地域に根ざす食と健康の活動交流誌

食文化活動タイトル

「生きた教材」学校給食をもっと活用して食に関する指導の充実を (一部をご紹介します)
文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 学校給食調査官 金田雅代
(前略)

■地場産給食で広がる地域とのつながり

  ―給食に関して自治体などからも地場産の作物の活用をすすめようと、いろんなふうにアプローチがありますが、そういった動きはどうなんでしょう。

金田 地場産物の活用については、日本体育・学校健康センターが昭和58年から行なっている「学校、家庭、地域の連携推進事業」での実績があります。ほぼ47都道府県で地場産物は活用されています。活用の仕方は、子どもたちの目の前の地域であったり、都道府県であったり、広く日本国内であったりしますが、いろいろな試みが行なわれるようになってきました。

 最近は、休耕田の活用や、例えば地域のお年寄りがグループをつくって給食のために野菜をつくってくださるようになりました。  ちょっと前までは、「形が不揃いだから」とか、「量的に間に合わないから」と言って地場産物を使わない調理場がありましたが、地場産物を取り入れることがきっかけとなって、地域とのつながりが深まるという視点に変わり、間に合う量だけでも使いましょうという姿勢に変わってきました。生産する側からも、学校給食のための組合などを作ったり、給食の献立年間計画に沿って野菜などを栽培しましょう、というふうに変わってきてます。

 学校、家庭、地域の連携推進事業の指定を受けたことがきっかけとなって、地場産物の活用が始まった町の事例を紹介します。宮城県に宮崎町という町がありますが、研究発表会に伺ったとき、生産者グループの代表者の方とお話をする機会がありました。印象に残った言葉は、「畑で作業をしているとき、中学生が挨拶してくれるようになった。声をかけてもらってすごくうれしかった」と言われたことなんです。学校とは無縁なんだと思っていたのが、給食の野菜を栽培するようになって、学校に行けるようになり、生徒とも話せるようになったのです。

私は「これだ」と思いましたね。

 地場産物の活用は、開かれた学校という意味でも大きな役割を果たすのです。ただ単に農家の方が作ってくださった農作物を学校給食で使わせてもらうということだけではなく、地域の方たちと子どもたちが心の交流をする場ができつつあるのです。地場産物を活用した給食の大きな成果と思います。

 先ほど、食は誰でも興味関心を持ちやすく、教科等の中でも取りかかりやすいと言いましたが、地域とのつながりという意味でも同様な事が言えるのです。地域で作られた作物を介して、それらを作った人たちとの交流が始まる。地場産物は、その地域の風土に合わせて作られてきたものですから、郷土食や食文化というようなことで広がり、実践活動として食生活そのものにつながっていきます。

 そういう意味では、学校栄養職員は、学校と家庭、地域を結ぶ人、食生活のコーディネーターという大きな役割を果たしてきているのです。

■もっと学校給食をアピールしよう

―今、学校給食、いろいろな方面から注目されてますが、反面、実情を知られていないで批判されているというような現状がありますが。

金田 学校栄養職員にお願いしていることは、もっと社会に向けて今の学校給食を知ってもらおうということです。そういう意味では地場産物の活用も大きな意義があるわけです。

 学校給食は、小学校のほぼ100%の国民が体験します。年齢は違っても、食事内容は違うものの、それぞれの世代で共通の体験なんですね。知らない人同士でも給食の話をするとそれだけで話が盛りあがります。年齢差があってもです。最近、給食のメニューを出すお店が盛況だという話を聞きます。それだけ学校給食は日本人にとって共通体験の場になっているのです。

 一方、忘れてはいけないのは、学校給食は子どもたちの食事の年間回数の5分の1、6分の1しか実施していないということです。ですから、食に関する指導は、家庭と連携していなければ、目標を達成し得ないわけです。学校給食を食べた子どもたちが家庭に帰り、家庭の食事にも大きな影響力を与えていくこと、子どもを会して親の意識を変えることもできますから。食に関する指導の推進は、家庭とともにあり、欠くことのできないことなのです。

 家庭の食事で不足する栄養素の摂取は学校給食でやってもらえると考えられているかぎり、子どもたちの食生活の改善はできません。食の問題は、学校給食だけでは解決できない問題なんだということを保護者に理解してもらうためにも、学校栄養職員は、これからも家庭に向け地域に向けて情報発信という大きな役割があります。

◆本物の味を伝える学校給食

 マスコミの方たちから、給食の事例を紹介してくれ、という依頼があり、写真等を見てもらうと、最初に出るのは「これは贅沢」という言葉なんです。自分の食べた給食のイメージがあるからだと思いますが、今の給食が正しく理解されていない言葉だと思います。そのくらい学校給食は変化しているのです。

 先ほど言ったように、日本国民のほぼ100%が、その小学生の時期、学校給食を体験するわけですから、できるかぎりいろいろな食材と出会いを作り、最高級のものとまでは言いませんが、本物の味との出会い、おいしいものとの出会いを学校給食で体験してほしいのです。小学生のときの食体験はその人の人生の食生活を左右すると言われてますから。

 学校給食は子どもたちが望ましい食習慣を身につけ、食事を通じて自らの健康管理をできるようにする大きな役割がありますから、安全な食材を使い、本物の味を伝えることは学校栄養職員の大きな責任でもあるです。

 家庭の食事が簡便傾向にあるといわれる今だからこそです。

 もう一つ、学校栄養職員の大切な役割は、子どもたちを取り巻く食環境も大きく変化する中で、自分で食品を選択する実践力をつけることです。学校給食の中でいくら望ましい食事のあり方を指導しても、一般社会では、コンビニやファーストフードの店があるわけですから、それらの中で自分でバランスよく食品を選択する能力が身についていなければ実践化につながらないわけです。まさに「生きる力」がついているかどうかなんです。

(後略)


食文化活動 トップバックナンバー