主張

農協が地域運営組織とつながるとき、地域は大きく動き出す

 目次
◆JA滋賀蒲生町 小さな農協の多彩な連携
◆自己改革実践のキーワードは「集まる」
◆地域運営組織とJAは相性がいい
◆三つの事例にみる連携の「効果」

 今年3月に開催された第28回JA全国大会。「創造的自己改革の実践~組合員とともに農業・地域の未来を拓く~」と題する決議は、「具体的な取組方向」として「『農業者の所得増大』『農業生産の拡大』へのさらなる挑戦」とともに、「連携による『地域の活性化』への貢献」を重点課題として掲げた。決議はこう記している。

「JAは、地域実態に応じて、地方公共団体と連携して、主に小学校区を単位として地域住民の多くが参加して地域の課題解決に取り組む地域運営組織(RMO)や教育・研究機関等と連携し、総合事業や支店ふれあい活動を通じた課題解決に取り組みます」。

 決議に明記された「地域運営組織」は、この間急速に増えている。2018年度の組織数は前年比610増の4787。回答した1722市区町村のうち4割を超える711市区町村で結成され、結成されていない市町村でも約85%が必要性を認識しているという(総務省)。

 そしていま、JAはこの地域運営組織との連携を大きく掲げた。その意味と方法について考えてみたい。

JA滋賀蒲生町 小さな農協の多彩な連携

 滋賀県のJA滋賀蒲生町は、地域運営組織との連携のモデル事例の一つとして注目されているJAである。組合員は2627人。そんな小さな農協が、人口約1万4000人の東近江市蒲生町の地域運営組織「蒲生地区まちづくり協議会」(以下、まち協)と連携し、多彩な活動を展開している。JA代表理事組合長の谷口信樹さんや、まち協会長の佐川昭子さんらにお集まりいただき、お話を伺った。

 まち協は2006年、1市6町が合併して東近江市になったとき、旧市町ごとに個性あるまちづくりを、という市の方針のもと、42の自治会が結集して設立された。

 まち協の佐川会長がJA理事を兼ねていたこともあり、設立当初からJAとのつながりが強かった。まち協が主体になって年3回程度開催する「蒲生まちづくり会議」には、議員や商工会、各種団体の代表者とともに、JAから谷口組合長ら役職員が参加、地域の課題を共有する場になっている。まち協の中には三つの特別委員会と六つの専門部会があり、そこに住民としてメンバーに入っているJA職員もいる。まち協が開く会合や行事にはJAの役職員が極力参加し、気軽に話し合える関係がつくられている。

 まち協が主催する地域の祭りにJAは営農販売課を中心に準備から関わり、当日は約50人の職員が原則全員参加する。千人鍋の具材になる農産物はJAが提供、フォークリフトなども使って大鍋料理をつくるのもJA職員だ。「何かにつけて農協の尽力(人力?)と資材がなかったら、この規模の祭りはできない。JAなら若い人を含めてこれだけの人を動かせる。農家やなくてもJAの存在価値は認識してはると思います」と、まち協の佐川会長。

 地域で行なう子どもたちの合宿でもJAが食材を提供、川の清掃や草刈りにもJA職員が参加する。

 そんな連携のなかで、JAが助けられることも多い。管内には20の集落営農法人があり、水田転作で10haの加工用キャベツの栽培を始めた。だが人手不足で仕事が追いつかない。その時、まち協が「援農隊」プロジェクトを立ちあげてくれた。町の人口の半分は長峰団地に住む人で、大手企業の技術系OBが多い。そんな人たちを「援農隊」として登録してもらい、作業を頼む仕組みだ。「そういう着想は、うちらJAでは生まれにくい」と谷口組合長。

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自己改革実践のキーワードは「集まる」

 JA滋賀蒲生町では一昨年、直売所を新築した。JAの経営方針には次のように書かれている。

「組合員の声を聴くなかで、JAは地域住民が気軽に顔を合わせることができる場になるべきと感じました。このため、当JAでは、自己改革実践のキーワードを『集まる』とし、その実現策の一つとして、農産物集荷所・加工所を併設した直売所を平成29年度に新築しました。この直売所が『農家組合員(生産者)が集まる』『地域の消費者が集まる』地域農業の拠点となり、当JA管内全体の活性化につながるよう取り組みを実施いたします」。

 そんなJAとのかかわりのなかで、まち協の活動も活発に行なわれ、総務省が主催する「平成29年度ふるさとづくり大賞」で団体表彰(総務大臣賞)を受賞した。その表彰理由は次のようだ。

「蒲生地区まちづくり協議会は、『食』『エネルギー』『ケア』の自給圏をめざし、蒲生地区まちづくり協議会を中心とした自治会・自治会連合会・商工会・JA・医療機関・NPOなどの多様な主体との協働体制により、低炭素で持続可能なまちづくりを進めてこられました。また、2030年の蒲生地区の将来像を描いた『まちづくり計画』に基づいた防犯、産業振興、観光、結婚支援などの事業を着実に実施し、地域のまちづくりをけん引されており、幅広い地域活動が高く評価されました」。

