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農文協トップ主張 2014年6月号

集落営農の先輩に学んで 希望と知恵を「集積」したプラン・ビジョンを
どうみる、どうする「農地中間管理機構」

 目次
◆「農地中間管理機構」をめぐるせめぎあい、巻き返し
◆「農地の地域管理」「農地の自主管理」を貫く
◆元気がでる話し合い、ビジョンづくりのヒント
◆水田フル活用と新たな産地、仕事づくりにむけて
◆地元出身者が続々、新しい動きに注目したビジョンを

 昨年12月、「農地中間管理事業の推進に関する法律」が成立。約1000億円に及ぶ関連予算がつけられ、すでに各県で、農地中間管理機構が発足している。

 農村現場で議論が起こるのはこれからのようだが、大きな金が動くこともあり、今後の農業・農村を左右する政策であることは確かだ。これから活発化するむらでの議論にむけてなにが大切か、考えてみよう。

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「農地中間管理機構」をめぐるせめぎあい、巻き返し

 事業のポイントを改めて整理すると以下のとおりである。

(1)各都道府県に第三セクターとして農地中間管理機構(以下「機構)とする)を設立。農地保有合理化事業法人などこれまでの出し手と借り手が相対しながら調整するやり方ではなく、県ごとに一本化した中間機関を作り、公募にもとづいて農地集積を進める。

(2)農地集積に向け、国は以下の三つの補助金を支給する。

 農地を貸し付ける地域に対する「地域集積協力金」

 経営転換・リタイアする農家への「経営転換協力金」

 農地の集積に協力する農家への「耕作者集積協力金」

 これらの補助金は機構を通して支払われる。

(3)機構は、農地(農業用施設用地を含む)の借り受け、貸し付け(転貸借)による農地利用の再配分を行ない、規模拡大、農地集団化、新規参入の促進を行なう。売買や農地信託も可能。借り受けて機構が保有している期間の農地管理(作業委託による農業経営も可)や、借り受け農地の土地改良その他利用条件の改善も必要に応じて行ない、その費用を負担する。

(4)機構が農地を借り受けるにあたっては、区域を定めて重点的に行ない、利用困難地は借り受けない。2〜3年たっても借り手がつかない農地は契約解除(返還)する。

(5)機構による貸し出しにあたっては、定期的に、区域ごとに借り入れ希望者を募集し、選定ルールを定めて公表し、適切な相手方を選定する。2009年の農地法改正で誰でも利用権の設定を受けられるようになったが、 今回の法律では、これまでの「役員の4分の1超が農作業に60日以上従事」という要件が大幅に緩和され、法人の場合には役員の「1人以上」が「耕作又は養畜の事業に常時従事すること」とされた。

(6)機構は農地利用配分計画を定め、知事の認可を受け、その公告によって利用権設定する。こうして農地法上の許可は不要になる。

(6)機構は市町村に業務委託でき、また市町村に農地利用配分計画の原案作成を要請でき、市町村は農業委員会の意見を聴くことができる。

 概要は以上のとおりだが、当初の農水省原案に対して最終段階で規制改革会議・産業競争力会議の両会議から公募方式の採用、「人・農地プラン」と農業委員会外しをポイントとする強烈な干渉があった。農地を地域管理から国・県管理にし、その下で公募により全国規模での農外企業等の参入を容易にすることを主眼とするものだ。

 これに対して国会では超党派的な反発が起こり、法の修正と15項目にも及ぶ付帯決議がなされた。修正では「地域との調和に配慮した農業の発展を図る観点」から、市町村は地域における中心的な農業者や農地中間管理事業の利用等について定期的に農業者・関係者が協議する場を設置し、協議結果を公表するとしており、事実上、地域が機構の「独走」を牽制できる色彩を強くした。

 付帯決議も、「人・農地プラン」の尊重や国の財政支援と地方負担の軽減、農業委員会からの意見聴取などを強調し、最後に「アドバイザリー・グループである産業競争力会議・規制改革会議等の意見については参考とするにとどめ、現場の実態を踏まえ現場で十分機能するものとなること」とクギを刺した。これら修正、付帯決議にはJA全中による相当なロビー活動も寄与しているようだ。

