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農文協トップ主張 2008年4月号

いま、地域コミュニティづくりに農協の出番
農協法公布60周年にあたって

目次
◆農協の新しい元気を支えるもの
◆直売所を基点にむらが蘇るJA甘楽富岡の取組み
◆大消費地で地産地消をすすめるJA兵庫六甲の取組み
◆大型合併は、新しい条件をつくりだした
◆「JA版農業電子図書館」を活用して支所をにぎやかに
◆「地域の農協」として存分に働いてもらいたい

 農家の経営がきびしさを増しているが、JAの経営も大変な時代を迎えている。農産物の価格低迷の結果、多くのJAでは販売高を大幅に減らし、購買事業も、業者系のホームセンターなどとの競争にさらされたり地域の農業生産が縮小したりして赤字。頼みの信用・共済事業も収益性が悪化し、経営的・運動的な展望が見出しにくくなっている。

 経営悪化の対応策としてJAはこの間、大型合併を強力にすすめ、支所や営農センターを統廃合して支出減を進めてきた。それは、JAの地域からの乖離とサービスの後退につながり、農家(組合員)にとって農協のメリットが見えてこない状況をつくりだしている。

 一方、農水省は2005年、「経済事業のあり方の検討方向(中間論点整理)」をまとめ、農協をとおした販売や資材購入をめぐる組合員への「強制」などを問題として指摘し改善を求めている。さらに、財界などからは多様な事業が展開できる「総合農協」の解体や株式会社化の圧力が強まっている。

 そんななかで迎えた、農協法公布60周年である。農協はいま、何を、どうすべきなのか。ここでは「地域コミュニティと農協」という角度から考えてみたい。

農協の新しい元気を支えるもの

 今年の1月号主張「農家と住民がつくる『地域コミュニティ』が時代を動かす」では次のように述べた。

「集落・小学校校区(旧村)という生活圏のなかで守られてきた農村空間の力は『結びつき』によって支えられてきた。なによりも、農業を介した自然との強い結びつきがあり、自然と人間のインタラクティビティ(働きかけ、働きかけ返される関係)がある。そして地域自然を生かして暮らしていく家族の、むらの結びつきがある。この結びつきを地域住民や都市民にまで広げ、農山空間をより豊かにしていく場が『地域コミュニティ』であり、これを地域住民の共同作業=自治として進めていくのが『地域コミュニティ』づくりである。新しい『地域コミュニティ』は農村の根源的な力を生かすことによってこそ、成立する」

 この地域コミュニティの中心になっているのが、全国各地に展開してきた直売所での販売である。直売所はその数も販売額も伸びつづけており、現在では1万5000カ所、販売額は2500億〜3000億円に上るだろうと推測されている。

 直売所の魅力は、新鮮でおいしい農産物が手頃な値段で手に入るからだけではない。単なるモノの売り買いの関係にとどまらず、生産者と消費者との出会いがあり、物語が生まれるからである。食べ物をとおして気持ちが響き合い、農家の思いも伝わっていく。直売所は交流の場であり、それゆえ、自然な形でさまざまな機能が付加され、拡大されていくことになる。

 都市農山漁村交流活性化機構(まちむら交流きこう)の調査によれば、付帯施設を併設している直売所が約6割もある。付帯施設の6割が食堂・レストランで、地元農産物や郷土料理を目玉にする農家レストラン風の食堂が人気だ。農家の手づくり加工品も売れ行きがよく、加工施設を経営する直売所も41%としだいに増えている。研修施設や体験農園の取組みも盛んで、農業体験は33%、食育活動は23%で行ない、農業講習や貸し農園、福祉活動などの取組みも広がっている。直売所は、地域コミュニティづくり、地域活性化の拠点になっているのである。

 そして、この大きな流れのなかで、農協の新しい元気も生まれている。

直売所を基点にむらが蘇る
JA甘楽富岡の取組み

 共販・市場流通を中心に販売活動を展開してきたJAだが、いま、多くのJAが直売所に取り組んいる。この直売に総力をあげて取り組んできた先進的なJAとしてよく知られるのが、本「主張欄」でも何度か紹介してきた群馬県のJA甘楽富岡である。JA甘楽富岡の取組みはその後も豊かに展開し、地域コミュニティづくりの原動力になっている。

 中山間地を多くかかえるJA甘楽富岡では、養蚕とコンニャクという商品作物に依存した農業が輸入攻勢によって崩壊状況に陥った時、「地域総点検運動」を行ない、50年前まで遡って、自給用も含め地域でつくっていたものを洗い出した。一方では、定年やリストラで退職した中高年層や子育てが終わった女性たちに働きかけて、1000人を超える人びとに栽培に取り組んでもらい、それを結集して地元のJA直営の直売所「食彩館」を盛り上げていった。食彩館の魅力が評判になると、「直売所をそのまま量販店にもってきてほしい」という要望がでてきて、東京などの量販店内に「インショップ」がつくられた。朝穫りで新鮮、そして個性的な農産物は消費者の反響を呼び、インショップはたちまち50店舗に増加、食彩館とインショップの売上げで月商1億、年商12億円以上を達成。さらに、そこで生産や販売の技術を身につけた人びとがステップアップして生産部会に入り、首都圏の生協や量販店との総合相対複合取引きをすすめることによって、年間の販売高100億円を回復したのである。

