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農文協トップ主張 1989年11月

中華人民共和国 建国40周年を祝う
何を祝うべきか

目次

◆なぜ第三次世界大戦は起こらないか
◆中国社会主義へのわれわれの期待
◆農工格差の克服に挑戦する中国 われわれの4つの記念事業
◆すぐ「儲け」につながらない事業を社会主義で
◆真の国際協力を築くために

なぜ第三次世界大戦は起こらないか

 今年十月一日は、隣国中華人民共和国の建国四〇周年の国慶節に当たる。われわれは隣人として建国四〇周年を心から祝う。

 一九四九年(昭和二十四年)中国革命は勝利し、中華人民共和国が成立した。アヘン戦争(一八四〇〜四二年)以来の「先進資本主義国」による中国侵略に止めが刺されたのである。中華人民共和国の建国以後、中国は一度も外国の侵略を許していない。外国に従属しない独立国家中国を実現した中国革命の世界史的意味は、「人権宣言」を発したフランス革命(一七八九年)の世界史的意味にまさるとも劣らない。

 二十世紀の歴史をみれば、人権宣言をした当の国々が地球を先進国と植民地に染め分けてきた。第二次世界大戦後つぎつぎと植民地が解体され、世界的規模での戦争が防がれてきたことの大きな礎石の一つに、外国の侵略を許さない中国の存在があることは自明であろう。

 もともと、第二次世界大戦の主要な原因の一つは、中国市場をめぐっての「先進資本主義国」間の市場争奪にあった。そして、その主役がわが国であったことは、対中国との関係においてとりわけ忘れてはならないことである。

 第二次大戦後、アメリカは台湾と同盟を結び、大陸進入の「正義」を手にして中国に敵対してきた。また、一九五〇年(昭和二十五年)の朝鮮戦争では国連軍の「正義」をかざして、アメリカの司令官マッカーサーが東北(満州)への侵略を主張することができた。

 一九六〇年代には、ベトナム戦争へアメリカが介入することによって、いつでも中国への侵略の可能性があった。他方、中ソ国境紛争はソ連の中国侵略の可能性をはらんでいた。

 もし、中国人民の団結と統一がなく、国を二分する国内紛争が起こっていれば、大きな戦争が中国の地に起こっていたに違いない。世界史は極めて不幸な歴史的経過をたどっていたはずである。

 一九七一年(昭和四十六年)当時のアメリカ国務長官キッシンジャーがひそかに中国を訪れ、毛沢東、周恩来に会った。ベトナム撤退を条件に中米国交回復に道を拓いたのである。今日の本格的な東西緊張の緩和の新しい時代は、ここから出発している。そして、その大もとはアメリカのベトナム侵略戦争の敗北である。アジアの小国ベトナムが、世界の大国アメリカの軍事力に屈せず、民族の自立を守りとおしたことが、世界を大きく変えた出発点であったのである。

 それ以来、世界史は、後進諸国の真の民族自立の時代に入りつつある。一九九〇年代は民族自立の時代である。後進諸国が、一国の経済的自立を確立することによって、「先進資本主義国」に従属しつづけてきた世界史に終止符を打つべき時代に入ったのである。中華人民共和国建国四〇周年を祝う意味はそこにある。

中国社会主義へのわれわれの期待

 民族自立の基本問題は、後進諸国の一国の国民経済の自立である。その基本は、農業と工業、都市と農村の調和のとれた国民経済の形成である。ところが、「先進資本主義国」は後進国の国民経済を「先進国」に従属する従属型の経済につくりかえてきた。国際化時代の今日、「先進国」が果たすべき役割は、この国民経済の歪みを見直し、農業と工業、都市と農村が調和した発展をとげる方向での国際的援助を行なうことである。決して、利潤を唯一の目的とした、弱肉強食の国際的経済の自由化=世界自由市場の法則に人類の未来を委ねること、ではない。

 世界を自由市場の法則に委ねることは、各国の農業と工業の矛盾を激化させ、都市と農村の対立を深めるばかりである。このことは一九七〇年代から今日に到る世界各国の経済状況をみれば極めて明らかである。われわれは『現代農業六月増刊号=世界の農政は今』でそのことを明らかにした。

『世界の農政は今』によれば、先進資本主義国たると社会主義国たるとを問わず、後進諸国はいうまでもなく、全世界共通に、農業と工業の矛盾が激化しており、都市と農村の対立は深まっている。そして、富める国と貧しき国の格差はますます拡がっているのである。これらの諸問題を解決すべき時代が一九九〇年代なのである。

 地球環境の破壊が声高に叫ばれている。炭酸ガスによる気温の上昇、フロンによるオゾン層の破壊による紫外線害、熱帯雨林の崩壊、耕地の砂漠化等々、それらの発生の根源はどこにあるのか。根本は世界各国の国民経済のアンバランスな発展にある。農業と工業の矛盾、都市と農村の対立を生み出すような経済発展のさせ方にある。このことについて、われわれは『現代農業十一月増刊号=もうひとつの地球環境報告』で明らかにしている。

