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農文協トップ主張 2006年10月号

穴を掘って、耕し方を見直そう
3つの耕しすぎと、畑を耕す3つの力

目次
◆今、問題は耕しすぎ 3つの問題
◆不耕起・半不耕起を耕し方の基点にすえる
◆根の力を活かす耕し方
◆土ごと発酵がつくる土の安定性
◆仲間でワイワイ、穴掘り調査を

 農家は田畑を耕すのが大好きである。耕したあとのきれいな田畑をみるのは気持ちがいい。おれの土地だ、という実感もわく。

 今年5月号の「耕耘、代かき名人になる」は、大好評だった。新規就農者の耕作君と、名人・サトちゃんに田んぼを耕してもらい、その様子を誌面で実況中継。深く丁寧に耕す耕作君、だが見た目は平らでもトラクタが走ったあとの耕盤は凸凹だ。これを見ていたサトちゃん、「がんばってたねー耕作くん。でもこりゃダメだ。田植えしたらぐにゃぐにゃ曲がるし欠株は出るし、植え付け深さはバラバラで1俵損すること間違いなし」となかなか手厳しい。名人のほうは耕盤が真っ平、「浅く粗く」でスピードも速く、燃料代も半分ですんだ。

 そんな違いが浮き彫りになって、「オレも名人に」というベテランから、親父の田んぼを引き継いだ若手、新規就農者まで、自分の耕し方をふりかえる記事として大変喜ばれ、書店での実売部数も、『現代農業』史上最高を記録した。

 田畑をどう耕すかは、あとあとまで響く農家の一大事、今月号では、畑を中心に、耕し方を考えてみよう。

今、問題は耕しすぎ 3つの問題

 田んぼでは耕盤の凸凹が問題になったが、畑では機械の重みやロータリの爪の圧力で、作土の下に硬い耕盤ができることが問題になっている。この畑の耕盤、硬くて水も空気も通りにくく、排水性が低下し、根張りも悪くなる。田んぼは水をためるために耕盤が不可欠だが、排水性が命の畑では耕盤は困りもの。サブソイラやプラソイラなど、耕盤を破壊できる機械の人気が高いのも、そのためだ。

 それではこの耕盤、どんなふうに出来ているのだろうか。それを見てみようと、編集部ではこの夏、「耕盤探検隊」を結成し、各地の農家の畑に穴を掘らせてもらうことにした。46ページからの「耕盤探検隊が見た 耕し方で畑が硬くなる」は、その現場レポートである。

 穴掘り調査のベテラン・金子文宜さん(千葉県農業総合研究センター)に探検隊の指南役になっていただき、初めに掘ったのは千葉県八街市の小見川修一さんの畑。小見川さんの畑は黒ボク土で、長年の土つくりによって深さ35cmぐらいまでは腐植に富む黒い層になっているが、それでも、深さ16cmぐらいから下が急に硬くなっていた。同じく千葉県の砂質の野菜畑では、金子さんの手で断面がヘラやハケでほぐされ、厚さ10cmほどのプレート状(板状)の耕盤が浮き彫りにされた。

 機械で耕す今の畑では、多かれ少なかれ耕盤ができ、ロータリで何度も耕せば耕すほど、硬い耕盤が形成される。そして、金子さんは、耕盤形成の他に、あと2つの「耕しすぎ」を問題にする。

 一つは、作土そのものの耕しすぎである。耕耘は、根や小動物がつくった土の隙間を壊し、微生物の働きでできた土の団粒構造を破壊する方向に作用する。千葉県の長年の土壌調査の結果では、黒ボク土の場合、この30年間に作土の有効孔隙量が半分になっているという。作物が利用できる水は、団粒の中の有効孔隙に入っている水で、これが減ると保水力が低下し、干ばつ害がでやすくなる。「夏、畑に草が生えていると、ロータリをかけてきれいにする農家が多いのですが、それも、土の単粒化を進め有効孔隙を減らす恐れが大きい」と金子さん。