 そこでは、消費者や流通業者に対する食の提案が行なわれる。地域で代々自家採種されてきた「宮崎菜」というツケナのように、甘楽富岡ならではの独自のものが、地元の食べ方の情報付きで提供される。年に何回かは消費者の産地訪問や農業体験の機会が設けられ、日常食べる農産物が産み出される農村の風や農家の思いを肌で感じとることができる。量販店も交流の手伝いをしてくれる。JA甘楽富岡の販売は、このような都市生活者と生産者の交流を含んだ「お裾分け」なのである。

 こうしてJA甘楽富岡の農業は、少量多品目を総合的に生産する農業に生まれ変わり、多くの女性や高齢者、定年帰農者がその担い手となった。むらのなかでは、対話が生まれ、かつての賑わいがもどってくる。集落内で苗をつくる人と分けてもらう人の関わりができ、車で運搬できる人とできない人の相互支援体制が自然に生まれ、これに住民や都市民との交流も加わって、中高齢層にやりがい、生きがいをもたらし、地域を元気にしていく。直売を基礎におく少量多品目の総合産地づくりは、農協共販・市場出荷にはなかったさまざまなつながり、結びつきを広げ、地域コミュニティを形成していく。

大消費地で地産地消をすすめる
JA兵庫六甲の取組み

 もう一例、今度は大都市部にあるJA兵庫六甲の取組みをみてみよう。神戸市・尼崎市・西宮市など7市1町、総人口309万人の大消費地をかかえるJA兵庫六甲はいま、「農都不二」をスローガンに、管内の農産物を全量、地元で売る体制の確立をめざしている。

 ここでもベースにあるのは、直売所である。女性や高齢者だけでなく、専業農家も出荷できる大型直売所を次々開設し、市場出荷中心から少量多品目栽培への切り替えをすすめてきた。

 JA兵庫六甲のユニークな取組みとして注目されるのは、「KOBEたべもの通貨」という名の地域通貨の発行である。農協・生協・環境NPO・福祉NPO・地元企業などが出資をして「たべもの通貨協議会」を設立し、その出資金を基に発行されるこの通貨は、農業体験・援農や観光農園の利用、生産者と消費者の交流イベントなどへ参加した人々に無料で渡される。地域農業への理解を深め、地産地消を進めることを目的にしたもので、JA兵庫六甲の直売所「農協市場館」での買い物にこの通貨が使われるる。300円以上の商品購入に対し一枚(30Agri=30円分)、600円以上で2枚(60Agri)というように、300円ごとに一枚ずつ使え、その分が割引となる。将来的にはJAの農産物を扱っている「コープこうべ」での買い物にまで拡大したいという。

 こうした取組みの背景には、1995年の関西大震災の体験があるという。大震災の時、合併前の旧JA神戸西管内では、市役所の職員、農協の職員、農家の女性会のメンバーなどがおにぎりづくりに力を合わせた。たくさんの炊飯器を用意して昼から着手、箱詰と配送準備が終わるのは夜中。そんな毎日をすごし、3週間で13万個のおにぎり届けたという。また、農協と生協とが協力して壊滅的な被害に出合った長田区の小学校で大鍋で炊き出しも行なった。こうして被災地の食をボランティアで支えたのである。

 大震災での体験は、生きるために欠くことができないという、当たり前だけど忘れがちな〈たべもの〉の価値を心に刻む機会になり、食をとおした人々のつながりの強さと大切さをともに確認する機会になった。そんな体験を活かしながら、JA兵庫六甲は、農家と地域住民の相互理解と協力で、地域内自給をはかることを主眼に置いた農協の事業を展開しているのである。

大型合併は、新しい条件をつくりだした

 以上、2つの農協の事例をみてきたが、これはかなり特殊な事例であり、冒頭で述べたように、合併した大型JAでは地域に根ざした活動はしにくく、合併の農家にとってのメリットは見えづらいだろう。しかし、大型合併も、悪いことばかりではない。

 複数の市町村や郡をその内に含む巨大な合併によって、多くのJAは、大なり小なり、都市的な地域から中山間地まで条件がまったく異なる地域を内に含むようになった。つくられる作物も多様だ。中山間地のJA甘楽富岡のように山の豊かな資源や田畑を生かし、JA兵庫六甲のように消費地を内側に抱え込んでいることの強みを生かして地産地消をすすめる。管内には飲食店、レストラン、旅館、病院、学校、福祉施設、地元企業などさまざまの団体や業種もある。地元の加工業者と連携して多様で地域色豊かな加工品をつくり、事業展開することもできる。

