『サツマイモ・サトイモ大事典』まえがき
農文協がサツマイモ、サトイモの栽培事典を発行するのは、「野菜園芸大百科第二版」(2004年)以来、およそ20年ぶりとなります。このかん、サツマイモとサトイモの栽培をめぐる状況は大きく変化しました。
<サツマイモ>
ホクホクか、ねっとりか
サツマイモでは、2003年にいも焼酎ブームが起こり、焼酎用の消費が10年間ほど増えました。同じ2003年には電気式焼きいもオーブンの開発が起爆剤となり、量販店での店頭販売が普及し、焼きいもブームが起きて現在まで続いています。同じころ、ねっとりとした食感をもつ青果用品種「安納いも」が注目を浴びるようになりました。それまでの‛高系14号'や‛ベニアズマ'のようなホクホクとは違う食感が、新たな需要を生み出したのです。2007年には、ねっとりして甘い‛べにはるか'が登場し、干しいもにしてもおいしいことから栽培が全国に広まり、2019年には青果用品種で作付け面積1位となりました。焼きいもや干しいもなどの安定した需要を受け、新品種の育成が国と民間で次々と行なわれています。
基腐病
2018年には沖縄県、鹿児島県、宮崎県で基腐病が発生し、産地に深刻な被害をもたらしました。その後、国をあげての対策マニュアルの作成、抵抗性品種の開発が進められ、被害は減っていますが、予断を許さない状況です。
温暖化による生理障害の発生、収量低下
産地に少なからぬ影響を及ぼしているのが温暖化です。2006年以降、夏の気温が平年を上回るようになり、生理障害の発生、収量低下が指摘されています。いっぽうでそれまで生育に適さないとされてきた東北や北海道などの寒冷地で産地化が始まっています。
<サトイモ>
在来品種、地域品種
サトイモでは、それまで地域の在来品種が多くを占めていましたが、2000年代に「ちば丸」(千葉県)、「愛媛農試V2号」(愛媛県)など、府県で品種育成が進みました。
全期間マルチ栽培で省力、機械化
2003年ころには、それまでの露地栽培における暑い時期の追肥と土寄せを省力化できる「全期マルチ栽培」を愛媛県が体系化し、機械化や大規模化に道が拓かれました。
新技術の水田栽培
2010年代には水田で湛水して育てる湛水栽培(水田栽培)が鹿児島県で考案されました。水田で湛水して育てると光合成が高まって増収するうえに、サトイモ栽培の難点の一つである連作障害も減らせることから、水田活用の技術としてさらなる普及が期待されています。2015年には台風通過後に愛媛県、宮崎県、鹿児島県で疫病が発生し、壊滅的な被害となりました。被害は関西や関東にも拡大、国の対策マニュアルが作成され、総合防除技術が開発されました。
輪作の組み合わせ
昔からサツマイモとサトイモは輪作の組み合わせとして相性がよいといわれてきました。連作障害を防ぐ意味からも経営安定に欠かせない品目といえます。本書が末永く利用されることを願います。
本書は加除式出版物『農業技術大系作物編・野菜編』などの記事を再編集したものです。転載を許諾いただいた皆様には厚くお礼申し上げます。なお、企画・編集にあたって、サツマイモは片山健二氏と荒木田尚広氏、サトイモは鈴木健司氏に多くのご助言をいただきました。重ねてお礼申し上げます。
2026年1月 一般社団法人農山漁村文化協会