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Ruralnet・農文協食農教育2000年夏 9号

特集 探求心に火をつける意外な方法

村のお米について大人の気づかないことまで考えた

新潟県頚城村三校の五年生合同の「米米サミット」から

編集部

サミット
他校の五年生に米作りで学んだことと将来像をアピール


米作りロボットの衝撃

 「米作りをする若い人が減ってきて、お年寄りがロボットを使ってやるようになると、若い人たちがますます減ってしまうから、ロボットに頼らないほうがいいのではないですか」。大瀁小学校五年生の五十嵐さんは、同じ頸城村の南川小学校の五年生に、こんな疑問を投げかけた。
 今年二月二三日、新潟県頸城村の南川小学校・明治小学校・大瀁小学校の三校合同による「米米サミット」が開かれ、それぞれの五年生が一年間イネを育てお米の学習を積み重ねてきた成果を持って集まった。子どもたち主体の運営で、「考えよう! これからの頸城村の米作り」の統一テーマのもと、各校のアドバイザー「地域の先生」たちの参加もお願いして、三つの分科会に分かれて報告と活発な討論を行った。分科会は、
第一「自分たちの米作りの経験から学んだこと」
第二「頸城村の稲作りの未来像」
第三「現代の農業が抱える問題…無農薬・有機農法、減反、農業人口減少」

である。この第二分科会で、南川小学校の五年生が、日本農業の高齢化の実態と将来予測をして頸城村の将来を考え、高齢化の解決策の一つとして、お年寄りでも簡単に米作りができる「未来のロボット」を提案したのだった。このロボットは雑草を食べてエネルギー源にするというもので、米作りの学習の中で「環境」のことも学んできた、子どもたちの夢とアイディアが込められている。


ロボットにまかせずに、若者に米作りの楽しみを

 南川小のロボットのアイディアに、他の二校の多くの子どもたちが驚かされ、共感も多かったのだが、冒頭の発言のように、何かしっくりしっくりしないものを感じる子どももいたのである。
 五十嵐さんたち大瀁小学校の五年生は、九〇時間にわたる総合的学習「いきいき学年活動」『夢の広がる米作り〜未来の農業像を求めて〜』で、稲の栽培から収穫、地域のお米の伝統料理、頸城村の稲作・日本の稲作などを学んできた。
「アイガモ農法」
学校田のアイガモ農法稲作(大瀁小学校)
 その過程で、子どもたちが地域の人びとから学んで選んだ栽培法が、「アイガモ農法」だった。アイガモのいる田んぼでのイネ作りの楽しさを味わい、無農薬をめざして病害虫の発生やイネの生育に一喜一憂しながらいろいろなことを学び続け、アイガモ農法によるご飯のおいしさ・安全性に大いに自信を持っている子どもたちは、「こんなに楽しい米作りをたくさんの人にやって欲しい」「とくに若い人に米作りの楽しさを体験してもらいたい」と願い、「アイガモ農法が手間がかかって大変なら頸城村全体が共同でやったらいい」という提案を持っている。だから「ロボットにまかせたら、ますます米作りから離れていってしまうのではないか」という問いかけとなったのだろう。
 一方、南川小学校では、学年活動として「作ろう! 私たちのつばさ米を!」を展開し、いま全国の農家が注目し実践が広がっている米ヌカの除草作用と土壌活性化効果を生かす「米ヌカ農法」にも挑戦してきた。こうした成果をもとに、第二分科会の報告は、コシヒカリよりも倒れにくく病気に強い品種の開発、微生物やミミズなどが土をきれいにする「バイオテクノロジー稲作」、日本の水を守るうえでの田んぼの必要性などをアピールした。これら地域の米作りと田んぼを守る一環としてロボットがあるわけである。


一人ひとりのイネ・米・頸城村のイメージが広がっていく

 だから、大瀁小学校の子どもにとって、報告全体は「アイガモ農法」で実施し考えてきたことに別の角度から自信が与えられ勇気づけられるものだったはずだ。ただ、田んぼで人びとがにぎやかに働きあうのか、人びとが離れるのかというところで、「イメージ」のズレがあるということだろう。
 サミットのあと、各校で子どもたちに書かせた「『米米サミット』振り返りカード」を見ると、何人かの子どもたちが、ロボットの提案と「ロボットにまかせていいの?」という異論について、印象深く受け止めている。それぞれの子どもたちが一年間の学習経験を通じて、イネ・米作り・頸城村の農業について自分の「イメージ」を育てていて、「米米サミット」での報告と論議が、さらに複雑で深いイメージの再構成を迫っているということであろう。サミット全体は先生たちによれば、ディベート大会のような激しい甲論乙駁ではなく静かな進行だったが、農薬・後継者・米輸入問題など各分科会の報告と論議が、一人ひとりの個性的なイメージ形成の触発の契機になっていることが、「振り返りカード」から読みとれる。


