行ける方策を探る時期なんじゃないのか?『林業=木材生産』」は止めた方がいいんじゃないのか?」

「山師兄弟」は、2年前の「山の日」(8月11日)に、宮崎市内の繁華街の3階建てビルを一棟丸ごとリノベーションし、野菜の直売所、カフェバー、コワーキングスペースを兼ねた「若草HUTTE&co-ba miyazaki」をオープンさせている。コンセプトは「山と街を繋ぐ」。そんな「兄弟」は、今年6月22日、同じ場所で「『宮崎県無人ヘリ山林除草剤散布実証実験』についてみんなで語る会」を開催した。事前に「一方的批判はNGです」「正しさを主張したり批判したりするのではない」などの注意点が提示されたその会は、定員50名に対して県の担当者を含む80名が参加し、2時間の予定は3時間に延びたという。

 一方、この「語る会」の3日前、県議会の環境農林水産常任委員会では、県の担当者が、環境保護団体から強い懸念が寄せられたこと、無人ヘリの自動運航の技術やコスト面でも課題が見つかったことなどを理由に、今年度の実証試験は行なわないことを明らかにした。

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再造林軽視の「林業の成長産業化」

 さて、現場では無人ヘリによる除草剤の空中散布が検討されるほど植林・育林の担い手が不足しているのに、政府は民有林、国有林ともにさらに植林・育林が必要になる森林の「主伐(皆伐)」を進めようとしている。

 今年6月、各市町村の広報4〜6月号で、「森林経営管理制度スタート」の記事が掲載された。お気づきの方も多いのではないだろうか。たとえば長野市の「広報ながの」6月号には、以下のように書かれている。

「市では、森林所有者の皆さんに、6月から順次、森林経営の意向調査(アンケート調査)を行い、所有森林をこれからどのように経営管理したいかなどを聞いた上で、今後の森林管理方法を検討していきます。アンケート調査が届いた皆さんは、回答にご協力をお願いします」

 そして「森林経営管理制度による森林管理のイメージ」として、以下が示される。

@市町村が森林所有者に、所有している森林を今後どのように経営管理したいか、意向を確認します。

A市町村に委託したいと回答した場合は、必要に応じて、市町村と協議の上、経営管理の委託手続きを行います。

 市町村に森林の経営管理を委託した場合

B森林経営に適した森林は、意欲と能力のある林業経営者に経営管理を再委託します。

C森林経営に適さない森林は、市町村が管理します。

 ここで「経営管理」とされているのは立木の伐採および木材の販売、造林並びに保育等を行なうことであり、伐採については50年生程度での主伐(皆伐)である(詳細は昨年7月号主張「森林経営管理法・森林環境税で日本の森林を破壊するな」参照)。

 その背景には昨年1月の国会で安倍晋三首相が施政方針演説で掲げた「林業の成長産業化」がある。「戦後以来の林業改革に挑戦します。豊富な森林資源を有する我が国の林業には、大きな成長の可能性があります。森林バンクを創設します。意欲と能力のある経営者に森林を集約し、大規模化を進めます」というものだ。その大方針のもと、林野庁は「新たな森林管理システム」を構築するとし、昨年と今年、関連する二つの法案を国会で成立させた。

 昨年は、民有林に関する「森林経営管理法」が成立。趣旨は「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るためには、市町村を介して林業経営の意欲の低い小規模零細な森林所有者の経営を意欲と能力のある林業経営者につなぐことで林業経営の集積・集約化を図るとともに、経済的に成り立たない森林については、市町村が自ら経営管理を行なう仕組みを構築する必要がある」というもの。

 そして今年6月、「改正国有林野管理経営法案」が可決された。全国の森林面積の3割を占める国有林の大規模な伐採と販売を行なう「樹木採取権」を、民間業者(民間企業、素材生産業者、森林組合など)に与えるもので、これまでは20haほどの面積を毎年度個別に場所や時期を特定し、入札で事業者を決定していたが、これに加えて今後は「意欲と能力のある林業経営者」から樹木採取権の設定料と樹木料を徴収するかわりに数百ha単位の採取権を10〜50年にわたって与えるという。

 こうして「林業の成長産業化」のかけ声のもと、さらなる主伐(皆伐)が進められることになるが、造林(植林・育林)をめぐる人手不足・高齢化の問題は未解決のままだ。このままでは民有林、国有林ともに、伐採されても再造林されないハゲ山が全国に次々に現出し、水源の枯渇や豪雨時の土砂災害拡大にもつながりかねない。

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新植・下草刈り不要の林業経営

 宮崎市での「みんなで語る会」開催と同じ6月22日、東京では自伐型林業推進協会(自伐協)5周年記念フォーラムが開かれ、全国から約200人が集まった。

 会場では、自伐林業のイメージアップのために「2人で林業」と題する映像が上映された。徳島県那賀町の橋本光治さん(73歳)と延子さん(68歳)夫妻のある日の午前の作業を3分にまとめたものだ。朝食をすませた夫妻は2tトラックで幅2・5mの作業道を通って現場に行き、スギ2本をチェンソーで伐採する。それを長さ4mで玉切りし、16本、2・5m3の丸太に。そしてミニバックホーのショベルとロープを上手に使ってトラックの荷台に乗せ、山から下ろす。普通なら山林所有者が森林組合や業者に委託する作業を、夫妻二人でやっているようすを描いた動画だ(ユーチューブで閲覧可能)。

