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農文協増刊現代農業新ガーデンライフのすすめ_目次>宮城県宮崎町「食の文化祭」2002_01

新ガーデンライフのすすめ 庭、里山、鎮守の森

現代農業2002年5月増刊

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1999年11月、第1回「宮崎町・食の文化祭」がひらかれた。

 圧巻だった。体育館いっぱいに800品の家庭料理が並んでいた。ひとつひとつはどれもふだんのあたりまえの食事なのに、集まってかもし出す強い力が見る者を圧倒し、やがて幸福な気分に誘った。食の原点は家庭の食卓にあり。誰もが深くうなずいていた。

 2年目の「食の文化祭」。ふだんの食の力は更なる広がりを見せた。出品数1300品、12歳から92歳までの女性たちの食に寄せる思いが熱気となって会場を包んでいた。そして会場にはこんなメッセージが掲げられていた。

「ようこそ宮崎町へ。ときあたかも20世紀最後の年。私たちの宮崎町民は何を、どう食べてきたのか。そして次の時代に何を伝えたいと願っているのか。どうぞその心を受けとめてください。そして食はコミュニケーション。どうぞおしゃべりの輪をひろげてください」。

それにこたえるかのように来場者1万人にふくれあがった会場ではいくつもの笑顔の会話がくりひろげられていた。

 新世紀を迎えた2001年の第3回目は、これまでの出品作を分析分類し14のテーマごとに展示した。もち料理、お米料理、大豆・豆料理、いも料理、行事食、漬物、山菜・きのこ料理など、子供たちの料理コーナーも人気を博した。しかし長蛇の列が出来た人気のメニューは28種類、11,000食の試食コーナー。

「見るだけでは物足りない、味わってこそ食文化」という来場者の声に町民自身がそれにこたえた。食はまさにコミュニケーション。町民同志の地域のきずな、連帯感が本物になってきた。

さて、今年2002年。「宮崎町・食の文化祭」はどんな展開をみせるのか。現在計画されている概要を列記するならば――

その(1)、これまで年に1回開催されていた「食の文化祭」は今年、四季の食文化祭として生まれかわる。すなわち春・夏・秋・冬の開催である。

その(2)、食文化を料理だけにとどめず、食を育む風土や自然、生産空間などのバックグラウンド全体を味わってもらおうという試み。すなわち宮崎町全体が「食のエコミュージアム」になる。

その(3)、それらを案内しながらもてなすのが地元の「食の学芸員」。例えば春の山菜は山菜取りの名人たちが来場者を野山に案内し、地形・地質・水や風や光と山菜の関係を説明しながら採取のマナー、食べ方、アクのぬき方、保存の方法を伝授。もちろん取りたての山菜をその場で野外料理して味わうプランも検討中である。宮崎町の自然を知りつくした山野のファーブル、田園のファーブルの出番である。

その(4)、家庭料理の出品はもちろん行なう。だが宮崎町の5月は田植えや種苗の作付けで皆忙しい。だから無理はしない。しかし県下有数の山菜の宝庫、宮崎町。春の季節料理の出品に手ぐすねを引いて待っている町民は多い。

その(5)、新しい「宮崎町・四季の食文化祭」は3年間の実績を積み上げて料理だけではなく、町全体が食空間という考えで展開される。そのメインステージは28の集落のイグネの庭である。

宮崎町は今なお地域の互助組織、講や結の精神が生きている町。人々は何かにつけて、助け合い協力し合ってきた。そしてそのたびごとに料理をもちより、それを大皿に盛り合わせ食べることを楽しんできた。これを「とりまわし」と呼ぶが、時まさに田植えのシーズン。

四季の食文化祭が開催される5月19日(日)はすべての家々の田植えが終り、「おさなぶり」が各地区で行われるだろう。

イグネの庭にムシロを敷いて、山菜汁とおむすび、そして色とりどりの「とりまわし料理」。餅をつく集落もあるかもしれない。ソバをふるまう集落。田植えの「植え上げ膳」も復活するかもしれない。町場では飲食店がこの日のために春のスペシャルメニューを用意し、菓子屋は春の菓子とお茶。豆腐屋はとびっきりのうまいと豆腐料理をふるまうかもしれない。苗が植えられたばかりの水田に白い雲が映え、あぜにたくさんの山野草も歓迎するだろう。宮崎町はすべて食べられる景観にあふれ、もてなしの心で人々をむかえる。

 2002年、5月19日(日)、宮崎町に新しい庭の力、人の力がよみがえる。

――結城登美雄「庭先の地元学 備えのある風景の美しさ」(『新ガーデンライフのすすめ』)より


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