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農文協トップ主張 2010年4月号

農家やJAが支援する「食農体験活動」で、地元農産物ファンをつくろう

目次
◆JAから500本の葉付きダイコンが
◆抱えて帰った旬の贈り物
◆「だいこんウィーク」に込めた思い
◆給食でも家庭でも大根料理づくし
◆給食が好きになる「魔法」とは?
◆痛くてうまい「イガ栗体験」も
◆一石二鳥の「給食畑」のススメ
◆「給食畑」の看板が地産地消のシンボルに
◆JA青年部も動き出した

「食と農を結ぶさまざまな体験の場に子どもを置いて、子どもに、地域を誇りに思う心を育てたい」

「次世代に、食と農、地産地消の大切さがわかる心を育てたい」――そんな熱い思いで取り組む「体験活動」が今、全国に広がり、農家やJAの学校支援の輪が広がっている。

 食と農を結ぶ「体験活動」を応援するといっても、いろいろな形がある。実践事例を紹介しながら、いま何が大切か、どこから始めるかを考えてみたい。

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JAから500本の葉付きダイコンが

 兵庫県芦屋市にある市立浜風小学校(各学年2クラス・児童数338人)へ、昨年の11月30日と翌日の12月1日に、合わせて500本の大きな葉付きダイコンが届けられた。

 トラックで届けたのは、地元JA兵庫六甲の職員。積んできた葉付きダイコンは、同じJA管内、尼崎市の四人の農家が自分の畑から朝採りした「旬のもの」。農家から子どもたちへの無償提供のプレゼントなのだ。

 浜風小学校の「給食だより」、それには大きく「選食眼」というすごい名前が付いているのだが、この11月25日号に次のような保護者への「お知らせ」が出ている。

「JA兵庫六甲より『大根』のプレゼント! 11月30日(月)に1年生がひとり1本の葉っぱつきの大根を持ち帰ります。12月1日(火)に2年生から6年生が持ち帰ります。(持ち帰るためのレジ袋を持たせてください)」

 この給食だより「選食眼」には、プレゼントに込められた生産者の思いも紹介されている。

「JA兵庫六甲では、都市部でも農産物が作られていることや、農業にがんばっている人がいることを知ってほしい、小学校と『食育』で関わっていきたいと考えています」

 ダイコンのプレゼントのあった日、1年生は、校内の小さな畑で自分たちが栽培し収穫したサツマイモ(JA兵庫六甲の営農相談員や農家が植え付け指導などで参加)を蒸かして干しいもづくり体験をし、贈られたダイコンを細くカットして切干しダイコンづくりの体験もした。

 子どもたちは、放課後、大量に並べられたダイコンから1人1本ずつ自分で選び、レジ袋に収まりきれない葉付きダイコンを大事に抱っこして各自の家に持ち帰った。JAがつくった「大根レシピ集」のプリントも一緒に。

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抱えて帰った旬の贈り物

 家庭での反応はどうだったのか。お母さん方から、たくさんの感想が届き、「選食眼」で紹介された。

「大きな大根を重たそうに持ち帰り、頂いたレシピ通りみんな作ってと…大根とハムのフライ、大根サラダ、おみそ汁、大根をうすくスライスし他の野菜とスープ風にと使わせていただきました。フライの時は、パン粉をつけるのを手伝ったりして楽しそうでした。なかなか葉付きの大根を求めることができないので新鮮なものをいただきうれしかったです」

「兄弟で『こっちの大根が僕が持って帰ったほうやで』と大根を使い切るまで言っていました。味噌汁、おでん、鍋物に大根が登場するたび、兄:『この大根どっちの?』弟:『どっちの大根がおいしい?』。二本とももちろんおいしかったですが、調理する私はどっちが持って帰った大根かわからなかった…。しかし、息子たちが短くなった大根でも『これ兄ちゃんの方!』と見てわかるのが面白かったです。食材をこんなに大切に愛おしく思えるなんて、そうない貴重な経験だと思います。家計も大助かりでした。ありがとうございました」