 このような「巻き返し」があって農地中間管理機構はスタートした。だが問題も残された。 そのひとつは、借り手の要件緩和による農外企業の参入である。財界のねらいもその一点に集約される。同時になされた経営基盤強化促進法の改正で、農家台帳及び地図の作成・公表が農業委員会に義務づけられた。言い換えれば全国どこからでも地域の農地情報を取得できる、いわば農地市場の全国化だ。

 その結果、以下のようなことも起こりうる。

「例えば東京に本社をおく企業が、農作業従事一人だけの子会社等を農業生産法人として立ちあげ、ネットで全国の農地マップを閲覧して、めぼしい遠隔地農村の貸出農地の借受人として応募し(事前に手を挙げる必要はあるが)、地元の中心的経営に競り勝って利用権を取得し、あるいは農地所有権を取得する、という事態も可能になる」(田代洋一「ポストTPP農政の展開構図」農文協ブックレット『ポストTPP農政』所収)。

 さらに、機構は耕作放棄地等を借りて費用負担しつつ土地改良することも業務としているが、他方では条件の悪い土地は借りず、借り手がなければ解約するとしている。その結果、「最悪の場合は、企業に優良農地を確保するだけで、喫緊の課題としての耕作放棄地対策は市町村、農業委員会、農地利用集積円滑化団体としての農協等に押し付ける、いいとこ取り政策になりかねない」(同上)

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「農地の地域管理」「農地の自主管理」を貫く

 機構をめぐるJA、農業サイドからの巻き返しの基礎には「農地の地域管理」「農地の自主管理」という考え方がある。

 1970年代後半から80年代前半にかけて進められた地域農政下の農用地利用増進法では、「農地の自主管理」の発想が取り入れられた。農地の外部からの侵食を防ぎ農業と耕作者を守るという戦後の農地法の精神を受け継ぎ、とりわけむらの共同によって維持されている水田を中心とする農地は、地域で管理、調整することを基本におくということである。しかしこの地域農政は、1985年プラザ合意をきっかけとする急速な円高以降、本格的な国際化対応を求められるなかで急速に後退していく。

 国際化農政により地域農政が否定されたように、産業競争力会議や規制改革会議では、「人・農地プラン」の仕組みや農業委員会の役割は否定的に扱われ、それに代わるものとして提案されたのが、農地集積バンクが集めた農地の受け手の公募方式である。

 そこには、地域内での話し合いを重視する路線(地域農政路線)では農地の流動化は無理で、これを転換しようという強い意図が働いている。今後も規制改革会議等からの巻き返しの可能性もあり、予断は許されない(今年6月までに「農林水産業・地域の活力創造プラン」や農業委員会の機能・構成の見直し案をまとめるとしている)。

 改めて国会付帯決議をみてみよう。

「農地中間管理機構が十分に機能し、農地の集積・集約化の成果をあげていくためには、地域における農業者の徹底した話合いを積み重ねていくことが必要不可欠である。このため、人・農地プランの作成及びその定期的見直しについては、従来以上に強力に推進すること。また、人・農地プランと関連する各種予算措置についても、適切に確保するとともに、同プランのより円滑な実施を図るための必要な法制上の措置の在り方について遅滞なく検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすること」。

 今、集落・地域は、この国会付帯決議を自分たちの手で内実あるものに創り上げていくことが求められている。集落を基礎とする「農地の自主管理」という精神を貫き、「人・農地プラン」のビジョンづくりを進める。担い手はだれか、農地をどう集積するか、という話だけに絞り込むのではなく、家族農業とむらを守りむらの未来を描く、そのための共同活動としてのビジョンづくりである。

