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2012年7月号
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消費増税はTPPと同根の輸出大企業本位の悪政だ目次 輸出大企業に巨額の消費税還付金!トヨタやソニーなど輸出大企業そのものが悪者だと言うつもりはさらさらないが、なんとも腑に落ちないのがこれら輸出型大企業と消費(増)税の関係だ。 これらの企業には毎年、国全体の消費税収の約3割、3兆4000億円もの大金が「還付金」(輸出戻し税)として転がり込んでおり、しかもこれは消費税率が上がれば上がるほどより多く得られる仕組みになっている。
論より証拠、表1をごらんいただきたい。この表は元静岡大学教授で税理士でもある湖東京至氏が各社の有価証券報告書から作成したもので、消費税還付金上位10社をリストアップしたものだ。トヨタ自動車2246億円、ソニー1116億円、日産自動車987億円などとつづき、新日鉄までの上位10社だけで8698億円にのぼっている(2011年3月期分)。 トップのトヨタ自動車の07年3月期から11年3月期までの5年間では1兆3009億円もの巨額にのぼっている(表2)。 長引く不況の中で、世の中小零細業者の中には価格転嫁もできないのに消費税を納めなければならない、あるいは納品先大企業から「消費税分はまけろ」などと言われ苦しんでいる最中、これはどういうことなのか。 消費税が上がるほど“棚からぼた餅”日本の消費税は「仕入税額控除方式」と言われ、利益ではなく粗利にかかる税金で、付加価値税の一種と言われている。すなわちその税額は、 (年間売上高−年間仕入高)×5%=納める消費税額 で計算される。実際には売上に係る(預かった)消費税から仕入に係る(支払った)消費税分を控除して税額を出す。つまり、 年間売上高×5%−年間仕入高×5%=納める消費税額 である。ところがこの売上のうち輸出に係る分は「ゼロ税率」が適用され、消費税がゼロ円なのである。するとどうなるか。 ある輸出型製造大企業の売上が10兆円、うち輸出が7割の7兆円、仕入が、製造業の平均とされる売上の7割(国税庁指針)として7兆円というばあい、この企業の納税額は次のように計算される。 国内売上の税額=3兆円×5%=1500億円 輸出売上の税額=7兆円×0%=0円 仕入に係る税額=7兆円×5%=3500億円 納める税金=(1500億円+0円)−3500億円 =▲2000億円(A) 納税額がマイナスになり、2千億円という大金がこの企業に還付されるのである。 注意したいのは、右の計算式からすぐわかるように、この還付金は、消費税率が上がれば上がるほど、また輸出割合が高ければ高いほど多くなる、ということだ。 今、上記と同じ売上・仕入構成で消費税が10%にアップしたとすると、国内売上と仕入に係る税額はそれぞれ倍になり、納める税金Bは、 (3000億円+0円)−7000億円=▲4000億円 となり、還付金はAの2千億円から4千億円に倍増する。濡れ手に粟、棚からぼた餅とはこういうことを言う。 さらにこの企業は、消費税10%へのアップで仮に、あるいは一時的に国内消費者の買い控えが起きてもなんら怖くはない。さらなる輸出ドライブをかけて輸出で稼げば済む話なのだ。輸出割合を高めて、例えば10兆円の8割、8兆円になったとすると、 国内売上の税額=2兆円×10%=2000億円 輸出売上の税額と仕入税額はBと同じくゼロ円と7000億円なので、納める税額は、 (2000億円+0円)−7000億円=▲5000億円 なんと還付金はAの2千億円から5千億円へ、2・5倍にも激増する。Bに比べても25%増しの「ぼろ儲け」である。 消費増税は輸出補助金の打ち出の小槌ゼロ税率と仕入税額控除方式――この仕組みのおかげで表1や表2のような莫大な還付金が発生し、その総額は全消費税収の3割にもなんなんとしているのである。 こうして、「ゼロ税率制度と仕入税額控除方式に支えられて、輸出企業はまんまと還付金の名で輸出補助金を受け取れることになった」(前出湖東氏「月刊 日本の進路」2012年4月号。傍点は引用者、以下同)。 なぜ財界と野田政権は消費増税に一所懸命なのか、その秘密がここにある。輸出で稼ぐ経団連主流の大企業にとって、消費増税は打ち出の小槌なのである。湖東氏はこのような状況を整理しながら、以下のように解説する。 「トヨタは国内売上が4割、輸出が6割です。