 そしてもう1つは、深く耕すことで、有機物も微生物も少なく、養分も少ない下層の土を上にあげてしまうことである。耕盤を破壊するために、深耕ロータリやプラウで下層の土を上げると作土の化学性や生物性が悪化する。

 小見川さんにもこんな苦い経験がある。20年前のこと、深耕をかねてゴボウをつくった時、トレンチャで畑が赤くなるほど、下層の赤土を表面に出してしまった。その畑ではダイコンのイオウ病にしばらく悩まされたという。そんな経験もあって、小見川さんは、「土は少しずつよくする」ことを肝に命じている。現在は、生の鶏糞などを表層で発酵させる「土ごと発酵」方式と根が深く入るイネ科の緑肥作物、それにプラソイラの組み合わせ。「緑肥の根は耕盤を突き抜ける。多少硬くても根穴があるからダイコンの根は張ります」と小見川さん。そのうえで、プラソイラをかけて根が伸びやすいようにするのだが、このとき、下の赤土の層をわずかに削る程度にする。あくまで「少しずつ」である。そんな小見川さんの話を聞いて、「少しずつ、という考え方は、大事なことだと思います」と金子さんはいう。

不耕起・半不耕起を耕し方の基点にすえる

 機械がなかったとき、耕耘は大変な重労働であった。耕耘機が登場し、トラクタに替わり、それも大型になるつれ、より早く、より深く耕せるようになった。その結果、今問題なのは、耕しすぎである。硬い耕盤ができるほどの耕しすぎは作土層の構造をも悪化させ、さらに、耕盤破壊と称して深耕し下層の土を上にあげると、作土層は一層悪くなる。

 そんな「過剰耕耘」が問題になる一方、最近、注目されているのが、不耕起・半不耕起などのできるだけ耕さないやり方である。以下は、不耕起・半不耕起で果菜や花のハウス栽培をしている三重県松阪市の青木恒男さんの話(2005年10月号)。

 青木さんもハウス栽培を始めた当初は、人から言われるままに毎作ごとに堆肥を投入し、できるだけ深起こしを心掛け、フカフカのベッドに定植できるよう努力した。しかし、年に1〜2回はハウス内まで冠水するような環境だったため、フカフカのウネが一夜にして代かきをしたような泥沼に変わり、何日か後にはレンガを敷き詰めたようにガチガチの土に返ってしまったことが何度もあった。

 「不耕起栽培を続けると、まず、ウネ内部の水分分布が安定してきて、地表面近くまで均一にしっとりと湿り気を帯びるようになります。そして、かん水を繰り返しても地表面がメドを打たなくなり(クラスト化しなくなり、水が土にしみこんでいく)、排水性がよくなってきます。団粒構造と毛細管が発達してくるということでしょうか」

 さて、不耕起にすると、耕盤はどうなるのだろうか。

 不耕起畑の耕盤の様子を知りたくて、耕盤探検隊は佐賀県唐津市のイチゴ産地に向かった。いまやイチゴ農家の9割が不耕起にしてしまった地域だ。作が終わってイチゴを抜いたばかりの不耕起3年目のベッドと、従来型の耕起ベッドの断面を掘り、水溶性の白いペンキをベッドに流して水の流れを覗いてみると、以前、耕盤だったところに亀裂ができたか前作の根穴があるのだろう、ペンキの流れている下までしっかり根が張っていた(今月号72ページ)。

 北海道でプラウ耕をやめた畑でも、根がしっかり土を耕していた。重たい機械の走る北海道の畑では、プラウ耕をやめると土はガチガチに締まってしまうと考えがちだが、掘ってみると、プラウ耕をやめた畑のほうが、プラウ耕した畑より根張りがいい。ムギの根は硬い層を突き破り70cmよりもまだ下まで張っていた。その根が土を下まで耕す。耕盤探検隊が北海道で見たものは、大型機械にも負けない「根の力」だった(66ページ)。

