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Ruralnet・農文協食農教育2002年11月号

食農教育 No.23 2002年11月号より
[特集]食で深まる国際理解

楽しく深まるALTとの交流術
ねったんぼ

おどんが町の
「ねったんぼ」を
ALTに伝えたい!

▼熊本・免田町立免田中学校 松本幸保

 

保護者へのアンケートでみえてきたこと

 熊本県の南部、鹿児島と宮崎の県境の球磨人吉地方。免田町はその中心に位置し、日本三大急流の1つ、球磨川をはじめとする自然豊かで歴史遺産の多く残る町である。町で暮らす人々も、古くから伝わる伝統文化を数多く受け継いでいる。

 しかし、子どもたちの生活のなかには、情報化の波が否応なしに入り込んでいる。核家族化が進み、地域とのかかわりが薄くなってきている現在、自分の身の回りにある昔からの大切なものや、地域の方とのかかわりから生まれる感謝や尊敬の念、郷土愛といったようなものが、子どもたちには少なくなってきているように感じる。

 平成11年度に保護者に対して実施した「総合的な学習の時間」に対するアンケートでは、自然環境に恵まれた学区にもかかわらず、「いろいろな体験活動や社会体験をたくさんしてもらいたい」「いろいろな人と接することで優しさを学んで欲しい」といった意見が多く、家庭や地域のなかでも人と人、人と自然とのかかわりが不足していることがわかる。

 以上のような理由から、「おどんが町の伝統文化を見つめよう」をテーマとして設定し、免田町に古くから伝わるさまざまな文化を学習することで、郷土である免田町をさらに愛する心情と、地域の人とのかかわりのなかから、心豊かな人間性をもつ生徒を育成したいと考えた。

図)活動の流れ 【44時間】

子どもといっしょに地域の情報を調べ始める

 免田に古くから伝わる伝統文化については、教師・生徒ともよく把握できていないのが現状であった。そこで当時の2年生の保護者に次のようなアンケートを実施した。

◇免田に古くから伝わる祭りや芸能、遊び、食べ物、風習などの情報
◇生徒にどのようなことを学習してほしいかという保護者の願い

 このアンケートをもとに、教師も生徒といっしょになって、知識を共有化していくこととした。

 アンケート回収後、生徒たちは自分の保護者に書いてもらったアンケートをもとに、まず少人数グループで免田の伝統文化について確認し、次に、各グループから出た内容を、プロジェクターをとおして全生徒の前に提示した。生徒たちは、自分の住む町に今まで知らなかった伝統的な文化がたくさんあったことに大いに興味を示していた。その1つが、もち米とカライモでつくる郷土食、「ねったんぼ」である。

オリジナル「ねったんぼ」づくりに挑戦

 「ねったんぼ」とはいったいどのようなものか。まず、名前のおもしろさに、いくつかのグループが飛びついた。生徒のなかには、実際におばあさんにつくってもらって食べたことがある者もいたが、ほとんどの生徒はまだ見たこともない、という状況だった。さっそく、グループごとにつくり方を知っておられるおばあさんのところへ出かけ、つくり方や歴史などについて調べることにした。調べてみると次のようなことがわかった。

●ねったんぼのつくり方
  1. もち米を洗い、カライモを乱切りにする
  2. もち米とカライモを釜に入れて炊く(20分)
  3. 釜から出してすりこぎでこねる
  4. ラップなどで丸めて包む

 「ねったんぼ」とは、球磨人吉地方に伝わる伝統的な料理で、戦時中は夕食として出され、その後はおやつとしても食べられていたようである。また、つくり方は、左のとおりである。

 ねったんぼのつくり方がわかったので、いよいよ実際に自分たちでつくることになった。失敗することもあったが、コツがわかると難しいものではない。そこで、今度は「自分たちでオリジナルのねったんぼをつくろう!」ということになった。まずは、定番のチョコレート味に挑戦し、先生方にも好評であった。次は甘いのが苦手な人のために抹茶味に挑戦した。抹茶の分量など難しい面もあったが、試行錯誤の末、おいしいものができあがった。さらには生クリームをデコレートしたり、海苔で巻いたりといろいろなものをつくり始めた。

 文化祭では総合的な学習の時間のようすを保護者に伝えるためにさまざまなブースを設けた。もちろん、ねったんぼの試食コーナーも設けた。保護者の方々からも「子どものころのことを思い出した」「生徒がつくったとは思えない」「店に出してもおかしくない」などの感想をいただき、生徒たちはかなり自信をつけたようであった。

囲み記事)ねったんぼのおいしさを再発見しました

 

外国にも、ふるさとのおやつはあるのか?

