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農文協トップ主張 2007年11月号

今こそ、米の総合的販売を繰り広げよう

目次
◆米の多彩な販売による米消費拡大こそ問題解決の道
◆実効性ある米の消費拡大策――三つの実践
◆米のマーケティングと有利販売のポイントは
◆米の積極販売をとおして消費者の実感的理解を深める

米の多彩な販売による米消費拡大こそ問題解決の道

 全農はこれまで、その年の米の価格予想に基づき販売金額のほぼ全額に当たる額を「仮渡し金」として農家に支払ってきた。しかし今年度は転作の未達成が8万haといわれ、米が過剰基調で推移すると見込まれるなか、「価格予想が困難になっている」として仮渡し金を内金方式に切り替え、従来1万数千円であった仮渡し金を県の主食用主力銘柄で1等7000円(玄米60kg当たり)と低く設定することを決定、農家や農協関係者の間に、いよいよ低米価時代の到来かと衝撃が走った。

 毎年このお金で各種経費の支払いをしてきた農家の中には、こんなに低い仮渡し金では当面の支払いができないと米をJAに出さず、米商人に、それも、これまでより安い値段で売る農家が増える可能性もある。

 このような状況のもと、JAと県本部では、何千円かの積み増しをする動きが広がり、また、農家が困らないように特別の融資のしくみを準備する県も出てきている。積み増しといっても、ほとんどの県では従来の値段よりは低いのだが、それでも仮渡し金を積み上げるということは、JAや全農県本部が自ら頑張って米を高く売るという宣言をしたとみることもできる。

「農協はこれまで、米の販売を大手卸などに事実上委託してきたようなもので、米を本当に売ったことはないのではないか」などと悪口を言われたりもしてきたが、そこがいよいよ、問われているのである。

 米のマーケティングを行ない、米を余さず高く売る。当たり前のことだが、そのように実際の販売をとおして消費者や実需者に米を売ることが実は米消費を拡大する道でもある。米の消費拡大の運動は何十年も取り組まれてきたにもかかわらず米の一人当たり消費量はほぼ一直線に下がってきており、効果があがっていないと言われる。それは、米消費拡大の運動が、米を食べましょうという単なる宣伝や啓蒙で終始していたからだ。

 そして今日の米消費拡大は、食生活の変化や業務需要の増大をふまえ、多様な形をとらなければならない。コシヒカリを中心とする良食味米に関心が集中するなかで、他の品種や一等米以外の米、あるいは中米、クズ米が安い値段で売買され、それが米価を引き下げている面もある。米の多彩な加工品も含め、等級差も含むそれぞれの米の特徴や価値を生かした総合的な米販売で、米の消費拡大と農家の所得確保を実現することが必要だ。

 個人であれ、グループであれ、集落営農であれJAであれ、消費者や実需者に直接働きかけ、本気になって多彩に米を販売すること――そこから道が拓ける。仮渡し金の大幅値下げ問題はそのような根本的な取り組みの必要を改めて求めていると言える。

 この総合的な米販売の方法について、まず、タイプの異なる三つの事例で見てみたい。

実効性ある米の消費拡大策
――三つの実践

【若者の嗜好にあった品種で米消費を拡大】

 石川県野々市町・(有)林農産の林浩陽さんは、米の直接販売やもちの製造・販売に力を入れているが、営農資金がとどこおりがちな8月の資金繰りにも都合がよい早生品種のハナエチゼンが、すこし硬めでカレー、チャーハンなどに向き、近年の若者の嗜好にあっていることを発見。そして「硬めのハナエチゼンはいかがですか?」と、米離れが指摘されている若者に声をかけ、米を積極的に販売することによってハナエチゼンの面積を年々増やしてきた。