国内売上で納税額が出ますが、輸出はゼロ税率で納税額はゼロ。なのに、そこから仕入は国内用も輸出用も控除されるので、納税額はマイナスになり、これが還付されます。国内販売で客から取った5%は輸出還付金と相殺され、トヨタは1円も納めないばかりか巨額の還付金を受け取るわけです」。 こうして年間3兆円を超える還付金が大企業に入る。 おかしなことにこの還付金は、最終販売業者である自動車や電機等の大手企業が「仕入は国内用も輸出用も控除」されるので、それら超大手の企業にのみ還付され、消費税分等の値切り要求にも耐え、日本のものづくり産業を支えている下請け中小零細業者には一銭も戻っていない。 このような不公平の上に、「税率が倍になれば還付金も倍近くになります。だから、財界は早くドイツ並みの税率にしようと消費税増税に執念を燃やしているのです」「ヨーロッパ諸国の大型間接税(付加価値税)は税率が高く、日本の5%に相当する標準税率はドイツが19%です。一番高いのはデンマークとスウェーデンの25%です。財界は、『消費税率をヨーロッパ並にしないと、わが国の輸出産業が負ける』と主張して、この25%を目標にしています。還付金は5%で3兆円です。10%なら6兆円、20%なら12兆円、25%なら15兆円になります。われわれ国民が苦しむ消費税増税に、なぜ財界と政府が一所懸命なのか。その秘密のねらいがここにあるのです」。 消費税とは、じつは輸出大企業への事実上の輸出補助金制度にほかならず、その増税は「還付金」という名の輸出補助金をさらに手厚くする“背徳の税制”にほかならないということなのである。TPPで輸出を増やせればその効果はなお増大し、一石二鳥、三鳥だ。 TPPと同根、輸出促進税制としての消費増税湖東氏はさらに、そもそもの出自からして消費税(付加価値税)は輸出振興策として“創作”されたものだとして、その“歴史秘話”を大要次のように披瀝してくれている。 時代は戦後間もない昭和25年、対日税制勧告で有名なシャウプ博士は、それまでの事業税に代えて付加価値税を導入した。後に廃止になったが、これは世界で最初のものだったそうで、その特徴は、「事業税はもうけにかけるので赤字ならゼロになるが、付加価値税は粗利にかけるので(人件費や支払利息などがかさんで――引用者)商売が赤字でも付加価値税はゼロにならない。これがシャウプの付加価値税です。事業税の代わりですから直接税で、納税義務者は事業者です。事業者が納めるだけで、価格への転嫁もなければ、輸出の還付金制度もない」というものだった。 つまり、価格に転嫁された税を最終消費者が負担し、事業者がいわば代理で納税する今の消費税と違い、価格転嫁もなければ、従ってゼロ税率であるが故に発生する輸出還付金もない、事業者が税の負担者でありかつ納税者でもある直接税だった。ところが、 「これがフランスで変わった。フランスにルノーという車がありますが、輸出が弱いので、フランス政府は企業に補助金を出しました。しかし、1948年に輸出補助金がガット違反ということになり、ガットに違反しないで補助金をルノーに出せないか、フランスの大蔵大臣は考えた。そして、シャウプの付加価値税を入れる際に、分類を間接税にしました。付加価値税をお客に転嫁していいですよと。…間接税は価格へ転嫁することが予定されているからです」。その上で「輸出は外国の客から税金を取れないという理由でゼロ税率をかける」ことにした。 かくしてフランス政府は、〈直接税の間接税化→価格転嫁→輸出ゼロ税率+仕入税額控除〉の仕組みをつくることによってルノーの輸出を「合法的に」支援することに成功した。「直接税を企業に還付すればガット違反ですが、間接税なら違反にならず、還付ができることになった」のである。そして、これに我が意を得たのが日本の財界だ。 「この輸出補助金を出すやり方が大企業にうけて、ヨーロッパの国はすべて、付加価値税を導入しました。日本の財界も入れようと考えました。ところが国民の激しい反対で、大平内閣の一般消費税が崩れ、中曽根内閣の売上税もだめになりました。竹下内閣は、『導入さえすれば税率はいずれ上げられる、まずは3%でもいい』と消費税を導入しました。そして、輸出ゼロ税率、輸出還付金制度が始まったのです。輸出還付金は明らかな輸出補助金です。ガット協定違反です。他の国がやっているからと言って、こんな制度を許していいのでしょうか」。 一方では関税撤廃で輸出増を目論むTPP推進、他方では輸出還付金の倍増、3倍増を目論む消費増税推進。