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農文協トップ主張 2010年10月号

地力探偵団が行く!
「土質の悩み」を解消する有機物の使い方とは

目次
◆砂質でも粘土質でも…モミガラの大きな魅力
◆CECは変わらなくても、保肥力は高まる
◆団粒構造から地力を考える
◆土質で変わる「形成と崩壊のドラマ」
◆土の表層だけ団粒化すればいい

 今月号「土・肥料特集号」の巻頭特集は「地力探偵団が行く」である。農家の工夫に学びながら、「土質の悩み」や「有機物のギモン」に応えたいと考えた。

 昨今の天候不順のなかで、「土質の悩み」がより意識されているようである。

 昔からよい土、地力のある土は長雨(湿害)にも干ばつ(乾燥害)にも強い、といわれてきた。砂質の土は乾燥害を受けやすく、粘土が強い土は湿害を受けやすい。そんな土とどうつきあっていくか。

 生の家畜糞を利用した「土ごと発酵」方式で土つくりを進める北海道の中藪俊秀さんの畑は火山灰土だが、「赤土」と「黒土」が一枚の畑に混在している。赤は乾きやすくて干ばつに弱く、黒は水分を持ちやすくて大雨に弱い。そのため、その年の天候によっては、どちらかが悪くなる。そんな具合だったが、「土ごと発酵」で生育ムラも減ってきた(本号106ページ)。大規模な客土でもしないかぎり、土質そのものは変えられないが、「土質の悩み」はやりようによって解消できる。

 地力探偵団の報告をもとに、「土質の悩み」を解消する有機物の使い方を考えてみよう。

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砂質でも粘土質でも…
モミガラの大きな魅力

 土つくりといえば堆肥の施用であり、本誌でも「堆肥栽培」を盛んに取り上げているが、今回、探偵団が改めて発見したものに、モミガラの魅力もあった。

 モミガラは土に入れても分解しにくく、肥料的効果もケイ酸を除けばほとんど期待できない。「モミガラは土をやせさせる」という見方もあるぐらいだが、このモミガラで大きな成果を上げる農家が生まれている。砂質の土でも粘土質の土でも、その効果は大きく、モミガラには「土質の悩み」を解消する大きな力がある。

 茨城県でピーマンをつくる原秀吉さんの圃場は、海水浴場の砂浜と同じようなサラッサラの砂地だ。そんな砂地に原さんは、30年以上も野積みのモミガラを入れつづけてきた。ベッドの土を握ってみると、やや粘り気があり、外のサラサラ砂とは明らかに違う。樹のようすを見ながら必要なときにこまめに追肥するやり方だが、反当20〜30kgの少ないチッソでピーマンがとれる。そうやってつくった原さんのピーマンは、色が淡くて苦みがない、という。

「つくりやすい土(砂)は、水を含むとしっとりするんだよ。この土がうちの稼ぎ頭なんだ」と原さんは、嬉しそうに話してくれた(54ページ)。

 一方、粘土質の転換畑で野菜をつくる兵庫県の和田豊さん。イネしかつくれないといわれてきたガチガチの粘土質が、モミガラ利用で変わった。歩くと足の裏に弾力を感じるくらいフカフカで、米ヌカボカシの効果も加わってモミガラ混じりの表土はコロコロに団粒化している。このハウスでつくる軟弱野菜は、隣町のスーパーが直接仕入れに来るほどの人気。雨よけトマトでは、猛暑にもかかわらず、7月末時点まで一度もかん水せずにすんだ(60ページ)。

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CECは変わらなくても、保肥力は高まる

 砂地にモミガラを入れるとより乾燥しやすくなるような気がするが、逆に水持ちがよくなる。モミガラはいったん水を含むと水分を保持する力が強いからだ。そのうえ、土のすき間をつくり、粘土質の土も通気性・排水性がよくなる。こうして、乾燥にも長雨にも強い土になる。

 地力の高い、低いをみる指標に、塩基交換容量(CEC)がある。CECは、土の中の粘土と腐植が陽イオン(肥料分)を吸着する容量のことで、CECが大きいほど保肥力が強く、地力が高い土だとされている。粘土も腐植も少ない砂質土壌のCECは低い。

 モミガラにはこのCECを高める力はない。しかしモミガラを施用した土は保肥力が強まる、というのが農家の実感である。保肥力=CECではないようだ。これについて、村上圭一氏(三重県農業技術研究所)に聞いてみた(86ページ)。堆肥の場合も、「CECは高くならないが、保肥力は強まる」とのことで、このしくみについて、村上氏は次のように述べている。

