主張

「地域のつながり強化」でむらを伝え継ぐ

 目次
◆集落機能も集落の寄り合いも衰えてはいない
◆いろんな人びとが、むらの新たな力に
◆地域住民、子供や学校まで巻き込んで

集落機能も集落の寄り合いも衰えてはいない

 新しい年を迎えた。「明るい農村」の話をしてみたい。

 農林水産省が5年ごとに公表している「2015年農林業センサス」の「農山村地域調査結果」に興味深いデータがのっている。農業の主力を担っていた昭和ひとケタ世代のリタイアが進んで、5年前より農家数が大幅に減ったという「暗い」センサスだが、その「地域調査結果」は様相が違う。農家が減ると集落の維持も難しくなると考えるのが普通だが、同結果はその逆で「集落としての機能(コミュニティ)を持っている農業集落数」は13万4000集落。5年前に比べて669集落(0.5%)増加し、その割合も全体の97.2%で1.2%増えた。ここでいう集落機能とは、農地や山林等の地域資源の維持・管理機能、収穫期の共同作業等農業生産面での相互補完機能、冠婚葬祭等の地域住民同士が相互に扶助しあいながら生活の維持・向上を図る機能などをいう。

 集落での寄り合いも増える傾向にあり、その「議題」を多い順(複数回答)にあげると、①農業集落行事(祭り、イベント等)の計画・推進、②環境美化・自然環境の保全、③農道・農業用用排水路・ため池の管理、④集落共有財産・共用施設の管理、⑤農業集落内の福祉・厚生、⑥農業生産にかかる事項で、いずれの議題も5年前より増加。6割を超える集落が以上の「議題」で寄り合いをもち、①、②では9割となっている。

 全国的なデータだけでは簡単に判断できないし、祭りにしても、復活してむらを元気にしようと話し合っている集落もあれば、続けるむずかしさが話題になっている集落もあるだろう。

 むらの寄り合いの増加傾向は、むらのきびしさの反映ともいえるが、ここにはきびしさに耐えている姿とは逆に、むらの「困りごと」を自分たちで解決しようとする意欲や強さがあるのだと思う。今回のセンサスで初めて調査項目になった「集落での再生可能エネルギーへの取組」も4.3%。数は少ないが、それでも6000近い集落で山の木や水の流れを燃料や発電に活かせないかなど、新たな挑戦が寄り合いの議題になっている。

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いろんな人びとが、むらの新たな力に

 農家減・高齢化のなかでも「集落機能」が衰えていないのは、新しい力が加わっているからだ。その大きな力のひとつが団塊世代の定年組である。

 年間の新規就農者はこの間、6万人程度を維持し続け5年間で約30万人、このうち家の農業を継いだ「新規自営農業就業者」は毎年4万5000人から5万人。定年になった人々が勤め人から村びととしての生き方を歩みはじめ、直売農業に取り組んだり、集落営農の担い手になったり、むらの役を引き受けたりして、むらに元気をもたらしている。

 集落営農を含め法人経営で働く「新規雇用就農」も、若い世代を中心に、このところ毎年1万人を超えている。先月1月号の「主張」で紹介した新刊『むらと家を守った江戸時代の人々』は人口減・後継者難に対し、養子縁組という「第三者継承」でむらを守った。法人経営などで農業を始めた新規就農の若い世代は、むらを担う「第三者継承」の候補者とみることができよう。「地域おこし協力隊」も4000人になり(総務省)、「田園回帰」に向かう若者も増えている。

 一方、今回のセンサスで初調査となった「女性が経営方針の決定に関わっている農家(販売農家)の割合」は47.1%と、半分近くになった。

 定年退職組、若手新規就農者、田園回帰する若者、それに女性の力も加わり、集落営農という協同も広がるなかで、むらは元気に生きている。

 ここで考えてみたいのが、この間に大幅に増えた「土地持ち非農家」についてである。この5年間は増え方が減ったが、その数141万4000戸。「販売農家数」より多い。

「土地持ち非農家」は、農林統計上では、農家(経営耕地面積10a以上、または農産物販売金額年間15万円以上の世帯)以外で、耕地及び耕作放棄地を5a以上所有している世帯。高齢化などで農地を集落営農や担い手法人などに預けると、たちまち「土地持ち非農家」になってしまう。

 この「土地持ち非農家」、政府やマスコミはもちろん、一般的にも「土地にしがみつき、農業の発展を妨げる悪者」のようにみられがちだが、そうだろうか。

 岩手県盛岡市にある日本最大の農事組合法人となん代表・熊谷健一さんは、「9割の人(農地の出し手)が1割の人(受け手)を応援するしくみをつくらないと集落がつぶれる」、「9割の人を生産から遠ざけたらダメなのさ。『土地持ち非農家』にしたらダメなのさ」と言っていた(『季刊地域』18号・2014年夏号)。

