月刊 現代農業
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竹やぶの土着菌(田中康弘撮影)

畑では堆肥やボカシ肥、家では味噌やドブロク、
農家の身のまわりには菌がいっぱいだ。
おなじみのこうじ菌、納豆菌、乳酸菌、
すぐそこにいる土着菌、
自分で探して殖やし、無限に使える。
「金」に囲まれていなくても、
「菌」に囲まれているおかげで、
農家の暮らしはとても豊かだ。

今さら聞けない 堆肥とボカシと微生物の話

藤原俊六郎さん(元神奈川県農総研、元明治大学特任教授)

菌と仲良しの農家の畑は、病気が出にくかったり、土がフカフカだったり、 作物の生育がすごくいい。 もっと菌と仲良くなるための「きほんのき」を、ベテラン研究者の藤原俊六郎さんに聞いた。

図1 「土着菌」はさまざまな微生物の総称

土着菌って、そもそも何菌ですか?

「土着菌」という菌がいるわけではなく、その土地に定着した微生物の総称です。

 土壌中の菌(微生物)を細かく分類すれば数万種類以上になるでしょう。その中で、その地域の環境に適した微生物たちが生き残って「フロラ(菌相)」をつくっています。これが土着菌といわれるもの。非常に多様な微生物の総称です。

 たとえば、土に入った枯れ葉が二酸化炭素と水、ミネラルに完全分解されるには、数百種類の微生物の活動が必要です。中には普段眠っているものもいて、堆肥や作物の根など有機物が入ってくると、目覚めて急激に仲間を殖やしたりします。条件さえよければ、微生物は数十分から数時間で2倍になります。仮に1時間で2倍になると24時間後にはなんと2000万倍にもなるんです。

 土着菌はその環境に適していて、非常に多様で数も多い。だから強いですよ。作物の病原菌が風に乗ってふらりと入ってきても、土着菌がブロックしたり、拮抗作用で殺したりすることもあるわけです。

 多様な土壌微生物がいれば、畑に有機物を入れた時もちゃんと分解され、作物により早く養分を供給することができます。土着菌の中には、有機物を分解するだけでなく、作物の生育を促進するジベレリンやオーキシン、サイトカイニンなど、ホルモン様物質をつくり出す種類の微生物もいます。

土着菌って、やっぱり偉大ですねぇ。

大事なのは多様性。特定のスーパー微生物がいるわけじゃないんです。

 土着菌は土1gに約1億。そして多様だから強いんです。間違っても、なにか特定の微生物に過剰な期待をするのは禁物です。ちまたにはさまざまな微生物資材があふれていますが、遺伝子レベルで調査した結果では、外部から投入した菌は多くの場合、土着菌に淘汰されてしまうことが知られています。土壌微生物のうち、役割のわかっているのはほんの数パーセント。謎が多いだけについつい期待してしまいがちですが、スーパー微生物がいて、それがすべてを解決するなんてことは不可能ですよ。

図2 微生物資材のイナワラ分解力(1993年、神奈川県)

微生物資材と、その資材を殺菌したものとで、それぞれワラの分解効果を比較。ほとんどの資材で殺菌したほうが効果あり。つまり、資材中の微生物よりも土着菌の働きのほうが大きかった。 ※ワラ5gに微生物資材1gと土壌50gを混ぜて30日後の炭酸ガス発生量を調査。資材を入れない対照区の炭酸ガス発生量を100としている。

やっぱり、中には悪い土着菌もいるんでしょ?

土着菌を「良い菌」「悪い菌」と分けるのは、人間のエゴです。

 例えば水はけの悪い土地には、湿り気を好むフザリウム菌などの病原菌が住みついていることがあります。そこに、その環境に適さない作物を植えるから病気になるわけです。土着菌を「良い菌」「悪い菌」と分けるのは、人間のエゴです。  例えばキャベツを長く連作している畑では、病原菌が土着菌のフリをしていることがありますが、キャベツを作付けなければいずれ排除されます。それは、その病原菌が本来の土着菌ではないからです。

62ページの松本さんがいう、河川敷の土着菌はヨシの分解、竹やぶの土着菌は竹やササの分解が得意って本当ですか?

本当です。

 醸造工場では、醸造を得意とする微生物が、容器や壁などそこらじゅうにくっついています。同じように、ヨシが生い茂った河川敷にはヨシの分解に適した微生物が、竹やぶには竹やササの分解が得意な微生物が土壌中にも空気中にもウヨウヨいます。

 堆肥やボカシ肥(ボカシ)の材料に合わせて、その分解が得意な微生物を集めてくるというのは、ひとつの方法として考えられます。

 ただし、たとえば10kmも離れた竹林から集めてきた微生物を、自分の土地の「土着菌」と呼べるかどうかは疑問です。その微生物は、あくまでその竹林に根付いた土着菌だろうと思います。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2019年1月号
この記事の掲載号
現代農業 2019年1月号

特集:農家は菌と仲良しだ
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