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Ruralnet・農文協食農教育2002年3月号

食農教育 No.19 2002年3月号より

子どもをだしに、集落ぐるみで楽しんでます

神戸市北区八多町 屏風集落のみなさん

 前田浩樹くんの住む屏風地区は、田んぼや畑、山林に囲まれた64戸からなる集落だ。ちょうど神戸市郊外のベッドタウンに挟まれた、エアポケットのような農村地。とはいえ、市街地から車で約40分ほどだから、地域のほとんどの人たちが都会で勤めるサラリーマンである。
 そんな都市近郊の農村地帯で、今、小学生の子をもつ親同士が集まり、炭焼きをはじめ、豆腐・コンニャク・ソバ・古代米づくりなど、集落ぐるみで農の暮らしを楽しむ取組みがにわかに盛り上がっている。

(編集部)

◆町民運動会の応援合戦

応援合戦でかぐや姫の仮装、大成功!
応援合戦でかぐや姫の仮装、大成功!

 きっかけは、八多町九集落対抗の町民運動会で行なわれる応援合戦だった。前田くんのお母さんの直美さんや、お隣の小野育子さん、馬場栄津子さんといった、ちょうど同年代のお母さんたちが、5年ほど前から応援合戦で仮装による寸劇をはじめるようになったことからだ。
 町民運動会には、まったく大人ばかりで参加する集落もあるが、屏風では子どもから祖父母世代まで、「賞をとりにいく」と意気盛んだ。昼食時に行なわれる応援合戦も本気の勝負。――たとえば。
 ダンボールに描かれた直径3mほどの大きな月。月の扉が開くと、紙でつくった12単を羽織ったかぐや姫が登場する。子どもたちは一輪車に乗って走り、その向こうには竹にロープをつないでつくった明石海峡大橋が現われる。月のダンボールが裏返って、絵と花で形どった淡路島が浮かび上がった。後ろにはお年寄りが並んで七福神。「フレー、フレー、ビョー・オー・ブー」の声とともに、淡路で花博を見て帰りましょう、とみんなが淡路島の扉をとおって舞台から姿を消した。最後に、1人取り残されたかぐや姫も淡路島に向かおうとしたら、扉が閉まってズッコケる。
 そんな大仕掛けな応援合戦を総勢50人ほどでやっている。田植え後の6月くらいから小道具の準備をはじめて、夏には週1回くらいのペースで練習をする。最後の楽しみは、イネ刈り後の打ち上げバーベキューだ。
 前田くんのお父さんである滋樹さんがつくった古代米の試食をしたり、竹をとってきて流しソーメンをしたり。ウコッケイ鍋をしたこともあった。30代半ばの若い馬場和彦さんがウコッケイをさばく姿に、「へぇ、そんな技もってたんや」とお隣さんの意外な一面を知ることもしばしば。昨年などは、どしゃぶりの雨にもかかわらず、朝9時から公会堂で焚き火をおこして、夜1時まで飲みっぱなしだった。子どもたちはその横で1日たっぷり遊んでいられる。「去年は雨が降ってたおかげで、子どもの管理がしやすかったわい」と盛り上げ役の西津達雄さんも笑う。

◆酒を飲みながら子育てをする

東京からの取材と聞いて
東京からの取材と聞いて、前田さん宅にみんなが集まる。自由研究の取材もそこそこに、新年会が始まった

 「みんな存在すら忘れたかもしれんけど、実は『手作り友の会』っちゅう名前で口座を開いたんや。まだ4000円ほどしか入金されてへんけどな」。
 西津さんは10年前、42歳のときに体長を崩して会社を辞めた後、ダリアを中心に花づくりをしている。自分は消極的な理由から農家になっただけだが、それにしても農家ほど農業が儲からないという理由で農業をあてにしてないのはいない、と思う。だから、みんなでコンニャクや、ソバ、古代米、豆腐なんかをつくって楽しみながら、ゆくゆくはそのうちの何かが定着していかないかな……なんて考えている。こういった遊びのおかげで、中南美幸さん一家など別集落にも仲間の輪が広がりつつあるし、直美さんがドライフラワーをつくって売るようにもなった。
 コンニャクは4年ほど前から西津さんがつくりだした。みんなに誘ったのだが、これがなかなかうまくいかず、実は落ち込んだこともあった。そんなときに、滋樹さんから「まぁええやん。みんなでワイワイやって、家族同士の付き合いが深まったことだけでも充分やん」と言われて、「うん、気負わずに楽しむことが1番や」と吹っ切れたそうだ。現在ではコンニャク部会ができ、隣の淡河地区にある大矢という加工業者に6戸が出荷するまでになった。今年はもう1戸増えそうな感じだ。
 今の年寄り連中と違って、自分たちは地域で生きる技を引き継いだ世代ではない。だから、サラリーマンをしながらも、休日に農の遊びをすることで、手仕事の技を身につけていきたい、と西津さんは考える。サラリーマンを止めたときに、それが営農にまでつながっていればバンバンザイだ。
 また、「それを子どもが端から見ているのがいいんです」と馬場さんは言う。「うちらの子どものころは、10時、1時まで公然と人の家に集まって遊ぶなんてことはなかった。神戸市にもこんなに地域の結びつきの強いところがあったんか、って会社の若い子らもビックリします。ここ5年ですっかり変わりました。子どもは子どもで喜んでるし、ぼくらは酒を飲みながら子育てできるし、言うことないですわ」。


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