「地域の先生」とともに地域の課題と向かい合う

 頸城村の三小学校の米学習に共通していることは、地域とのつながりを重視していることだ。子どもたちは積極的に地域に出かけ、アドバイザーと交流して、学習をふくらませていく。専業農家、アイガモ農法など有機栽培をめざす農家、昔のことに詳しいお年寄り、役場産業課、農協、農業試験場、農機具会社などがアドバイザーだ。こうした人びとからじかに、例えば「アイガモ農法」の意味や技術、発生した病気の名前と対策、地域の米料理などを学びながら、栽培法や食体験の学習を組み立てていく。だから、子どもたちのイネ作りと米に対する愛着や自信は、学習をすすめるほどに高まっていく。
 ところが地域に出ることは、農業のさまざまな厳しい現実に触れることでもある。大瀁小学校による地域アンケートでは「子どもに米づくりをつがせたくない」という人が六〇%もいる。逆に「アイガモ農法をやってみたい」という人はきわめて少なく、普通には農薬・化学肥料による農業が行われている。農協の取材では「一〇年前の米が余っている」という話を聞いた。「こんなに楽しい米つくりがなぜ?どうしたらいいの」。そんな思いをもちながら「米米サミット」の報告内容を決めて交流するのだから、他校の報告に真剣にならざるを得ない。
 明治小学校の子どもたちは、アドバイザーの協力で米作りをしながら、北陸農業試験場に出かけて細胞培養による育種や、コシヒカリ以上においしく耐病性・耐倒伏性に優れた品種の可能性について聞いた。アイガモ農法の実践者佐野さんや、土作りを重視した減農薬減化学肥料の米作りと消費者交流を進める上村さんを訪ねて考え方や技術を聞き、「どんなお米を食べたいか」という消費者へのアンケートも実施した。また、カリフォルニアにいたことのある農家、草間さんに、アメリカの稲作について教えてもらい、これからの頸城村の米作りを考えた。


「アイス」
5年生の仲間が作ったアイスクリームを味わう

米消費をふやしたい! アイスクリーム・せんべい作りに挑戦

 そして、草間さんから学んだことの一つとして「アメリカでは米をビールに使ったりミールにしたりしている」という報告をしたが、これに即座に反応し、喜んだのは大瀁小学校の子どもたちだった。「米余り」に対して何とかして米の消費をふやしたいと考えた大瀁小学校のあるグループは、「米の可能性をアピールしよう」と、アイスクリーム・せんべい・パンの加工に挑戦してきた。各地の試験場などから情報を集め、お米のパン作りは断念したものの、サミット当日にはアイスクリームとせんべいを第二分科会の全員に試食してもらった。明治小学校の報告で、自分たちのやっていることが、世界ともつながっていることがわかり、大いに自信を深めたのだった。
 頸城村三小学校の合同「米米サミット」は、まさに地域とつながる「総合的な学習」の総仕上げであり、それぞれの学校独自な学習が交流し合うことで、子ども一人ひとりの個性的な探究を促す契機にもなっているのではないか。


「君たちが勉強して今日話しあったことは、お米の最先端だ」

 この日、アドバイザーの一人として招かれた、農業法人「久比岐の里 農産センター」を営み、頸城村村会議員でもある峰村正文さんはサミットの締めくくりの全体会で、村の小学校五年生一四五人に、このように語りかけた。「久比岐もち」の加工など先進的な取組みで知られる峰村さんが、「最先端」として、例にあげたのは、村の五年生が自信を持って報告した「アイガモ農法」、さらには「米ヌカ農法」などである。「政府は『環境にやさしい農業』という方向に変えていこうといているし、頸城村役場も同様だ」「アイガモや米ヌカを使って農薬を減らすとクモや川の魚が少しずつ戻ってくる」「米ヌカを使うのは微生物の発酵を生かすことで、発酵の技術は味噌や酒作りなど、日本人の大切な知恵・文化なんだ」。
 何人かのアドバイザーから「大人の考えが及ばないところまでよく考えていた感心した」「皆さんの言葉に力づけられた」との声があがったように、子どもたちが地域とつながって米を学ぶことは、単なる農業体験を超えている。頸城村の自然の力を活かした農業、頸城村の米の多面的活用による米食文化など、今日の地域づくりの課題そのものに触れることで、生き生きとした学習が成り立たつ。それが大人たちの地域再発見にもつながって共有され、頸城村ならではの教育、「総合的な学習の時間」ができていく。

(大瀁小学校 新潟県中頸城郡頸城村百間町新田1134/南川小学校 頸城村上吉新田414/明治小学校 頸城村日根津2929)


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