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農文協トップ主張 2017年10月号

地力低下を共同の力で防ぐ
耕作放棄地活用と「田んぼで増収」

 目次
◆稲作の「四重苦」に地域ぐるみで立ち向かう
◆ケイ酸が多いモミガラ、竹活用で食味を上げる
◆飼料米を土づくり、耕作放棄地活用に活かす
◆ススキ(カヤ)がケイ酸を吸い上げ土をつくってきた
◆耕作放棄地活用と「田んぼで増収」は平和への貢献

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 今月号「肥料・土つくり特集号」では、「ケイ酸&鉄で田んぼの地力アップ」と「耕作放棄地に挑む」という小特集を組んだ。低米価、田んぼの集積・規模拡大が加速するなかで、土づくりのための労力や金をかけられないという状況が続き、田んぼの地力低下が問題になってきた。そんな事情のもと、一方では「耕作放棄地」も増えてきた。

 この打開は個々の農家では難しい。だから地域で共同する。耕作放棄地もみんなで工夫すれば、単なる荒地ではない大きな価値が見えてくる。

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稲作の「四重苦」に地域ぐるみで立ち向かう

 水を溜める田んぼは地力の消耗が起きにくいとされてきたが、近年では水田転換、畑地化のなかで有機物、地力チッソが減少し、これによるダイズ収量の低迷が問題にされてきた。それでは、イネが育つ田んぼの土は今、どうなっているのだろうか。

 山形大学農学部の藤井弘志さんは、「低米価時代の地力低下に挑む」(248ページ)で、「全国各地の水田土壌の地力低下は一刻も猶予できない状況にまで来ているのではないか」と述べ、現在の稲作は以下の「四重苦」にさらされた状態にあると指摘している。

【一つめの苦】農業機械の大型化と浅耕により踏圧が増大しており、土壌の透水性を低下させている。

【二つめの苦】ケイ酸資材の施用不足などにより、土壌のpHが低下する。秋から春にかけて土壌微生物の活性が弱まり、生イナワラの分解が遅れることで、湛水条件下における強還元土壌が生成される。有機酸や硫化水素などの発生が助長され、根量を減らし、根の活力を低下させる。

【三つめの苦】堆肥や有機物の施用が省略されて、地力チッソが低下。食味指向により施肥チッソも減少しており、栄養不足からくるイネの後期凋落現象が起こっている。

【四つめの苦】ケイ酸資材施用量の減少などにより、ケイ酸供給量が減少して葉身の光合成能力が低下している。

 この四重苦によって収量は不安定化、品質・食味は低下。稲穂の基部での未熟粒の増加や、玄米の厚さが薄い「やせ米」の増加といった形で、その影響が現われているという。

 山形県のJAあまるめでは、この藤井さんからの助言も受けながら、「一刻も猶予できない」状況を打開しようと、山形県、山形大学、全農、JA、組合員の「五位一体」となった運動を展開、この様子をJAの相蘇弘道さんに報告いただいた(233ページ)。

 きっかけは、平成23〜25年の管内うるち米の平均反収が534kgと低迷したこと。昭和50年代の平均反収600kg以上からは考えられないような数字だ。この要因究明のため740カ所の土壌分析を実施した結果は、水田土壌の平均pHが5・2と、山形県の目標である5.7を大きく下回るものだった。土壌pHの低下による悪影響は先の「二つめの苦」のように土の微生物活性を低下させ根腐れや根の活力低下を招く。実際、管内全集落を対象とした「土づくり座談会」では、(1)砂壌土でもワキの強い圃場がある、(2)初期生育が確保できなくなった、(3)昔のような土の匂いがしなくなった、といった声があがった。

 こうして、地域ぐるみの運動が始まった。pH改善のためにアルカリ分が高く、溶けやすい鉄分・ケイ酸分を多く含み、比較的安価で散布作業が容易な粒状転炉スラグを選定。これを反当60kg散布、一度に大量施用するのではなく、毎年少しずつ改良することにした。それでも散布は手間がかかり、機械の負担も大きい。そこでJAでは、自走式散布機1台を新たに導入して2台態勢とし、ブロードキャスタ1機と合わせて、各集落への貸し出し態勢を整備した。一方、集落での散布態勢づくりを進める費用として1集落あたり2万円を助成。さらに転炉スラグの購入費用として、農地中間管理機構に農地を貸し付けた際に支払われた地域集積協力金の一部と国の「地力強化対策事業」補助金を活用し、最大78%の助成を実施した。

