発酵堆肥作りの基本点と施用のポイントについて

―高温発酵よりも中温発酵がよいー

 

  ()ジャパンバイオファーム代表 小祝政明

 

私は、中学・高校生時代に食品添加物が原因で体に変調をきたし、自然食療法で治療。食材の形は同じでも中身は違うことに気づき、26歳から日本全国津々浦々安全な作物を生産している生産者を訪ね、現場で学習。その後、茨城で自ら土地を購入し、米・野菜づくり実験に7年間取り組み、またその後、オーストラリアの有機農業研究所に微生物エンジニアとしてスカウトされ、牧場の土壌改良に取り組みました。オーストラリアと筑波で微生物が有機物を分解し、その有機物が再度有機物になっていくシステムを学びました。
 現在は、有機肥料の販売、コンサルティングの()ジャパンバイオファーム(長野県伊那市)代表を務めながら、経験やカンに頼るだけでなく客観的なデータを駆使した有機農業の実際を指導しています。

言うまでもなく、有機農業を実践する上で発酵堆肥の作りと利用は、重要な一環を担っています。これから発酵堆肥作りに関する模索についてご紹介します。具体的にはサブタイトルとして書いているように、放線菌が作った堆肥で病気を防ぐという視点から堆肥の発酵温度を中心に話してみようと思います。

 

1.堆肥化は高温発酵がいいとは限らない

 

一般に「堆肥」というと発酵温度が高いほうが良質になると思われがちですが、必ずしもそうとは限りません。発酵温度が八〇度を超えるような場合、積算温度(発酵温度×時間)も高いとは限らず、むしろ最高温度が六〇度程度の発酵のほうが積算温度は高い場合が多いのです。

 温度が高い発酵では、糖分・デンプン・タンパク質など分解しやすいものだけが分解し、オガクズやバークなど難分解性の物質はほとんど分解せずに終わってしまいます。いっぽう、中温で推移している発酵のほうは積算温度が高く、かつ発酵温度が高すぎることによって生じるタンパク変性(例:卵の白身が熱で白く固くなる状態)も受けづらいので、放線菌をはじめとした多様な菌が増え、さまざまな分解酵素を分泌します。その結果、分解しにくい繊維質などまで分解が進み、土壌の団粒化促進に大きく貢献します。

 また、一般に七〇度以上の高温発酵では、堆肥原料中のタンパク質は菌体になるのと同時にアンモニアにまで昇華してしまう率が高くなり、悪臭となります。いっぽう、中温域ではアンモニアガスになりにくく、反対に菌体になりやすいので、悪臭の素になりにくいのです。極端に言うと、発酵の温度によって堆肥中のチッソ(タンパク質など)がアンモニアガスになるか、菌という固体になるか、それくらいの違いがあるのです。

 

2.C/N比を整えるための鶏糞を放線菌で覆う

 

堆肥化で一番大切なことは、目標とする菌種をできるだけ初期から大量に原料に接種すること。次に、その菌にとって最適な環境を作ること。最後に、増殖が始まるまで時間を与えること。以上の三点が基本です。

 「裏谷堆肥」の場合、牛糞と敷料でC/N(炭素/チッソ)比が高いので、何らかのチッソの高い原料を混ぜないと短期間で堆肥化できませんでした。幸いにも隣町に糞の処理に困っている養鶏家がいたので、堆肥化に最重要なC/N比の調合になったわけです。

 ただ、鶏糞は悪臭の素になる低級脂肪酸が多いので、いきなりエアレーションをして温度を高くするとすさまじいにおいとなります。そこで基本の第一「目標とする菌種をできるだけ初期から大量に原料に接種する」を実行し、戻し堆肥中に大量にいる放線菌で鶏糞を覆ってしまうわけです。そうすることにより、放線菌や酵母菌が急速に増殖し、悪臭除去効果の前提が作られます。

 

3.発酵温度を抑え、長期間にわたって持続させる

 

第二に、発酵槽での温度管理とエアレーションの関係ですが、空気(酸素)の量を増やせば初期発酵の温度は高くなり、堆肥原料中のタンパク質などは急速にアミノ酸へと分解されます。このアミノ酸量と菌の増殖速度が合っていればにおいはほとんどしないのですが、そうでない場合はアミノ酸が余剰になり、さまざまな物質に分解されて悪臭を発し、時に毒性の強いガスや物質に変わります。ですから、そうならないために発酵温度を抑え、穏やかに分解を進める必要性が出てくるわけです。

 そして、この中温域の温度帯は急激なカロリー消費が高温域に比べて少ないことを意味しているので、発酵温度が長期間にわたって持続することを保証します。言い換えれば、堆肥中のさまざまな物質が長期間、さまざまな菌が出す酵素と温度にさらされるので、普通では分解の進まない植物繊維(セルロースなど)まで分解が始まります。こうなるとなおさら、分解された炭素化合物と余剰なチッソ分が結合するので、悪臭が発生しにくくなるわけです。

 発酵の最後は、目的とした菌を休眠状態に持っていくことですが、裏谷では発酵槽から出た堆肥を別ピットで静置し、さらにエアレーションを加えて乾燥させ、休眠させます。水分が多い状態で袋詰めすると菌の死滅率が高くなり、圃場に散布したときに期待した効果が発揮されません。

 

4.温度管理のほかに堆肥化で注意すること

 

 さて、堆肥化は以下の点に注意すれば仕上がりも良くなります。

 水分 水分率六〇〜七〇%の原料は、C/N比を調整しながら適度なエアレーションにより発熱させると水分の蒸散が起こり、人為的な乾燥を加えなくとも最終的に二〇%前後に落ち着いて仕上がります。もし、それ以上の水分量で温度が下がってしまった場合には、発酵が何らかの理由によりスムーズに進行しなかったことを表わしています。

 pH 発酵が正常であれば最初、糖分や炭水化物の分解が進みますのでpHは下がります。ですが、タンパク質の分解が始まると、多少なりともアンモニアが発生するのでアルカリ側に上昇していきます。そして最後に繊維質の分解までいくと、pHは再び下降し始めます。

 EC 塩基類が菌体に取り込まれたり、キレート様物質に覆われてしまいますので、最初は高いのですが、仕上がりの頃には下がってきます。

 C/N比 以上のような発酵をさせた場合、当然ながら発熱している熱源としての炭素が炭酸ガスとして揮散してしまいますので、もとの原料より明らかにC/N比は低下してきます。

 

5.圃場の水分を適正に保つことが重要

 

温度が急激に上がって高温で発酵した堆肥と違い、中温域で発酵させた堆肥には、中温菌(耐病性放線菌・酵母菌・その他の細菌)と高温菌(耐病性バチルス)が高密度に共存しています。その結果、セルロース型病原(根こぶ病・エキ病菌など)とキチン型病原(半身萎ちょう病・フザリウム・菌核病菌など)の両面を抑える働きを持った画期的な堆肥に仕上がっているのです。

 仕上がった堆肥は栄養物を残した形で、さまざまな菌を休眠状態にしています。そのため、ひとたび適度な水分の圃場に施されると休眠から覚め、急激に土壌中で増殖を始め、それらの菌の持つさまざまな病原菌溶菌酵素や抗生物質により、土壌病害を抑制します。

 ただし、この効果は土壌の水分状態が適当でないと発揮できません。せっかく良い菌を培養しても圃場が過湿、過乾燥では菌の効果が十分に発揮されません。水分管理は作物栽培にとって施肥設計と同じように重要な要素です。