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ウチの天井裏にもハクビシン!?

DVD『地域で止める獣害対策シリーズ』上映会レポート

茨城県筑西市・下星谷地区農地水保全活動組織

 現在発行中のDVD『地域で止める獣害対策シリーズ』が好評だ。個人で視聴するだけでなく、地域のみんなでワイワイ言いながらDVDで楽しく勉強しよう、という取り組みが全国各地ではじまっている。そんな集まりのひとつに編集部も参加させていただいた。

(古谷益朗撮影、以下F)

次々出てくる、 あるある話

 DVDを上映するスクリーンに大きく映し出されたのは、とある部屋の天井にできた茶色いシミ(写真)。これを見て農家が声を上げた。

天井に見えるシミや汚れが糞尿被害。左はアライグマ、右はハクビシン(F)

「あるな〜ウチの天井にも。おんなじようなシミが」

 天井裏にハクビシンやアライグマがすみつき糞尿を繰り返すことでこうした被害が出るという。

「ウチにもあったんで勇気を出して天井裏を覗いたけど、な〜んにもいなかった」

「いや〜そのときいなくたって、こんもりと糞がたまってたらハクビシンがいるってことでしょ」

天井裏を覗くと糞がどっさり(F)。ハクビシンは1カ所に「ため糞」する習性がある(いずれも第2巻より)

 茨城県筑西市下星谷地区で開かれた研修会では、DVDをネタにこんな「あるある話」が飛び交っていた。

集会所に8人の農家が集まって上映会が開かれた

被害を防ぐには まず情報の共有

 小玉スイカの産地として有名な同地区では、昨年から何ものかがビニールハウスに侵入し、収穫直前のスイカを次々と食い荒らす被害が出ているという。

「いやぁ困ってるんです。60年にもなる産地の歴史のなかで、こんな被害は初めて。おそらくハクビシンのしわざだと思うんですが……」

 そう語るのは農家の下条栄さん。

 今年は地区で9軒あるスイカ農家のうち7軒が被害を受けてしまった。

 これ以上被害が広がるのを防ぐには、まず地区のみんなで情報を共有すべき、と下条さんは判断。自身が代表を務める「下星谷地区農地水保全活動組織」でDVDを購入し、研修会を開くことにしたのだ。

DVDを使って研修会

 9月上旬の夜、地区の集会所に30代から60代の男女あわせて8人の農家が集まってきた。連日の猛暑の疲れもあってか、やや表情が硬い。そんな雰囲気のなか研修会がスタートした。

 用意したDVDは『第1巻 獣害を止める基本』(96分)。この巻は11のコーナーに分かれていて、好きなものを選んで視聴できる。1コーナーの上映時間は5分から15分ほどだ。

出没するのはハクビシンだけ?

 最初に見たのは「まぎらわしい動物の見分け方」コーナーに収録されているスイカの被害場面。食い荒らし方は動物によって異なり、次の三つのタイプに分けられるという内容だ。

@ 頭を突っ込んで食べるハクビシンタイプ(アナグマも同様)

A 前足で穴を開け器用にくりぬいて食べるアライグマタイプ

B バラバラに壊して食べるタヌキタイプ

 ハクビシンが出るとされるこの地区では、当然@のタイプが多いだろうと予想していたが……、参加者からは意外な反応が返ってきた。

「スイカにポックリと穴が開いてたんでネズミのしわざかと思ってたけど、あれはAのアライグマかもしんねぇな」(写真)

アライグマは爪を使って果実の中身を器用にかきだす(F、第1巻より)。

「うちは@のハクビシンとBのタヌキ、両方出ている気がする」

「いやぁ、うちのハウスは@AB全部の種類が出とったかも!」

 証言だけで獣種の特定はできないが、こうしてお互いの被害状況を出し合うことで、その場の一体感がググッと高まったように感じた。

DVD視聴中に、身近な目撃証言が次々と……

動物たちの運動能力に驚嘆

 次に見たのは「ハクビシン」「アライグマ」など動物別のコーナー(上映時間各10分程度)。外見上の特徴、実際に食い荒らす瞬間など、リアルな動画が数多く収録されている。

 たとえばハクビシンの動きは忍者のよう。8p四方の小さなすきまでも難なくすり抜けるし(写真)、直径1oに満たない細いワイヤーをスイスイ歩くこともできる。

小さな穴を通り抜けるハクビシン(提供:江口祐輔・古谷益朗・加瀬ちひろ、第2巻より)

 はじめて見る動物の行動の数々に思わず「ほー!」と感嘆の声が上がった。

 研修会の終盤に見たDVDの『第2巻 エサとすみかをなくす環境整備』の「家屋にすみつく中型動物の点検と追い出し」もなかなか盛り上がった。

 冒頭で紹介した、あるある話はその反応の一部。ほかにも畑で幼獣を目撃した話や夜道で鉢合わせした話など次々出てきて、和やかな雰囲気のうちに研修会はお開きとなった。

次の対策は環境整備

 その数日後、下条さんはすでに次の対策を練り始めていた。

 「これまでは多面的機能支払の活動で農地周辺の雑木を伐採し、畑の日当たりを改善する環境整備をしてきました。今後は獣害対策を念頭に手つかずのヤブの刈り払いを進め、より動物がすみにくい地域にしていこうと思っています」

 さらには、電気柵を試験的に導入してみたり、被害を繰り返す個体を捕獲するなど、総合的な対策を進めていく構想も描いているという。必要なら関係機関に協力も要請する。そうやって伝統ある産地をなんとしても守るつもりだ。

※『DVD 地域で止める獣害対策シリーズ』の巻構成や内容については215ページ参照

クイズ気分で! DVDを見ながら「獣害対策ミニテスト」

今年の3月、広島県庄原市表水越地区で開かれた獣害対策の研修会では、DVDのナレーションを穴埋め式のミニテストにし、みんなで答え合わせをするというユニークな取り組みが行なわれた。

参加者の感想 「イノシシの電気柵の線の高さは20と40pじゃろ? 研修会から半年たっても内容はよう覚えとる」(9月に聞き取り)

ミニテストの用紙と、参加者の解答例。書くことで記憶に残りやすい、と好評

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