 世界を自由市場の法則にまかせれば、地球環境は破壊される。自然と人間が調和する方向での経済発展へむけて「人間の意志」によるコントロールを必要とする時代が現代なのである。つまり、経済発展に対する公共的規制が必要な時代なのである。

 ところが、公共の担い手である政府機関は巨大企業の私益擁護の担い手として国際的に活動している。公共の担い手は国家ではなく草の根の市民運動をやっている大衆の手にうつりつつある。それらの運動が政府をコントロールしない限り、人類の未来は世界自由市場の法則に委ねられ、破壊へとすすむ。

 地球環境問題というのは、工業と農業の矛盾を克服する問題であり、都市と農村の対立をなくする問題である。富める国と貧しい国の格差を縮める問題なのである。

 中国はアジアにおける巨大な社会主義国家である。社会主義の今日的意味はまさに、社会主義の理念によって工業と農業の矛盾、都市と農村の対立を克服する道をきり拓くことにあろう。建国四〇周年をむかえる中国社会主義に、われわれはそのことを期待する。

農工格差の克服に挑戦する中国――われわれの四つの記念事業

 天安門事件以来、難民問題を加えて、中国社会主義についてはマスコミあげて否定的側面の報道・評論に終始している。われわれは逆に中国建国四〇周年を祝う立場から、中国社会主義の肯定的側面を明らかにする四つの企画を実現した。

 一つは、農業と工業の矛盾を克服する方向での経済発展についての中国社会主義の挑戦の実例の紹介である。

 中国農政の大転換「包産到戸」(家庭を単位とする生産請負)の全面的展開の中で、従来の公社方式を一歩前進させた農工商連合公司による地域づくりの運動に注目したのである。天津市郊外の大邸庄(村)の実践報告をとりまとめた『大邸庄致富之路』(中国農業科学技術出版社刊)の日本語訳『農業と工業の矛盾を克服する』の発行である。

 社会主義タイプの生産組織である大邱庄農工商公司の地域づくりの経緯と到達点が詳細に報告されている。農業と工業の矛盾、都市と農村の対立を克服した具体事例である。人類の当面する課題に中国社会主義の先端部分は正面からとり組んでいるのである。

 二つめは、アメリカのミシガン州立大学出版部から出版された『一〇億人を養う―中国農業の挑戦』“FEEDING A BILLION―Frontiers of Chinese Agriculture”の邦訳の出版(邦訳書名『一〇億人を養う―詳説・中国の食糧生産』)である。この本は中国の三人の科学者とミシガン州立大学ウィットワー教授の共編である。ウィットワー教授はこの本の中で、「二一世紀までの世界食糧市場に対する中国農業の衝撃は、一九八〇年代における世界のビジネスに対する日本工業の衝撃に匹敵し得るだろう」と評価している。

 中国農政の転換による食糧生産の増大は驚異的であった。一九七八年の国家の食糧買付量に対して、一九八四年の買付量は何と二・三倍に飛躍したのである。年率平均一五%の増加である。買付価格の値上げもあって、一九七九年の農家に対する支払額の三倍の額を一九八四年には支払っている(三倍である。日本の農家はこんな幸せにめぐりあったことは一度もない)。

 しかも、そんな成功をおさめた中国農業はアメリカ農業に比べて、はるかに省エネルギー的性格をもっていた。刈り取った穀物は天日で乾燥され、家畜の糞尿を肥料として利用する。二十一世紀の地球のために「永続できる農業」こそが必要だという世論が高まっているアメリカに、中国農業は大いに参考になる。だからアメリカで出版が企画された。

 三つめは、中国農業科学院遺産研究室の手になる『中国伝統農業与現代農業』の邦訳である(邦訳書名『中国農業の伝統と現代』)。中国農業の飛躍的発展においては、長い歴史のなかでつくり上げられてきた伝統的技術の数々が生かされていたのである。

 われわれはこの本で、日本の伝統的農業技術の根源が中国にあり、かつ、江戸期の農政思想の源流も中国にあることを知ることができる。この本では荀子も孟子も農政思想の視点でとらえられているのが注目される。

 四つめは、中国農業映画社との協力作品「黄河にみどりを――緑の協奏曲くず物語」である。この映画は鳥取大学名誉教授で著名な砂丘研究家である遠山正瑛博士の呼びかけで、日本の小中学生など延べ二百万人がクズの種子を中国に送り、黄河流域の黄土地帯を緑化して耕地をふやそうとする日中友好の運動の記録映画である。後進国援助のあり方について一つの考え方をまとめている。

 以上四つの作品で、われわれは中国社会主義の到達点を明らかにしようとした。中国社会主義には、人類的立場から否定的側面だけがあるのではなく、肯定的側面もある。今日の世界の現実的課題である人口・食糧・資源・環境等の問題に対して、中国社会主義が先進的役割を果たす可能性は大いにある。その可能性をバックアップするのが国際化時代に先進国が果たすべき役割でないのか。

すぐ「儲け」につながらない事業を社会主義で

 中国は今日、建国以来最大の困難に逢着している。「大躍進」の「下放」そして「調整」。「文化大革命」の「下放」そして「調整」。「経済改革」の「下放」そして「調整」、と社会主義中国の発展は「下放」「調整」の大きなジグザグのコースをたどってきた。今回の「調整」こそ、中国社会主義にとっての正念場であろう。

