ぼくらの煮干し大作戦食農教育 No.59 2008年1月号より
「だし」大研究
「虫大発生事件」を乗り越えて
手作りの煮干しができた!徳島・海陽町立海部小学校(前・宍喰小学校) 三浦智佳子
校舎三階ベランダに並んだ網の上の煮干しを、休み時間になると手を洗ってひっくり返し、乾き具合を確認する子どもたち。「宍喰の海の味がする」「うん、匂いもだんだん太陽に近づいてきたぞ」「ちょっと食べ過ぎないでよ。煮干し減ってきたよ」子どもたちと笑いながら、こんな会話をしたことをよく覚えている。
これは二〇〇六年、前任校の海陽町立宍喰小学校五年生とともに「宍喰の味てんこもりの朝ごはんを作って食べて、みんなで元気になろう」と一年間取り組んだ総合的な学習の時間の一コマである。ここでは、「みそ汁プロジェクト」で交流した徳島県阿波市立市場小学校に送ろうと、だしも手作りをめざした取り組みを中心に述べさせていただく。
だしになるものなあに
「だしは何を使っていますか」街角インタビューよりまず最初に、宍喰の人たちはどんな朝ごはんを食べているのか、またみそやだしについての街角インタビューを行なった。一一一人の声を集めてみると、宍喰では、念仏鯛という小魚の赤じゃこと、アジやイワシでつくるじゃこが主流であることがわかった。また、九月からイセエビ漁が始まり、この時期限定で、なんとクラスのほとんどの家庭でイセエビのみそ汁を飲んでいることもわかった。
次に魚の入手方法。釣る──これは量的にも季節的にもむずかしい。そこで漁協の方に相談すると、念仏鯛は他の魚の漁のとき、混ざって捨てるときが多く、アジやイワシといっしょにいただけることになった。
また煮干しの作り方は、三年生のとき、干物作りでお世話になった沼島さんに教えてもらいにいった。
煮干し作りに挑戦
いよいよ煮干し作りが始まった。(1)水〔五P〕を沸騰させ、一〇〇gの塩を入れる。(2)そこに魚(イワシ、アジ、念仏鯛)を入れて、ぐらぐらわかす。(3)沈んでいた魚が踊りだす。(4)すくってざるに入れて下敷きであおいでさます。(5)さめた魚を、木枠に網をはった用具(干物を干すためのもの)に並べてベランダに干す、という作業を繰り返す。そして、それから三、四日干して完成予定のはずだったのだが……。
魚が踊りだすと取り出してOK! さあ手早く広げて!ドラマは突然に
朝、家から出張に出発しようとした矢先に電話。学校を留守にするので代わりに最後の「干し」をお願いしていた村本先生だ。
「三浦先生大変です。大事な煮干しにたくさんの虫がわいてます」「え〜!?」「大丈夫なのもあります……けど、においもありますのでとりあえず、あかんものは処分しておきますね」「あちゃ〜。ごめんなさい。お願いします」そう答えるので精一杯だった。
いろんな顔が浮かんできた。市場小へ送ろうと気合い十分だった子どもたち。イワシをくださったおじいちゃん。待ってくれている市場小の子どもたち、担任の藤本先生。しかし総合は失敗がつきもの。「失敗を、このピンチを生かしてこそ総合だ」と天の声!? 作業のあとのふりかえりにも、「煮干し作りは意外と簡単」との感想もあり、なめたらあかんなと危惧していたところであった。これぐらいのドラマは必要!?
そして翌朝、職員用の玄関の戸を開けるなり、漂ってきたただならぬ強烈なにおい(完全ににおいがとれるまで、一週間ずっと手を合わせていた。みなさんごめんなさいと)。
煮干しの虫大発生事件のあとしまつは本当に大変だったようだ。すぐに女の子たちがやってきて話しだした。
「先生超やばかったんだから……」虫の正体はうじ虫だった。干したとき、ハエがたくさん飛んできていたので追っ払ってはいたのであるが……。
「どうする。約束の日まで時間はないけど店で買って送る?」子どもたちの反応はわかっていながら、こんな質問をした。「先生、も一回チャンスを」「どうしても自分らの作った煮干しを送らんと納得できん」「ここであきらめたらせっかくくれたおじいちゃんに申し訳ない」「うんじゃあどうすればいい?」「失敗の原因をつきとめる」「もう一度挑戦する」
それからの子どもたちの動きがすごかった。私がいなかったにもかかわらず、よく見て比較していたのだ。
(続きは食農教育2007年1月号をお読みください。)
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