「日本農書全集」別巻の【分類索引】には〈成句・ことわざ〉の項があり、六〇〇を超える成句やことわざが収録されている。農耕や農作業に関するものから天候に関するもの、さらには処世訓や人心の機微をついたものまで、先人の農のこころと暮らしの叡智が息づいている。たとえばこんな具合だ。
農耕、農作業、天候に関するもの
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第1巻『奥民図集』に描かれた農民 |
【稲は汚泉に宜(よろし)】
【千駄の糞(こや)しより一時の旬をもってせよ】
【帷子(かたびら)麦に袷(あわせ)稲】
―稲をつくる田んぼは、上流にある人家の使い水が流れ込むようなところがよろしい。
―千頭の馬に負わせるほどの肥料を施すよりも、作業の適期を逃さないことが大切だ。
―麦は裏地なしの衣服を着ているうちに播け、稲は袷(裏地つきの衣服)を着ているうちに播け。
水利条件、作業時期の重要性を、これらの短い成句のなかに込めている。
【五風十雨の潤い】
【テッカリ千俵】
【秋荒(あきあれ)半作】
こうして適期を逃さずにしっかり管理し、天候に恵まれれば、秋の豊作を期待できる。春の彼岸にテッカリ=晴天が続けば豊作まちがいなし。しかし二百十日のころに台風がくれば、一年の苦労も水の泡の憂き目を見ることになる。
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