「堆肥自体も陽イオンを吸着する力はあるはずですが、土の中に入るとなぜかほとんど力を発揮しません。堆肥が土の中で陽イオンを吸着できるほどの安定した腐植になるまでには相当の時間がかかるようです」

 それでも、堆肥を入れることで保肥力が高まる。

「ひとつは、堆肥に含まれる繊維質が物理的に水を保持するため、水に溶けた肥料分も抜けにくくなるということです。また堆肥は団粒形成を促すので、もともと水持ちの悪い砂地などでは、保水性が向上して肥持ちはよくなります」

「それともうひとつは微生物が肥料分を取り込む力があります。微生物は自分の体をつくるためにチッソを取り込んでいます。つまり微生物が多い土ほど、維持されている肥料分が多いことになります」

「『保水力』と『微生物の保肥力』は、土壌診断のCECには出てこないものです。土のCECを上げようと躍起になっても、残念ながらもともとのCECは簡単に変わるもんじゃありません。でも保水性や微生物の保肥力というのは、堆肥や有機物で結構上がるんじゃないかと思うんです」

 堆肥や有機物が「保水力」と「微生物の保肥力」を高める。そして、モミガラの最大の特徴は、保水性や通気性を直接高めることにある。地力=腐植含量という従来の見方にはなじまなくても、モミガラは大きな地力的効果を発揮する。

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団粒構造から地力を考える

 モミガラはかなり特異で、それだけに独自な魅力をもっている有機物だが、通常、堆肥や有機物は微生物に分解されることで「微生物の保肥力」や、団粒形成による保水性・通気性改善などの効果をもたらす。もっとも、モミガラも微生物と無関係ではない。有機物だからやがては微生物のエサになって分解するし、モミガラがつくる保水性、通気性は微生物にとっても良好な環境をもたらす。粘り気がでてきた原さんの砂地では微生物が増えているだろうし、和田さんの粘土質の土では、コロコロと団粒が発達していた。

 そこで、有機物の効果として常識のようにいわれる団粒構造をすえて「土質の悩み」や「有機物のギモン」について考えてみよう。 

 団粒構造の発達した土は、養分供給力にすぐれ、水はけも保水力も高まるとされている。この団粒構造について最近、農文協から大変興味深い本が出版された。青山正和氏(弘前大学農学部)の『土壌団粒 形成・崩壊のドラマと有機物利用』である。

 土の団粒構造の重要性はだれもが強調するが、日本での土壌団粒の研究は意外に少ない。日本では水田土壌が重要で、水田では「土壌団粒」が重視されなかったからである。青山氏はこう述べている。

「人類が土壌団粒をいつ発見したのかは不明であるが、おそらく、畑作農業に携わる人々は昔から団粒というものを意識していたものと思われる。(略)。土壌に団粒が形成されると、水を保持する微細な孔隙と余分な水の排水と空気の流通を行なう粗大な孔隙が形成される。これによって、土壌は水と空気の供給という両立が難しい役目を果たしている。水稲は地上部から根に酸素を送る仕組みができているために、水を張った水田土壌でも窒息しないで生育できるが、畑作物は根が呼吸できないと枯死してしまう。したがって、畑作農業を行なう上では土壌団粒の形成が必要不可欠であり、農家は土壌団粒に注意を払ってきたであろう」

 本書の書名のように、土壌団粒には「形成・崩壊のドラマ」があり、有機物利用や耕し方によってドラマのありようが変わってくる。

(1)団粒構造は、小さな団粒(ミクロ団粒)とミクロ団粒がつながった大きな団粒(マクロ団粒)とで成り立っている。ミクロ団粒は安定しているが、マクロ団粒は崩壊しやすい。

(2)ミクロ団粒は腐植(有機物が分解したもの)と粘土(土の微粒子)が結びついたもので、マクロ団粒は、ミクロ団粒や植物遺体の断片、砂の粒子などが、植物根および糸状菌菌糸、微生物代謝産物などによって絡み合わされることによって形成されている。根が分泌するネバネバの物質やカビの菌糸が団粒形成にひと役かっている。

(3)マクロ団粒は、団粒内の易分解性有機物の分解を抑制している。これは有機物が団粒内に物理的に閉じ込められて、微生物および微生物が放出する細胞外酵素による分解を受けにくくなっているためと考えられている。つまり、団粒構造が有機物の消耗を防ぎ、団粒を守るという仕組みが働いている。

