「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年5月号
 
堀江理砂先生

食農教育 No.55 2007年5月号より

自分が調べたいテーマが見つかる・深まる四つの工夫

東京・狛江市立狛江第三小学校5年担任 堀江理砂先生
文・編集部

 「総合的な学習の時間の体験と社会科の学習をつなげようという意識は、正直言って最初はなかったですね。総合でお米について自分のテーマを見つけて、調べて、発表してということをやっていったら、しぜんに社会科とつながったという感じかな」と言う堀江先生だが、しぜんに体験型の学習と課題設定・問題解決の学習、総合と社会科がつながるわけでもない。そこにはいくつかの工夫があった。

工夫その1 種もみから苗を育て、田植えをする

 狛江三小の5年生が二〇〇六年度に総合でお米を取り上げた一番の理由は、そこに田んぼがあったから。前年の二〇〇五年度に「田んぼの土をあげるよ」という地域の方があらわれ、学校の空き地を掘り起こして一五m×一五mの学校田ができたのである。その田んぼを引き継いで、お米づくりの二年目がはじまった。

 堀江先生はここでひとつ工夫をした。前年度は町田市の大蔵地区の田んぼから立派な苗をいただいた。今年はそれに加えてJA全中のバケツ稲に応募して、種もみから苗を自分で育てることにしたのである。JA全中のバケツ稲づくりセットには種もみ、肥料、観察ノート、栽培マニュアルが入っている。まずはビーカーの塩水に種もみを浮かべて「塩水選」をした。このとき試しに種もみをむいてみると、中からお米が現われた。子どもたちはイネの「種」は自分たちが毎日食べているお米であることを実感した。「食べる」ことと「育てる」ことがつながった。

 種もみは二lのペットボトルプランター(一面を切って、横に倒した状態で置いたもの)で育て、少し大きくなったところでプラスチックの衣装箱に移した。六月下旬、大蔵からいただいた苗から半月遅れて、学校田に田植えをした。

 「さて、この一粒の種もみから何粒のもみがとれるか?」これは秋までのクイズにした。

右上から時計回りに、
もろみ酢、酒、みりん、せんべい、シリアル、黒米、切りもち、米ぬかパック、あられ

工夫その2 お米からできたものを集めて、教室に「お米ギャラリー」を開く

 堀江先生はお米の学習のなかに、一人ひとりが課題を設定して追究する活動「お米博士になろう」を取り入れたいと考えた。そこで子どもたちに調べてみたいことを挙げさせてみたのだが、最初、でてくるのは米の種類ばかり。それもコシヒカリとかヒトメボレとか、いまの品種にばかり関心が集中している。都会育ちの子どもたちにとって、お米は米袋に入っている姿しかみていない。なんとか、身近な興味・関心とお米をつなぐことはできないだろうか。
 そこで第二の工夫。身のまわりのお米を使った品物を集めて、教室の中に「お米ギャラリー」を開いた。社会科の教科書には米袋を集める活動が紹介されている。その延長で、どんなものでも持ってくるよう呼びかけたら、どんどん集まってきた。切りもち、あられ、おかき、せんべい、黒米、シリアル、玄米フレーク、酢、みりん、酒、柿の種、ビーフン、ベトナムの麺フォー、洗顔料、米ぬかパック……。

 「あっ、ここにも米、そこにも米」という新鮮な発見があった。展示するだけでなく、食べられるものはみんなで食べたので、楽しみながら、お米と米文化へのイメージが広がっていった。

工夫その3 ウエッビングマップはまずグループでつくる

 並行して、狛江市内の図書館から米に関する本を集めて、グループごとに「米」をキーワードに調べ学習を行なった。こうして、米への興味が広がったところで、ウエッビングマップづくりの授業を取り入れた。

 この授業では、まず堀江先生が黒板をつかって、子どもたちに米から連想するものを挙げさせてウエッビングマップを例示したあと、六グループに分かれて話し合いながらマップづくりに取り組んだ。米の種類にこだわり、白米だけでなく赤米や黒米についてもウエッブが広がった班。歴史に展開した班。食べ物や栄養にこだわった班。それぞれの班が調べてきたことによって、個性的なウエッビングマップができあがった。

 話し合いと報告を参考に、自分のウエッビングマップをつくり、さらに夏休みの自由研究の課題の計画書を作成した。自分だけでテーマを考えてもなかなか広がらないが、グループ内の友達の意見や他の班の発表を聞くことで、自分の課題設定が広がっていった。

工夫その4 夏休みの一人一研究は必ず体験をからめる

 夏休みは自分が決めた課題に沿って研究をすすめるのだが、堀江先生は一つの条件をつけた。それは、なんでもいいから必ず一つ体験をすること。

 おいしい米の炊き方を研究するために毎日米をとぎ、最後は土鍋での飯炊きに挑戦した子、日本各地の米料理を調べ、おはぎづくりをした子。「米づくりの道具」に関心をもった子は、川崎市立日本民家園を訪ねて農具の写真をとってきた。岩手の親戚の農家から農薬について話を聞いてきた子や、茨城の農家に農業機械を見せてもらった子、田んぼに紫米で絵を描く田んぼアートについて調べてきた子もいた。

 模造紙、ファイル、スケッチブックなど個性豊かな発表形式の「お米博士」たちの研究は、夏休み明け、廊下に展示され、「発表原稿メモ」をつくって、全員で発表をした。

2班のウエッビングマップ。米の食品や薬品への利用(左上と右下)、栄養(左中央)、景観とのかかわり(右上)に着目した

一粒のもみの恵みを実感して

 十月、スズメたちの襲撃を何とか乗り越えた5年生の田んぼから三クラスそれぞれ八合ずつ炊けるだけのお米がとれた。それから二八個の玄米おにぎりをつくって食べた。田んぼからとれたのはそれだけではない。一人ひと握りずつのワラ。そのワラで地域のお年寄りに教わって、しめ縄をこしらえた。

 その方は「お米は八十八の手間がかかる」という話をしてくださったが、もみから育てた子どもたちはその話を実感をもってとらえることができた。一粒のもみが約三〇〇〇倍になることも知っている。昔の人は手間をかけたお米だからこそ、縄やむしろ、外套などさまざまなものに利用し、捨てるところがなかった。「お米博士」の研究で、米の文化について学んだ子どもたちは、昔の人たちの苦心・工夫を思い、ものを浪費する自分たちのいまの暮らしを振り返ることになった。

 「それぞれ課題を追究した子どもたちの体験を共有することで、教科書でできなかったことを補うことができた。終わってみると、米と農業が身近になっていたという感じです」と堀江先生は語った。

※狛江市立狛江第三小学校5年生はJA全中主催第一八回バケツ稲づくりコンテスト団体の部・小学校高学年で奨励賞を受賞しました。JA全中のバケツ稲については表紙裏(表2)をご覧ください。

 

 

 

 

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