ルーラルネット全集編集室だより │ 大石貞男著作集

大石貞男著作集 全5巻 歴史と地域に根ざした茶業研究の集大成
─茶業の原点に立ち返り、未来をよむための視点と技術のあり方を示す─
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写真 全5巻

A5判上製・セットケース入り

「大石貞男著作集」発刊の今日的な意義

 元静岡県茶業試験場長の故大石貞男氏は、一貫して歴史をふり返り未来のあり方を見つめ地域や産地に軸足をおいた研究と思索を実践し、多くの著作を残された。

 茶産業が成長発展をみせていた1970年代に、氏はくしくも“やぶきた”偏重の品種、多量の資材を投ずる栽培管理、大型工場による荒茶製造などのあり方に対する警告を提言されていた。グローバル化が進む中で、環境問題や食糧問題など多くの深刻な問題が生じている一方、地産地消や食の地方分権などローカルなもの、地域が見直されている今日、本著作集刊行は、茶業の原点に立ち返って、過去をふり返って未来をよむための貴重な素材であり、その今日的意義は大きい。


1巻表紙画像 第1巻●日本茶業発達史 収録著作:日本茶業発達史

 従来の茶業発達史は、中国からの茶の伝来や中世以降の茶道史に軸足をおいているが、本書は栽培と利用という農耕と食生活とを総合した、暮らしと茶の地域性いう視点から展開しているところに大きな特徴がある。さらに、丹念な調査と分析から、日本も茶の原産地であり、縄文時代に農耕文化の形成とともに利用がはじまったことも立証。
 茶業技術史では中世以降の歴史についての考察に加え、産地の移動、品種の成立、栽培管理技術、大型工場による製茶の問題点など、今後の茶業への警鐘もしている。

<目次より>〔総説〕1章 茶の地域性:茶の香味は地方の嗜好/茶の地域分化と系統/地方茶の製法 2章 茶の起源・伝播および茶利用の起源と変遷 3章 栽培の起源 4章 現代日本茶自生論 〔茶業技術史〕1章 中世における産業的発達:鎌倉時代以後の栽培の東漸/釜炒茶の伝来 2章 近世における産業的発展:外国人のみた日本茶業/古文書からみた茶業技術 3章 近代における茶業技術 補論 茶の分類史


2巻表紙画像 第2巻●静岡県茶産地史 収録著作:牧之原開拓史考/静岡県茶産地の誕生と変遷

 著者が住んだ静岡県茶業の中心をなす牧之原大茶園は、明治以降の近代的茶業の先駆でもあった。「牧之原開拓史考」は、誰がどのようにこのやせ地に取り組み、開拓したのかを足を運び、文献を調査し、長い年月をかけてまとめたものである。開拓の歴史とともに、なしとげた人物の生きざまが感動的に記述されており、読物としても引き込まれる。
 「静岡県茶産地の誕生と変遷」は1976年1月号から27回にわたって雑誌『農業技術研究』に「静岡県茶業史」として連載されたものである。静岡県の主な茶産地ごとにその誕生と変遷をまとめた、茶業小史ともいうべきものである。

<目次より> 牧之原開拓史考 一、開拓のはじめ−士族の入植− 二、士族たちの勢ぞろい 三、入植のころ 四、第二の開拓者たち−川越人足− 五、士族入植余話:大谷内竜五郎の切腹/坂本竜馬を斬った今井信郎/松岡神社、池主霊社縁起/関口隆吉と牧之原 六、開拓初期の栽培技術 七、開拓初期の製茶技術 八、開拓士族たちの苦闘 九、士族の栄光と悲劇と 十、牧ノ原の今昔
 静岡県茶産地の誕生と変遷 静岡地域(本山、井川)、川根、志太、県東部地域(旧富士郡、旧駿東郡、伊豆)、清水、小笠、掛川、天竜・森、浜松、牧之原の10地域ごとに産地の誕生からその変遷を記述


3巻表紙画像 第3巻●茶の栽培と製造T 収録著作:茶の栽培/茶の生育診断と栽培/茶のはなし

 「茶の栽培」は著者初めての単行本。良質・多収・安全を柱に、茶の特性と地域の特徴を生かした栽培技術を紹介。その各論として書かれたのが「茶の生育診断と栽培」。茶園の生育診断を基本に、栽培法ごとにねらいにあわせた栽培のポイントをわかりやすく解説。
 「茶のはなし」は『農業技術研究』に1978年4月号から44回連載したもので、世界の各種お茶、栽培技術、製茶について個々の技術や作業、研究のうつり変わりを整理した技術小史である。また、その過程で現代につながる問題点や課題も指摘している。

