「中日韓農業発酵技術普及会」

()えこふぁーむ(Eco Farm) における発酵床養豚の実践と示唆について」

                          

()えこふぁーむ

                          代表取締役 中村 義幸

1. は じ め に

私共の会社は日本国鹿児島県の大隅半島に於て、関連グループ3社と共に廃棄物処理を中心とする環境関連事業を行っております。中小企業ならではの迅速で小回りの効く、地域密着型の対応を目指しています。

日頃の事業活動の中で、再生可能な有機系廃棄物の飼料化・肥料化を通じて地域内で効率の良い循環システムを立ち上げ、健康な土づくりを行い、地域の活性化さらには持続可能な社会づくりに貢献しようと努めております。

 豚は 「 生きた生ごみ処理機 ?

私達は、食品廃棄物を直接肥料化(堆肥化)するのではなく、餌として一旦与えて出てきたもの(排泄物)を堆肥化しようと考えました。つまり、豚を「生きた生ごみ処理機(大きな微生物)」の位置付けとしたのです。

単なる養豚業ではなく廃棄物処理施設あるいは再商品化処理施設としてみることで、豚の存在価値が上がります。また、肥育段階で遊休地に於いて放牧することにより土地の再生利用(生産性向上)に貢献できます。

【 イ メ ー ジ 】
生ゴミ 餌 豚 堆肥 有機農産物 食品(野菜)→ 日常生活 生ゴミ
           

        肉  

2. 背   景

人の健康と福祉は、エネルギー・水・食料・その他の資源が効率的・安定的に供給され、廃棄物が安全に処理されるかどうかにかかっています。よく、「地球規模で考え、足元(地域)から行動へ移す」という言葉を耳にしますが、経済の拡大に狂奔してきた20世紀後半には、経済活動の暴発的増大による地球温暖化や化学物質汚染に代表される様々な環境問題の発生、最終処分場の不足等、様々な問題を生じてきました。

食品廃棄物の量を見てみると、食べ残し(残飯)、調理屑、食品加工屑、賞味期限切れなど、「食品廃棄物の総排出量は約2,000 万トン」で、家庭からはその半分に当る1,000万トンが排出され、食品小売店などの食品販売業や、食堂などから合わせて約600万トン、食品製造業から約400万トンが排出されています。別の統計からカロリー(熱量)ベースで見てみると、供給される食料の約30%が捨てられていることになります(供給量−摂取量)

このようなムダを背景に、様々な問題点が浮かび上がってきました。

  1. 高含水率のため、焼却処理費用を増大させる(補助燃料の消費増)
  2. 焼却の際にダイオキシンや他の有害物質の排出原因となる(温度低下・塩類の影響)
  3. 食糧・飼料穀物の大量輸入によって国土に窒素分が過剰蓄積する(地下水汚染・富栄養化)

一方、戦後の国内農業は生産性が高まると信じて化学肥料・農薬散布に依存する形態となりました。単一作物の連作や規格品大量生産の影響もあり、畜産農家と耕種農家間の「食の循環」が分断された結果、地力の低下・土壌汚染がさらに作物の抵抗性を奪い、化学肥料・農薬を多投するといった悪循環に陥っています。

そのような中、昨今では消費者の健康・安全志向が高まるのと同時に、環境に対する意識が向上するのと相まって「有機農産物」への需要が伸びてきています。これに伴い、質の良い有機肥料に対する期待が集まっています。環境保全型有機農業への移行は、消費者にとってのみならず、生産者にとっても化学物質の暴露から逃れることや、土壌が本来持つ力の回復にもつながり利点があります。

「食の循環」が復活するのを機に、家畜ふん尿をはじめとする有機系廃棄物由来の質の良い完熟堆肥が求められるようになり、また同時に、食の安全性への関心も高まっています。耕種農家と畜産農家との連携により地域の活性化にも繋がります。

