主張

粗放利用&農村RMOで 使い切れない農地を地域再生の活力源に

 目次
◆どうする? 使い切れない農地
◆活用法や労力は地域に眠っていた
◆兼業農家を減らした反省を糧に
◆粗放利用を応援する「最適土地利用対策」
◆「農村RMO」の役割
◆「中山間」「多面」の組織を出発点に

 いま開かれている国会では人と農地に関わる二つの法案が審議されている。一つは人・農地プランの法定化。もう一つは、地域ぐるみの遊休農地保全事業を進めやすくするための法改正だ。背景にあるのは農村の高齢化と人口減少。守るべき農地と守り切れない農地を明確にしたうえ、それぞれを維持管理する態勢を地域のなかで作り上げていくことが目的の法改正といっていいだろう。

 人・農地プランの法定化では、農業経営基盤強化促進法等を改正したうえ、地域の将来の農業のあり方、農地利用の姿を地図にまとめた「地域計画」を市町村がつくることになっている。後者のほうは、農山漁村活性化法を改正して守り切れない農地の保全に役立てるという。今月の「主張」で取り上げたい内容は、後者の法案に関係する。

どうする? 使い切れない農地

 農繁期真っ盛り。田畑に次々と作物が植え付けられる季節だが、使う予定のない農地のことが気になっている読者もいることだろう。とくに中山間地域で暮らす人には、年をとったり勤めがあったりで、手が回らなくなった田んぼや畑があるのではないか。

 米をつくることはできなくなったけど、草刈りするだけで放っておくのはしのびない。何か、手のかからない利用法はないものか――。そんな方々にぜひ読んでほしいのが『季刊地域』2022年春号(49号)の特集「どうする? 使い切れない農地 粗放利用&みんなで活かす」だ。これは昨年秋号(47号)に続く「使い切れない農地」特集の第2弾。使い切れない農地は冒頭に書いた「守り切れない農地」と同義である。

 第2弾を特集したのは秋号が好評だったからだ。読者のみなさんのところをバイクで訪ねる普及(営業)職員によると、表紙の特集タイトルを見ただけで、「本当にそうだよね」と共感してくれる農家がいたそうだ。「エネルギー作物という手もあるのか」と感心する方も。また、ヒマワリを育てて養蜂に利用したり、牛や羊の放牧、あるいはビオトープにする粗放的な利用法を地域の景観として描いたイラスト記事に、「これこそ、うちの市が目指しているものです」と喜んでくれる行政関係者もいたらしい。

 農家もJAも役所の担当者も、みんなで耕作放棄地を減らそうと頑張ってきた。しかし労力不足はいかんともしがたい。そこは「使い切れない」と認めたうえ、手をかけずに利用する方法へ発想を広げると、やれることはまだいろいろある。『季刊地域』4749号で継続追求したテーマを、ここでみなさんといっしょにもう一度考えてみたい。

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活用法や労力は地域に眠っていた

 岩手県花巻市の兼業農家・熊谷哲周さん(66歳)の遊休田55aには、ガマズミとナツハゼが植えられている。土がやせているのか、米があまりとれない田んぼだった。熊谷さんが事務局長を務める高松第三行政区ふるさと地域協議会で福祉農園をつくることになり、その農地として提供したのだ。

 なぜ、ガマズミとナツハゼなのか?

「地域でワークショップを開きましてね。山の資源を栽培しようとなって、子供の頃に食べたものは何か思い出してみると、集まった人たち(60代以上)のおやつは山の木の実だった。クリ、アケビ、ヤマナシ……。ホワイトボードに書き切れないくらい次々出てきたんです。そのうち誰かが『酸っぱいものって体にいいって言うよな』と話した。それで絞られたのがガマズミとナツハゼだったんです」

 山の木の実と遊休農地の組み合わせでワークショップは大いに盛り上がったらしい。

 この福祉農園では、70〜80代の高齢者8人が日常の管理作業(草刈り)を担い、地区内にある障害者施設や保育園も収穫作業などに関わる。ガマズミもナツハゼも肥料や農薬は必要ないし、手間がかかるのは月1回の草刈りくらい。約10年続けてきて獣害もゼロだ。それに熊谷さんが驚いたのは、無肥料にもかかわらず、とくにガマズミが山に自生するものとは比べものにならないくらい実をつけること。しかも山では隔年結果なのが、ここでは毎年つく。

 収穫したガマズミとナツハゼの実は委託加工でゼリーにして販売する。1個70gで店頭価格120円(税込)。市内の直売所で売るほか、地元出身者に年2回購入してもらう「ふるさと宅配便」にも入る。コロナ禍の前は年1万個も売れたそうで、けっこうな稼ぎになっている。

 また、これも粗放利用と言っていいだろう。放棄茶園の茶の実を高齢者に収穫してもらい、搾油した油の美容効果を活かして石鹸に加工して販売するのは、佐賀県嬉野市の春日活性化委員会という任意団体だ。代表の中林正太さんは30代半ばで、介護事業の経営が本業。嬉野市内の出身で、山あいの春日地区にある小学校の分校跡を活かして地域おこしをしようとこの団体を立ち上げた。