「自分が育てたわけでもないのに、なぜか自慢げに持って帰ってきました。どうやら大きなものを選んだらしいです。大根まるごと食べて(おでん、皮は漬け物、葉はじゃこ炒め)、捨てるところがないのでびっくりしていました。葉っぱには、虫もついていましたが、『虫が食べるほど、おいしい大根なんだよ〜』というと納得していました」

「ただ大根を配るだけでなく子どもたちに選ばせたり、切干し大根にしたりして楽しみながら学ばせるやり方に感心します。家庭では面倒でできないことを学校でしていただけるので本当に感謝しています。心のこもった手作りのごはんを食べている子どもは非行に走らないと勝手に思い込み、さらに給食室を良きライバルとして毎日台所に立っています」

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「だいこんウィーク」に込めた思い

 浜風小の食農体験活動の仕掛け人は、栄養教諭の奥瑞恵先生。奥先生は給食で「だいこんウィーク」をやりたかったのだ。それにJAからのプレゼントが重なった。

 給食だより「選食眼」に載っている奥先生の思いはこうだ。

「給食はたくさんの食品を使うことをよしとして、出来るだけ同じ食材が重ならないように、献立作成を行なってきました。農業を営む方から『農家は畑でできる野菜を食べるので、毎日同じ野菜を食べる。それが当然のことです』と言われました。それを聞いてごもっともなことだと思いました。私の実家も畑をしているので、冬なら白菜・大根、夏にはきゅうり、なす、トマトが毎食のように食卓に並んだことを思い出しました」

「この度JA兵庫六甲から大根をいただくことになり、旬の大根を一食の給食に、違った大根メニューとして出すことにしました。名付けて「だいこんウィーク」!! これによって、旬の作物を食べることは、栄養の面からも流通などの面からも理にかなっていること、昔はそういう食生活だったことを子どもたちに知ってもらいたいと思います」

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給食でも家庭でも大根料理づくし

 さっそく11月30日から、一食の給食に大根料理が1〜3品登場する「だいこんウィーク」が始まった。

 初日は定番の「大根の味噌汁」、2日目「ふろふき大根+柚子みそ」、3日目はパン給食に合わせた「大根のクリームシチュー」「梅干し入り大根サラダ」、4日目以降は「大根葉のふりかけ」「紅白なます」「白身魚フライに大根おろし」「のっぺい汁」「麻婆大根」「大根のそぼろ煮」「大根の煮物」「切干し大根のはりはり」「大根とひじきサラダ」などなど、1週間を超えて8日間続いた。

 保護者の感想も届いた。

「『旬』という感覚を感じられにくくなっている近頃に、とてもよい企画をして下さったと思います。寒い時期に大根が大量に並んでいた…という記憶が子どもたちの頭のすみにいつまでもあるのではないでしょうか。言葉では伝えきれないものを感じとってくれたのでは…と思います」。

「今回のだいこんウィークに私も触発され、葉と皮のきんぴら、おでん、大根カレー、大根の煮物、雪平鍋とたくさんつくりました」。

「だいこんウィーク中は、わが家でも毎日大根料理をつくりました。新しいメニューの登場とあってか、子どもたちも大根がより一層好きになったと同時に大根の用途の広さに関心を寄せることができました。今回の企画が提案された時、『ハッ!』と思いました。そうですよね、旬のときにはそればかりたべていたなぁ…と思いだしました」

 浜風小の子どもたちは、この「だいこんウィーク」中は学校でも家庭でも大根料理づくしの毎日だったようだ。多彩な食べ方を楽しみ、給食だより「選食眼」には大根の生産農家四人の顔が「地産地消って、知ってるかな」のメッセージとともに大きく紹介されて、地元でとれる大根やそれをつくる人とすっかり仲良くなった。

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給食が好きになる「魔法」とは?

