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農文協トップ主張 2017年11月号

むらに農産加工があってよかった

 目次
◆直売所の弁当・惣菜は儲からない!?
◆1次加工+保存の技術で「働き方改革」
◆加工は生きがい、たとえ赤字でもやめない
◆新しい加工の担い手が続々
◆賃金に勝る幸せ
◆全員出資金方式、独立採算制もおもしろい
◆アジアの国々にも農産加工を

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直売所の弁当・惣菜は儲からない!?

 秋真っ盛り、直売所が一段と賑わう季節である。野菜や果実、そして新米も。だが、こうした田畑から直行の産品だけでなく、とくに昼時が近づくと、地域の農家がつくる弁当や惣菜が楽しみという方も多いのではないだろうか。

 弁当・惣菜というのは、じつは売る側にとっては利益を上げるのが難しい商品なのだそうだ。台所仕事の延長でたやすく製品化できるが、参入しやすいだけに農産加工どうしの競争がある。スーパーの弁当・惣菜コーナー、コンビニ、持ち帰り弁当チェーンなどとの競合もある。店としては売りになる商品なので、ぜひ置きたい。しかし、加工して売る側にとっては売り上げを伸ばすのがたいへん。賞味期限が短いから売れ残りロスが増えるリスクもある。

 広島県三次市の集落営農組織、農事組合法人「ファーム紙屋」もそんな事態に直面している。

「加工に本腰を入れ始めたのは3年前。転作田があるから野菜をつくって、捨てるようなものを漬物にするところから始まった。つくるのはうまいが、私ら農家の人間は売ることを知らない。毎年350万〜400万円の売り上げで、人件費200万円、材料費(法人からの仕入れ)150万円、販売手数料や光熱費を入れると、5年間で累計300万円ほどの赤字を出した。これから5年間でこの赤字分を取り戻したいと意気込んでいるが、いかんせん儲からない」

 そう話すのは、加工部長を務める西口譲二さん(65歳)。漬物から始まったファーム紙屋の加工品は弁当・惣菜の比重を高めてきた。アスパラの規格外品を活かしたアスパラコロッケはそこそこヒット。地元の直売所に出す弁当も1日10パック程度は売れている。だが、個人でやる加工と違って、法人の複数のメンバーで取り組む加工は、どうしても人件費が高くついてしまうのだ。

 この20年、農産加工は直売所の増加とともに伸びてきた。集落営農法人が経営を多角化して加工部門を持つところも増えている。「加工はいける」。そう思って始めたが、期待したほど利益が出ないという実態があるようなのだ。

 ここから一歩先に進むには何が大事なのか。コストダウンの解決策にもふれながら、むらに農産加工がある意味をもう一度考えてみたい。

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1次加工+保存の技術で「働き方改革」

 福岡県大野城市の?職彩工房たくみ代表・尾崎正利さん(47歳)は、自分でもジュースなどの受託加工をしながら、各地の農産加工のコンサルタントなどをしてきた方だ。尾崎さんは弁当や惣菜についてこんな見方をしている。

「弁当・惣菜というのは『調理と加工の境界』にある分野だ。いくら料理上手が揃っても、毎朝早起きして一からつくっていてはうまくいかない。原材料をまとめて買い、1次加工と保存の技術を組み合わせて、集中してつくれるものは集中して作業し、それを後で引っ張り出して使うという方法をお勧めしたい。作業労賃を下げる効果も、ロスを減らす効果もある」

 たとえば、昆布と大豆を炊き合わせたものを、弁当のおかずの一つにする場合を考えてみよう。これをまとめてつくっておき、ラミネートパックに小分けして、85〜90℃30分の加熱殺菌処理をして冷蔵・冷凍すると、1週間や10日分の弁当のおかずが一品できる。弁当をつくるたびにこれを取り出して使うと、忙しいときと暇なときが平準化され、まとめてつくる効果でコストを減らせるというのだ。和え物や揚げ物と違って、味を含ませる煮物などは1次加工して保存したほうが味も染みておいしくなるという。

 尾崎さんが提案する1次加工と保存の組み合わせは、いわば農産加工の「働き方改革」だ。農家にとって野菜や米は手元にある。規格外品も活かせる。足りないものは近所から安く買える。それを加工すれば当然利益が上がりそうだ。個人が取り組む加工なら確かにそうなのだが、人を雇ったりグループで加工する経営になると人件費を考慮しなければならない。規模が大きくなり、つくるものが複雑になり、仕入れの割合も増えてくると、作業の進め方しだいで生産効率やコストが変わってくるというわけだ。

 1次加工と保存の組み合わせは、人件費だけでなく材料費を安くする効果もある。今の季節ならたとえばユズやリンゴ、春ならタケノコや山菜。ユズは湯通ししたうえで、果汁と皮、ワタを分けて真空パックして冷凍、タケノコは水煮にしたうえで、酢水でさらに炊き、新しい酢水といっしょに真空パックして冷蔵庫へ。これで、季節性の高い地元の素材を通年で使える。尾崎さんによると、タケノコがたくさんとれる地域なのに、弁当・惣菜にタケノコが入っていない、あるいは店で買ってきた水煮タケノコを使い、余計な出費をしながら加工しているような例が意外に多いという。

