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特集1 こっそり読もう 今さら聞けない 土と肥料の話 きほんのき
硫安と尿素の話、熔リンと過石の話編
稲作名人が教える
チッソ・リン酸・カリ・マグネシウム・ケイ酸肥料福島県須賀川市・薄井勝利さん
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硫安と尿素の話、
熔リンと過石の話 編 …… 48ページ
肥料はどうやって吸われる?の話 編 …… 60ページ
pHとECの話 編 …… 70ページ
この春、就農した孫の勝史くんに、溝切り機の乗り方を教える薄井勝利さん(48ページ、依田賢吾撮影)
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親子3代で田植え。左から薄井家8代目の勝利さん、 9代目の吉勝さん、10代目の勝史くんと兄の吉十代くん。薄井家ではイネ5haのほか、リンゴ1.5haもつくる(依田賢吾撮影、以下Yも)
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硫安
アンモニア態チッソ21%、硫黄24%を含む。水によく溶け、土壌に吸着されやすく、作物にもよく吸収される本誌で連載中の稲作名人、薄井勝利さん(80歳)の農園に、将来の後継者となるお孫さんが就農した。この春大学を卒業したばかりの勝史くん(23歳)だ。小学4年から大学まで、野球一筋。高校時代は地元の名門校で4番を張ったほどで、体力、腕っぷしには自信があるが、農業はまったくの素人。「野球で忙しくって、家の手伝いもリンゴの収穫作業くらい」だったそうだ。
そこで今回、農業経験わずか3カ月の勝史くんでも理解できるように、肥料の話をわかりやすーく語ってほしい、と編集部から薄井さんに特別講義をお願いしてみた。
―― 勝史くん、はじめまして。さっそくですが、肥料のことはどのくらい知ってますか?
孫 いや、ホントちんぷんかんぷんです。元肥をまくときに、肥料袋を運んだくらいで、ソフトシリカとか、なんだっけ? 硫……、なんとかってやつとか。
―― あ、硫安ですかね。作業を手伝ったのは元肥だけ? 追肥とかはしてませんか?
薄井 追肥はまだ全然知らないよ。全部オレがやってっから。息子(勝史くんのお父さん)にも教えてない。リンゴの加工(ジュース、ジェラート)と販売で息子は飛び回ってるから、忙しくって教えるヒマがなかったんだな。イネの機械作業はやってもらってるけど、施肥設計とか追肥は全部オレがやってきた。今年は孫が就農したけど、うちの圃場で薄井流疎植水中栽培の全国大会があったから、肥料散布は指一本触れさせていません。みんなにヘタなイネは見せらんねぇべ。
まぁ、勝史に肥料散布させるのは来年からだな。まずは、人目につかない田んぼからだよ(笑)。難しいんだよ、肥料散布ってのは。最初は凸凹のイネができっから。
―― なるほど、予備知識ゼロということですね。かなり教え甲斐がありそうですねー。それでは、薄井さんの施肥設計の表(51ページ)を見ながら、話をすすめていただきましょうか。
薄井さんの施肥例(肥料の量は10a当たりのkg数)
*目標600kg(コシヒカリ)のとき
施用時期 日数 肥料名 現物 N P K Si Mg 元肥 発酵鶏糞 100 2 4.6 3.6 硫安 10 2.1 熔リン 40 8 4.8 シリカ21 140 101.5 塩加カリ 10 6 イナワラ 全量 茎肥 45日前 シリカ21 20 14.5 43日前 過石 10 1.7 硫マグ 10 2.2 40日前 硫安 10 2.1 尿素 2 1 穂肥 30日前 尿素 4 1.8 実肥 7日前 シリカ21 20 14.5 5日前 過石 10 1.7 硫マグ 10 2.2 1日前 尿素 2 0.9 味肥 10日後 シリカ21 20 14.5 12日後 過石 10 1.7 硫マグ 10 2.2 合計成分量 9.9 17.7 9.6 145 11.4 チッソってなに?
硫黄ってなに?チッソと硫黄はイネの体を大きくする
薄井 まず、この表を見て、チッソ肥料はどれかわかっか?
孫 えーと、さっきの硫安と、あとなんだっぺ。この硫マグかな?
薄井 硫マグは、硫酸マグネシウム。チッソでなくて、マグネシウム肥料だな。うちではアジノールっていう名前の肥料を使ってるべ。あとは、尿素って書いてある袋が倉庫にあるだろ? それがもう一つのチッソ肥料。
じいちゃんはチッソのことを「肉付け肥料」って言ってるんだ。植物が生長する上でなくてはならない肥料。人間でいうと肉とか魚。タンパク質だな。
孫 ふーん。じゃあ、硫安と尿素はどう違うんだ?
薄井 タンパクをつくる原料がチッソなわけだけど、もう一つ非常に重要なのが硫黄という成分。これが入っているかどうかが大きな違いだ。硫黄ってのはわかるか?