 子どもたちが「給食」を好きになり、残さなくなる魔法があるのをご存じだろうか。

 栄養教諭の奥先生はそんな魔法の使い手だ。それはだれでもできること。子どもたちに給食の仕事を手伝わせることだ。「子どもは給食の手伝いが大好きだ」と奥先生は言う。手伝いといっても小さなこと。奥先生が実際に子どもたちにやってもらったことは、1年生に「実えんどう」をむいてもらい、むけたら給食室へ。調理師さんが「ありがとう」と受け取る。できた豆ごはんは絶対に残さない。

 2年生には「きぬさや」のすじとりや、トウモロコシの皮むき(皮がむけたら、ヒゲにしたり角にしたり、仮装大会がはじまるという)。

 3年生も手伝いたいというので、枝豆を枝から切り取らせる。変化もなく、子どもにはつまらないかと思ったが、全校分をワイワイいいながらやりとげた。

「手伝った給食は美味しい」そんな魔法に全部の子どもがかかる。子どもに給食の調理の一翼を担ってもらい、子どもを給食づくりの当事者にし、お客にしない。それが好き嫌いをなくし、残さず食べる魔法のタネなのだ。

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痛くてうまい「イガ栗体験」も

 ほかに、奥先生は、4年生には「イガ栗でミニ栗拾い」をさせた。

 同じ兵庫県丹波篠山、栗の本場の農家からイガ付きの栗、全校生分400個を取り寄せた。すごい量のトゲトゲの栗が届く。農家にとってはイガごと発送するのはかさばって大変だが、奥先生の思いを知って汗を流してくれた。

「わぁ〜、すごい栗」が子どもたちの第一声。初めて見るイガ栗の山に興味津々。

 子どもたちに、イガの中の栗を取る作業を頼む。

「いってぇ〜!」「いた〜い!」 悲鳴が上がる。

 軍手をしていても針が指を刺す。どうすればいいのか。靴で踏んで取る。なるほどと気付く。

「栗は足でふんでわります。わると、あざやかな茶色できれいでした。ところが緑のイガをわるとまっ白でした。それにはすごくびっくりしました。イガむきをしたのははじめてです。でもみんな上手にできていました。自分でむいた栗はいつもよりおいしく感じました」(4年男子)

 体験で身に沁みたことは忘れない。自分の手で食材に触れ合うとおいしく感じる。まわりに畑のない都会の子ども

たちにも、本物の体験をさせたいという学校の思いと、農家の支援がつながれば、一生忘れない郷土の産物の応援団が育ってくれる。

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一石二鳥の「給食畑」のススメ

 回りにまだ畑があり、休耕地が残っている所なら、子どもを「給食大好き」にする「魔法の場所」をつくることができる。学校の近くに「給食畑」を設けることだ。

 いま福井県では、県の補助事業として、「学校給食畑」の設置をすすめている。

「子どもたちと農家の『学校給食畑』始まる」と題した福井県農林水産部の資料がある。その資料にある「学校給食畑推進事業」のねらいは、

「子どもたちが給食で食べる地場産農産物を生産する『学校給食畑』を学校近くに設置し供給量を増やします。また、子どもたちが農家と一緒に生産圃場で農作業体験をすることで食育の推進を図ることを目的としています」。

「給食畑」で、食材の地場産物を増やし、その畑が子どもたちの農業体験の場にもなる。一石二鳥の取り組みだ。

 この「給食畑」は、栽培を担当し、子どもたちの農作業体験も指導する地元の農家と、その産物を給食に取り入れる学校の栄養教諭との共同活動の場でもある。

 福井県の事業の内容を見ると、「学校と農家による運営会議」を開催して、生産、供給などについて協議し、子どもたちによる農作業体験のための道具類などの整備もすすめる。畑の整備も支援し、休耕地の整地や、冬の野菜の供給のための小規模ハウス設置にも補助をする。