 こうして、まずは地域との結びつきを強める。JA甘楽富岡の地元「食彩館」の魅力がその後、大都市圏での「インショップ」や生協・量販店への事業展開につながっていったように、豊かに地産地商を進めること、「地域コミュニティ」への参画が、JAの事業展開に新たな展望をもたらす。委託手数料の自由化や市場外にある物品の卸売りの規制緩和など、市場法の改正で大きく再編されるであろう農産物流通に対応する力も、地域との結びつきから生まれるであろう。

「JA版農業電子図書館」を活用して支所をにぎやかに

 合併で生まれた大型農協が、「大きな地域」にむけて多彩に活動を進めようとするとき、どうしても欠かせない課題がある。それは支所機能の強化である。JAの支所の多くはかつての農協、いわば「わがむらの農協」があった場所にある。この支所を本所の事務的な末端の組織にとどめるのではなく、農家が頼れる拠点として再生する。そんな「小さな地域」での活動が、新しく生まれた「大きな地域」での活動の土台となる。

 農文協ではこの間、「JA版農業電子図書館」を本所・支所一括で設置してもらいたいと、普及に力を入れている。支所の営農活動をサポートし、支所機能の強化に役立てていただきたいと思うからである。

 この電子図書館は、駅の券売機のように指でパソコン画面をタッチするだけで、病害虫・雑草の診断と防除法、登録農薬やその使い方情報などはもちろん、栽培技術や土つくり、加工などについて、自分の関心のある情報を検索し選んで見ることができる(この電子図書館には『現代農業』や『農業技術大系』の膨大な記事データベースが組み込まれている)。それとともに、JAが今までに蓄積してきた地域独自の栽培暦や栽培技術資料なども自在に閲覧することができる。

 導入したJAでの組合員の評判は大変いい。いち早くこの電子図書館を導入した山梨県・JA梨北の組合員である70歳代の農家は、次のように話している。

「営農指導員が不在でも、出直す必要がないからいいね。それに年をとるとね、困っている病気や虫を言葉で他人に説明するのが億劫になる。これだと、自分の都合がよいときに支所にやって来て、自分のやり方でゆっくり調べられるから助かる」

 この「JA版農業電子図書館」を、支所窓口や資材店舗に設置するJAが、この2月で北海道から沖縄まで100を超え、初夏の総代会シーズンまでにはさらに増加が見込まれている。

「農家の生産との結節点となる営農・経済事業を充実させることが農協経営の根底になければならない。地域に密着した営農指導こそがその起点だから、支所窓口での組合員相談への対応を充実させねば」(JA梨北・堀川組合長)という想いが、全国的に広がっているのである。「出向く営農」など、中核農家・法人農家などへの対応を重視しているJAだが、一方では、農協の地域展開には高齢者や定年帰農農家の力が頼りであり、支所を農家の学習・情報拠点にしていこうという気持も強まっている。

 JA版農業電子図書館を活かし、JA支所を人が集まる場にしてほしいと思う。さらに、ゆとりができた支所の建物に農産加工所や図書棚を併設するなどすれば、支所はいっそう賑わう場となるだろう。

「地域の農協」として存分に働いてもらいたい

 農協は、戦後農地改革によって生まれた自作農の協同組織としてスタートした。加入脱退は自由だが、農協は、日本の伝統的なむらの共同性を基盤とする全戸加入の農家の組織として成立し、その歩みを続けた。むらの農協であるがゆえに、一方ではその組織力を利用して行政を補完する役割も課されてきた。さらに、協同組合という運動的性格と経営体としての性格をあわせ持つ農協。そんな矛盾を抱えるがゆえに、農家からも、あるいは財界からも批判がでてくるわけだが、といって、その矛盾をすっきり投げ捨てるわけにはいかない。

 矛盾をバネに、新たな展開をすることを、組合員である農家は望んでいる。その中心的な課題が、地域コミュニティづくりへの支援であり参画である。

「おらがむらの農協」であるとともに、その力と新しい条件を活かし、地域住民・都市民と農家を結ぶ「地域の農協」として、存分に働いてもらいたい。それが農家の願いであり、地域の、さらには都市民の希望であるだろう。

 WTOをはじめ、貿易自由化を強引にすすめ世界を均一化しつつ格差社会化をすすめる経済のグローバリゼーションの流れに抗して、経済の地域化をはかり、それぞれに個性豊かで自然と調和した地域コミュニティを築いていくことは、世界的な、人類史的な課題である。

 地域に根ざしたJAがその旗を高らかに掲げ、地域の人びとの協働のもと、「地域貢献」の実践に取り組むことへの期待は大きい。

(農文協論説委員会)

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