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生物科学
No.4 Volume.70,No.4 2019

Apr.

目次

特集:里山を理解するために草山から考える

巻頭言:飽食時代の世代交代(西田治文)……193

佐久間大輔:里山は林か草山か―統計や民俗から探る大阪の里山の実態―……195
里山の生物相の保全を考える際に、現在のコナラ林やマツ林、あるいは人工林が森林化する以前に「草山」として草、あるいは柴草を利用されてきた歴史を持つことは無視できない。したがって、里山の保全管理目標に「萌芽林として再生・維持すること」だけではなく、草山の再生を組み込むことも必要ではないだろうか。江戸末以降、とくに明治から昭和にかけてを検討対象として、大阪府下の里山、とくに草山や柴草地として利用された空間の実態を追った。
キーワード:草山、柴、マツタケ、薪、近代の林業

増井太樹:草山利用の歴史的変遷:岡山県蒜山地域を事例として……205
かつては草山で得られる草資源が共有財産として地域コミュニティによって共同管理されてきた。本研究の調査地である岡山県蒜山地域では、草山は集落が管理する場所として現在まで維持されてきた。一方で、その利用目的や方法は各時代の人間の経済活動や社会状況と密接に関わりながら変化してきた。本論では近世から近代にかけての蒜山地域における草山の利用形態の変化について植生の観点から考察する。
キーワード:里山、草山、草原、植生管理

天満和久:草原性生物が生き残る場所はどこか〜大阪能勢のくり山景観〜……210
半自然草地が減少あるいは質的にも劣化していく中で、大都市である大阪、京都、神戸の近郊にある能勢町において、クリ林の管理によって草地環境が維持されている。またそうした人の農林業の営みが地域の生物多様性を豊かにしている。一方で、その恩恵を人々は受けながら暮らしているという、まさに人と自然の共生のモデルがそこには存在している。こうした背景には、その地がクリの品種である「銀寄」の発祥地ということに関連している。今後それを活かしながら、いかにして自然と文化を継承していくのかをさまざまな視点で考える。
キーワード:能勢、生物多様性、傾斜地のクリ林、里山、銀寄

小椋純一:房総丘陵と筑波山地における明治前期から後期にかけての草原の減少……217
日本の草原は、明治期に急速に減少したところが多いと考えられるが、その減少過程については不明な部分が多い。本稿は、明治10年代に関東地方で測図された2万分の1地形図である迅速図と明治30年代に測図された旧版地形図をもとに、明治前期から後期にかけて、関東地方東部の房総丘陵と筑波山地において草原がどのように減少したかを明らかにするものである。その明治期の約20年間に、対象とした2地域の草原は大幅に減少したが、その減少には大きな地域差も見られた。
キーワード:房総丘陵、筑波山地、草原、明治、減少

横川昌史・増井太樹・飯村孝文:半自然草原の管理放棄に伴う植物種ごとの欠落パターン:栃木県日光市土呂部の例……225
栃木県日光市土呂部において、現在まで草刈りが継続されている調査区と、管理放棄年代が3段階に異なる調査区で、植生調査を行なった。その結果、草原を主な生育地とする植物であっても、管理放棄によって消失しやすい植物と消失しにくい植物がいることが明らかになった。このような管理放棄に対する反応の違いは、半自然草原の動態や保全を考える上で重要だと考えられる。
キーワード:ノイズクラスタリング、種組成、植生管理

大住克博・三谷絵理子:草山から里山林へ:里山のコナラ林はどのように成立したのか……230
近世の農村周辺には、農業に必要な緑肥としての刈敷を採草するために、草山あるいは柴山が広がっていた。近代に入ると刈敷利用が低下し、草山は森林化し里山林となった。コナラは萌芽能力と初産齢の早さから、火入れ採草の頻繁な攪乱下の草山・柴山で個体群を形成していたため、前生樹として里山林を形成する主体となったと推測される。その後里山林は鳥散布種の進入で種多様性を高めながら森林構造を発達させていった。一方で森林の発達に伴い地表の光条件は悪化し、草本層は衰退していった。
キーワード:草山、柴山、コナラ林、里山林、森林化

大久保祐作・會場健大:p値とは何だったのか(Fisherの有意性検定とNeyman-Pearsonの仮説検定を超えるために……238
生物学研究においては古典的な統計的検定とp値が主要な道具として用いられてきたが、アメリカ統計学会が「有意水準が満たされるか否かだけにあらゆる判断を委ねるべきでない」という趣旨の声明を発表し反響を呼んでいる。しかしながら多くの生物学者にとって、p値に関して何が問題となっているのか理解するのは必ずしも容易ではない。本稿ではまず生態学内部における論争を考察し、「p値とはそもそも何だったのか」「統計的検定の目的とは何か」までさかのぼって論じることが必要だと指摘する。またこれを踏まえ、Fisherの有意性検定とNeyman-Pearsonの仮説検定の相違点や二つの検定が生まれた背景を解説し、目的の異なる統計手法が混同されることの危険性について議論する。
キーワード:統計学、有意性検定、仮説検定、科学哲学、目的

書評―『奄美群島の自然史学:亜熱帯島嶼の生物多様性』

『生物科学』休刊のお知らせ

『生物科学』70周年記念パーティ(講演付き)のお知らせ


English_conents

Nishida Harufumi : Alternation of generation in the days of saturation (193)
Special feature : Grassland as an origin of modern Satoyama ecosystem
Sakuma Daisuke : Woodland or grassland? - the real status of Satoyama of Osaka : a review from statistics and folk-history (195)
Masui Taiki : A historical transition of usage of“Kusayama” : A case study of Hiruzen area, Okayama prefecture (205)
Tenma Kazuhisa : Where is the place where grassland species survive? 〜Landscapes of Kuri-yama(Japanese Chestnut woods)at Nose Town in Osaka〜 (210)
Ogura Jun-ichi : Decrease of grasslands from early to late periods of the Meiji era in Boso hills and Mt. Tsukuba area (217)
Yokogawa Masashi, Masui Taiki & Iimura Takafumi : Disappearance pattern of plant species due to abandonment of semi-natural grassland : The case study of Dorobu, Nikko City, Tochigi Prefecture (225)
Osumi Katsuhiro & Mitani Eriko : How have grasslands and brushlands turned into woodlands in the Satoyama working landscapes? (230)

Ohkubo Yusaku & Aiba Takehiro : What was“p-value” and What was not (betond Fisher’s significant test Neyman-Pearson’s hypothesis test) (238)
Book review (252)



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