(4)森林や草原のような未耕地では表層に有機物が蓄積し団粒形成も進むが、これを畑にして耕耘すると有機物も団粒も減少に向かう。逆に不耕起の畑では、耕起に伴う土壌の攪乱や通気の増加、団粒構造の破壊がないため、土壌表層のマクロ団粒、なかでも比較的大きなマクロ団粒が増加する。表層の土壌有機物が耕起を行なった場合より増加し、この集積した有機物の分解過程で生成する糸状菌菌糸と微生物代謝産物によって、マクロ団粒の形成が促進されていると考えられる。

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土質で変わる「形成と崩壊のドラマ」

 自然が土をつくってきたように、自然界には「団粒」をつくる仕組みが働いている。これに対し、農耕地では人間の力が加わり、土壌団粒の形成と崩壊のドラマが、自然界に比べれば激しく起こる。このドラマと土質との関係をまず考えてみよう。

 土質の見方はいろいろあるが、土を構成している土の粒である砂、シルト、粘土の割合から区分すると、大きく砂質土壌、火山灰土壌、粘土質土壌に分けられる(76ページ)。

 まず、砂質土壌について。砂質土壌は粘土が少ないうえに、有機物の分解が早く有機物や腐植が蓄積されにくいため、土壌団粒はできにくい。いわば「形成と崩壊のドラマ」がおきにくい土壌だ。保肥力も小さく、逆に肥効をコントロールしやすい、という利点もある。

 冒頭に紹介した原さんは、野積みモミガラの連用で砂地の土に粘り気がでてきたという。モミガラで保水力・保肥力が高まって細根がよく張り、根と微生物がもたらすネバネバが土に「粘り気」をもたらしているのだろう。団粒形成にむけた緩やかな「ドラマ」がおきていて、それが砂地のよさを維持しながら、「砂地の悩み」をやわらげているといえそうだ。

 火山灰土壌はどうか。火山灰土壌にもいろいろあるが、代表的なのは関東平野などに広がる黒土(黒ボク)である。この黒土は降り注いだ火山灰にススキなどの草が生え、いわば長い長い「形成と崩壊のドラマ」を経てつくられてきた土だ。一般に腐植に富み、団粒構造、土壌構造も発達しているが、リン酸が効きにくいという欠点があり、これをカバーすればつくりやすい土だ。ただし耕作すれば有機物はしだいに消耗し、これに「耕しすぎ」が加われば、土が硬くなっていくことを農家は実感している。ロータリで簡単に耕せるが、耕せば耕すほど、せっかくの団粒構造を破壊し、団粒が有機物を保護しているというしくみが崩れ、崩壊へのドラマが進む。

 黒土の下はやせた赤土(これも火山灰土)になっている畑が多いが、深耕などでこの赤土を上にあげた結果、調子が悪くなったという農家もいる。この下層の赤土は水をためる滞水層として干ばつを防ぐ働きもしていて、いじらないほうがいいという研究者もいる。

 神奈川県三浦半島の木村治夫さんは、黒と赤を上手に活かしている。ダイコンには土が付かない赤土がいいと、赤土を出して栽培しているが、ボカシ肥料や天然系の肥料で地力の維持・向上につとめている(72ページ)。

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土の表層だけ団粒化すればいい

 最後に粘土質土壌である。土の微粒子である粘土は電気を帯び、腐植と結合して団粒をつくる、いわば土の構造や保肥力の担い手である。この粘土の割合が多い粘土質土壌には、水はけが悪いなどの悩みはあるが、粘土が多いだけに、有機物施用によって有機物と粘土の結合を進め、団粒構造を発達させれば、力のある土壌になる。「有機物のギモン」も生まれやすいが、「形成のドラマ」の楽しみが大きい土でもある。水はけ、通気性が悪いだけに扱いにくく、有機物との出会わせ方に工夫が必要になる。三重県の青木恒男さんの場合は、次のようだ(118ページ)。

 青木さんの畑は重粘土の転換畑で、水はけも極端に悪い。そこで、「土づくりを」と、毎年牛糞堆肥やシメジの廃菌床を10t近く、pH改善用の生石灰も200kgくらい入れ、深くまでフワフワになるように深耕し続けた。しかし土質も水はけも、ちっとも改善されない。堆肥などを深くすき込んでフワフワにした土の下のほうはいつも水たっぷりでドロドロ、なのに晴れると表面は猛烈に乾いた。表面が乾くと牛糞堆肥や廃菌床の肥料分が塩分になって水と一緒に上がってきて、地表が真っ白になるほどだった。