 今日の中国経済の根本問題は、農業問題にある。ウィットワー教授の賞讃した「中国農業の黄金時代」は今日、大きな困難に遭遇しているのである。

 一九八四年に史上最高の四億tの食糧生産を記録した後、八五年に突如減産に転じて以降、食糧生産は伸び悩んでいる。

 食糧生産の減産傾向はなぜ生じたのか。

 第一に食糧作付面積の減少である。なぜ作付面積は減少したか。一つは食糧の買付価格が実質的に下がったからである。一九八四年に自給を超える生産を実現したのをチャンスに、政府は財政負担を軽減するために、国家の買付計画量を縮小して、「自由化」をすすめた。農家の穀物生産意欲は減退した。食糧生産から力を抜いてスイカ・ハクサイ等々儲かる作目に経営転換を行なったのである。

 二つには、経済の自由化により郷鎮企業が発展する。農家の兼業収入機会の増大である。食糧生産からは力を抜き、兼業収入に励む。当然食糧は減産するのである。

 これでは資本主義国日本の農家と社会主義国中国の農家と違いがないではないか。社会主義的な問題解決の方向が見い出されなければならない。

 食糧生産減退の第三の原因は、この農業躍進期に、すぐに儲けにつながらない生産基盤の整備の仕事に手抜きがあったからである。人民公社期にあった水利施設や農業機械の集団利用制が解体し、保全や追加投資が行なわれなかった。「儲け」だけに力を入れると食糧生産は衰退するのだ。

 しからば、一九七八年から一九八四年にかけての中国農業の大躍進はなぜ実現したのだろうか。

 第一に「包産到戸」政策(家族経営政策)により家族経営が確立された。農家の生産に対する自主性が著しく高まったのである。農業経営の発展にとって、経営主体の自主性は決定的である。この点は工業生産とは著しく異なる。工業生産においては労働者に対する管理技術が決定的であろう。

 第二に、この「包産到戸」政策以前の時期に、農業生産基盤の整備が営々と続けられてきたことである。この土台があって、始めて躍進が可能であったのである。

 一九五六年に開始された合作社運動(農業の部分的集団化)の中で、農家のなかから、水利建設運動が起こって、水利工事・洪水防御・灌漑・排水・表土保持・農用溜池・ダム・堤防の建設等々、国家予算の事業をはるかに上まわる農家の無償の自主的な水利建設事業、土地改良事業がつづけられてきたのである。この基盤が農家の意欲と結びついて大躍進が実現したのである。

真の国際協力を築くために

 水利事業や土地改良事業は決してすぐに「儲け」と結びつくわけではない。直接に金に結びつかない労働によって農業生産の永続的発展は保証されるのである。ところが、経済の自由化はすぐ目の前の金と労働を直結させることを強制する。農業は資本主義的な利潤追求になじまない本質をもっている。

 社会主義の今日的意味は、資本主義のこの弱点をのりこえるところにこそある。農業と工業の矛盾、都市と農村の対立の克服は今日の全人類の当面している課題である。この資本主義の弱点をのりこえるところにこそ、現代社会主義の意味がある。われわれは中国社会主義が、その可能性をきり拓くことに期待する。

 資本主義と社会主義の敵対的二大陣営の冷戦の時代は終わった。先進資本主義国が、自由と人権の旗をかかげて、社会主義国の内部矛盾を利用して社会主義体制を転覆することに力を貸すのも、社会主義国が資本主義国の労働者階級と手を組んで資本主義体制の転覆に力を貸すのも、いずれも時代おくれである。

 資本主義国も社会主義国も、先進国も後進国も、地球的規模で、共通に、人口・食糧・資源・環境の問題にぶつかっている。そして問題の根本的解決は自然と人間が調和してゆく方向で生産力を発展させることである。政策的には各国のそれぞれの国民経済をバランスのとれた経済に編成してゆくことである。具体的には農業と工業が矛盾しない、都市と農村が対立しない政策に転換することである。

 後進国援助の名のもとに、企業の利潤を優先して、地球環境を破壊することが国際協力ではない。先進国たるものは、援助より前に、自己の国内にある農工間の矛盾、都市農村間の対立を克服するための経済政策に転換することが、後進国を援助する本質、と把握すべきである。自国の内部矛盾を外にむかって解決しようとする国際化政策に、今日の先進国の根本的誤りがある。

 中国は建国以来四〇年、侵されることを許さず、侵さず、自力更生を基本に経済を発展させてきた。しかし、この輝かしい社会主義思想による経済政策は、これまでの厳しい東西冷戦、社会主義国間の対立の中で大きな制約をうけてきた。

 今や世界は新しい時代、東西間の冷戦の根本的な解決の方向に動いている。この有利な国際環境を生かし、未来にむけて、世界が共通して当面している人口・食糧・資源・環境の問題の克服にむけて、社会主義理念の創造的形成を中国社会主義に期待したい。

(農文協論説委員会)

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