 そんな小さい農家も参加する地域ぐるみの取り組みによって、「平成28年度の平均pHは5.3と、わずか0.1ではあるものの改善が見られ、この年は天候にも恵まれ水稲うるち平均反収607kg、1等米比率100%と、さっそく取り組みの成果が表れてきた」と相蘇さん。

「自分たちの代でもう一度土づくりして、次世代へつなぐ」ことを目標に、地域が動きだした。

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ケイ酸が多いモミガラ、竹活用で食味を上げる

 ケイ酸の不足に対し、地域の資源で改善しようという取り組みもある。ケイ酸を多く含むモミガラや竹の活用だ。

 広島県庄原市の山内自治振興区では、竹パウダーを使ったブランド米づくりに取り組んできた(242ページ)。

「厄介者の竹を使っておいしい米をつくろう!」を合言葉にむらの自治組織が音頭を取り、平成22年に生産者7名、1.7haの試験栽培からスタート、現在は53名で50?haまで広がった。試験栽培を重ねた結果、現在は竹パウダーと中熟牛糞堆肥を混合・発酵させた竹堆肥を使っている。

 その効果は大きく、全国の米コンクールで数多くの入賞を果たした。その後、土壌中の酸化鉄含有量が多い田んぼは米の品質がよいことがわかり、竹堆肥に加え、純鉄粉(鉄含有量99%)を混ぜて散布することした。その結果も米のタンパク含量が下がるなど良好だ、という。

 同じ庄原市の東城町で35?ha224枚の水田でイネを栽培する藤本農園では、モミガラ活用を進めている(244ページ)。当初はモミガラ灰を利用、その効果もあって2011年、大阪で開催の「いっちゃんうまい米コンテスト」で、ひとめぼれがグランプリを獲得、翌2012年には、先に紹介した山内地区のあきさかりがグランプリを獲得し、庄原市が良質米の産地として認知されるきっかけとなった。

 しかしその後、高齢化と後継者不足で離農する人が増え、予想以上のスピードで農地の集約化が加速。資材の投入価格や作業負担が増えて、経営的にも厳しくなり、さらに藤本さんが怪我をしたこともあって管理が追いつかず、米の品質もバラつき、コンクール入賞からも遠ざかっていった。

 どうにかして立て直さねばと悩んだ藤本さんがまず取り組んだのが、基本の土づくりと、循環型の自給資材の確保だった。土壌診断の結果あきらかになった慢性的なケイ酸不足を解決するために、改めてケイ酸を20%含むモミガラに注目。試行錯誤を経てたどりついた利用法はモミガラくん炭で、これを牛糞や鶏糞と混ぜて高温発酵させる。

 この堆肥を秋から冬に反当1t散布し浅くすきこんだところ、2016年産は反収も食味値も回復。大阪でのコンテストでコシヒカリが準グランプリ、ひとめぼれも入賞した。モミガラくん炭の効果に驚くとともに、かつて2011年に受賞できた核心部分はモミガラ灰によるケイ酸効果だったのではと思い至った藤本さん。

「この先、米の政策転換により稲作を取り巻く情勢は大きく変わります。大規模化と効率化とコスト削減が叫ばれていますが、中山間地域では限界があり、高品質で勝負しなければいけません。土づくり資材は削られやすい物品です。しかし、地元で自給できる資材を組み合わせることで、安全性が高く、安定確保ができて、消費者の信頼性も高い米作りができれば、きっと生き残れるはずです」

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飼料米を土づくり、耕作放棄地活用に活かす

 飼料イネ、飼料米も、土づくりに役立てたい。飼料用米を活用した堆肥栽培だ。本誌やDVD『つくるぞ、使うぞ 飼料米・飼料イネ』(全2巻 農文協刊)で紹介した山口市・秋川牧園飼料米生産者の会の面々は、ニワトリ用に専用多収品種で1tどりをめざす。耕作放棄田も活用し、堆肥活用で徹底した低コスト。その一人、収量ベスト3の常連、三輪利夫さんは、秋川牧園の鶏糞堆肥にバーク堆肥なども加えて反当3t入れてきた。「堆肥を5年入れたら土質が変わった」「イネが最後までバテなくなった」という。