 出し手の人たちは、単なる「土地」ではなく、家とむらともにある「農地」を持ち、農家の心を持った人々であり、これを役人はともかく村びとまでが「土地持ち非農家」などと呼んではいけないし、してはいけないということなのだろう。

 その時、熊谷さんが大いに期待をしたのが「農地・水保全管理支払」を拡充して始まった「多面的機能支払」。これを活用して草刈りや水管理・水路管理などを出し手農家にやってもらい、日当も払い、「9割の人」を生産から遠ざけないようにしていくことだ。

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地域住民、子供や学校まで巻き込んで

「農地・水」が始まって10年、保全隊などの活動組織では、活動のマンネリ化や後継者不足に悩んでいるという声も聞かれるが、多面的機能支払を活用しながら地域のつながりを強める活動を進めている組織も多い。農文協では、そんな事例を収録したDVDを「多面的機能支払支援シリーズ」の続編・第5巻として発行した。巻タイトルはずばり「地域のつながり強化編」。タイプが異なる「集落単位の活動組織」5事例に「広域活動組織」の事例、さらに広報活動の工夫までを収録した。

 これらの事例をみていくと、「土地持ち非農家」だけでなく、地域住民、子供や学校まで巻き込んだ楽しい取り組みが進んでいて、これまでの「集落」や「むら」のイメージが変わるほどだ。ぜひ映像を見て実感していただきたいが、ここではその特徴を紹介しよう。

 

①参加者を増やすグループづくり
―若手・女性・定年退職者の力を引き出す

【三区町環境保全隊(栃木県那須塩原市)】

 平成19年に設立。活動面積160ha、構成員350戸。農家より非農家、とくに新規住民が大多数を占める活動組織だ。

 事務局長を務める鈴木良雄さんも、元は県外から来たサラリーマン。

「昭和49年に三区町に移住したんですけど、その頃から2、3年はまだ青年団とか婦人部だとかがあって、鎮守のお祭りもあったんです。それがだんだん、新規住民が増えることによってなくなり、人と人とのつながりが希薄になっていく…」

 鈴木さんは、農家の二男坊の生まれ。「田植えイネ刈りをみんなでやる。あの雰囲気は農村にしかなくて」と鈴木さん。こじはん(田んぼで食べるおやつ)やゆいという言葉を思い出しながら、「農地・水」で地区の住民みんなが助け合う活動を進めたいと考えた。

 この三区町環境保全隊の活動の最大の特徴は、組織の中に小さなグループをいろいろつくっていること。世代別やテーマ別に参加者を募り、グループごとに年に数回活動する。この小グループ制のおかげで活動の参加者数は、10年間で2倍に増えている。現在のグループは九つ。たとえば……

 

 共同草刈り隊……「草刈りがキツくなってきた」という多くの農家の声に応えて、地域内の四つの地区で結成。メンバーはそれぞれ3~7人。「土地持ち非農家」も「たまにはみんなの顔が見たいから」とメンバーになった。

 ゴミゼロパトロール隊……混住化が進み、農地周辺へのゴミの不法投棄が大問題になるなかで定年退職した非農家6人が奮起。月1回、農地周辺などのゴミ拾いをする。5年の活動でゴミは着実に減ってきた。

 三区ど~すっ会……30~50代の「消防団の卒業生たち」が中心メンバー。「三区の農業・農村環境を誰が担い、守っていくのか」を話し合うため、15人で結成。「ふるさとのよさを子供たちに伝えたい」と体験農園の企画・運営も担っている。もちろん飲み会もしょっちゅう。

 三区女性の集い……花の植栽など、おもに景観づくりを担当。「農家も農家じゃない人も一緒に花植えしながらおしゃべりをして、人と人のつながりができれば、それが現代風の結かなって思ってます」と鈴木さんはいう。

 

②女性が役員に―福祉・教育とつながる共同活動

申内ざるうち環境保全会(栃木県宇都宮市)】

 後継者不足等の理由で活動休止。年数回の草刈りなど、最低限の共同作業は継続していたが、顔を合わせる機会はめっきり減り、このままではさびしい。せっかく根付き始めた共同活動を、もっと続けてはどうか……。そんな声をあげたのは集落の女性たちだった。保全会の構成団体には、自治会、婦人会、子供会、小学校のほか、地元の障害者福祉施設も参加。サツマイモの収穫祭や小学校の授業への協力、障害者福祉施設と連携した植栽活動(農福連携)などで地域がつながってきた。

 

③家族全員で活動参加――山あいの集落をにぎやかに

【多面的機能山足活動組織(岐阜県恵那市)】

 標高400mの山あいの40戸弱の集落。自治会や子供会が構成団体となり、集落ほぼ全戸の36戸が参加。運営方針は1戸1人参加ではなく、家族全員参加。参加者の名簿には3世代記入する家族が多数ある。