 これは個人の加工でも役立つ技術だろう。まずは庭で黄色くなっているユズ。これを通年で活かすことを考えてみてはどうだろう。

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加工は生きがい、たとえ赤字でもやめない

 さて、先ほどのファーム紙屋の西口さんも、尾崎さんからこんな話を聞いて赤字減らしの作戦を練っているところなのだが、5年間で累計300万円の赤字を出しても、法人内の誰も加工をやめろとはいわないという。

「『今日仕事があるよ』と組合員に一声かけると、お年寄りたちが朝から生き生きした顔で加工所に来る。年金以外に2万円でも3万円でも支払うことができれば、そんなに莫大な利益が上がらなくても生きがいづくりになる。みんなが農業に関わるしくみをつくることが法人設立の目的だった」からだ。だから、やめるわけにはいかない。なんとか利益が上がるようにしたい。

 農水省が、農家や農協が取り組む6次産業化について調査したデータがある。2015年度の全体の販売額は1兆9680億円で前年に比べ5.4%増、4年連続で前年を上回っている。その内訳は直売所の運営が9974億円で前年比6.6%増、もう一つの大きな柱が農産物の加工で8923億円、同じく前年比4%増(6次産業化総合調査、2017年6月27日公表)。経営の細部を見れば人件費の課題などはあっても、農産加工は拡大を続けている。

 一方、こんなデータもある。加工に関わるのは女性だけではないが、農家の女性による起業数は1万件弱でこの10年近く横ばい。その4分の3が農産加工である。起業形態別に見ると、グループ経営による起業が少しずつ減っている一方で個別経営による起業が増加し、2014年調査では初めて比率が逆転した(グループ4641件、個別4939件、農村女性による起業活動実態調査)。グループ経営は平均年齢60歳以上の経営体が4分の3と、個別経営より高齢層の比率が高いことが特徴だ。近年のグループ経営の減少は、高齢化が一段と進んで引退する人たちが出てきたと推測される。

 これは、グループ内に後継者が育たず解散したということでもあるが、同年代の気心の知れた女性グループが、農産加工を生きがいとして満喫した末に引退したと見ることもできるだろう。

 引退する人がいる一方では、新しく加工を始める人も増えている。

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新しい加工の担い手が続々

 田畑を荒らすイノシシ(山くじら)の特産化で一躍注目されるようになった島根県美郷町。町では3年前から尾崎正利さんを講師に連続加工セミナーを続けている。参加者は50人にもなり、その中から加工の担い手が育っている。

 高橋浩子さん(75歳)は、加工セミナーから生まれた都賀西フレンドリーグループの代表だ。保育園の園長をしていた高橋さんは、料理は得意だが、自分で値段をつけて商品をつくることなんて考えたこともなかった。受講の動機も「料理の腕が上がればいい」というくらいだった。しかし、地元には加工すると面白い素材がたくさんあることに気づいたという。いま商品化しようと思っているのは、近所の庭先や畑に放置されているハッサクでつくるゼリー。また、尾崎さんに教わってつくるようになったタケノコの水煮は、直売所で飛ぶように売れているとのこと。いっしょにセミナーに参加した夫の龍夫さん(77歳)のほうは、手づくりの味噌を売り始めた。おかけで20aの耕作放棄地が味噌用の大豆畑になったそうだ。

 山根信子さん(64歳)も加工セミナーに参加して背中を押された一人だ。昨春、自宅の脇に個人でお菓子づくりの工房を建ててしまった。もともとお菓子をつくるのが大好きだったという山根さんは、04年に役場を早期退職し、隣町の教室に8年通って様々なお菓子をマスターしてきたとか。なかでも一番のお気に入りはシフォンケーキで、加工セミナーで1次加工・保存法を習ったユズのシフォンケーキが人気商品になっている。

 勤めを退職しても、体はまだまだ元気だし、新しいことを始める意欲もある。そういう人たちが、イノシシ肉の他に町の特産をつくろうという役場の呼びかけに反応したようだ。受講者の中には、転作田で栽培した菜の花やヒマワリの油でドレッシングを商品化した女性もいる。加工を始める人が増えることで、耕作放棄地や転作田、庭に放置されたハッサクやユズから特産品が続々と生まれつつある。

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賃金に勝る幸せ

 農産加工には、それまで放置されていたものから商品が生まれたり、農産物の付加価値が増して新しい仕事ができる喜びがある。続けていくには生産効率を高めることも大事、そこから得る収入・利益も大事なのだが、当の本人たちは賃金以上の価値も感じている。

