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農文協トップ主張 2011年7月号

ここが日本の転換点
脱原発 地域のエネルギー自給で地域を再生する

目次
◆原発やむなしの声も根強いが…
◆「ここが日本という国の転換点」
◆進む、農家のエネルギー自給の工夫
◆「自然力更生」という見方
◆「植物資源大国」をつくった江戸期の生産革命に学ぶ

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原発やむなしの声も根強いが…

 先月号の「主張」では、今回の原発事故で避難地域に指定された福島県浪江町の、土地を売らないだけの「静かなたたかい」にふれながら、「原発の本質が地域の破壊であることを、立場を超えて思い起こし共有したい」と述べた。

 その後、菅直人首相の要請を受けて中部電力が浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の運転を停止し、さらに、関西電力の美浜原発3号機など3基が定期検査や点検で停止。国内にある商業炉五四基のうち営業運転中の原発は3分の1以下の17基という事態になっている。定期検査が終了した原発も地元への配慮で再稼働できない状態にあり、稼働率がさらに低下し、来年3月には、国内の原発がすべて停止するのではないか、という見方すらある。

 脱原発への世論も高まっている。

 朝日新聞の世論調査では(4月18日付)、他の原発で大きな事故が起きる不安について、「大いに感じる」「ある程度感じる」を合わせると88%にのぼり、さらに原子力発電の今後については「減らす方がよい」「やめるべきだ」との意見を合わせると41%で、前回2007年調査の28%を大幅に上回った。しかし、事故への不安を抱きつつも現状維持を容認する声も多い。毎日新聞が4月16、17日に実施した世論調査では、「原発は減らすべきだ」「すべて廃止すべきだ」を合わせると54%だったが、「やむを得ない」との回答も40%と少なくない割合だ。

 日本の電力の3割(震災前)を原子力発電でまかなっている、それがなくなると産業や暮らしに大きな打撃を与える…やむを得ない。そんな気持ちも根強い。

 今月号の「意見・異見」で福島県いわき市の農家・東山広幸さんは、「私は今回の事故を、日本全体のライフスタイル・価値観すべてを考え直す試金石だと考えている」「地球環境の面だけでいえば、経済成長率は下降するのがいい。下降しても生活の質が上昇すればいいのだ。今の消費生活は人間にとって不要なもの・有害なものであふれている」と述べ、こうしめくくっている。

「経済成長なしで幸福な社会を目指す。これが今後の日本の進むべき方向ではないか。物欲に溺れない『欲しがらない若者』が増えているというのも、今後の社会の方向を考えると悪いことではないと思う。『現代農業』誌上でもこれからの日本が目指す社会像に関して、活発な議論が行なわれることを期待したい」(本号358ページ)。

「原発の本質が地域の破壊」だとすれば、農家、地域が元気になるエネルギーのあり方について、考えていかなければならない。今月号の巻頭特集は「痛快!農家の水&エネルギー自給」である。「水をまかなう」、「太陽熱を利用する」、「夏を涼しく」、「電気を起こす」、「燃料を自給する」農家の工夫をたくさん集めた。被災地、避難地域への支援を強めながら、一方ではエネルギー自給の工夫をどんどん広げ、そして、未来にむけた「活発な議論」も進めたい。

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「ここが日本という国の転換点」

 今月号では、震災をめぐる小特集「農家は作物をつくって乗り越える」を組むとともに、今後のエネルギー問題について、飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所・所長)に執筆していただいた。題して「ここが日本という国の転換点 自然エネルギー時代が始まる」(362ページ)。

「日本は震災前からエネルギー政策で間違った道を進んできた。原子力に過剰に依存する妄想的な計画(原子力立国計画)を立てたが、現実には新たな増設も思うように進まないばかりか、既存の原発も事故や老朽化、トラブル隠しなどで稼働率が低迷した。それで不足した電力を石炭火力で補ったのである。その結果、温室効果ガスが2007年で9.4%増え、京都議定書の定める日本の目標マイナス6%を大きく超過した。

 さらに、化石燃料の価格は大きく変動しながら高騰傾向が続いている。日本が輸入する化石燃料は、10年前にはわずか5兆円(1998年)だったが、原油が高騰した2008年には23兆円に達した。今後も、世界の原油生産が資源的にピークを迎えつつあることに加え、中国などによる著しい需要拡大で、化石燃料の需給はますます厳しくなっていくだろう。それゆえに、化石燃料にも依存できないのである」。