 林さんは言う。「コシヒカリより安くて、しかも歯応えのあるハナエチゼンの美味しさが、若い層に受け始めたのです。最近は、よりモチモチと柔らかいコシヒカリ系の『ミルキークィーン』『夢ごこち』が人気ですが、ご飯単品で食べるならともかく、カレー、チャーハン、どんぶり、おにぎり等と、いろいろな食べ方に合うハナエチゼンは、なかなかのモノです。お米にも向き不向きがあり、『なにがなんでもコシヒカリ!』というのは幻想です」と。

 林さんは米の販売に真剣に取り組むことがいまほど重要な時はないと言う。そのような真剣さが若者の嗜好を見抜く敏感な感性を磨き、「硬めのハナエチゼンはいかがですか?」という提案につながった。こうして若者を米食派にしていくことが、夏の資金繰りの改善や米の完売など、林さんの経営をよくすることにつながっているのである。

【郷土の伝統的米加工品や販売の工夫で米を売る】

 次に、昔なつかしい伝統的な米の加工品で米消費を拡大するとともに、米に付加価値をつけて売っている事例である。

 広島県三次市の田村三千夫さんは、田んぼ1.1ha、野菜20aの経営であるが、販売高は1000万円もある。その売上の約3分の1は、郷土に昔から伝わる「焼き米」の製造・販売によるもの。もち米を一晩水に浸して、特注の焼き米煎り機で約1時間加熱。それを乾燥機にかけて水分15%に仕上げ、籾摺り・精米を行なって、250g袋につめる。この焼き米を田村さんは8000袋つくって、JA三次が広島市に開いたアンテナショップ「双三・三次きん菜館」や地元の量販店で1袋441円(税込み)で売る。郷土のなつかしく美味しい味に客がつき、田村さんの米はグラム単位の高単価で売られ、焼き米だけで350万円にもなる計算だ。

 田村さんは、実は約5億円という売上げをあげているJA三次のアンテナショップの生産連絡協議会会長もつとめているが、そこでは、かしわもちではなく、かしわもちをつくるための食材セットを売ることによって人びとの購入意欲を喚起し米粉の売上げを伸ばしている。田村さんは言う。「かしわもちは賞味期限が短く、たくさんつくっても余ったら困ります。そこで、かしわの葉っぱと小豆、もち米の上新粉、砂糖をセットにして売ってみたら、『つくってみたい』と関心を呼んで、よく売れました。都会の女性は葉っぱの食べ方まで聞かれるんですね。ちゃんと答えてつかっていただこうと工夫しています」と。

 いまの時代、米の消費拡大をはかるとともに、1円でも2円でも付加価値をつけて売ることが大事だと田村さんは強調する。

 このアンテナショップでは、JA三次の米も工夫しながら販売している。たとえば、若い女性が仕事からの帰宅時に買って帰れるよう、手提げ用に手がとおる穴をあけた包装袋やペットボトルに米を入れて販売している。そんな細やかな工夫が、農家の所得確保とともに、米消費拡大に役立っているといえよう。帰宅時に米を買えなければ、パンや麺など、もっと軽い簡単に持てる他の食料に変わる可能性がある。

【米を自家製粉し、パンや麺などの原料を米に置き換える】

 比較的廉価な自家製粉機を開発し、農家が米粉をつくって小麦粉の加工品をことごとく米粉の加工品に置き換えていこうと熱く訴えているのが、M東洋商会・全国農産加工開発研究所の高木敏弘さんだ。

 毎日朝食にはパンを食べるという人にパンをやめてご飯を食べろというのは無理な話。そこで、そのパンの原料を米に切り替えたら米の消費拡大につながると高木さんは考えた。ところが、従来の米の製粉機が(プラントの内容にもよるが)、価格が億とか何千万円というレベルにあったため購入がむずかしく、製粉を粉屋に委託せざるを得ない。これは何とかしなければならないと自家製粉機の開発に取り組み、農家や農家グループでも導入できるであろう、188万円の機械を開発したのだった。