 こうしたビジョンづくりと実践は広がり、進化している。今こそ、「集落営農」の先駆的な取り組みに学びたい。そこで農文協ではこの五月、『集落営農の事例に学ぶ 集落・地域ビジョンづくり』を発行することにした。集落ビジョンの話し合い・つくり方(PART1)から、飼料米をふくむ田んぼフル活用(PART2)、野菜・果樹・畜産による新たな産地と仕事づくり(PART3)、上手な機械利用(PART4)、担い手づくり・農福連携(PART5)まで、本誌で紹介してきた事例を中心にまとめた冊子である。集落での話し合いの素材として、学習テキストとして、先輩たちの実践はきっと励みとヒントを与えてくれるにちがいない。

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元気がでる話し合い、ビジョンづくりのヒント

 本書のPART1「みんなで描く地域の将来ビジョン」では、参加者の全員が喋れる雰囲気をつくり、話し合いのルールを決めてチーム分けし、アイデアを付箋に書いて発表し、「ホラで終わらせない」ために優先順位をつけビジョンとしてまとめる、というビジョンづくりの方法(今井裕作・島根県農業技術センター)や、「目ざす集落営農のかたちが見えてきた 紙に書いて意見を出し合う方式はおもしろい」という広島県世羅町・(農)聖の郷かわしりのビジョンづくりの実践を紹介したうえで、「『集落内自給構想』を立ち上げた集落営農」滋賀県米原市・農事組合法人近江飯ファームの取り組みを掲載している。

 琵琶湖のほとり、田んぼ地帯の中にある飯集落は全110軒の小さなむら。ほとんどが兼業農家で土日に田んぼをやる人もめっきり減ってきた。このままでは集落の農業が崩壊するという危機感から、2005年に集落営農組合が生まれ、2010年に法人化して農事組合法人・近江飯ファーム(以下、ファーム)が誕生。めざすは「村の財産(田畑)を守り継承する農業」のための「集落内自給」だ。集落営農でつくった米を、「田んぼ(財産)を守る代わりに買ってくれ」と頼み、5年後にはファームの米全体の販売金額1760万円のうち集落内の販売金額が860万円までになった。「集落で少しでも高く買ってくれるのは本当にありがたい。うちの集落営農は、集落の人に支えられて成り立っている」とファーム代表の川崎源一さんは言う。

 いっぽう、「歳だから」と田んぼをファームに預けた人は、「最初は田んぼを預けたから米も買わなきゃと思っていたけど、今は違う。混じりっ気のない地元のうまい米が、スーパーで買うのと変わらないくらいの値段で買える。減農薬・減化学肥料のこだわり米で、除草剤は1回だけ。草はファームの女性らが、よう気張って草取りしてる。それを見てるから、こんな手間かけてつくった米を、この値段で買えて、それに配達もしてくれる。年寄りには本当にありがたい」と喜んでいる。

「注文数がどんどん増えよるのは、自分の家の分だけじゃなくて、親戚や友人にも分けてあげたいっていう人が増えてきたからやと思うよ」と川崎さん。

 さらに、ファームではイネの育苗ハウスを有効利用して育てるメロン、トマト、イチゴも集落内で販売。米の販売金額と合わせると、じつに1000万円超。このお金が、この小さな集落で回り始めた。

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水田フル活用と新たな産地、仕事づくりにむけて

 PART2「田んぼもイネもフル活用」では、集落営農で牛を取り戻した取り組みのほか、「牛糞堆肥を活かした飼料米の多収栽培」に取り組む福島県・五十嵐清七さん、「山里の和牛産地、飼料イネをみんなでつくる」茨城県大子町、「イナワラ販売に本気、米より儲かる耕畜連携」を進める岐阜県・ギフ営農など、話題の飼料米・飼料イネを農家の所得確保と地域づくりに活かすためのヒントに富む実践を紹介している。

 そしてPART3「新たな産地と仕事づくり」では、野菜、果樹、畜産について八事例を取り上げた。いずれも、集落営農による農地集積を、農家減らしとは逆に仕事づくりにいかしている元気な事例だ。

