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農文協増刊現代農業>なつかしい未来へ_編集後記

なつかしい未来へ 農村空間をデザインし直す

現代農業2004年11月増刊

【編集後記】

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 誤解を招く表現かもしれないが、この号の編集を終えて「そもそもむらには『農業』は存在しなかったのではないか」と考えさせられた。農業だけではない。むらには建設業も、商業も、それ単独では存在していなかったのではないか。たとえば54頁の福島県大内宿では、じつに見事に「むらの形」が維持され、生かされている。そこには農業もあるが林業も建設業も商業もあり、年間70万人の観光客を迎えてなお、「地についた山村の暮らしの上に、流動的な観光が成り立っている」と、観光業への特化を自ら戒めている。さらに154頁の「むらの副業地図」。半農半漁の上にそれぞれが副業をもち、なかには「豆腐屋・石屋」「大工・産婆」という家もあり、副業ではなく「複業」の観すらある。

 ふり返れば地域に「業種の壁」が持ち込まれたのは高度経済成長以降。以来、農業は農業のみ、建設業は建設業のみ、商業は商業のみの発展の向こうにそれぞれの未来像を思い描いてきた。だが本誌2月号『土建の帰農』で福島県只見町の吉津耕一さんが「かつて農業や農村を守り発展させた土木建設業が、農家の生活や農村の景観を破壊するようにまでなってしまった」と述べていたように、農業や建設業など、それぞれの専業化と、その「業種の壁」のなかでの経済合理の追求が、かえって「むらの形」を壊し、地域を暮らしにくいものにしてきたのではなかったか。そしてしだいに「わが業界をめぐる情勢はきびしい」と頭を抱えるようになってきたのではなかったか。

 しかし、いま、「業種の壁」を越え、「さまざまな業種がお見合いをし、相互に信頼関係で結びつき、それぞれ持っている知恵や情報、販路などを交換・共有する動き」が各地で始まった(222頁)。そこでは、間伐材や畜産廃棄物などそれぞれの「業種の壁」のなかでは「役に立たない」「困った」存在とされてきた「あるもの」の価値さえ見えてきて、馬場浩史さんが26頁で述べている「あるものを大事にすることから生まれる日本の美」=「美しいむらの形」の再生も始まっている。     (甲斐良治)

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