 こうした苦い経験を経てたどりついたのが、不耕起、半不耕起のやり方である。堆肥などの有機物を大量に入れることも、深く耕すこともパッタリと止めてしまった。土に戻すのは、作物の残渣とその場に生える雑草のみ。基本的には不耕起で、その場に刈り倒すか置いておくだけで自然に分解されるのを待つ。トウモロコシの残渣をすき込んだりする場合でも、せいぜい5cm耕すだけだ。土の表層には、ダンゴムシやらワラジムシやらの大群、そしてよく見ると、もっと小さな虫たちもウヨウヨいる。じつはこの小さな生きものたちが、青木さんが愛してやまない土づくりの主役。その糞は作物の栄養になり、さまざまな微生物のエサとなって腐植がつくられ、団粒化を進めてくれる。

 こうして一見硬そうな青木さんの畑も、地表5cmほどは結構サクサクの団粒構造になっている。作物の根っこが、そのサクサク層にビッシリ張っている。

 表層の団粒が発達し根もそこに集中すれば湿害の心配は少なく、肥料も効率的に効かせられるから、少肥でいける。下からはきれいな水が供給され、乾燥害も受けにくい。

 地力は「増進しよう」とは思わずに、「維持しよう」と思っているくらいがいい、という青木さん。団粒構造が大事だといっても、表層の団粒化が大事で、作土全体を団粒化する必要はない。そんなことは難しいし無理もかかる。

 適度の新鮮な有機物が供給されれば、粘土が豊富なだけに表層に団粒が発達する。この団粒を破壊しない耕し方で維持していく。表層にビッシリ張る細根、根毛も団粒構造を維持する。小さな虫たちも応援してくれる。維持する仕組みができれば、土つくりに金、手間もかからない。

 今回、有機物として探偵団が注目したのは、モミガラ、家畜糞堆肥、米ヌカの3つである。

 モミガラは保水性、通気性改善の面で団粒構造と似た働きを発揮する。大量にほとんどタダで入手できるのも魅力だ。家畜糞堆肥は、肥料として肥料代減らしに役立てながら、団粒形成にも活かしたい。今月号の「堆肥栽培2010」でもそんな工夫を集めた。

 そして強力な発酵パワーをもつ米ヌカは、土ごと発酵など、身近な資源を活かすうえでの心強い味方だ。

 土ごと発酵方式や有機物・堆肥マルチは、地域の資源を手間、金をかけずに効果的に使う、農家が編み出した方式である。こうして、根も微生物も小動物も生きやすい環境をつくる。そんな環境づくりが、結果としてその土質にあった地力を形成する。

 雑草、下草などを活かす「自然農法」も原理は共通である。8月号の特集「自然農法が知りたい」に続き、今月号では「自然農法に接近」というコーナーを設け、「落ち葉農法」などを紹介した。

「土質の悩み」「有機物のギモン」を、ドラマを感じる楽しい土つくりの工夫へとつなげていきたい。

(農文協論説委員会)

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「田舎の本屋さん」のおすすめ本

現代農業 2010年10月号
この記事の掲載号
現代農業 2010年10月号

巻頭特集:土肥特集2010 地力探偵団が行く えひめAI進化中/竹パウダーの使い方/堆肥栽培2010/土壌診断の盲点/ホモプシス根腐病と闘う/自然農法に接近/秋の果物産地レシピ70 他 [本を詳しく見る]

土壌団粒 土壌団粒』青山正和 著

土壌団粒が発達したふかふかの土は,昔から作物がよくできる豊かな土の指標として大切にされてきた。進化論を唱えたダーウィンがミミズの研究に打ち込んでいたことはつとに有名である。著者は旧来のできあがった構造としての「土壌団粒」を,「ミクロ団粒とマクロ団粒からなる階層的な構造をし,形成と崩壊が繰返されている動的な存在」と捉える,日本では数少ない土壌団粒の研究者。著者は,そのメカニズムと役割,有機物施用による土壌管理のあり方を追跡する。 [本を詳しく見る]

現代農業 2009年11月号 現代農業 2009年11月号』農文協 編

特集 簡単だ! モミガラ活用◆モミガラ堆肥は簡単だ◆くん炭やきは簡単だ◆生でもどんどん使う◆培土にモミガラ 他。 [本を詳しく見る]

現代農業 2010年08月号 現代農業 2010年08月号』著者

肥料をやめたら・草を活かしたら・農薬をやめたらどうなるか?/稲作 品種別穂肥診断/野菜 光合成細菌/果樹 SS散布術/茶のクワシロカイガラムシ防除/夏野菜のスピード料理/「加工で活かす」はオレが引き受けた  ほか。 [本を詳しく見る]

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