 こうして飯田氏は、

 (1)「快適な省エネ」で電力50%削減を目指す

 (2)自然エネルギーを現在の3倍に増やす

という戦略的エネルギーシフトを提唱する。

 (1)の「快適な省エネ」は、「寒い・暗い・我慢する省エネ」ではなく、例えば、無暖房住宅やLED照明のようにエネルギー効率の高い施設や機器を使って達成する。(2)の「自然エネルギー」については、「10年あれば、次世代エネルギーの本命である自然エネルギーによる電力(太陽光・熱、風力、波力など)を、現在の3倍に増やすことは、挑戦的だが不可能ではない。例えばドイツは、全電力に占める自然エネルギーの割合が、この10年で6%→17%になり、今後10年で、さらに17%→35%にまでする目標を掲げている」と述べている。

 興味深いのは、自然エネルギーによる規模分散型電源の有利性・効率性である。

「小規模分散型電源とは、需要地の近くに分散して配置される小規模な電源のことで、建設に伴う費用や時間も少なくてすむので短期間で電源を増やすことができる。また、自然エネルギーは原発や火力発電のように大規模な施設は必要としない。例えば、風力発電が普及している国々では、すでに火力発電と競合するコストになり、太陽光発電も年率10%の勢いでコストダウンし、イタリアのようにすでに電気料金よりも安くなった国も出現している」。

 現在、日本の電力は「全国を10の地域に分け、それぞれの地域を唯一の電力会社が独占する『地域独占』と、発電から送電、配電、売電までの機能を一つの電力会社が独占する『垂直統合』(機能の独占)」状態」にあるが、この電力独占体制こそ、原発依存を強め、小規模分散型電源の展開を妨げている要因になっていると、飯田氏はいう。

 そして、この小規模分散型電源は、地域に仕事、雇用をつくり出す。

「自然エネルギーは人類史で農業・産業・ITに次ぐ『第4の革命』と呼ばれるほどの急成長を遂げつつある。昨年には自然エネルギーへの投資額が世界全体で20兆円を超えた。短期間で建設できるため速効性があり、地域にエネルギーといろいろな雇用と経済をもたらすことができる。と同時に、地域から流れ出ていたエネルギーコストも地域内で循環できるようになる。

 こうしたまったく新しいグリーン経済への投資は、10年後には10倍の200兆円を超えると予想されている。それにも関わらず、これまで日本だけが、それに背を向けて原発に暴走してきた。原発震災という悲惨極まりない大厄災を将来世代への負債ではなく遺産とするためには、今こそ、21世紀の環境エネルギー革命を立ち上げる時だろう。

 明治維新は富国強兵に化け敗戦で潰え、太平洋戦争敗戦は経済成長至上主義へと化け、3.11原発震災で潰えた。3.11の悲惨極まりない出来事を希望の未来へと活かすには、地域と自然エネルギーを軸とする日本の新たな百年の計を立てることだ。それは国民に対する政治の責任である」。

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進む、農家のエネルギー自給の工夫

「政治の責任」としてまずは、国と電力会社が一体となって進めてきた電力独占体制のもとで引き起こされた今回の原発災害について、その責任を認め、しっかりと被害の賠償をしなければならない。責任追及の手を緩めず、そして一方では、今回の原発事故を「日本という国の転換点」にしていくための歩みを進めていく。

 放射線汚染で一時、耕耘作業、作付延期の指示を受けた福島県二本松市の菅野正寿さんは、仲間と一緒に東京電力本社に抗議行動に行くなど、原発の放射能汚染による農作物、風評被害の全面賠償と早期の仮払いを求める活動を進めながら、「赤トンボと桑畑と棚田の里を守るため」に栽培を開始した。その菅野さんが次のように述べている。

「私が中学生のころ、夏休みにはカイコの桑をとり、植林したスギの下草刈りをした。斜面を長い鎌で振り回して汗がぼたぼたと落ちた。ナラやクヌギは炭やきやシイタケの原木に切り、自分の息子や孫の代のために木を植えた。

 中国から伝わった日本の稲作は約3500年になる。この耕土には先人の気の遠くなるような汗と涙がにじんでいる。大量生産、大量消費と人間のエゴの帰結が今回の事故を生み出したならば、エネルギーの抜本的転換、つまり持続可能な自然エネルギーへの転換が求められる。そして都市のみならず農村も暮らし方の問い直しをしなければならない。

