「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2006年4月増刊号
 

食農教育 No.47 2006年4月増刊号より

■地場産学校給食のすすめ方……学校給食センター・学校給食会

「モロヘイヤのかつお和え」が人気メニューになったひみつ

島根・雲南市木次給食センター センター長

陶山文江

カレーライス、ラーメンについで堂々三位に

 わが雲南市木次学校給食センターへ全国各地から視察に来られる方々が、まず、驚かれることの一つが、給食で好きなメニューを、子どもたちに聞いたアンケートで、モロヘイヤのかつお和えが、三位に入ったという話です。

 一位は、子どもたちの大好きなメニュー定番のカレーライスです。二位は、ラーメン。給食のラーメンは、麺が汁を吸い込んだりして、あまりおいしいとは……と思うのですが、まあこれもわかる気がします。そして、三位が、モロヘイヤのかつお和えなのです。

 どなたも一様に「えっ」と聞きなおされます。アンケートを実施したとき、実は私も調理員も、本当かしらと疑いました。そんななか、栄養士は、学校へ訪問したときに、教員から「野菜の和え物が好きという子がたくさんいるんですよ」とか、「野菜の和え物は、おかわりの列ができるんですよ」といった話を聞いていましたので、「当然だわ」といった顔をしていました。

 ところが、少し古い話ですが、平成十三年の十月に実施した、「給食で好きなメニューはなんですか」というアンケートの答えが、先ほど紹介した一位、二位、三位なのです。ちなみに、四位「ゼリー」、五位「フルーツポンチ」、六位「ハンバーグ」と続きますので、いかに「モロヘイヤのかつお和え」の三位が不思議か、ということがわかるかと思います。

 前置きが長くなりましたが、それではその「ひみつ」を、そっと教えましょう。一言では言えませんが、あえて言えば、素材のうまさです。モロヘイヤそのものにパワーがあるのです。

食材・調味料にこだわるから子どもの舌がわかる

野菜の生産グループの人たちと一緒に給食を食べる子どもたち

 木次の給食の野菜の七割近くが、地元の野菜です。しかもイーエム農法で育てた、化学肥料や農薬をほとんど使わない安全安心な野菜なのです。

 そのうえ生産グループのおばあさん方は、自分の子どもたち、孫たちに食べさせるのと同じ思いで、夏の暑い最中、モロヘイヤのやわらかい茎の先の何枚かを、一つひとつ手で摘み取って、給食センターへ出荷してくれるのです。

 さらに、給食センターでは、調理員が、夏休み中に出荷されたモロヘイヤを冷凍します。子どもたちにおいしい給食を食べてもらおうという思いが込められています。これは、月に一回給食に出しても、一年は食べつづけられるくらいの量を冷凍しているのです。

 もうひとつの秘密が、味つけです。ゆでたモロヘイヤを、たっぷりの花がつおと醤油とだし醤油で和えるだけですが、このだし醤油が、こだわりのつゆで、厳選したかつお節、昆布をたっぷり使い、杉樽でじっくり熟成させた本格濃縮つゆ「割烹だし」(香川県内海町 丸島醤油(株)TEL〇八七九―八二―二一〇一)です。

 いま、木次給食センターからは、合計一一の学校・幼稚園に、約一一〇〇人の生徒児童・園児たちに給食を提供しています。この子どもたちに食べてもらう給食は、いろいろなことにこだわっています。

 調味料では、醤油は、地元大豆と小麦で熟成された天然醸造の品。味噌も、地元の大豆を使った地元の加工所の品。塩は、沖縄の自然塩。砂糖は、三温糖や黒砂糖。食材では、まず米が、地元のコシヒカリ一等米(八分づき米)。野菜が、平成十六年度で、地元野菜が三四品目で重さにして一三トン、全体の六四%になります。卵は、平地飼いの有性卵。牛乳は、木次乳業のパスチャライズ(低温殺菌)のビン牛乳です。こんにゃくは、地元の加工組合の手づくりこんにゃく。油は、米油やしそ油。以上のように、数えたらきりがありません。

 現在では、全国の学校給食が、とても安全に気をつけています。食材、調理場の安全衛生、食中毒防止の面などです。私たちの使命は、さらに、いかに本物を、安心な物を、子どもたちに提供し、知ってもらうかということです。

 子どもの舌は、本当においしい物はわかるのだと思います。野菜が嫌いだという子は、野菜の苦味を感じているのだと思います。農薬などにより、窒素分が葉に残っていると、野菜が苦いのだということを聞いたことがあります。青空市場で、「これは自家用の野菜と同じだからおいしいよ」と言いながら売っておられるのを聞いたことがあります。自家用じゃないのは、消毒しているのかなと思ってしまいます。

自家用と同じ野菜を子どもたちに届けたい

 木次の給食に出荷される野菜は、すべて自家用と同じ野菜なのです。儲けは考えていません。子どもたちが喜んで食べてくれるならという考えの会員さんばかりです。

 その野菜を調理する調理員の考えも、おいしい野菜の本当の味を子どもたちに食べてもらおうという考えですから、冷たい冬場もたくさんの野菜を洗います。枯葉や虫がついていますので、それを取り除くために一生懸命です。何人もの会員から出荷される野菜ですので、大きさも不ぞろいなことがあります。釜に入れるタイミングをずらしたり、いろいろ考えて手間をかけています。それでも、市販の冷凍した野菜や外国から届いた野菜より、確かにおいしいということを調理員も知っているので、労力を惜しみません。

 地元の野菜を使うということは、それ以外に、予定通り出荷されないという問題があります。何しろ自然相手ですから、予定通りに野菜が育ってくれません。予定の日に出荷できないことがわかると、まず、ほかの会員が出荷できないか探し、それでもないときは、たとえば、ほうれん草がだめなら小松菜にかえます。いよいよそれもだめなら、八百屋さんに注文します。このように、毎日毎日、野菜の調達にはかなりの時間がかかります。それでも、子どもたちの喜ぶ顔を思うと、苦労も吹き飛びます。

 いま食育と言われている活動を、木次では、以前から行なっています。学校と野菜グループの交流給食試食会、調理員と学校との交流などを行なっているのです。お互いに顔の見える給食を、働く人の気持ちが伝わる給食を、提供しています。

 この毎日の小さな積み重ねが、現在の木次の給食を支えているのです。

モロヘイヤのかつお和えの出た日の給食の献立
モロヘイヤのかつお和えのつくり方(4人分)

【材 料】

 モロヘイヤ 180g
 花かつお 8g
 醤油 小さじ2
 だし醤油 小さじ1/2

【つくり方】

(1)モロヘイヤは熱湯でよくゆで、よく水を切る。
(2)1.に花かつおを入れて、醤油、だし醤油で和える。

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