 堆肥栽培と相性がいい飼料米は、耕作放棄地との相性もいい。

「耕作放棄地を開墾した田んぼは、チッソが普通の田の倍くらいあったんですよ。飼料米のモミロマン、無肥料でも10a当たり700kgとれました」

 そう話すのは、岡山県笠岡市の(農)奥山営農組合の佐内繁文さん(169ページ)。組合は2010年に任意組織として誕生。佐内さんを含む定年退職者3人が、耕作放棄地がどんどん増えていく風景に心を痛め、「昔の田園風景を取り戻す」と一念発起したのが始まりだ。耕作放棄地を預かっては、自分たちで重機を使って開墾。現在の組合員数は32名、経営面積は20?haほどあるが、そのうち半分が元耕作放棄地だ。 

 耕作放棄されて10年以上、いや20年近くたった耕作放棄地を2009年の冬から翌春にかけて開墾した。チェンソーで木を伐採し、バックホーで抜根。木は運び出すのもたいへんなので、その後刈り倒した雑草と一緒に集めて野焼きし、灰は土の中に残った雑草の根っこもろともトラクタですき込んだ。

 その時、佐内さんは「やけに黒い土だな」と気がついた。もとの土は茶褐色っぽいのだが、表層10cmくらいが黒々としていて、まるで黒ボクのような土だったという。普及所の人に見てもらうと、「施肥はしないほうがいい」と言われ、無肥料で米をつくることにした。

 土壌診断したら、セイタカアワダチソウやススキなど、耕作放棄地によくみられる多年生雑草が生えていたところではチッソが普通の2倍あった。腐植量も多い。耕作放棄されている10年以上の間に、毎年枯れた雑草や落ち葉が堆積したためだろう。一見荒れている耕作放棄地は決してやせ地ではなかった。自然の循環のなかで地力の高い土地へと生まれ変わっていたのだ。

「耕作放棄地における植生変化と有機物循環」を調査してきた下田星児さん(農研機構 北海道農業研究センター)はこう述べている(178ページ)。

「放棄した直後に生産性が高い多年生の大型雑草が優占すれば、数年で作物栽培時以上の有機物量に達する可能性があります。復田や復畑の作業の際、根や地下茎の存在は大変厄介ですが、土壌に有機物を貯める役割を果たしています。さらに地上部の堆積有機物を有効活用できれば、圃場の長い休憩時間はメリットに生まれ変わるのです」

 有機物を蓄積した耕作放棄地田も栽培を続けると普通の水田と同じ施肥が必要になってくるが、それにしても、経営的なメリットは大きい。「今の時代、耕作放棄地と飼料米は相性抜群」と佐内さん。

「耕作放棄地解消にかかる費用は国の事業で10aあたり5万円の助成があるし、飼料米は多収できれば、品種加算や米代なども含めると10aあたり15万円ほどの収入になる。また耕作放棄地ということで、地代なしで農地を集積できる。奥山営農組合が集落営農として順調なスタートを切れたのも耕作放棄地のおかげだ」

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ススキ(カヤ)がケイ酸を吸い上げ土をつくってきた

 耕作放棄中に繁茂してくる多年生雑草は、有機物を増やし、地力を回復してくれる。下層に流亡したケイ酸やミネラルも吸い上げてくれる。

 日本に多い黒ボク土は、火山灰にススキなどのカヤが繁ってつくられてきたことが土壌学では通説になっている。

「黒ボクの素材は火山灰であるが、…わが国は温暖多雨のうえ火山灰は透水性がよいので風化作用をはげしくうける。その結果、ケイ酸が溶脱されてアルミニウムの割合の多い非晶質の粘土アロフェンができる…そのアルミニウムは反応性に富んでいるために、リン酸を不可給態にしてしまう」(『ケイ酸植物と石灰植物』高橋英一、農文協)