 平成21年度から実施して、初年度は小浜市、鯖江市、永平寺町など4市3町の21の小学校で「給食畑」の設置がすすめられた。

 鯖江市の豊小学校では、生産者が休耕地を開墾して畑に造成。市の特産野菜であるブロッコリーをはじめ、ダイコン、ナバナ、カブ、ハクサイなどを栽培。全学年を対象に、学校給食畑での収穫体験や生産者との勉強会を実施。子どもたちが栽培体験を家族に話したことから、保護者から手伝わせてほしいとの声が多数あったという。

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「給食畑」の看板が地産地消のシンボルに

 あわら市の伊井小学校では、ここでも生産者が休耕地を開墾し、サツマイモ、カボチャ、トウモロコシ、キュウリ、ナス、サトイモなどを栽培して、ほぼ毎週給食で利用。学校内のイラストクラブの子どもたちが絵をかいて、給食畑の大きな看板を作成・設置した。

 看板は校区内の人たちにも注目されて、地産地消、地域の農と食をつなげるシンボルになった。

 子どもたちも栽培に参加することで、給食畑は自分たちの畑になる。とれた野菜が給食に出されれば、しっかり味わって食べ、嫌いだった野菜も残さなくなる。

 この給食畑は、多品目が要求されるが、給食専用ではない。学校の給食は土日・夏休みには休みになる。臨機応変に対応することが必要で、畑を担当する生産者は、「直売所農家」が向いている。畑での子どもたちとのふれあいは、高齢農家の生きがいにもなるだろう。

 とれた野菜を子どもたちが直売所で販売する体験も、心に深く残るものになるだろう。

 こうした多彩な体験をセットするのも、学校内外での食育コーディネーターを任務としている栄養教諭だ。

 いま食農体験活動を応援しようと思う農家やJAに必要なのは、全国で増えてきている栄養教諭と仲良くなること、奥先生のような、農家の思いのわかる先生を育てることである。

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JA青年部も動き出した

 もう一つの活動例を紹介したい。こちらはJA青年部と管理栄養士・栄養教諭をめざす女子学生との連携活動だ。

 宮崎県JAえびの市青年部(鬼川直也部長)は、県内にある南九州大学管理栄養学科の女子学生たちと2009年4月に「食と農をキビリ(結ぶ)隊」を結成した。

「消費者が変わらなければ農を取り巻く環境は変わらない。農業の業の厳しさだけを伝えても、同情しかもらえん」

という鬼川さん。農家として、将来の食育の指導者に、農の生活を丸ごと体験してもらいたい。学生たちには同じ隊員の立場で、特産品のサツマイモの育て方を一から体験してもらった。サツマイモ苗の定植のとき、女子学生たちが次々と裸足で畑に入ってくれたのを見て、「お互いの距離がぐっと縮まった感じがした」という。

 収穫時には、「一番大きなイモを掘るコンテスト」などをたのしみ、交流を深めるなかで、参加した学生からは、「野菜を買うとき『えびの市産』をさがすようになった」とのうれしい変化も。安くて安全ならどこの国の産物でもいいと考える食育指導者にはなってほしくない。

 学生キビリ隊員たちは、食のプロとして、JAえびの市の売店で販売するサツマイモのスイーツを開発中だという。食と農を地産地消で結び、次世代に郷土愛を育てるのは、農家の仕掛けにかかっている。

 芦屋市浜風小学校栄養教諭・奥瑞恵先生の心温まる給食の取り組みは、隔月誌『食農教育』で本人の執筆記事が連載されているので、ぜひご覧いただきたい。

 また地域に根ざした多彩な食農体験活動=教育ファームの取り組みは、JAえびの市青年部のほか全国の事例が教育ファームねっと」で紹介されているので、ぜひ検索・参照いただきたい。

(農文協論説委員会)

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この記事の掲載号
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