 蒲生町ではまち協を中心にJAも入って蒲生の特産品の掘り起こしを進めている。黒豆、小豆、米(羽二重もち)、佐久良川みそなど。2015年には住民に呼びかけ、それらを使ったレシピを集めて「食の文化祭」を開催、冊子にもまとめた。

 また、まち協が立ち上げた一般社団法人「がもう夢工房」が運営するレストランでは「豚の佐久良川みそ焼き」など、特産物を使ったメニューを出している。夢工房では「がもう元気ぱっぱ」(五平餅)、がもう豆乳、黒豆あかねゼリー、がもうおかず味噌などの加工品にも取り組み、そこでは、JAが供給する農産物やJAが加工する佐久良川みそが生かされる。

 そんなまち協の活動をJAが支援する。もっとも、なんでもかんでも支援できるわけではない。農家組合員が関わることならば支援するというのが基準だという。「地域貢献ではなく『補完し合う関係』だ」と谷口組合長は話す。

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地域運営組織とJAは相性がいい

 地域運営組織は、地域課題の解決に向けた住民自治組織である。おおむね小学校区(旧小学校区)の範囲で活動し、高齢者交流サービス、声かけ・見守りサービス、体験交流事業、公的施設の維持管理など活動内容は多様だ。多くは公民館などの公共施設を活動拠点とし、収入源は市町村からの補助金、構成員からの会費、公的施設の指定管理料、利用者からの利用料などである。

 この自治組織とJAとの関係について、寺林暁良さん(執筆時、農林中金総合研究所主事研究員、今年度より北星学園大学専任講師)が、事例調査を踏まえて「農協と地域運営組織との連携をめぐる論点─その意義と農協の果たす役割─」という論文をまとめている(『農林金融』2017年10月号)。

「現実をみると、農協と地域運営組織との連携は一般的な状況となっておらず、各農協で地域運営組織との連携や協同を積極的に進めようという機運が高まっているとも言いがたい。その理由は、地域運営組織自体が増加・発展途上であることもあるが、農協と地域運営組織との関係性が十分に整理されていないことも原因ではないか」と寺林さん。そこで、地域運営組織とJAの接点、共通点を三つの角度で整理している。要約すると次のようだ。

 第1に、多様な主体の参加。従来の地縁組織とちがい、地域運営組織は若者や女性など幅広い世代・属性を持つ個人や地域の組織・団体が参加する場合が多い。一方、実行組合など集落内の組織を「基礎組織」としてきたJAも、集落内の職業の多様化や過疎・高齢化が進むなかで多様化している。地域運営組織の多様な主体の参加という特徴は、正・准組合員など多様な組合員や住民との関係づくりが求められている農協の課題と重なる。

 第2に、多様な事業の運営。地域運営組織には地域に必要な「生活サービスの維持・確保」と「地域における仕事・収入の確保」という生活・経済の両面を担うことが期待されるが、このほとんどは、農協が従来実施してきた事業と共通している。高齢者の交流や見守りは農協が日常業務のなかで担ってきた役割であるし、買い物支援も農協が購買店舗や移動購買車の運営を担っている事例は少なくない。また加工所や直売所の運営は、むしろ農協が得意としてきた分野である。このように、農協はすでに地域運営組織の「実行」にあたる機能の多くを担っている。

 第3に、活動範囲の広域性。地域運営組織の活動範囲は従来の自治会・町内会よりも広域で、昭和の大合併前の市町村や小中学校区の規模が想定される。この広域性という特徴は、農協の営業エリアとの重なりという点で注目できる。全国の農協の支所(支店)・出張所数は2015年度時点で8007カ所。この数は、昭和の大合併前の市町村数(9868市町村)に近い。地域運営組織の活動エリアと農協の支所(支店)の活動エリアは大いに重なる。

 以上の三つの接点は、JAが課題とする支店活動の活発化を地域運営組織とつながることによって実現していく大きな可能性を示唆している。先に紹介した、合併せず小さい農協で生きてきたJA滋賀蒲生町の取り組みは、合併農協に求められる支店活動のモデルともいえよう。

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三つの事例にみる連携の「効果」

 JA滋賀蒲生町は、地域運営組織とタッグを組むことでJAの使命である地域協同運動を進め、それが同時にJAの経営を守る力にもなっている。そんな取り組みが合併農協の支店でさまざまに始まっている。

 寺林さんは先の論文で、農協と地域運営組織との連携事例を三つ報告している。いずれも興味深い取り組みで、ここではJAからみた「効果」を中心に要点を紹介したい。

 事例1 :日吉地区(岐阜県瑞浪市)