 撮影させていただいた日には、役員が神社の祭典を行なったほか、自治会による草刈り、花壇の手入れのほか、焼きそば大会なども行なわれた。行事ごとにその都度集まるのはなかなか難しいが、同じ日に設定すれば、みんなが集まりやすい。この日は大人から子供まで80人が参加。こうしたつながりの強さもあってか、山足集落では3世代同居が多いという。

 

④みんなが“地域の担い手”
――小さなむらの水路・ため池・田んぼを守る

【藤田農地・水保全組合(大分県豊後大野市)】

 4ha、13戸の超ミニ組織。稲作農家は1戸で、あとは地権者と非農家だが、泥上げや補修等の共同活動を通じ13戸の連帯が深まった(323ページも参照)。集落外の担い手に田んぼを預けた地権者は、こう話す。

「つくってもらえるだけありがたい。土地を荒さないっていうのが一番ですかね。土地を持っておる以上。私も帰ってきたらつくる予定だったんですけど、機械をなくしてしまって、新たに購入しては、ちょっとつくれない」

「逆転した。昔は貸してやる、今は逆ですね。いまほんとつくってもらってありがたく思っとります」

 

⑤子どもと一緒に外来種駆除
――ジャンボタニシ捕獲に住民が集まる

【入方ふれあい結(岐阜県安八町)】

 新規住民が多数の地域で、子供会に呼びかけジャンボタニシを捕獲。環境保全と防除の一石二鳥で、1集落1農場型の集落営農法人の支援にもなっている。

 

定年退職者を活かし 小・中学生を育てる

【多気町勢和地域資源保全・活用協議会(三重県多気町)】

 市町村合併前の旧勢和村10集落で構成される広域活動組織で面積は370ha。広域化のメリットについて、事務局長の高橋幸照さんはこう話す。

「一つの集落では考えられないんですけど、10集落ともなりますと、いろんな人材がいるっていうことですね。

 たとえば土木の経験者、重機を運転できる人、大工さん、なかには左官屋さんとか、石積みをできる経験のある人とかですね。多種多様な職業の方がおって、その人たちがちょうど定年を迎えられて、いまから10年20年くらいまだまだ頑張れるという人たちがたくさんおるわけですね」

 こうして、水路や農道の補修などの経験や能力のある定年退職者を発掘し「サポート隊」を結成して集落を支援する。一方、遊休農地を活用した農業体験など、小・中学校と連携し、次世代を育てるプロジェクトも立ち上げあげた。

「勢和地域はひとつの小学校、中学校、保育園。学校区のコミュニティは資源保全のうえでも大事なものと位置づけ、地域が真剣になって子供たちへの教育を推進している」と高橋さん。

 協議会副代表の林千智さんは、地域に根ざした図書館の司書。

「子供たちと本をつなぐのが仕事なんですけど、その前に子供たちの体がすごく疲れているんじゃないか、忙しくて、なんか五感そのものが育ってないんじゃないか、と。それがないと本を読んでも楽しめないし、お話聞いても楽しめないし」「地域の縁側になれたらいいなって考えてやっています」

 全集落で取り組むあじさいによる景観づくりも、協議会の大きな活動。女性ボランティアグループが苗から栽培を担い、年に3回ほどの草刈りやせん定は住民総出だ。日当は地域通貨で支払い、地域内で経済が循環するしくみにしている。地元の企業も活動に参加するなど、あじさいはオール勢和のつながりをつくっている。

 そして、その一大イベントがあじさい祭り。運営には、幅広い年代がボランティアで参加し、中学生も募金やゴミ拾いなど、さまざまな活動に多数参加する。

 このあじさい祭りの一番人気が、地元、立梅用水のボートくだり。長~い行列ができる。立梅用水は200年前に作られた農業用水で全長28km。うちボート下りは250mのコースで、水に親しみ、水路の大切さを感じてもらおうという企画だ。ここでも中学生が活躍しており、乗船の世話からボートに乗り込んでの案内もする。

「ご乗船ありがとうございます。勢和の人たちは、この水を田んぼに使っています」と中学1年生の佐野君。

 途中、岩のトンネルを通る。

「ごつごつしているのが先人が掘ったノミの跡です。岩一升、米一升といわれ、岩を一升分掘ると、貴重な米が一升マス分もらえた、という意味があります」

 多面的の活動を通してふるさとを次代に引き継いでいく、勢和の皆さんの思いだ。

 来年には「平成」の時代が終わる。江戸期に成立した集落は明治、大正、昭和、平成と失なわれることなく続き、農とともに次代に引き継がれていく。

(農文協論説委員会)

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