 ある程度納得のいくものができあがったところで、生徒たちは、今度は他の地域、とくに外国ではどのようなおやつが食べられているのかということが気になり始めてきた。インターネットで調べてみてもなかなか目的のページが見あたらない。そこで、免田のALTに相談したところ、近隣のALTに声をかけてくれ、免田中学校でお互いの国のおやつをつくり、交流会をしようということになった。

 ここで、生徒たちにとって新たな課題ができた。「英会話」である。ALTの方々と交流するには、英会話は少し自信がない。しかし、せっかくの機会である。ねったんぼを自分たちでつくって「免田には古くからこんなにおいしいものがあるんだよ」と、おどんが町の食文化を自慢したい。また、外国にもねったんぼのような地域に根ざしたふるさとのおやつがあるのかも知りたい。

 そこで、いざ英語で質問をしようとするのだが、練習問題をこなすようにはいかない。つくり方の手順をどういった表現で聞くか? 小麦粉やふくらし粉、そもそも「「もち米」って「ライス」でいいの?」と、材料にかかわる単語も意外とわからず、調べるうちにまた疑問がわいてくる。

 そんななか、このグループの生徒たちは、和英辞典を片手に質問したい内容、伝えたいことをていねいに調べていった。ふだんの英語の授業にも勝る熱の入れようである。

5人のALTの方々とおやつで交流
5人のALTの方々とおやつで交流

生徒たちなりに異文化を実感

 交流会当日。生徒たちは昔からあるねったんぼと、生クリームをデコレートしたものを用意した。ALTの方々は生クリームをのせたホットケーキや、クッキーを調理室でいっしょにつくってくれた。アメリカ、イギリス、オーストラリア。ALTの方たちにとっても、楽しい会となった。会話のほうは、基本的に英語で、前もって準備していない会話や単語でも、身振り手振りを交えればなんとかなるものだ。生徒たちは楽しく交流することができたようである。

 外国のおやつについては、ホットケーキ、クッキーと子どもたちもこれまで馴染みのあるものであったが、実際につくっていただいたものは量が多く、日本人との体格差を感じたようである。また、サツマイモともち米を原材料とするねったんぼとは違い、小麦粉を使うところに向こうのお国柄を感じたようでもあった。やはり、肉料理が多く、パンとの相性から小麦粉を使ったおやつや料理が多いのだろうか、と生徒たちなりに解釈していった。

わからない言葉も、身ぶり手ぶりでなんとかなるもの
わからない言葉も、身ぶり手ぶりでなんとかなるもの

必要から学ぶこと、かかわりから学ぶこと

 交流会のようすはデジカメで記録。これをほかの生徒たちにも伝えたいということで、プレゼンテーションソフトで、自分たちの取組みをまとめることになった。ねったんぼの歴史、つくり方、交流会のようすなどを紹介するものであった。

 この学習をとおして、地域の伝統的な食文化を出発点として、独創性を培いながら、国際理解まで発展し、最終的にはパソコンを使った情報の分野にいたるまで取組みが発展したことは、とてもすばらしいことである。

 最初から英会話そのものを学習するのではなく、伝えたいことがあるから英語を学習する、相手の思いを理解したいから英語を学習するという視点は、私たち教師にとっても、改めて「学びの必要性」をいかに生徒に感じさせることが重要なのかを学ぶ、よい機会となった。

 また、おばあさんやALTの方々とのかかわりのなかから、人と接することの大切さなどを感じていたこともすばらしいと言える。

 免田町に昔から伝わる食をとおした学習で、生徒たちは、ふるさとを誇りに思う気持ちが強くなったようだ。たとえ今現在は、それほど意識されていなくとも、大人になった時、この学習のことを思い出しながら、さらに次の世代へとよき伝統文化を伝えていってくれることを期待している。

地図

   ●免田中学校の紹介   

 免田町には、球磨川とその支流である免田川を中心に、町花「リュウキンカ」(春にきれいな黄金色の花を咲かせる)の自生する南限といわれる「丸池」など、水と緑の豊かな自然環境がある。また、国指定の重要文化財である「免田式土器」「りゅう金獣帯鏡」のほか、県指定の史跡である「才園古墳」「鬼の釜古墳」など、歴史的文化遺産も多い。

 免田中学校は生徒数241名。平成11年度より3カ年にわたり文部科学省の研究開発学校の指定を受け、「総合的な学習の時間」の研究を進めてきた。

 なお、平成15年4月には、免田町を含めた5カ町村が合併し、「あさぎり町」となる。


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