 そして米を粉にして、パンをつくる。日本人が大好きな麺類も米粉でつくる。米粉の加工品はそれだけでない。たこ焼き、クッキーやケーキ、マカロニなどなど、米粉で何でもつくることができる。あるいは天ぷらの衣、ポタージュスープやカスタードクリームに使われる小麦粉の代わりとして米粉を使うこともできる。このように、小麦粉をどんどん米粉に置き換えていくことによって米消費を大きく拡大できると、高木さんは情熱を込めて言う。

 以上に見てきたような形で消費者の関心を米に向け、米や、米の加工品を実際に届けることが実効性ある米消費拡大の道であり、同時に農家の所得実現の道なのである。このような取り組みを農家、グループ、集落営農、JAのやれるところから早急に立ち上げていきたい。

 農家個人でいえば、いまや農家の近くに直売所がある。そこでお客さんと会話して米を売ること自体が消費拡大の営みであるし、加工をして売れば付加価値をつけることができる。また集落営農では、女性や高齢者を活かした豊かな地域づくりにむけ、米だけでなく、米以外のものも含めてマーケティングをすすめ、集落営農の産物全部を複合して売っていくことである。いまマーケティングにきちんと取り組み、量販店や生協などに米と野菜を抱き合わせで直販する法人などの動きが出てきているが、そこに地域の個性豊かな農産加工品を盛り込めば、特色ある販売をしようとしている量販店などでは歓迎され、米や野菜のいっそうの販売促進にもつながるはずである。そのことは米消費拡大の一方で転作の本作化を推し進めることにつながり、米の消費拡大と米の転作という双方の作用で米需給ギャップをなくしていくことに結果する。

 JAも同様である。冒頭で述べたように、JA自身が仮渡し金の増額を払うと決意したことは、JAや全農県本部がマーケティングを自ら行ない、米を高く余すことなく売るという決意をしたということにほかならない。そうしなければ持続できないからである。先ほどのJA三次のような心あるJAは米の販売や米以外の作物も含めた管内農産物のマーケティングに力を入れ、自ら販路を拓いてきた。そのような形で自分で道を拓くことが、否応なく迫られているのである。

米のマーケティングと有利販売のポイントは

 JAによる米のマーケティングを考えてみると、良食味・高品質・高単価の米や、付加価値のつくこだわりの米を追求しつつも、一方では、値ごろ感のあるいろいろな米を求めている消費者や実需者への対応力をもつことである。たとえば丼ものを出す食堂ではご飯に丼のつゆをかけて出すことになるのだから、その米は最高級の良食味米である必要はない。外食産業、中食産業などの業務用の米の需要が大きな市場をなしている時代(主食用米需要量の約37%)にあっては、自らの米のポジショニングを行なって適切な販売先を見つけ出すことが肝心である。多様な土質で多様な品質や栽培法の米をもつJAであれば、それらの米の分別管理を行なってトップセールスを行ない、さまざまな実需者のニーズにあった米をサイロごと売ることが重要だ。新潟県の米どころにあるJA越後さんとうでは、カントリーのサイロを増設し分別管理・分別販売を徹底してすすめ、JA筑前あさくらは「福岡県の米はいらない」などと言われたところから奮起して、同様の方式でマーケティングをすすめ、17年産米の生産目標数量が県内で最高の伸び率を示すところまでもってきた。

 第二に、米の有利販売をすすめるには、地元の食品企業との連携を視野に入れる必要がある。

 たとえばいま述べたJA越後さんとうでは、地元の朝日酒造との提携で、有機質の投入、蛋白質含量別価格の設定、人工衛星による適期刈などをすすめ、2万俵の酒造好適米で一般コシヒカリよりも60kg当たり1000〜3000円高い生産者手取りを実現。また、安全・安心、本物志向に対応して原料米を他県産から県内産にシフトしようとしていた岩塚製菓との間でもち米の契約栽培をすすめ、全農取引価格よりも60kg当たり1000円程度高い値段で1万俵を取引している。こうした努力の結果、JA越後さんとうのコシヒカリ作付比率は68%と、新潟県内の他の農協の作付比率(平均81%)より格段に低い比率になっているという。こうしてJA越後さんとうは農家の支持を受け、米の集荷率100%を実現しているのである。

