食農教育 No.49 2006年7月号より
■生き物発見! 地域のフィールドワーク
エッ、こんなところにも生き物が
都会の生き物観察ポイント
神奈川・横浜市立馬場小学校 前島潤
コンクリートブロック塀
ナナホシテントウは、とても身近な昆虫だ。テントウムシといえば、多くの人がこのナナホシテントウを思い浮かべるだろう。だが、その一生を見つづけることはむずかしい。草原の中をのぞきながら、卵や蛹を見つけなければならないからだ。
しかし、意外な場所でこの昆虫の一生に出会うことができる。それは、コンクリートブロック塀だ。そこは、太陽の光を受けて暖まりやすく、孵化や羽化がしやすいのだろう。よく見ると、ナナホシテントウの卵塊や蛹がいくつかついていた。
そこで、数日通って観察すると、おもしろい発見ができた。蛹になった直後は黄色く、触ると全身を持ち上げるように動く。まるで威嚇しているように見えた。
町中に普通にあるこんな場所でも、楽しい観察ができる。
どこにでもあるコンクリートのブロック塀 近くにナナホシテントウがいたら観察のチャンス! 卵 前蛹 蛹になった直後 蛹道端のタンポポの花の上
道端など、どこにでも咲いているタンポポ。春先、この花の上に多種多様な昆虫たちが集まっている。
チョウ、アブ、ハチの仲間は定番だ。チョウを観察するには、ゆっくり前から近づいていくと意外と逃げない。
かなり近づいても動かない昆虫がいたら、ハナグモに捕まっているのかもしれない。自分よりずっと大きな獲物を捕らえる姿は、迫力満点だ。
幼虫時代に花粉を食べるキリギリスの仲間のヤブキリにもよく出会う。
花粉や蜜におよそ関係ない昆虫の姿もときどき見られる。パラボラアンテナのように開いた花の中は、太陽光をいっぱいに浴びて暖かいだろうから、気持ちがよくて、うたた寝をしているのかも……。そんな想像をしながら、昆虫たちを観察するのも楽しい。
早春から美しく群生するタンポポ。その花の上に…… ベニシジミ ハナアブの仲間の交尾 クロヒラタヨコバイ ヤブキリの幼虫 ケバエを捕らえたハナグモ モモブトカミキリモドキサクラ並木の幹や枝葉
花の季節が終わると、人びとの視線はあまりサクラに向かなくなる。しかし、ガの幼虫たち、とりわけシャクトリムシに会いたければ、花が終わった若葉の頃が最適だ。
腰をかがめて幹の下のほうに出ている若葉に目をやると、幼虫たちが食べた痕が見つかる。その辺りを丹念に探れば、きっと出会えるはずだ。
シャクトリムシ(シャクガの仲間の幼虫)は、何かに擬態しているものが多く、その姿に感心させられる。オカモトトゲエダシャクは鳥の糞そのもの。また、体をぴんと伸ばし、「ぼくは枝だよ」と主張しているやつもいる。
ガの幼虫のほかに、アワフキの仲間やナナフシなどもサクラに同居している。
サクラで花見ならぬ虫見なんていうのもあっていい。
幹の下のほうに出ているサクラの若葉。よく見ると何者かが食べた痕が…… ナナフシモドキ幼虫 オカモトトゲエダシャク幼虫 チャエダシャク幼虫 ムネアカアワフキ チャバネフユエダシャク幼虫 ヒメヤママユ幼虫公園の樹々の樹木札の裏
冬の虫探しも楽しい。卵、幼虫、蛹、成虫といろいろな形で越冬している姿を見つけるのだ。さながら、虫たちとのかくれんぼ。
では、いったいどんな場所に隠れているのだろうか。虫たちの気持ちになって考えてみた。暖かく、雨風がしのげるところ……と思いながら、南向きについている樹木札をめくってみると、目に飛び込んできたのはナミテントウの集団越冬。クヌギカメムシの卵のおまけつきだ。
うれしくなって、次々と樹木札の裏側をのぞくと、かなりの確率で虫たちが見つかった。人間が人間のためにつくった環境を、巧みに利用するたくましさには頭が下がる。
昆虫は、私たちの最も身近に数多く生息している生き物だ。昆虫の目線になって町を歩けば、小さな命の営みに出会うことができるだろう。
都市公園や市民の森などに見られる樹木札。その裏側には…… ナミテントウとガの仲間 キイロテントウ フユシャクの仲間のメス ナミテントウとクヌギカメムシの卵 ヤニサシガメ幼虫 マツカレハの幼虫
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