3. 現 在 の 取 り 組 み

養豚をする上で考慮しなくてはいけない問題が、汚水(ふん尿)処理の問題です。2004年度から養豚施設からの放流基準が今以上に厳しくなりました。当然私共にも立派な処理施設を備えるだけの金銭的余裕はありません。そこで取り入れたのが汚水(ふん尿)処理施設不要の「発酵床(Bio Bed)」です。敷き床におがくず(これもリサイクルされたもの!)5060cm敷き詰め、これに培養した「土着菌(土着微生物)」を混ぜたものです。土着菌は近所の山の落ち葉の裏から簡単に採取でき(つまり無料)、米ぬかと廃糖蜜(これも一種のリサイクル) を加えることにより大量に培養できます。

発酵床と土着菌に関しては、鹿児島大学農学部の柳田宏一教授(故人)の報文を参考にさせて頂きました。

土着菌は、地球が誕生以来40 数億年の環境の変化に耐えて今日まで生き長らえて、その土地や地域の環境に最も適応した強力な微生物として捉えることができます。わざわざ購入した高価な菌が、導入した地域で求められる所期の働き(優先種となること)をしてくれるとは限りません。微生物間でも、し烈な生存競争をした結果(拮抗)、その土地に合ったバランスが保たれているのではないでしょうか。また、一種類の微生物が独占的に作用するのではなく、数十種類の「微生物群」として作用しているものと思われます。

豚は、発酵床の上に糞尿をしますが、翌日には固形分は見当たらない程、土着菌が分解してくれます。山歩きをしていて野生動物の死骸や排泄物を目にすることが少ないことを思い起こすと理解しやすいと思います。しかも、豚小屋に付き物の悪臭はほとんどと言ってよいくらい発生しません。豚の体も汚れません。

数ヶ月経つと敷き床全体が目減りしてきますので、新しいおがくずの補充が必要になります。その際、古い敷き床の一部を豚舎から出して堆肥にします。この時点で色も形もホクホクの土壌の様に変化しています。

肝心の餌は、地元の学校給食センターや老健施設等の事業所から生ゴミを収集し、ポリバケツで毎日500s〜800s回収しています。飼料用にと用途を伝えてあり箸・爪楊枝・プラスチック等の夾雑物は混ざっておりません。非常に協力的で助かります。

集めた食品廃棄物(調理屑・食べ残し・賞味期限切れ商品等)は、粉砕して熱処理(80℃10分以上)後、乳酸菌を添加(ppm濃度)して、そのままでは栄養価が足りないので、単味飼料(ふすま・米糠・圧片大麦・とうもろこし粉等)を加えて乳酸発酵による自家配合飼料を製造しています。

若干湿った餌なので既存の飼料供給装置は使用出来ず、企業養豚のように不断給餌とはいきません。一日一食です(成豚で5〜8s/日・頭)。そのため、餌を待ちきれない時には足元の敷き床を食べています。敷き床に含まれている多様な微生物を摂取することにより、腸内細菌の働きも活発になるのか非常に見事な糞便をしてくれます。糞便自体も強烈な匂いはしません。寄生虫も見あたりません。

通常行われている飼育法では、毎日の糞出し作業が重労働と時間の消費の原因となっています。発酵床(Bio Bed)方式の場合、この作業がないので日常において時間を有効に使える利点があります。コスト低減効果と省力化が見込めます。

豚舎の外(屋根付き施設)で完熟させた堆肥の一部は、おがくずの補充の際に種菌(戻し敷料)として混入させます。このことで、敷地内から汚物は外に一切出ず(当然、放流水もなし)、一種のクローズドシステムともいえます。余剰の完熟堆肥は有機肥料として有効利用できます。

足元がコンクリートや、すのこではなく、敷き床なので自由に掘ったり寝そべったり遊ぶことができます。そのためストレスが溜まらないのか毛艶も良く病気もしません。何よりも神経質ではなくのんびりしています。喧嘩もしませんし、尻尾をかじることもありません。伝染病(オーエスキー・豚丹毒)予防のためのワクチネーションは済ませてあります。