 茶の実を摘んだり拾ったりして収穫するのは高齢者でも難なくできる。イノシシに食べられる心配もない。放棄されて何年もたった樹は4mにも5mにも伸びるので、実に手が届くよう切り戻す作業が必要になるが、他に労力はかからない。腰の高さまで切り戻すと2年間は実がつかないが、周辺にたくさんある放棄茶園をローテーション利用すれば問題ないという。

 昨年11月号の「主張」では、使い切れない農地の粗放利用が「新結合」(イノベーション)によっておもしろい成果を生み出していることを述べた。ガマズミ・ナツハゼと茶の実の場合は、手のかからない作物と高齢者や障害者の労力との新結合といえるだろうか。発想を広げてみれば、活用法や労力は地域に眠っていたのである。

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兼業農家を減らした反省を糧に

 ふり返ってみれば、この30年で販売農家数(*)はおよそ300万戸から100万戸へと3分の1にも減っている。その減少分の多くを占めるのが兼業農家だ。専業農家や集落営農を中心に、残った農家が耕作面積を広げたとはいえ限界がある。使い切れない農地が増えるのも当然だろう。

 2020年3月に政府・農水省が公表した食料・農業・農村基本計画は、「半農半X」や「田園回帰」という言葉を織り込みながら「地域政策の総合化」という新機軸を打ち出した。この基本計画を具体化するにあたって設けられた有識者検討会の中間とりまとめ(21年6月)には、従来の大規模経営に加え、「半農半X」などを含む多様な形で農に関わる者を育成・確保し、地域農業を持続的に発展させていく発想が必要だ、とある。そして、現在開会中の国会で法定化が議論されている人・農地プラン(地域計画)にも、「継続的に農地利用を行なう中小規模の経営体」や「農業を副業的に営む半農半X」を担い手と位置づけることになっている。

 30年前といえば日本はちょうど経済のバブルが弾けた頃。1992年にはブラジル・リオデジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」が開催され、環境問題に対して地球規模で取り組む必要性が確認され、日本でも農水省は「新しい食料・農業・農村政策の方向」として「環境保全型農業」の概念を打ち出した。ところが、その後の農業政策は市場原理に引きずられた大規模化路線で、兼業農家は減少の一途、環境保全型農業もなおざりにされた。

 今国会では30年後(2050年)に向け、減農薬・減化学肥料を進め有機農業100万haを実現して、農林水産業のCO2排出実質ゼロを目指す「みどりの食料システム戦略」関連法案も審議されている。政府・農水省は、産業としての農業政策も農村の暮らしをつくる地域政策も、過去30年の反省のうえに30年先を見据えようと腹を決めた、と言っては褒めすぎだろうか。

* 経営耕地面積30a以上または農産物販売額が年間50万円以上の農家。

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粗放利用を応援する「最適土地利用対策」

 使い切れない農地の粗放利用に話題を戻す。22年度予算には、粗放利用を応援する補助金も準備されている。一つは「最適土地利用対策」。21年度に数カ所に限定して始まったものだが、今年度から本格化し26年度までに全国100地区で実施するという。

 最適土地利用対策は、市町村が参画した地域の話し合いに基づいて、荒廃農地もしくはそのおそれのある農地の有効利用・維持に取り組むモデル的な活動を支援するというものだ。簡易な基盤整備のほか、放牧、蜜源作物の作付けなどの粗放的な農業、そして非農地化した土地に植林して維持する活動も対象になる。「地域の話し合いに基づいて」というのがポイントで、実際には、人・農地プランの法定化で策定することになる「地域計画」のための話し合いと一体的に考えることになるのではないか。

 冒頭で書いた農山漁村活性化法の改正が関わるというのは、使い切れない農地を最適土地利用対策で活用したりする場合に、農地の貸借や農地を非農地化して木を植えるため転用する手続きが、市町村が立案する「活性化計画」により簡単になるからだ。地域計画と活性化計画というと別々に並立するような印象があるが、農地の粗放的利用のための活性化計画も地域計画の一部と考えたほうが理解しやすいかもしれない。

 いずれにしても、使い切れない農地は個人よりも組織・グループのほうが利用しやすい。それは『季刊地域』49号に掲載した現地事例にも見て取れる。先ほど紹介したガマズミ・ナツハゼの花巻市・高松第三行政区ふるさと地域協議会は、高齢者の生活支援や地域の景観形成などに取り組む地域運営組織。茶の実の嬉野市・春日活性化委員会は、市内外の若手有志が集まり、春日地区の高齢者や女性グループとともに活動している。

 農業生産を主目的にした集約的な農地の使い方から、農家も非農家も、若い人も高齢者も障害者も参加できる粗放的な使い方へ。今の時代に求められている新しい農地の利用法、使い切れない農地を現代版入会地のようにとらえてはどうだろう。

