現代農業1999年5月増刊
『自給ルネッサンス』 
 縄文・江戸・21世紀

【編集後記から】

 本増刊号のタイトル『自給ルネッサンス 縄文・江戸・21世紀』の意味するところは、少しい分かりにくかったかもしれませんが、編集部では次のように考えています。
 つまり、私たち日本人が、20世紀の反省を込めて21世紀に伝えるべきものは、縄文時代から高度経済成長期までの農山漁村に営々と続けられてきた山・川・海との関係における自給=人間と自然との関係における自給の文化であり、また、江戸時代にはすでに完成していたとみられる村の相互扶助=人間と人間の関係における自給の文化ではないかということです。
 このふたつの自給は、貨幣経済では最も表現しにくい分野に属することがらです。だからこそ、20世紀産業社会においては効率の悪いもの、価値の低いものとして忘れ去られようとしてきました。20世紀産業社会の原理、すなわち貨幣経済の原理からすれば、農山漁村は都市に比べて非効率で、住みにくいところかもしれません。
 しかし、米の自由化という、経済合理一色の価値判断が最終的に農山漁村に押しつけられようとした80年代ころから全国の農山漁村に自発的に現れてきた一万数千カ所の朝市・直売所には、多様な山・川・海の産物が田畑の産物以上に並び、その朝市・直売所の成功の上に、女性・高齢者自身による独り暮らし高齢者への給食サービスやヘルパー派遣活動などが始まっています(前増刊号「帰農時代」参照)
 それらの動きは、山・川・海との関係における自給、人間との関係における相互扶助があってこそ、農山漁村は農山漁村らしく輝き、暮らしよくなるということに、多くの人々が気付き始めたことを表しているような気がしています。
 現代は、人々がエコノミーだけでは生きていけないことに気づき、コミュニティや自然との関係を含むエコミュニティの大事さに気づき、それをどう取り戻すかの壮大な試みが、いっせいに、自発的に始まった時代なのではないでしょうか。


(現代農業増刊号編集部 甲斐)

 


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