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農文協トップ主張 2018年5月号

「継業」で自給生活圏を創りだそう
――「自営的働き方」が生きる地域社会

 目次
◆自給率を家計から見る視点
◆自給率アップのターゲットを定める
◆「むらに1軒」豆腐屋がある意味
◆「継業」で移住者の仕事を生み出す
◆地元にお金が落ちる消費と落ちない消費
◆いま見直される「自営的生き方・働き方」

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自給率を家計から見る視点

 いまから48年前、本誌にこの「主張」欄ができたばかりのころ、「新しい自給生活を創り出そう」というタイトルの論説が掲載された。1970年、大阪万博が開催され、世は高度経済成長の真っ盛り。その一方でこの年から減反が開始され、農業は「曲がり角」といわれ、輸入圧力や食料自給率の低下が問題にされていた。

 この論説はいま読み直してもなかなかおもしろい。ちょっと長くなるが紹介してみたい。

 論説はまず読者に、日本の食料自給率(主食用穀物・重量ベース)が低下して80%を割ったのなんのと騒がれているけれども、国の自給率の前に「農家の食料自給率」はどうなっているか考えてみようと投げかける。農家生計費調査の数字をみると、農家の食料自給率は80%どころか18%まで低下しているではないかと。

 さらにこうたたみかける。

「食料だけではありません。井戸は水道に、マキはプロパンに、衣類はほとんど仕立て上がりの購入になりました。まことに農家一戸一戸の自給率は急激に落ちているのです。全国平均の農家生計費は1年に72万円、このうち現金部分が約60万円、つまり自給分を換算した金額は12万円です。5人家族の米の家計仕向けは約9万円だから、米以外の自給は3万円相当しかないのです」

 食料だけでなく、燃料や衣料を含めた暮らし全体が、買ったもので賄われるようになったことを問題にしている。

 生産と生活を切り離して農家の購買力を上げ、生活を近代化するという立場からすれば農家の自給率低下こそが「生活の近代化」であり、「自給生活は古くさい」ということになる。論説はこうした当時の時代の風潮に抗して「新しい自給生活」の創造を提唱する。そのポイントは三つある。

(1)自給が苦しい労働であった時代は過去のものとなった。むしろ趣味と考えられる。

(2)新しい自給生活は必ずしも一戸一戸の自給ではない。むしろ、「自給生活圏」をつくることにある。

(3)生産と生活をすっかり切り離してしまうのではなく、積極的につなげることによってはじめて経営も生活も守っていくことができる。

 昔とちがって、「自給しないと食えない」からしかたなくではなく、「買えば買えるがあえて買わない」。いわば積極的な自給。一戸の農家で完結するのではなくて、自給する農家同士が連合し融通しあい、そこに非農家も参加して「自給生活圏」をつくろうというのである。

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自給率アップのターゲットを定める

 なぜ、半世紀近く前の論説をいまさら持ちだしたかといえば、いままさにこの論説が提案した「自給生活圏」が求められる時代になったからだ。そこには時代状況の大きな変化がある。まず農家の意識が変わった。食べものでもなんでも買ったもののほうが高級だというとらえ方はもう古い。いまでは、ほとんどの農家が買ったものより自分で育てた野菜、手塩にかけた味噌、漬物こそ価値があると考えるようになった。消費者意識も同様で、「地場の旬の野菜がいちばん」と言う人が多くなった。

 さらには流通も変わった。「地産地消」という言葉がすっかり定着し、地元産の少量多品目の農産物や加工品を扱う直売所も爆発的に増えて、いまやその店舗数は1万6000を超えるといわれる。それにともなって地場野菜や地域の特色ある農産加工品の見直しもすすんできた。直売所だけでなく、ほとんどのスーパーマーケットに地場野菜コーナーが設けられるようになった。

「自給生活圏」をつくる条件は48年前よりずっと整ったが、地域の人々の購買実態はどうだろうか。

 過疎地域での人口安定化対策として、人口の約1%分だけ定住者を増やす方法を提唱した『田園回帰1%戦略』で脚光を浴びた藤山浩さんと研究仲間が続編を出版した。その本、『図解でわかる 田園回帰1%戦略』シリーズ第1作『「循環型経済」をつくる』のなかで、福井県池田町(人口2678人)での家計費調査の結果が紹介されている。

 それによれば、福井市の通勤圏にある池田町では、食料購入額の73%は町外の店からの購入で、町内購入率は27%にすぎない。さらに町内産となるとその3分の1のわずか9%だった。町内購入率を品目別にみると「米」、「粉もの・穀物」を除けばすべて30%以下。町内産購入率でいえばさらに低く、米の4割以外はすべて20%以下で、0%の食品も少なくないという。