 加工用米の生産・流通量がかつての30万tから11万tまで落ち込んだのは、国産の加工用米がアメリカから輸入を押しつけられた安いミニマム・アクセス米に置き換えられたからである。この動きに対抗し、地元企業との連携で国内産米の消費拡大をすすめたい。

 また、米の販売をすすめ消費拡大をはかっていくうえで、新潟県のJAささかみのように、生−消の交流事業をベースに転作物の加工も含む地域丸ごと産直をすすめる例もあり、注目されている。

米の積極販売をとおして消費者の実感的理解を深める

 米はたしかに厳しい状況を迎えている。しかしこれまで見てきたように展望はある。個人であれ、グループであれ、集落営農であれJAであれ、消費者や実需者に直接働きかけて米を本気になって販売すること――そこから米消費も拡大し、道が拓けるのである。

 昨年12月、内閣府が発表した「食料の供給に関する特別世論調査」によると、日本の食料自給率が低いと感じている人は6年前の5割から7割に増え、望ましい食料自給率として「60〜80%」と答えた人が49%で最大。「50%程度」と答えた20.5%と合わせると、約7割の人が食料自給率の向上を求めている。このような自給率についての意識の変化を、米販売の取り組みで都市生活者に働きかけるなかで、農業・農村への実感的理解へとつなげていくことである。消費者は量販店で安い米が売られていれば、それを自覚なしに買ってしまう面はあるものの、いまの米価が高いなどとは決して考えていないからだ。

 都市部の若い女性を主要対象として農文協で出しているビジュアルな季刊誌『うかたま』は、「田舎のおばあちゃんの写真の表情が懐かしい」「昔食べたあの食べものが懐かしい」といった懐かしさや、地域の、日本の農業に根ざしたまともな食生活を実現するための実用性で人気のある雑誌であるが、最新号=第8号の特集は「愛しの白いごはん」である。

 この特集を読んだ読者の一人が「ごはんがお茶碗1杯20円といういまの米の流通価格では農家がやっていけない。お米の価値を上げ、日本の農家を元気にし、これからも美味しいごはんを食べ続けるために、今、都市の私たちができること――それは自分でお米を選び、自分のうちでご飯を炊いて食べることだ」と、インターネットのブログ日記でこの特集の紹介をしてくれた。その紹介記事の翌日には、見ず知らずの若い女性たちが次々反応をして感想を書き込んでいる。

「私も『うかたま』を読むまで、米をとりまく事情がこんなに大変なことになっていることを知りませんでした。食料自給率が40%というのは知識として知っていましたが、なんとなくピンと来ないのですね」

「お米問題!と提起されるほど、うちでご飯を食べない人たちが増えてるんだね。最近うちは近くのお米屋さんで買うようになりました。やっぱり美味しいし、安い! ……でも5kgで2000円しないんだけど…農家に利益がでるのかしら…心配になってきたわ」

 互いに見知らぬ都市の若い女性たちの間でこんな会話が交わされ、日本の農業についてのかかわりが、自分の生活との関係で実感的に語られている。米の販売活動をとおして、このような人びとに直接働きかけたい。

 世界の食料事情について目をやれば、円安による輸入価格の上昇や、経済発展する中国の需要増、バイオエタノール特需による稲作からトウモロコシへの作付転換などから、米の国際価格の指標になっているタイ米価格が5年間で2倍に上昇し、日本の輸入価格も上昇中だという(『日本農業新聞』2007年9月6日付)。小麦の国際価格も高値更新中で、パンやパスタなど小麦加工製品を値上げする動きも出てきた。

「農業に明日はない、あさってがある」と名言を吐いたのは、本誌で「への字稲作」を連載して読者に大きな影響を与えた故井原豊さんだ。どうも、その「あさって」が近づいているようだ。希望はある。米の総合的販売に積極的にう取り組もう。

(農文協論説委員会)

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