 次代のために今を耕し、あらゆる英知を結集して土の再生をしなければならない。わたしたちにはその責任があるからだ」(348ページ)。

 今月号では、農家の「快適な省エネ」や、小規模分散型電源の工夫を紹介した。

 乳牛38頭、育成牛20頭を飼育する長野県伊那市の小野寺瓔子さんは、24年前のチェルノブイリ原発事故の後、原発に頼らない生活を創造するために自前のエネルギーとしてバイオガスの取り組みを始めた(120ページ)。

「プラントの建設費は、人件費を除いて200万円ほどかかったが、運転コストはゼロなので15年経った今、ほぼ償却できたといえる。まだまだ電力会社の電気に頼っているところはあるが、身近にあるものを利用してエネルギーを産みだす、そんな地域分散型の小さなエネルギーの積み重ねが、いつか原発がなくても暮らせるほどに、大きな地域のエネルギーになれば、と心から願っている」。

 放線菌ボカシや光合成細菌など、「高い資材は自分で作る」がポリシーの三田春興さんは、6年ほど前から自家用車などのBDF燃料も自分で作り始めた。年間の製造量は500リットルにもなる(108ページ)。

 BDFとは、そのままでは燃えにくくてべたつく廃油にメタノールなどのアルコールを混ぜて反応させ、ディーゼル燃料に使えるくらいサラサラで燃えやすくしただけのもの。だから「誰だって簡単に作れる」と三田さん。

 一方、1979年のスリーマイル島原発事故をきっかけに脱原発の仕事を求めて但馬の山村和田山町に移住した大森昌也さんは、140mの水路で10mの落差がある小川が流れる農場を活かし、水力発電に取り組んでいる。その大森さんが次にように述べている(94ページ)。

「電気はどこか遠くの世界から来るもののように感じていたが、今では、それがどのように生まれるかが手にとるようにわかる。冷たい水に手を入れながら、水の大切さ、有り難さをしみじみ実感できる。

 と同時に、台風などで停電しても困らない。生活に最低限必要な電気が自分で賄えるからだ。自然に感謝しながら得られるこの豊かさとおもしろさが、エネルギー自給の醍醐味である」

 農家のエネルギー自給は、地域の資源、地域の自然を見直し活かす創造的で楽しい取り組みである。

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「自然力更生」という見方

 太陽光・熱、風力、波力などを活かす自然エネルギーの技術、機材は数段進歩している。科学技術は、小規模で地域的な取り組みにこそ活かされなければならない。BDFなどのリサイクル技術の開発も進んでいる。

 宮城県角田市の稲作農家、小野健蔵さん((有)角田健土農場社長)は仲間3人と毎年ナタネを14〜15haつくる。地元の消費者に本物のナタネ油を届け、さらに、廃食油を集めてバイオディーゼル燃料(BDF)を作り、菜の花畑から燃料までの地域内循環構想も見えてきた。ナタネなら山の近くの荒れた田畑でもよく育つし、イノシシなどにもやられない。ナタネは放射性物質を土壌から吸い上げてくれるうえに、油にはそれが移行しないことから、新たな注目も集めている(114ページ)。

 地域のエネルギー自給にむけて遊休地を活かし、水田もフル活用する。米を存分につくり、飼料米にも力を入れてエサの自給を高め、糞尿もしっかり活用する。モミガラは土つくりに使えるし、ヌカ釜も復活させたい。

 手入れできずに荒れている山の間伐材はチップにして燃料にする。地元材で家もつくる。

 世界大恐慌・昭和恐慌がむらを苦しめた1930年代、長野県の地理の教師だった三澤勝衛は、「自力更生より自然力更生」を訴え、地域の自然、資源、農林業を巧みに活かす「風土産業」による地域の再生を提唱した。地方の疲弊に対し、国は農村工業導入をテコとする「経済更生・自力更生」を打ち出したが、三澤は「自力更生」の「自力」に、自然や風土を無視した人間中心主義、自然を征服しようという科学万能主義をみてとり、地域の風土を知らない国、あるいは都市の側からの施策の押し付けでは「更生」はありえないと考えたのである(農文協刊・三澤勝衛著作集「風土の発見と創造」3「風土産業」参照)。