 しかし考えようによっては、その分だけ自給率(町内購入率、町内産購入率)を伸ばす余地があるということだ。池田町だけでなく、いま多くの地方の市町村では、補助金や年金などの形で地域に入ってきたお金が、食料費、燃料費、教育費などの形で地域の外に「だだ漏れ」している。その「だだ漏れバケツ」の穴をふさぐことで地域にお金が残り、新たな定住者を養う経済的基盤ができる。食料費、燃料費など、町内購入率、町内産購入率が低いものほど、取り戻せるお金も大きい。

 自給生活圏づくりでまず大事なことは、家計費というミクロレベルの経済を見直し、地域内循環のウィークポイントをつかむこと。そこに所得取り戻しのターゲットを定めることだと藤山さんはいう。読者のみなさんの地域でもこの本を参考にして、食料や燃料をどれだけ地元の店で購入しているか、そのうちどれだけが地元内で生産されているかを調べてみてはどうか。

「自給生活圏」づくりは、まずそこからはじまる。

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「むらに1軒」豆腐屋がある意味

 こう書くと、「地元で食料品やガソリンを購入しようにも、うちの地区ではとっくの昔に農協支店が撤退し、商店も閉店してしまった」という声が聞こえてきそうである。たしかにかつては、こうじ屋、鍛冶屋、炭屋などなど、「むらに1軒」あると便利な店があって、そこで農家の暮らしと寄り添いながら「むらの職人」が生計を立てていた。こうした店は燃料革命や他の大きな店との競合、後継者難などの理由で次々と廃業に追い込まれている。

 このような職人を地域でバックアップしながら、うまく引き継いでいくことはできないだろうか。本誌の姉妹誌である『季刊地域』最新号(33号)は「むらに1軒」あるといい店の「継業」を特集している。

 たとえば岐阜県白川町佐見地区は人口1050人、世帯数785戸のむら(昭和の合併前の村)だが、かつては地区内に3軒も豆腐屋があった。豆腐屋がなくなって久しいなか、9年前に「佐見大豆加工研究会」が豆腐づくりを復活。その後、町も出資する第3セクターの「株式会社佐見とうふ豆の力」となって、白川町内の集落営農組織が生産する大豆で豆腐や油揚げなどをつくって販売している。いまでは町内の集落営農組織が生産する大豆40〜45tのうち20tは「豆の力」で加工されているという。ほかにも町内で消費される大豆がさらに5tくらいあるから、あわせれば地元産大豆の6割強は地元で消費されている。地元産100%の豆腐づくりは、かつての3軒の豆腐屋があった時代もできなかったことだ。

 加工施設に隣接して2017年には農家カフェもオープン、豆乳と卵のフレンチトーストやおからサラダ、豆乳プリンといった大豆づくしメニューのモーニングサービスが好評である。「豆の力」では現在30〜60代の8名の女性が働いているが、研究会時代からのメンバーは1人だけ。豆腐づくりの技術は後代に引き継がれている。

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「継業」で移住者の仕事を生み出す

「むらに1軒」の「継業」はIターン・Uターンなど移住者が暮らしていくための仕事も生み出す。同じ『季刊地域』に新潟県小千谷市真人地区で「地域おこし協力隊」後に定住した坂本慎治さんが紹介されている。

 真人地区では、1997年に地元有志10人が50万円ずつ出資して「真人健康食品生産組合」を設立、豆腐づくりの経験のある職人1人を雇用して豆腐を生産していた。ところが坂本さんが地域おこし協力隊員として着任した2013年末には職人が引退することになっていた。「むらに一軒」の豆腐屋のピンチ。しかし、それは協力隊の任期終了後、むらに定住しようと考えていた坂本さんにとっては「渡りに船」だった。坂本さんが後継者として手を挙げると、工場の建物、機械設備、配達用の保冷車は無償譲渡され、顧客もそのまま引き継げることになった。市役所も継業後3年間は技術継承を含めて手伝い期間とみなし、協力隊の職務として給与を支給した。

 こうした手厚いバックアップの甲斐もあって、坂本さんは協力隊同期の香奈子さんと結婚して定住し、豆腐屋を営んでいる。坂本さんがつくる豆腐の一番人気は「真人とうふ」(木綿400g、税込220円)。1丁当たり130gと通常の豆腐よりずっと多くの大豆を使う。大豆の仕入れ量年間6tのうち2tは提携する小千谷市内の転作組合の大豆を使っている。坂本さんがつくる木綿豆腐は年間3万丁ほどだから、1万丁ほどは地元産大豆でつくった豆腐という計算になる。

「それでも現在、小千谷市の人口が3万5000人、3人に1人しか100%地場産の豆腐を食べられないと考えると、まだまだ大豆が足りない」と坂本さんはいう。妻の香奈子さんのアイデアで豆腐を使ったスイーツの開発もすすめ、市内中心部に2号店兼スイーツ工場もオープン。パート2人を雇用し、年間の売り上げは1000万円を超え、継業する前の2.2倍にのぼる。