 自伐型林業というと「自分で伐採する林業」とだけ思いがちだが、そうではなく「間伐を繰り返しながら、残った木の生長を利用し、材積・材質の向上により収入を徐々に増やしていく手法」である。橋本さん夫妻は約40年、110haほどの所有山林で間伐を何度も繰り返す「多間伐施業」を続けている。どの山も作業道を自ら敷設して(路網密度300m/ha)、3回以上の間伐を実施。人工林だけでみると材積は1ha当たり、40年前の約300m3から700〜800m3に増加。森林全体は平均樹齢70年ほどのスギやヒノキのほか、モミ、ツツジなど300種の樹々が天然更新を続けている。

 橋本さんの経営の基本となる考え方は、「妨げとなるものを取り除く」こと。「妨げ」とは、まず委託。儲けはなくとも費用を支払わなければならない委託はせず、家族でやる。そして、新植、下草刈りが必要になる皆伐をやめ、間伐択伐のみにした。新植をやめたのでシカやカモシカの食害もなくなった。延子さんは、こう述べている。

「皆伐すると、一からやり直しなんです。たとえば、毎年1ha伐っていくとすると、伐った跡に植林をしてそれから下草刈りを5〜7年はしなくてはなりませんから、2年目は倍の2ha、3年目は3haとどんどん増えていくでしょ。間伐であれば、その工程をやらなくていい。そのぶん違う前向きな投資ができる」(原田紀子著『聞き書き伝統建築の家』農文協)。

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山を生かす若者たちの多彩な仕事づくり

 延子さんの言う「前向きな投資」は、お金の投資に限らない。時間や労力を生かす多様な方法があることを示したのは、5周年フォーラムに登壇した各地の自伐型林業地域推進組織のメンバーである20代〜40代前半の若者たちだ。

 北海道ニセコ町の澤田健人さん(北海道自伐型林業推進協議会)はもともと美容師。地域おこし協力隊として町の環境の部署で活動中に、自伐型林業に出会った。現在の仕事は森林施業(作業道敷設、森林作業)のほか、民泊代行、ときに美容師。美容師の知識を生かし、トドマツの枝葉の精油を使ったエッセンシャルオイルの製造販売も始めた。薪ストーブのあるペンションのオーナーが美容室のお客になることもあり、そのルートでの薪の販売もある。

 岩手県釜石市の三木真冴さん(東北・広域森林マネジメント機構)は埼玉県出身。震災を契機に岩手県に移住し支援活動に従事。2016年に所属団体が撤退したが被災地の力になり続けたくて残った。被災地が復興して自立するためには「仕事づくりというか、産業が復興して納められた税金で町が持続していくことが大事ではないか」と考え、東北3県の自伐型林業の普及にむけ活動中。林業一本というよりシイタケや岩手県の伝統工芸ウルシの生産、養蜂と林業の組み合わせが多く、「自伐をやっている方は稼ぐというより、自分で工夫し楽しみながら地域の資源を生かして暮らしをつくっている方が多いという印象です」。

 鳥取県智頭町の大谷訓大さんは林業事業体「株式会社皐月屋」として、2人の社員とともに「自分の山の感覚で人の山も受けて」施業している。また皐月屋とは別に、我流だった自伐型林業を学び直したいと「智頭ノ森ノ学ビ舎」を立ち上げた。会員は27人。半数は都市部からの移住者。地域内循環が大事だと考えていて、地元のパン屋「タルマーリー」がつくるクラフトビールの材料のホップを栽培して提供、ビールと物々交換している。

 島根県津和野町の田口壽洋さん(合同会社やもり)は2014年に地域おこし協力隊として移住。津和野町では協力隊制度でこれまで16世帯29名が移住し、4年弱で幅2・5mの作業道を1万2000mつくった。5人が協力隊を卒業して独立し、自伐型林業をやっている。島根は以前「東の静岡、西の島根」といわれるほどワサビの産地だったが高齢化などのため衰退していた。前職が食材中心の広告会社勤務だった田口さんらはワサビの復活とブランド化に取り組み、地域によってばらばらだったブランドを「島根ワサビ」で統一。2年間で単価が3割アップした。

 澤田さんのエッセンシャルオイルや薪、三木さんのシイタケ、ウルシ、養蜂、大谷さんのホップ、田口さんのワサビの話に主業と副業の区別はない。林業だけではなかったかつての山の仕事と暮らしを再評価し、現代ならではの発想や技術を加えて持続可能な新しい仕事と暮らしをつくり出している。それは「山師兄弟」の言う「木材生産をしない林業」でもある。木材の生産量だけを追う「成長産業化」とは異なる世界がそこにある。

(農文協論説委員会)

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この記事の掲載号
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