 そのひとつ、長野県飯島町・(株)田切農産では「管理委託+プレミアム方式で技術力を切磋琢磨」し、「黒字とやる気を生み出すしくみ」を生み出している。

 田切農産は、いわゆる二階建て方式の集落営農だ。田切地区営農組合は今も一階部分として存在し、全戸参加型の任意組合として、農地の利用調整や作業受託のとりまとめなどを行なう。いわば地域の営農にかかわる頭脳部分。そして二階部分の(株)田切農産が、その手足部分となって、主に農作物の栽培から販売までを行なっている。経営内容は、イネ55ha、ダイズ20ha、ソバ10ha、白ネギ4ha、トウガラシなどの野菜1ha。そのほか、集落内に作った直売所「キッチンガーデンたぎり」の運営や加工品づくりなども手掛けている。

 田切農産で白ネギを導入したのは2005年。最初につくった30aは、従業員3人と臨時雇用の4人で懸命にやったおかげで、秋の収穫時には立派なネギができた。収量も悪くない。ところが一年の収支決算をしてみてビックリ。人件費が、半分を占めるまでに膨れ上がっていた。そこで、圃場ごとに管理者を設置して、作業を管理者に任せる「管理委託方式」を採用。労賃は、その都度の時給ではなく、一作終了後、収入から経費を差し引いた分を支払う。管理者になった人もこれなら納得してくれそうだし、赤字になる心配もない。ただし、人手のかかる作業(育苗、定植、収穫調製作業など)はみんなで行なう。さらにその後、圃場ごとの実績に応じて配分金を支払う「プレミアム方式」を採用。その結果、ネギの収益は管理者にまるまる配分金として支払うことになる。それでは法人に利益が残らない。しかし田切農産では「それでいい」と考えている。より多くのお金を地域に還元できるからだ。

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地元出身者が続々、新しい動きに注目したビジョンを

 PART4「上手な機械利用」では修理・メンテを自前で行なう事例や、機械の「更新積立方式」などの工夫を紹介。そしてPART5「担い手づくり・農福連携」では、福祉タクシー、むらの会館葬、地域通貨の取り組みとともに、「集落営農のおかげで地元出身者が続々と帰ってくる」島根県邑南町・(農)ファーム布施の実践を紹介。

 ファームのある布施二集落は高齢化率が50%を超える典型的な中山間地域だが、最近は、どうも様子が違う。

「贅沢な悩みなんですけどね。田植えやイネ刈りに人が集まりすぎて、何をやってもらったらいいのか、困ることもあるくらい(笑)」と松崎寿昌さん

 なにせ、多いときには一日に総勢40人以上が作業に出ることもある。普段は静かな20戸余りの高齢化したこの集落に、農繁期になると人が溢れ、祭りのようにワイワイにぎやかに作業が進むのだ。作業に参加する集落住民は多くて20人くらい。残りの半分以上は、進学や就職を機に都会に出ていった集落出身者やその家族、友人知人たちである。作業が終わったあとは慰労と交流を兼ねた飲み会付き。それが楽しみで帰省する人も増えてきた。

「村を出た人はみんな気にしている」と松崎さん。生まれ育った故郷のことは気になるが、きっかけがなければなかなか帰れない。でもそんなときに、声をかけられると、「じゃ行ってみるか」となるらしい。

 この間、都会などに出ていた集落出身者が3戸、Uターンしてきた。いずれも高齢の親を集落に残している家だ。

「(集落営農を)立ち上げたときは、集落にいる人間だけで、どうやってやろうかばかりしか考えていなかった。でも今は、どんどん人が帰ってくるようになって、正直、後継者不足という心配もなくなってきた。30代の若者がオペレーターとして作業に参加してくれるし、私の息子(20代)も参加するようになりましたしね。ずっと続いていきそうな気がしてます」

 いま、むらを守り未来を築くためのいろんな可能性が生まれている。農地集積の前に、むらの夢や希望、知恵や工夫を「集積」する。これを土台に「農地の自主管理」を貫き、そのうえで機構も活かす。未来に、子孫に禍根を残さない活発な話し合いを進めたい。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

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この記事の掲載号
現代農業 2014年6月号

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