 もし、移住者が自己資金で豆腐屋を新規開業しようとしたら、大きな負担となる。その点「継業」なら、前任者の設備や顧客をそのまま引き継ぐことができ、初年度から事業を軌道に乗せることも可能だ。「継業」には農業における「第三者継承」と同じ強味がある。地元にとっても、店が残り、地元の農産物の売り先ができて、定住増につながるのだからメリットは大きい。

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地元にお金が落ちる消費と落ちない消費

 地域のなかでお金が回り、仕事が増え、移住者を呼び込む。そんな「自給生活圏」づくりを事業として進めるうえで、欠かせない視点はどれだけ地元にお金が落ちるかをしかと見極めることだ。先に紹介した『「循環型経済」をつくる』ではパン屋を例にわかりやすく説明している。

 1000円分のパンを買う場合、地域外で買ったら、地元には1円も落ちない。地元スーパーマーケットから1000円分、大手パン会社のパンを買えば、スーパーの人件費分110円だけ地元に落ちる。それが地元のパン屋が焼いたパンなら、スーパーの人件費110円+パン製造の人件費270円=380円分が地元に落ちる。さらに原料も地元産でまかなえば、小麦粉やバターなど原材料を生産する農家の所得80円が加わり460円が地元に落ちることになる(人件費率は著者たちのサンプル調査に基づく)。このように、どこでどんなパンを買うかによって、1000円のパン代のうち地元に落ちるお金は0円から→110円→380円→460円と、大きく違ってくる。

 さらに地場産小麦パンや地元産大豆豆腐のおかげで地域内の小麦や大豆の生産が増えれば、水田活用の直接支払いや数量払いの補助金も入ってくるから、地元に落ちるお金はもっと増える。その分だけ、新しい定住者を養う地域の経済力(世帯扶養力)が強まる。「消費の質」(お金の使い方)が問われる時代なのである。

「自給生活圏」づくりには流通業者の協力も欠かせない。『「循環型経済」をつくる』では島根県益田市に本社があるスーパー「キヌヤ」の実践を紹介している。島根県西部から山口県の日本海側にかけて21店舗を展開するこの地方スーパーは、「ローカルブランド」と呼ぶ地元産品の売上を2割にする目標を立てている。各店舗とも正面入口近くに野菜を中心として「地産地消コーナー」を設置。生産者は15%の手数料を払えば、出荷することができる。加工食品では、地元業者との共同開発にも乗り出している。こうした取り組みの結果、食品部門123億円の売上のうち「ローカルブランド」は19億円、15.8%を占めるまでになり、地元からの仕入れ金額も16億円にのぼるまでになった。

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いま見直される「自営的生き方・働き方」

 このような「自給生活圏」づくりは、地域に住む人々の働き方、暮らし方も変えていくだろう。

 冒頭で紹介した論説から約半世紀。この間、労働と生活は分離し、衣食住から娯楽にいたるすべてが商品化された。農家や商人、職人といった自営業者は大きくその比率を減らし、サラリーマン的な働き方が当たり前の社会になった。それで生活の質は高まっただろうか。

 東京から福島県二本松市東和地区に地域おこし協力隊員として着任した高木史織さんは、東京と東和での「おサイフ事情」を比較してみた。東京では月15〜16万円の給料のほとんどが生活費(家賃6万円、食費1〜2万円、交際費2〜3万円など)に消えていた。東和では家賃は2万円、野菜はほとんどもらうので食費は5000〜1万円、合計月7〜8万円と半分の生活費で済む。それでいて住まいも食事も東京よりずっとレベルアップしている。2017年5月に協力隊の任期を終えた高木さんは、その後も東和地区に住み、二本松市内の農業支援団体と福島市内の編集デザイン会社に勤務しながら東和の地域づくりにかかわり続ける道を選んだ(『〈食といのち〉をひらく女性たち』農文協、4月中旬刊より)。

 哲学者の内山節さんは、いま「働き方と暮らし方がリンクし、双方の充実が図れる”自営的ライフスタイル”が見直されている」という(『ディスカバー・ジャパン』2018年3月号)。その魅力は自分のペースで仕事ができることで、それは労働と生活が密接に結びついているからにほかならない。農業はまさに自営的生き方そのものである。そして自営的生き方の世界には、農家を核としながら、地域の生産と暮らしを支える自営的な人々――パン屋、豆腐屋、搾油所、燃油スタンドといった「むらに1軒」の自営業だけでなく、それらのパッケージやホームページのデザイナーなどのなりわいが近接して分厚く形成されていく。今回は数字の話から「自給生活圏」づくりにアプローチしたが、その数字の向こうには人々の生き方・暮らし方の改革がある。

「田園回帰1%戦略」の核となる「自給生活圏づくり」は、そのような地域と共にある「生き方・暮らし改革」につながる。その条件はさまざまに生まれている。それを生かせるかどうかは、農家、営農組織、地域運営組織、JAなどが、そこにどれだけ知恵と力を結集するかにかかっている。

(農文協論説委員会)

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この記事の掲載号
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