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「農村RMO」の役割

 使い切れない農地の利用を応援するもう一つの補助金は「農村RMO形成推進事業」だ。農村RMOとはこれまた聞き慣れない言葉だろうが、RMOはRegion Management Organizationの頭文字を組み合わせたもので、そのまま日本語に訳せば地域運営組織。農水省の定義では、生活支援を主に行なってきた地域運営組織の機能に、使い切れない農地を含む農用地保全と地域資源の活用(特産品開発や6次産業化)の機能も加えた組織だという。農村RMO形成推進事業では、地域づくり協議会など既存の組織が農村RMO化を目指して行なう調査や実証事業などを支援する。

『季刊地域』49号では農村RMOを、地域運営組織+中山間直接支払や多面的機能支払の組織+集落営農と理解した。三つの組織・機能は必ずしも一体化する必要はない。既存の組織どうしの連携という形もある。

 たとえば高松第三行政区ふるさと地域協議会は3集落の横断組織だが、各集落の中山間直接支払の組織から委託される形で集落機能強化加算という加算金を使い、高齢者の見回り・外出支援、配食サービス、除雪支援、福祉農園の運営を行なっている。そして、同じエリア内の(有)あぐりランド高松という集落営農法人と連携関係にある。集積・集約する農地は集落営農法人、使い切れない農地の利用は地域運営組織が担う。高松第三行政区ふるさと地域協議会では、昨年から別の遊休農地でサツマイモの栽培も始めた。地区内の障害者福祉サービス事業所と連携して干しイモや焼きイモに加工して販売するそうだ。

 同じく『季刊地域』49号に登場する島根県安来市のえーひだカンパニー(株)の場合は、「地域を守る会社」として一つの組織で農村RMOの機能を体現している。19集落からなる比田地区は小学校区にあたる。全世帯住民アンケートをもとに地域活性化のアイデアをまとめた比田地域ビジョンの作成を経て、17年にえーひだカンパニーが誕生した。自治機能と生産機能の2本柱で地域ビジョンを実現することがこの会社の目的だ。

「自治機能とは、福祉や防災、定住促進など行政に依存せずに地域づくりを行なうこと。生産機能とは、自治機能を発揮するために必要な財源を自立的に生み出すことです。農産物の生産や加工、販売、農作業の受託など、農業を核とした事業を指します」

 こう話すのは、同社取締役の野尻ちさとさん(35歳)。生産機能を具体的に見ると、「比田米プロジェクト部」が地区内約300haの農地のほぼ半分の水稲防除を受託したり、比田米のブランド化・販売、地元の酒米を使った日本酒の委託加工などを担う。また、20年3月に開店した直売所「えーひだ市場」がコロナ禍にもかかわらず順調に売り上げを伸ばしている。

 えーひだカンパニーの特徴の一つは、地域を守る会社として移住者の受け入れにも寄与していることだ。取締役の野尻さん自身もIターンで、カンパニー設立以来、比田地区には8軒15人ものIターンがやって来た。移住者は使い切れない農地の利用でも活躍している。野尻さんは遊休田10aを借りてレンコンをつくる兼業農家でもある。

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「中山間」「多面」の組織を出発点に

 はたして「農村RMO」という新しい言葉は定着するかどうか。この名称で呼ぶかどうかはともかく、高齢化と人口減少、そして使い切れない農地が増える農山村に必要なのは①生活支援、②農用地保全、③地域資源活用を担う組織の力、なのではないだろうか。地域で暮らす住民が共同の力を発揮する組織。この組織は、コロナ禍でますます増えている田園回帰・Iターン志向の若者の受け皿にもなり得る。『季刊地域』49号には、すでに各地に生まれている地域運営組織、中山間直接支払・多面的機能支払、集落営農という3タイプの組織が、それぞれ農村RMOへの出発点になる、という記事もあるのでご覧いただきたい。

 その3タイプのうち「中山間」「多面」の組織を出発点に、集落の農地を守る新たな仕組みづくりを始めようとしている事例を最後に紹介したい。福島県二本松市の布沢集落。布沢集落では05年から中山間直接支払に、16年から多面的機能支払に取り組む。「中山間」の交付金では共同利用のコンバインやアゼ塗り機を購入したり、総延長12kmにもなる電気柵を設置して高齢者の農業を支えてきた。「多面」は地域外の人たちとの交流を生み出し、使い切れない農地にビオトープをつくったり、「野良のアート」を主役に据えた「布沢棚田の芸術祭」というユニークなイベントに結実している。

 布沢集落がその先に見据えるのは、これから高齢で次々リタイアするであろう農家に代わって消費者に米をつくってもらう「マイ田んぼ」を増やし、集落の草刈りや荒廃竹林の伐採に町場の人たちにも参加してもらうような組織作りだ。棚田米を購入することでも集落の農業を支えてもらうが、現地に足を運んで作業に参加する人も増やす。布沢の棚田保全NPOのような組織を構想している。これも新たな形の農村RMOに発展していきそうな予感がする。

 使い切れない農地は、集落を越えて人が集まる現代版入会地。地域再生の活力源になる可能性大だ。

(農文協論説委員会)

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