(赤松富仁撮影)
にわかに「有機農業」という言葉が脚光を浴びている。
農水省が唐突に打ち出した「みどりの食料システム戦略」の中で、「2050 年に有機農業の面積を100 万h a に拡大する」というビックリ目標が掲げられたからだ。
「みどり戦略」全体を議論するのは別の機会にゆずるとして(本誌304 ページ〜の「主張」欄を参照)、今号では「有機農業って、そもそも何だったっけ?」と改めて農家みんなで考えてみた。キーワードは、地元の有機物・微生物・地力チッソ。自然に地力がついてくるのも有機農業の本質らしい。
アンケートで集まった農家の意見も相当にアツイ。
ヨシ堆肥と生ゴミ液肥で「ダルマガエル米」
広島・井藤文男
筆者。水田8haのうち、1haが有機栽培の「ダルマガエル米」(写真は*以外、依田賢吾撮影)
2003年、絶滅危惧種のダルマガエルの生息地がなくなったので、里親を引き受け、田んぼに放すことにしました。ダルマガエルが好むのは、農薬を使わず、水を長く張っている田んぼです。そこで、品種を倒伏しにくくて収穫時期の遅い「あきろまん」に替えたり、化学肥料と農薬をやめたりしました。こうして生まれたのが「ダルマガエル米」です。
草も生ゴミも生かす
田んぼの土づくりで、地元のダムの水質保全のために植えてあるヨシを利用しています。刈り取って粉砕したものを2tトラック20台分ほどもらい、1年寝かせると、とてもよい堆肥になります。切り返すとき、カブトムシの幼虫がたくさん出てきます。このヨシ堆肥を毎年、イネ刈り後の田んぼに入れています。
ヨシの堆肥。秋、田んぼに入れる。この他、元肥も追肥も有機肥料で栽培
4年ほど前、近所の方にメタン菌で発酵させる生ゴミ液肥のつくり方を教わりました。種菌をもらい、家庭の生ゴミ以外にも、畑でつくったカボチャの小さいのを入れたり、冬はエサが足りないので、砂糖を加えたり……。そうしてメタン菌の増殖を待ちました。メタンガスが発生しているか確かめるために、火を近づけると、ボッと燃えました。
できた液肥は田んぼの水口にポトポトと落ちるように流し込んでいます。また、100倍に薄めて、野菜に与えると、葉の色が違ってきます。
生ゴミ液肥をつくる装置。容量2000lのタンクが埋めてある
※最初にタンクの上のほうまで水を溜め、メタン発酵した生ゴミ液肥(種菌)をビールビン2本分ほど入れ、生ゴミを投入。液肥を汲み出したら、その分の水を足す。
※メタン菌は有機物からメタンガスをつくりだす嫌気性菌。水田、湿地、河川、湖沼などに生息する。生の牛糞もメタン菌の「種菌」になる。
ステンレスの筒は自分で取り付けた。これがあると、入り口から投入した生ゴミが広がらず、出口から液体だけを取り出しやすい
数日おきに、生ゴミをタンクに入れる
投入した生ゴミは液体に浮いているので、角材などで押し込む
タンクの出口。メタン発酵が進み、ブクブクしている。火を近づけると、ガスが燃える。液体をポンプで汲み出して、田畑で使う
コック付きの容器(矢印)に液肥を入れ、田の水口に置き、流し込む
ダルマガエルと一緒に米づくり
笑い話になりますが、最初は皆からダルマガエルを「どうやって食べるの」とか言われていました。ダルマガエルを飼っているのでも、保護しているのでもなく、一緒に米をつくっているのだと思っています。
収量は慣行栽培の3分の1ほどですが、無農薬といえば、1kg700円と結構高くても買ってくださる方が多く、特に玄米食の人に喜ばれています。道の駅で売るほか、自宅まで買いに来られる方もいます。
農薬を使わないので、田んぼも畑も草だらけ。ダルマガエルにとっては、隠れ場所になります。見た目のいい農産物をつくるため、多くの人が消毒とか除草とかをするなかで、安心して食べられる米や野菜をつくるのが目標です。
(広島県世羅町)
絶滅危惧種のダルマガエル。田んぼでは、イネの害虫を食べてくれる。ダルマガエルのために中干しをせず、完全無農薬で栽培(*)
この記事の掲載号
『現代農業 2021年10月号』
2021土壌肥料特集:みんなで考えた 有機農業ってなに? 地力アップ編 |
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