TPPと消費増税――、一見無関係に見える2つの世界だが、そこでは経団連主流・輸出大企業のあくなき利益追求が系統的、一体的に追求されていることを、私たちは見透かさなければならない。 似て非なる「非課税」で医療や福祉は大変このような不公平、不条理としか言いようのない輸出還付金天国の陰で、その財やサービスが「非課税」であるが故に仕入税額控除ができず、その分、まるまる自己負担=「損税」になっている業界がある。医療機関や介護、養護老人ホーム、身体障害者療養施設など、いのちと健康、福祉にかかわる分野だ。これらは、「社会政策等の特別な政策的配慮に基づくもの」と規定され、売上には消費税を課さない=非課税とされている。そのこと自体はいいのだが、問題は、この「非課税」が今まで述べてきた輸出売上に係る「ゼロ税率」とは似て非なるものであることだ。 輸出売上のほうは“ゼロ%ではあるが課税はしている”という考え方なのでそれに対応して仕入税額控除もできるのだが、上記医療機関などの場合はそもそも非課税なので仕入に係る消費税は医療機関自身が最終消費者となり、税額控除できないのである。病医院は仕入れるものや諸々の経費の消費税が上がっても患者に転嫁できず、仕入控除ができないので還付金ももちろんない。 輸出のゼロ税率では税率が上がるほど還付金が増えるが、医療機関は自己負担が増えるだけ。同じ消費税ゼロ円でも、真逆の、天地の開きほどの不公平があるのである。 このような不公平、不合理の行き着く先は何か。 今でさえ人口の少ない地方の医療機関は統廃合が進められ地域の医療に不安をもたらしているが、消費税が上がり転嫁も控除もできないとなると農村部はもとより、中小の都市部でも安泰とは言えない。体力の弱い医療機関は経営難に追い込まれ、地域医療体制は脆弱化の度合いを強めること必定であろう。 このような事態を危惧して日本医師会は、「社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度を、仕入税額控除が可能な課税制度に改め、かつ患者負担を増やさない制度に改善」するよう提言している。医療機関の負担をやわらげつつ、「世界的に類をみない窓口負担が3割にもなっていることから、患者に新たな負担が生じないような制度にすることは当然」だからである(「『社会保障・税一体改革素案』に対する日本医師会の見解」2012年2月1日)。 そして、政府の「社会保障・税一体改革素案」が「医療機関等の仕入れに係る消費税については、診療報酬など医療保険制度において手当てすることとする」としていることに対しては、それでは医療費の値上げに通じ患者負担を増やすと釘を刺し、「仕入税額控除を可能とするためにやむなく課税にするのであって、医療の公共性を否定するためではない」として、あくまで公的医療保険制度とは別枠で「仕入税額控除が可能な税制に改め」るべきであることを強調している。 理念も公平性もない政府の「一体改革」案に比べ誠に当を得た、立派な提言ではないだろうか。 日本医師会はまた、TPP参加によって外国医療資本の参入や混合診療(保険外診療の併用)の全面解禁などが実施されれば、国民皆保険制度の形骸化や医療費高騰をもたらし、ビジネスには不利な大都市以外の地域や低所得者むけの地域医療が崩壊する危険性が高いとしてこれに反対しているが、その慧眼は消費増税問題にも生かされている。 食料・農業は消費増税の最大の被害部門!
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この記事の掲載号
『現代農業 2012年7月号』
特集:ラクラク度急上昇 草刈り・草取り |
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『TPPと日本の論点』農文協編 | |
『復興の大義』農文協編 "単なる復旧にとどまらない創造的復興"は今や流行り言葉のひとつになった観があるが、がれきの処理や仮設住宅の防寒対策すら迅速に支援できない政府やその陰の支配人が何をかいわんやである。被災した人びとは多くを望んでいるのではない。元の仕事、元の暮らしに戻れることがまず第一だ。そのようなささやかな願い、復旧に、「単なる」という形容詞を付けることによって被災者の揶揄し、もってTPP推進とセットの創造的復興論を対置する。そのような、災害をビジネスチャンスと捉える不道徳を許してはならない。 [本を詳しく見る] |
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