根の力を活かす耕し方

 先の青木さんはこう話す。

 「わが家の裏山には、今は人が通らなくなった古い道路があります。人通りが絶えてしばらくすると、まばらに弱々しい草が生えはじめ、枯れてはまた生える世代交代の繰り返しで30年ほど経た今、その場所は背丈を越す藪に覆われ、地面は畑よりもフカフカの肥沃な土になっています。本来土壌というものは、様々な生物を生産しつつ、それらの生命活動によって自ら耕され、降り積もり、痩せることなく自然に肥沃になってゆく力を持っているのではないでしょうか」

 自然が土をつくる。人が耕すことは、いわばこの自然の力を弱めることでもある。放っておけばすぐに雑草だらけになるところを、作物のためにきれいに耕す。だが、きれいに耕し続けるだけでは自然がつくった地力が消耗していく。そこで、地域の自然と作物を生かして畑を守る。雑草や周囲の有機物、山の落ち葉などを活用して土を維持する。これらを敷ワラにして表層の土が固まるのを防ぎ、作物の根や微生物を生かす。機械化以前の日本の畑は、身近な有機物を生かす巧みな表層管理技術によって成り立っていた。

 今、機械で簡単に耕すことができる時代である。だからこそ、「自然が土をつくる」という原理を畑で再現し、強めなければならない。根と微生物の耕す力を活かすことである。それを人間が手助けする。3つの力が共働して畑が耕されていく。

 不耕起・半不耕起といっても機械をまったく使わないわけではない。先の青木さんは、つくる作物によって、通路になる部分のみ管理機で砕土耕耘したり、ウネ上面だけを管理機でごく浅く耕したりなど、工夫する。根と微生物に耕してもらうことを基本に、機械をうまく生かす。それが、現代の「畑の耕し方名人」なのかもしれない。

 転作ダイズの安定増収にむけて研究を続けている、国の「大豆300A研究センター」が提案している耕し方も、基本は省耕耘、不耕起である(86ページ)。

 「耕耘することが、省耕耘や不耕起より生産性が高いという研究報告はじつはあまり見られない。プラウ耕では犁床の硬盤化が、ロータリ耕では、根隙などの生物孔隙や土壌団粒の破壊、菌根菌菌糸の切断による作物との共生抑制、土壌有機物の分解、有機態チッソの無機化によるチッソ肥沃度低下などが問題になっている。こうした耕耘の悪影響が少ないことが、省耕耘や不耕起栽培のほうが生産性が高い理由であるというのが共通の理解になりつつある」と研究リーダーの有原丈二さん。

 ただし、2:1型粘土でできている重粘土壌では、不耕起では湿害で発芽も初期生育も悪くなる。そこで、アップカット耕で表層を耕しウネを立てる。表層の通気性がよいので発芽率は大変よくなり、初期生育もいい。そして初期を順調に育ったダイズの根が水分を吸収して、土の通気性が下に向かってしだいによくなっていく。機械の力で上層の通気性をよくし、あとはダイズにまかせるというやり方だ。重粘土の土を機械の力だけで改良するのはムリが大きい。作物の根が土を耕す、それを手助けするために機械を上手に使うのである。

土ごと発酵がつくる土の安定性

 そして、本誌で追及してきた「土ごと発酵」方式は、根と微生物の耕す力を最大限発揮させる、だれでもやれる方法である。

 耕盤探検隊は土ごと発酵方式の畑も掘ってみた。10年前から、残渣や菌床カス、米ヌカを表層で発酵させてトマトをつくっている岡山県新見市の国友正明さんのハウスだ(76ページ)。

 掘ってみると、ロータリの爪を入れていない20〜30cmの所でも土は軽く軟らかい。土ごと発酵した表層の土は黒いだけでなく、断面がツブツブとしていて団粒化している。そして表層の土ごと発酵が少しずつ下層にも及んでいるのだろう。トマトの根も果敢に心土を突き破っている。