孫 温泉とかで臭ってくるやつだべ。
薄井 そう。日本は火山国だから、土の中に硫黄分はあるわけだ。だけど、ふつうより上級なイネをつくろうとすれば、土の中にあるだけでは足りない。だから肥料で与える。硫安はチッソと硫黄を含むから、イネの葉っぱを大きくしたり、分けつをたくさん増やすためには非常に優秀な肥料なんだな。
元肥の硫安は代かき前に、水の上からまけ
薄井 代かきの直前にオレが水の上から動散で肥料をまいてたのを覚えてるか? あれが硫安だ。ふつうの人は、荒起こし前の乾いた状態の田んぼにチッソ肥料をまくんだども、その場合はな、じいちゃん見てて、チッソの半分くらいは逃げていってると思うぞ。みんな、元肥でうちの3倍くらいのチッソを入れてるけども、うちの3倍の生育にはならない。なぜなら、硝酸態チッソになって逃げてくからなんだ。
孫 しょうさんたい……チッソ?? 逃げる?
薄井 チッソにもいろいろ種類があってな、イネはアンモニア態チッソを吸う植物だ。硫安の「安」は、アンモニアの「アン」。アンモニア態チッソを乾いた土にまくと、土の中の硝酸菌という微生物に分解されて、硝酸態チッソに変化するんだ。だから、水を入れる前に元肥のチッソを入れても、多くはイネの吸えない硝酸態チッソになってしまう。イネに吸われないまま、水で流されてしまうというわけ。これだと肥料の無駄遣いだべ。
逆にいうと、元肥にチッソを5kg入れても、3kgくらいしかイネに効いてないから、稲作は成り立ってるってことだ。ホントに全部効いたら、まだ幼稚園児みたいな幼いイネに焼肉ばっかり食べさせてるようなもんだべ。肥料分が逃げてちょうどいいんだな。
孫 じゃあ、一番得するのは、肥料会社ってこと? 逆に、水を張ってから硫安をやれば、逃げないってわけ?
薄井 酸素のない状態では硝酸菌が活動できなくなるからな。アンモニア態チッソは分解されずに、水に溶けてプラスの電気を帯びた状態になる(次ページの図)。一方で、土はマイナスの電気を帯びてっから、プラスのアンモニア態チッソが吸着されるんだな。静電気で髪の毛がくっつくのと同じようなもんだ。硝酸菌に横取りされずに、土にくっつかせたいから、じいちゃんは水を入れてから硫安をふるわけだ。
ちなみに、硝酸態チッソはマイナスの電気を帯びるから、土にはくっつかない。水で簡単に流されてしまうわけだ。
孫 へー、そんなことまで考えてやってるんだ。
薄井 代かきのときは、じいちゃんが1、2時間前に、水を張った田に動散で硫安をふって、それからオヤジがトラクタを走らせたべ。オヤジは代かきするのに水が多いからって、水を抜いてたのを覚えてっか? 普通の農家は「せっかくまいた肥料が流れちまう」って心配すっけども、アンモニア態チッソは逃げない。土にくっつくのは、それくらい早いんだよ。
チッソが土にくっつくとき、くっつかないとき
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子どもの頃は硫安、成人式を過ぎたら尿素
孫 へー、よくできてるもんだよなー。じゃあ、尿素はどういう肥料なわけ?
薄井 さっきの話に戻るけども、尿素には硫黄が入っていない。だから、イネの体の大きさが決まってからやる。子どもの頃は硫安、成人式を過ぎたら尿素だな。人間も育ち盛りには脂の多い肉が好きだけど、大人になるとさっぱりした魚を好むようになるべ。イネも栄養生長から生殖生長に変わったら、体を維持していく分だけのタンパク質でいい。硫黄については土の中に含まれる分で足りると考える。
それと、チッソ肥料としては、元肥で入れる鶏糞もある。これは有機質だから分解されるのにもっと時間がかかる。じいちゃんの田んぼは深水にするから、初期に鶏糞の肥効はほとんど出ない。水を落としてからじんわり効いてくる。まぁ、鶏糞のチッソはイネに与えるというより、土壌微生物が食べるエサとしてやってるイメージだな。
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尿素
尿素態チッソ46%を含む。水にきわめてよく溶ける。施してもすぐには土壌に吸着されず、2日ほどで炭酸アンモニアに変わって吸着される※ネットで公開しているのはここまでで記事はまだ続きます(以下の小見出し参照)。
詳しくは本誌をお読みください。<記事後半の見出し>
ク溶性・水溶性ってなに?
リン酸でイネをギュッと締まった体に
マグネシウムは葉緑素の中心元素
カリはトラック
茎元に集まった栄養をカリが運搬
ケイ酸が骨格をつくる
葉っぱで指先が切れるのは、ケイ酸の仕業
百姓の科学の答えはイネの姿にある
この記事の掲載号『現代農業 2017年10月号』巻頭特集:今さら聞けない土と肥料の話きほんのき/ザ・菌力アップ2017/石灰をバッチリ効かせる/耕作放棄地に挑む/排水を絶対よくする/酢で乾燥に強くなる/土壌還元消毒/ケイ酸&鉄で田んぼの地力アップ/果樹改植、植え穴から元気に/肥料をラクに手散布する方法/鶏糞のある農業 ほか。 [本を詳しく見る]