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「植物資源大国」をつくった江戸期の生産革命に学ぶ

「自然力更生」…今、見直したい大事な視点だと思う。石油も原子力もなかった江戸期の自然力活用にも学ぶべきことは多い。経済史家であり、静岡県知事になった川勝平太氏は、江戸期の生産革命を「勤勉革命」と位置づけ、ヨーロッパの産業革命が資本集約型であり、大量の石炭を使うエネルギー資源浪費型であったのに対し、資本を節約し、資源を節約することに工夫をこらしたのが、江戸期の生産革命だ、と述べている。

 資源の有効利用と土地の生産性の向上によって、江戸期の生産革命が展開し、3000万に及ぶ人口を養うことを可能にした。江戸期の人々の暮らしを支えた食品から日常生活用品まで、その原料のほとんどは農作物を含む植物資源であり、江戸期の「生産革命」はこの国を世界に稀にみる「植物資源立国」にした。食品から日常生活用品までのすべてを国内で自給したということは、太陽エネルギーだけで多くの人口を養い、再生産できるだけの高い技術力と文化的な水準をもっていたということにほかならない。

 紙はコウゾを原料とする。原料となるのはコウゾの1年生の枝であり、その年に受けた太陽エネルギー分だけが紙になることになる。それでも、江戸は当時、世界有数の製紙大国だった。

 素材を多面的に利用し、副産物、廃棄物もしっかり活用する。たとえば、江戸期の生産革命のなかで国産化に成功し、庶民にまでいきわたるようになった綿を、人々は浴衣から寝間着へ、さらにおしめに、最後は雑巾にと、ぼろぼろになるまで使った。綿作の副産物である綿実から油を搾る技術も開発され、ナタネにならぶ灯油の原料となり、そのカスは肥料として利用された。二毛作によってつくられるナタネも茎葉は飼料に、子実からとる油は灯火用などに使われ、その搾りカスは肥料にされた。地域資源の活用をを基本に、農村と結びついた紡績業、醸造業、食品加工業、製紙業、搾油業、製糖業、製蝋業などの地場産業が発展し、個性的な在郷町、地方都市が生まれた。

 日本にはそんな地域資源とともに生きる伝統がある。伝統に学び、科学技術の成果を駆使して、地域からエネルギー自給力を高める。地球の自然が長い時間をかけてつくり出した石油という遺産の利用は限界に近づき、安全性だけでなく、未来に生きる人々に大きな負担=「負の遺産」をもたらす原発は見直しが求められている。

 自然エネルギー、地域からのエネルギー自給は、空間的に今ある資源を活かし、再生産していく方法である。その基礎に農林漁業がある。農林漁業を基礎に、多様な地域産業を興し、仕事、雇用を創造し、地域を再生する。「ここが日本という国の転換点」ではないだろうか。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2011年7月号
この記事の掲載号
現代農業 2011年7月号

巻頭特集:痛快!農家の水&エネルギー自給/農家は作物をつくって大災害を乗り越える/脱原発・脱経済成長の未来へ/かん水、何時にしてますか?/今年は出穂40日前診断で「うまい米、もう1俵!」/激夏ミカンの水管理/トマトの葉挿し・子葉挿し/野山のもので健康 ほか。 [本を詳しく見る]

農家に教わる 暮らし術(うかたま別冊) 農家に教わる 暮らし術(うかたま別冊)』農文協 編

身近な素材をとことん活かす! 洗剤、消臭剤、化粧水、歯磨き粉などの日用品から、石窯、五右衛門風呂、太陽熱温水器、土間、竹ハウス、エネルギーなどの住まいまで、何でも自分で作る暮らしを愉しむ農家の技が満載。 [本を詳しく見る]

三澤勝衛著作集3 風土産業 三澤勝衛著作集3 風土産業』農文協 編

風土は土地土地に固有のものであり、また、一枚の畑、一戸の屋敷、ひとつの集落、ある範囲の地域、さらに広範囲の地方にというように、複層的に存在する。地域地域の風土の探求・発見と、自然の偉大な力を生かす地域人の知恵を明らかにし、風土を生かした循環型の産業=風土産業と暮らし=風土生活、さらに「自然征服から自然順応へ」を基本にすえた災害や土地改良について説く。地域の個性的な産業興しとその活性化、さらに資源・エネルギー浪費型の現代社会を乗り越えるための指針として欠かせない一冊である。 [本を詳しく見る]

現代農業 2009年09月号 現代農業 2009年10月号 現代農業 2009年11月号

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