 日吉町まちづくり推進協議会は2015年に、幼稚園児を対象としたふれあい農園「にじいろファーム」の運営を開始、この運営にJAとうと日吉支店が協力している。JAは、ふれあい農園で使われるサツマイモの苗や資材の無償提供を行なうほか、職員が植え付け作業や収穫祭に参加。農園の日常管理は、同協議会「ふれあい部会」のメンバーや日吉幼稚園、JAの職員が協力して行なう。植え付け作業や収穫祭には幼稚園児だけではなく、その父母や祖父母も参加し、その年の秋の収穫祭は200人以上の人出となり盛況だった。

「JAは、園児への食農教育だけではなく、これまで接する機会のなかった父母世代との交流機会となっている点にも大きな意義を見いだしている。地域農業の取り組みを通じてさまざまな世代の地区住民と接点を築く機会として、すでに日吉支店にとって欠かせない活動となっている」という。

 事例2 :赤田地区(秋田県由利本荘市)

 地区内唯一の商店が店主の高齢化による廃業を予定していて、今後、高齢者が自力で買い物をすることが難しくなる。そんな危惧が高まり、赤田地域運営協議会は2015年に秋田県「お互いさまスーパー創設事業」に手を挙げ、食料品等の販売店舗を設立し運営に取り組むことになった。しかし、同協議会に商品の仕入れや店舗運営に関するノウハウがない。そこで協力を求めたのが(株)ジェイエイ秋田しんせいサービスだった。同社はJA秋田しんせいのグループ会社で、Aコープや給油センター、自動車センターの運営などを行なっている。

 JAグループの一員として地域密着を掲げる同社は、協議会からの協力要請を快諾し仕入れや店舗運営に関する「支援協定」を締結。こうして「赤田ふれあいスーパー」が「赤田ふれあい直売所」と併設するかたちで開店した。

 同スーパーの仕入れ先は「支援協定」によって、近くにあるAコープおおうち店に一本化されているため、発注や支払いにかかる事務負担は大幅に簡略化されている。

 スーパーは、高齢者の買い物支援に大きな役割を果たしているが、効果はそれだけではない。

「スーパーが開店して以降、併設の直売所の売り上げが1.5~2倍に増加し、地区内農家の支援につながっている。また、隣接する集会施設には買い物前後に高齢者が集い、交流場所としての機能が高まっている」とのこと。

 事例3 :鹿島台地区(宮城県大崎市)

 鹿島台地区の地域運営組織の部会「活力ある産業委員会」は、地区内の商工業者や農家、大崎商工会鹿島台支部やJAみどりの鹿島台支店といった関連団体の代表者などで構成され、活動の一環として特産品の開発を行なっている。そのひとつが「わたしは鹿島台生まれのデリシャストマト」という発泡酒の開発。農家がつくる「デリシャストマト」の知名度をさらに高めることを目的に、市内の醸造所と連携して発泡酒の開発を進め商品化を実現した。

 JAみどりの鹿島台支店は、同委員会に参画するメンバーとして商品開発に継続的に関わってきたほか、トマト生産者とのつなぎ役にもなってきた。また、商品化が実現した後は、Aコープや各種イベントで商品を販売するなど、取り組みを後押ししてきた。

 同委員会のもうひとつの活動が、毎年10月の「まるごと産業まつり」の開催。地区の商工業者や農家などが出店し、市民文化祭と同日に開催されることもあって、毎回にぎわいをみせる。鹿島台支店も企画に加わるほか、当日も青年部や女性部などの組合員組織とともに出店している。

 こうした地区との連携は同協議会の外でも進んでおり、「鹿島台互市」や「わらじまつり」などの実行委員会にも鹿島台支店が参画し、組合員組織とともに農産物販売などの出店や必要資材の準備などを担っている。また、2016年に始まった「デリシャストマトまつり」は、大崎市鹿島台総合支所が企画したものだが、その実施にあたっては、JAの鹿島台支店と鹿島台営農センターが実行委員として中心的な役割を果たした。

「この結果、農協が身近な存在であることが地区内の商工業者や若い世代にも浸透し、結果的に農協事業の利用拡大にも寄与していると実感しているという。同支店にとって、鹿島台まちづくり協議会との連携は、地区内の多様な住民・団体との関係づくりの契機として欠かせないものとなっている」と寺林さんは述べている。

「3事例では、農協職員が地域運営組織のメンバーであったり、地域運営組織から農協へ協力要請があったりしたことで、農協は果たすべき役割を知り得た。しかし、多くの場合は、両者が地域課題を共有する機会に乏しく、それが両者の連携が進まない原因のひとつにもなっているように思われる」と寺林さん、連携のためには両者の「協議」が重要だと強調する。

 そもそも地域運営組織の設立は、JAが経営合理化のために店舗やガソリンスタンドを閉鎖するなど、地域からの撤退を強めたことが、市町村合併と並ぶ大きな背景になっている場合が多い。だから、地域とのつながりの再構築は簡単ではない。意欲と工夫が求められる。それこそが協同組合たるJAがJAであり続けるための「創造的自己改革」の大きな柱なのだと思う。

(農文協論説委員会)

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