「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年5月号
 

食農教育 No.68 2009年5月号より

地元の炊きたてごはんを

給食センターでやる! 炊飯器給食

滋賀・蒲生郡竜王町

編集部

 家庭用の電気炊飯器を使い、調理室で炊いたごはんを、温かいまま教室で子どもたちがよそって食べる炊飯器給食。大型の炊飯器の購入や調理員による配缶作業が不要など、現場の負担を比較的小さく抑えて、炊きたてのごはんを提供できる方法として、各地に広まってきている。「食数の多い学校では難しいのでは?」という声も聞かれるが、1000食以上の給食センターでも実現は可能だ。

自分たちのお米を給食に

 一五二〇食分を九三台の炊飯器で炊く滋賀県蒲生郡竜王町の竜王町学校給食センター。竜王町で炊飯器給食が始まったのは平成十六年。「自分たちのお米を給食に使ってほしい」という稲作経営者研究会(以下稲研)のメンバーの声がきっかけだった。せっかく地元においしいお米があるのだから、子どもたちに給食で食べてもらいたい。それもおいしく味わってもらえるよう、温かい状態で。そこで取り入れたのがこの炊飯器を使った方法だった。

 今では、知事が視察にきたり、地元の新聞に取り上げられるなど、町の自慢の一つとなった炊飯器給食だが、実現までは長く険しい道のりだった。「きっかけは雑誌『現代農業』です。地元のお米を給食に使おうという記事が取り上げられたのを見て『これはやらな』と仲間に呼びかけたんです。でも、実際に動き始めてから実現までは一〇年以上かかりましたわ」と稲研会長の田村仁一さん。

 当時はまだ週一回の米飯給食。給食に使われる米は、政府が支給する米に限って助成金がつくという制度があり、地元のお米を使うのは難しい状況にあった。最大のネックは価格。自分たちの米を通常の米と同じように供給しようとすると、どうしても給食費があがってしまう。「それならば」と田村さんは、主食用の米より安価な多用途米として提供することを提案した。「学校給食に出す米の量は出荷するもののほんの一部や。そのほんの一部を通常の三分の二の価格で出せば、『給食でお父さんのつくった米を食べたよ』という子が出てくるんや」。しかし多用途米はあくまで加工用に用途が限られていたため、この提案は叶わなかった。

竜王町稲作経営者研究会会長の田村仁一さん。研究会は今年で17年目。アイガモ除草で農薬を使わない米づくりや、米粉の加工品づくりにも取り組んでいる。「将来は学校給食に米粉パンが出せたらええなあ」。新しいことに果敢に挑戦

地元のブランド米給食で町のPR

 地元米の導入には、ほかにも県の学校給食会と全農の滋賀県本部(JA全農しが)との交渉という難題もあった。この頃、給食用の米は、学校給食会が全農しがから県産米を一括購入し、各市町村に一元供給するという仕組みが取られていた(八三頁参照)。地元の生産者の米を購入したいといっても、一元供給がネックとなっていい返事はもらえなかった。そこで粘り強く交渉を進めたのが、当時農業委員会の局長と稲研の事務局を兼任し、平成十一年には教育委員会の次長となった林吉孝さんだ。

 折しも「食育」や「地産地消」が言われ始めた頃。すでに野菜については、地元の青空市出荷組合が入札して納めるという形で、地場野菜の導入が始まっていた。この事実を突きつけ、林さんは訴えを続けた。「これからもこの流れは進んでいく。野菜は地元のものを使えるのに、なぜ米はだめなんや。それこそ生産者の顔がわかって安心なものなのに」。

 また全農しがには、使用する米をJAグリーン近江管内産のものに限定したいという要望を出した。それまで全農しがから供給されていた米は「滋賀県産米」。県下全域の農協から集められた米を、全農しがが買い取ったのち「県産米」として、順繰りに各市町村に供給していた。そこで林さんは、まずは地元の農協管内でとれた米を使いたいと訴え、これが実現するとさらに「管内でも品質のよい竜王町の稲研の米」を要望した。この品質のよい米というのが、「竜の舞」の名で販売されている化学肥料を使わずに栽培した、現在給食にも使われている米である。この米の誕生が全農しがを動かし、最終的に行政も動かすこととなった。

「昔は冷めてたときもあった」と昨年の卒業生。竜王小では6年生は卒業前に校長室で給食を食べる。この日の献立はごはん、イカのフリッター、昆布の五目煮豆、すまし汁、牛乳に竜王産もち米でつくった揚げかき餅
給食には化学肥料を使わず栽培された「竜の舞(コシヒカリ)」が使われている。写真はこれをさらにバージョンアップした、農薬も不使用の「プレミア米」。ちょっと高めだが、道の駅「竜王かがみの里」の人気商品

 「竜王町の基幹産業は農業」。そう公言し、農業振興に力を注いでいた当時の福島茂町長は、平成八年に「竜の舞」が誕生すると、町のレストランや観光施設の飲食店で「竜の舞」を使って町の活性化を図ろうとした。学校給食への導入もその一つだった。「経済的な効果はそれほど大きくないかもしれないが、学校給食で『竜の舞』を使えば、そのインパクトは十分、町の農業振興とPRにつながる」。町長の強烈なプッシュもあって、ついに平成十五年、「竜の舞」の給食への導入が決定された。地元米導入に動きだして、かれこれ一〇年以上の月日が流れていた。

 ネックだった価格も、町内産導入にともなって米の契約先が学校給食会からJAグリーン近江に変わり(八三頁)、JAの協力のもとでこれまでと同程度を維持できることになった。JAグリーン近江は生産者から購入した米を直接教育委員会に販売するのだが、(竜王産指定のため、納入はJAグリーン近江竜王支店から)、そのさい価格を年はじめの県産の同銘柄(コシヒカリ)の入札価格を基準に、学校給食会が扱う給食米(学給米)の設定価格を大きく超えることがないよう、調整して決める。平成二十年度の販売価格は無洗米一kg三五五円。対して学給米は三六〇円(二十一年度)。差額が小さいため、給食費の値上げはせずにすんでいる。

壁面のコンセントはおもに保温用
炊飯は中央のメインのコンセント(45個)から電気を引いて行なう。奥に見えるのは37台の炊飯器(中学校用)を保管できる収納庫。いちばん古い調理員の吉田智恵美さんは4年目

☆ごはんはマイ弁当箱で

 調理当番がごはんを盛っている赤いプラスチックの弁当箱。竜王町では小学校の入学式にこの弁当箱が支給され、中学校卒業まで9年間使い続ける。1970年代に子どもたちが給食にごはんを持参していたなごりなのだとか。自分の弁当箱で食べるごはんは、おいしさも増す!?

 つづき(炊飯器給食の作業の流れなど)は、本誌(『食農教育』2009年5月号)を参照ください。



「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 どこでもできる給食で食育ヒント集

雑穀つぶつぶレシピ/育てた米を水車で精米して食べる/学校給食はいま/給食を生かす授業づくり/参加型献立のすすめ/地場産学校給食のすすめ方/どうするアレルギー対策/食育サークルおすすめ野菜もりもりレシピ。 [本を詳しく見る]

 学校は地域に何ができるか』渋谷忠男

小学校の米飯給食の実現から、親と教師が教育の枠を超え、ともに地域の問題解決に取り組んだ。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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