<目次より> 茶の栽培 〔成木園の管理〕一章 これからの茶栽培:収益を高める栽培技術/収量のしくみと多収/品質のしくみと良質茶/安全栽培のために/茶栽培の目標 二章 成園管理の実際 〔早期成園化のために〕一章 茶の適地 二章 開園の実際 三章 品種の選び方 四章 苗づくり 五章 早期成園化のために 六章 茶の更新 〔製茶のポイント〕一章 茶の製造法 二章 製茶工場の設備と運営
 茶の生育診断と栽培 〔茶診断のポイント〕一、収量のきまり方 二、診断の実際とねらいのおき方 〔各種栽培の実際〕一、せん茶栽培の実際:せん茶栽培の適地/中級茶栽培の実際/上級茶栽培の実際 二、おおい下茶栽培の実際:玉露・てん茶栽培の実際/かぶせ茶栽培の実際 〔技術上の問題点〕一、栽培上の問題点 二、製茶技術の問題点
 茶のはなしT世界の茶 U栽培技術の歩み V日本の製茶の歩み


4巻表紙画像 第4巻●茶の栽培と製造U 収録著作:茶栽培全科/『茶』『農業技術研究』掲載記事

 「茶栽培全科」は、発展した茶業技術のなかで、画一的な近代化技術の適用、特徴のない茶など、1970年代後半から顕在化してきた問題に対して、“風土と茶”という視点から技術をとらえなおすことを意図して書かれた。「地域全体が人々の熱気でみなぎり、茶の香りに子供心の官能までが激しくゆさぶられる茶業」復活への熱いメッセージが伝わってくる。
 『茶』『農業技術研究』掲載記事は、静岡県茶業試験場に勤務した1957年から始まり、その時々の課題に対して考え方と対策が的確に述べられている。

<目次より> 茶栽培全科 〔茶の地域性と種類、品種、品質〕T茶産地と地域性 U茶の種類 V茶の品種 W茶の香り・品質 〔栽培の基礎〕T茶芽の生育と収量品質 U摘採の様式 V整枝と仕立て方 W土壌管理と施肥 〔栽培管理の実際〕T生育のとらえ方 U萌芽から二番茶収穫まで V二番茶から三番茶の収穫 W秋冬の生育と元肥施用(以下略) 〔製茶の基礎と実際〕T茶の種類と製法 U手もみによる製茶法 V機械による製茶法
『茶』『農業技術研究』掲載記事 秋肥と施肥設計、敷草、深耕の時期と効果、寒害・霜害対策、さし木と育苗、整枝、収量と品質をめぐって、品種組み合わせの考え方、他


5巻表紙画像 第5巻●茶随想集成 収録著作:茶業の周辺/テープレコダーを担って

 『静岡新聞』の「テープレコダーを担って」というコラム欄に、1969年から16年間にわたって連載された随想を収録。『茶業の周辺』は1975年までの連載をまとめて、単行本として発行したものである。「大変ユニークな肩のこらない文章であり、とらえた課題は、茶業の今昔やかくれた史話、国内茶産地の記録や事蹟、さらに生産や流通など当面する茶業の経営課題と、広く多彩にとらえ、氏の茶に対する情熱と博識に驚嘆すると共に、読者を魅了し大きな示唆を与えてきた」(『茶業の周辺』発刊のことばより)と、評判になった随想を集成。

<目次より>日本茶業革新の先達、ぼてぼて茶の由来、東北地方と茶、シーボルトと茶、歴史の中の外国人が見た茶の飲み方、家康と茶、日本の玉露の創始、やぶきた誕生の時期はいつ、「狭山茶五十年の歩み」を読む、宇治の茶業、高知の茶を見る、茶摘み唄考、糸魚川市のバタバタ茶、昭和三十八年の茶寒害について、茶園の大型機械・共同作業の成功例、茶の手もみ技術の系譜、茶業における婦人の活動、世界的視野から茶業見直し、富士山頂で茶のアンケート、米国における緑茶し好調査、ビルマの食べる茶、ウーロン茶ブームと緑茶の品質、パリ食料品店の茶リスト、他