合理的農業の原理(全3巻):アルブレヒト・テーア著

翻訳書刊行に当たって

「近代農学の始祖」テーア

アルブレヒト・テーア(1752〜1828年)は、「近代農学の始祖」として世界的に評価されている、ドイツの農学者である。日本でも、『農学原論』(柏祐賢著)『農学概論』(野口弥吉著)などで、経済を中心に技術も含めて農学を総合化、体系化し、独立の科学として確立した人として紹介されている。

「有機栄養説」と「輪作の原理」を確立

また、テーアは、植物の栄養は「腐植(フムス)」であるという「有機栄養説」と、有機物の循環による地力の再生産を基本に「輪作の原理」を確立したことでも知られている。そのため、現代のヨーロッパでは有機農業のバイブルとして再評価されており、また有機農業の国として有名なキューバの農業はテーアに学んでつくり上げられたという。

「農学の戻るべき原点」として

明治以降、日本の農学は西洋農学の影響のもとに発達してきた。しかし、これはテーアの有機栄養説を批判して登場した、リービッヒ(1803〜1873年)の「ミネラル学説」以降の「科学的農学」である。現代ではその「科学的農学」の矛盾があらわになり、「持続可能な農業」への転換が大きな課題になっている。
そんな現代に、テーアは近代をどうとらえ、どんな農業・農学をえがいていたのか、近世「農業革命」期の第一級の資料でもある本書から、その自然観、農業観とともに、農学の戻るべき原点として学ぶ意義は大きい。

具体的、実践的ヒントも与えてくれる

テーアは自ら農場を経営した農業者であり、実学に重きをおいた教育者でもあった。そこでの実践で試された知識をもとに執筆したのが『合理的農業の原理』である。そのため、記述は非常に具体的、実践的であり、当時の農学の到達点や農業経営・技術の実態をリアルに知ることができ、現代の農業、農学に実践的なヒントを与えてくれる。

21世紀の農業・農学を切り開く「世界の古典」として

『合理的農業の原理』は1809〜1812年に刊行されているが、ちょうど日本の江戸時代後期に当たる。そういう点では「西洋の農書」であり「世界の古典」である。日本の江戸時代の「農書」とともに、21世紀の農業・農学を創り上げるために何を学び引き継ぐのか、多くの方々に活用していただけることを願うものである。

〔江戸時代『日本農書全集』(第1期35巻、第2期37巻 農文協刊)についてはこちらを参照下さい〕