 国友さんのところは粘土質で、土ごと発酵したウネの下に硬い層、つまり耕盤があり、排水をよくするにはサブソイラをかけるしかないと考えていたのだが、「今日、この断面を見て、その必要はないかと考え直しました」と国友さん。微生物や作物の根が土を耕してくれるのを待てばいいのかもしれない、と思いはじめたのである。

 表層の団粒構造と下層の根穴やミミズ穴、こうした生物と作物の力によってつくられた「土ごと発酵」の土の構造は複雑で安定的だ。微生物相も安定的に推移するのだろう。そんな土なら、連作障害も今日のようには問題にならないのではなかろうか。国友さんの場合も、当初は全体の2割が青枯れでダメになったそうだが、今では6棟あるハウスのうちの1棟に部分的に少し出るだけですむようになった。これも土ごと発酵のおかげと国友さんは感じている。

 そのうえ土ごと発酵は、作物の茎葉や残渣、雑草、それに身近にある資源を土の表層で発酵させるやり方だから、金も手間も少なくてすむ。土ごと発酵は、かつての巧みな表層管理技術を現代に生かす、高齢化の中で農家が生みだした、小力的な土つくり法なのである。

仲間でワイワイ、穴掘り調査を

 さて、今回の耕盤探検隊が発見したのは耕盤だけでなく、穴掘り調査の大事さと楽しさであった。耕盤にしても、そのでき方は農家により、畑によりちがってくる。耕しすぎかどうかも、耕盤とつき合い方も断面が語ってくれる。穴掘りで、当の農家も大いに刺激を受けたようだ。

 ピーマンの大産地、茨城県神栖市の波崎地区では、先輩農家の穴堀り調査に若手3人が集まってきたのだが、若手が注目したのがその根張り。根が黒っぽい層を突き抜けて、80cmぐらいまで張っており、「この株、もらっていって親に見せます!」と帰っていった(48ページ)。

 先の国友さんは、穴掘りで自分の土ごと発酵方式に確信を深め、サブソイラをかけるのを見直すきっかけにもなった。その後、国友さんより、「先日は、暑い中ご苦労様でした。自分自身の目で土中の様子を見ることが出来、今後の栽培、土作りに非常に役立ちます」とお便りをいただいた。

 掘った土の断面にはその農家の歴史が刻まれている。

 冒頭で紹介した小見川さんは、穴を掘った時、黒い層が30cm以上の深さまで続いている土層を、感慨深げに見入っていた。この黒い層、昔からあったわけではない。

 小見川さんは開拓2代目。お父さんが開拓にはいった当初はあたり一面が赤土、そこに少しずつ黒い作土層をつくってきた。古くからの畑をみると赤土と作土層との間に、耕していないが黒くなっている層があり、「この層を少しずつ増やすことが大事だ」といい続けてきたお父さんの畑を受け継いで黒い作土を少しずつ厚くしてきた小見川さん、その歴史が、土の断面に刻まれている。

 その作土層の下は赤土の層だが、金子さんによると、ここは水をため込んでいる「滞水層」でもあり、これが干ばつのときの水の供給源にもなっているという。「ここだけで、ダイコンに必要な1週間分の水がありそうだ」と金子さん。そんなやりとりと、初めて見る土の断面は、息子の和之さんを大いに刺激したようだ。

「赤土は水が通らない悪い層だと思っていたが、そうではないのですね」と和之さん。自然の土とそれに加えられた祖父や親父の土づくりの歴史を土の断面にみて、農家としての誇りや、それを引き継ぐ責任を感じたようである。

 農家にとって、田畑の土は家産である。自然と農家のかかわりで生まれるその家産は、それぞれに個性的で、それが土の断面に表現される。だから、地域の仲間で穴掘り調査を行ない見比べると、いろんな発見があってワイワイと盛り上がること、うけあいである。(農文協論説委員会)

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