 こうした特性をもつ日本の土を、作物ができるようにしてくれた第一の功労者はススキなどのカヤであった。カヤはアルミニウムと結びついたリン酸を吸う力を持っているので、火山灰で生育できる。その大群落が地下に流亡した水溶性ケイ酸を吸って表層に引きもどす。こうして粘土の主要成分であるケイ酸の供給によって、粘土と有機物が豊かな土が出来上がった。

 かつて行なわれていたカヤ利用、里山・里地の草利用、そしてイナワラ、ムギワラ、モミガラ利用は、ケイ酸を循環させる仕組みでもあった。カラー口絵で紹介した田角幸正さんは、耕作放棄地をカヤ場にして土つくりに生かしている。このカヤ、今月号で紹介したように「菌力アップ」効果も大きい。

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耕作放棄地活用と「田んぼで増収」は平和への貢献

 耕作放棄地を有機物供給源として生かす、あるいは開墾してその地力を活用する。問題は開墾に大変な労力や機械力が必要なこと。これを地域の力で解決する。そんな取り組みも各地で行なわれている。

 山形県鶴岡市・JA庄内たがわの出資型法人?あつみ農地保全組合は、休耕田に特化した活動を展開(174ページ)。温海地区の32?haの休耕田を借り受け、ソバやダイズなどを栽培、「農地を山に飲み込まれないように守る」活動を進めている。

 土建業者も頼りになる。遊休農地を開墾してソバを栽培し、荒れ地の灌木を利用して排水改善をすすめる福島県南会津町・農業法人?F.K.ファームの羽田正さんはこう述べている(188ページ)。

「我々が借用している農地は、その昔は原野や河川敷であった土地で、耕地にするための土木工事を我々の業界が行なったわけである。このような農地を維持するために、我々も何かできないものかと思い、農業に取り組んでいる」

 こうして耕作放棄地を生かし、一方では「田んぼで増収」しながら水田の地力を高める。おいしい米を増収し、飼料米もムギもダイズもしっかり増収する。増収によって増えた所得を土つくりにいかし、この間の「所得」が減り「地力」も減るという負のスパイラルから脱し、地域の力で未来にむけたよい循環つくっていく。

 小麦も増収したい。今、停滞していた日本の小麦作に革命が起こりつつある。北海道農家の「きたほなみ」1tどり続出を突破口に、まだ試験的ではあるが、九州の水田裏作小麦でも1t突破の成果が現われ始め、農文協ではその方法をまとめた『小麦1トンどり』を発行した。  

 要点は播種量を半分以下にし出芽の精度を高め、太く充実した茎に育て、追肥を効かせること。昔から「イネは地力でとる、ムギは肥料でとる」といわれてきたが、追肥を効果的に効かせてムギを多収することは土つくりにもつながる。「への字稲作」とともにムギの超多収にも挑戦した故井原豊さんは、ムギワラの全量すき込みで、有機物やムギが吸収したケイ酸、ミネラルを還元すれば、イネだけよりもずっと地力がつく、と述べていた。

 地力低下のもとでは「地力でとる」イネの施肥の見直しも必要のようだ。冒頭で紹介した藤井さんは、従来の元肥+穂肥の価値を強調している。穂肥で地力のバラつきを調整して生育を揃え、後期凋落させずイネの活力を最後まで維持する。光合成生産が大きければ、ワラや根など有機物生産も増えこれが地力源になり、施用されたチッソもイナワラの分解促進に有効に働く。増収しながら地力をつくる。

 世界的には土壌の劣化が問題になっている。国連・食糧農業機関(FAO)は「世界の33%の土壌が劣化」し、人口増とあわせて、「新たな取り組みが採用されない限り、2050年の世界の1人当たり耕作可能地は、1960年の水準の4分の1になる」と警告し、それが世界の平和を脅かすとして2015年を「国際土壌年」と定めた。劣化の要因は風食、水食、塩類集積、砂漠化、土壌有機物の消耗などだが、日本の耕作放棄地に「劣化」はなく、逆に地力源になる。そんな恵まれた条件を生かして農地と地域農業を守り、食料自給力を高めることは日本と世界の平和に貢献する道でもある。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2017年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2017年10月号

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