 5年前に新潟県上越市で就農した鴫谷幸彦さん(39歳)は、イネや野菜をつくりながら、地域の母ちゃん3人が続けてきた農産加工所に夫婦で加わった若手の農家だ。

「農繁期は田んぼで仕事をし、ちょうど手が空く夏場にナスの漬物、農閑期の冬場にハクサイの漬物と味噌を仕込むことができ、稲作との相性は抜群です。また加工品の材料を自分で栽培することで、商品に付加価値をつけたり、農業収入につながったりするところも気に入っています」

 そう話す鴫谷さんは、「格差社会」の解消を説く政治家が「最低賃金(時給)1500円、8時間労働」を実現しようと話すのを地元で聞いて違和感を持ち、こんなことを思ったという。

 ――加工所での自分たちの仕事は最低賃金ギリギリ。それを1500円にするのはとても無理。でも、自分たちは十分に幸せを感じている。加工所のおかげで農業の形も定まってきた。3人の母ちゃんが守ってきた加工所は、自分たち移住者の受け皿の役割も担い、加工品の原材料となるナスやカボチャを栽培してくれる地元の農家を増やし、加工所の稼ぎが地域で循環するようになってきた。「そしてなにより、これだけ愉快な母ちゃんたちと一緒に仕事ができることが、僕たち夫婦の幸せかもしれません」というのだ。

 農産加工はひとりでもできる。だが、全国でたくさんの女性グループが加工を続けてきたのも、みんなでいっしょに働くことの楽しさがあったからではないだろうか。むらに一軒加工所があると、仲間の野菜を材料に稼ぎが地域で循環する。お客さんに喜ばれ、地域の人にも喜ばれる。加工は、ともに暮らす人たちがお互いに支え合う力となる。

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全員出資金方式、独立採算制もおもしろい

 地域の女性が集まった仲良しグループの加工だと、仲がいいゆえに遠慮が出て言いたいことが言えない、経営面が心配、という言い方もされる。では、こんな形態ならどうだろうか。

「集落営農や女性グループなど複数のメンバーで取り組む場合は、人件費(労賃)が高くつきます。中には地域の最低賃金を下回る額しか支払えず、継続が困難な加工所も多いと聞きます。私たちのグループの場合は、メンバー14人全員が出資者となり、平等に20万円ずつ出し合いました。時給にすると地域の最低賃金をわずかに下回っていますが、出資金方式なら、みんながオーナーなので責任感もあるし最低賃金の規制を受けません」(福岡県古賀市・農村加工所まんま実〜や)

「東山パレットの加工部は時給制ではなく、独立採算。3人ずつの班が2班交代で、朝4時過ぎに出勤します。まんじゅう・もち・山菜おこわ・寿司などをつくって、農協の直売所で販売。売り上げから経費を引き、残りを3人で山分けする形です。(中略)この形なら、われわれのヤル気次第。法人本体にとっては『加工で赤字』ということにはなりません」(大分県別府市・(株)東山パレット加工部)

 どちらの形も、仲間どうし集まっていても一人一人が「経営者」だ。メンバー間や法人との間で雇用関係はない。

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アジアの国々にも農産加工を

 さて、ここまで紹介してきた事例は、本誌と同時発売の姉妹誌『季刊地域』31号(2017年秋号)の特集「農産加工 上手に稼ぐ、続けていく」で取り上げたものだ。ここで取り上げた以外にも、自らの工夫で仕事をおこし、加工で地域を変えた人たちがたくさん登場している。そして、尾崎正利さんが伝授する農産加工の「働き方改革」のための技術もたっぷり紹介している。ちなみに、政府が進めようとしているのは「働かせ方改革」、いや「働かせ方改悪」という指摘もあるようだが、こちらは正真正銘、自らの工夫で儲けを増やすための改革だ。

 最後に、同じく『季刊地域』の特集に登場する方から取材後に聞いた話も含めてもう一つ。

 宮城県大崎市の浦上和子さん(66歳)は、舅さんと姑さんを同時に介護することに追われ、畑で虫食いになってしまった野菜に「命を与えたいと思った」のが加工を始めた原点。最初は、農協の加工施設を借りて若妻会のみんなで始めた。だが、儲かったおカネで温泉旅行に行って終わってしまうのに満足できず、物置を改造して自前の加工所を持った。当初は一人だったが、今では商品の数が50点近くに増え、雇用する大勢の母ちゃん、ばあちゃんといっしょに働く加工母ちゃんだ。

 その浦上さんのところに、先日、インドからお客さんが4人来た。農地の基盤整備を視察するついでに案内されたようなのだが、浦上さんの農産加工にたいそう興味を持ったらしい。鉄筋コンクリートの立派な建物ではなく、木造で手作りの加工所。ここで年間4000万円を稼ぎ、地域に雇用を生み出し、30代から80代までの女性が、10人も15人もわいわいと楽しそうに仕事をしている。これならインドでもできるのではないかと話していたそうだ。

 農産物の輸出もいいが、日本の農業が誇りを持って「輸出」するとしたら、それは「直売所」や「農産加工」の手法ではないか。相手国の農家には喜ばれこそすれ、迷惑をかけることはない。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年11月号
この記事の掲載号
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