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農文協増刊現代農業>おとなのための食育入門_編集後記

おとなのための食育入門 環を断ち切る食から、環をつなぐ食へ

現代農業2004年8月増刊

【編集後記】

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「食の安全安心」が叫ばれて久しい。だが、安全と安心はイコールだろうか? たとえば、農水省のある諮問委員会で大手外食チェーンの会長は、「安全は客観化数値化できるが、安心は主観的なもので数値化できない。そうした言葉は行政用語として採用すべきではない」と述べている。一方で、盛岡市の直売所「ちいさな野菜畑」の代表・小島進さんは、「安全と安心は本来対立する概念。安全を疑えば疑うだけ不安感が強くなり、安心は得られない。安心は関係性がもたらす信頼感。それは人と人との関係のなかで生まれるもの」と、述べている。両者の違いは、食をたんなる「商品」とみなすのか、あるいはお金ともののやり取りを超えた「人と人、人と自然をつなぐもの」とみなすのかの違いであろう。

 養蜂家・藤原誠太さんに「花はミツバチの分までミツや花粉をつくり、ミツバチはクマの分までハチミツを貯える」という話を聞いたとき、「ならばそれをいただく人間は、『食』を通してどんな役割が果たせるのか?」と自問したのが今号の企画の出発点。

「安全安心」も大事なことには違いない。だが私たちは、その「結果」のみにとらわれ、自然のなかで生きもの、つまりはいのちを育てる人のみが知り得、語り得る、人と自然、人と人のつながりの物語に耳を傾けることなく、食料不足の時代は「収量」を、食が満ちてくれば「品質」を、それも満たされたら「安全安心」「有機無農薬」という「記号」が示す結果のみ求めてきたのではなかったか。土から離れた不安、食の全体性から遠ざけられた不満……。食でつながる人と人、人と自然の関係は、本来もっと豊かで創造的なものであったはず。まちとむら、食と農とが近づけば、「食の商品化」で断ち切られた「自然―農―食―人間」の豊かなつながり全体の環を取り戻すことができる。今号に掲載の「食話会」「食の文化祭」そして「まちとむら、ときおりの行き交い」の数々は、そのことを存分に語っている。私たちは、食のつくり手の声に耳を傾け、何をどう食べるかで、自然を守る人につながり、そして自然につながることができるのだ。    (甲斐良治)

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