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農文協トップ主張 2007年2月号

「直売所革命」から「流通革命」へ
いま、「地産地商」の時代をひらく

目次
◆『地元』というマーケットは、地域の農家を待っている
◆いま、業務需要はどうなっているか
◆料理人やシェフとつながれば刺激的な世界が生まれる
◆メニュー重視型から食材重視型へ―外食産業の変化
◆「地元のお客」には3つある

『地元』というマーケットは、地域の農家を待っている

 「農業は今、追い風ですよ。街の集まりごとに出て行くと、異業種の人たちからの熱い視線を感じるんです。これから、農業はいろんな産業を巻き込んでどんどんおもしろくなりますよ。郡山に行けばなにかあるぞというしかけをつくっていきたいと思っています。郡山、目が離せませんよ」

 こう話すのは、福島県郡山市の鈴木光一さん(45歳)。鈴木さんは、約2町歩の野菜畑でつくった野菜のほとんどを直売してきたのだが、その後、仲間とともに「郡山ブランド」づくりをすすめている。

 「このままでは、直売所同士がぶつかってオーバーフローになってしまう。だからちがうルートで売ってみようと思ったんです。いってみれば、直売の次の段階の売り方です」

 さっそく郡山地方卸売市場に声をかけたら、若手の稲作農家がなにやら野菜をつくって販売するということで、卸側の反応はバッチリ。仲卸も含めて、なんと13社から「ぜひ扱いたい」と申し出があった。鈴木さんたちも、卸業者にアンケートを出したりして仲間で話し合いを重ね、「僕らがつくった野菜とわかるような売り方をしたい」

――この部分をいちばんわかってくれる業者と契約することに。結局、仲卸を通して郡山のヨークベニマルと取引することに決まった。

 そんな鈴木さんが、次に考えているのは、地元の業務需要の開拓である。

 「郡山にも飲食店があるけれど、なかなかいい野菜に巡り合えないというシェフや料理人が意外にも多い。そこで、農家のほうからこだわりの野菜を提供して、調理のプロの方々に見てもらう。地元のこだわり野菜を使ってくれるレストランができたら『お、今日は○○さんの野菜使ってんだって? ちょっと食べに行ってみるか?』って感じになるんじゃないかなー。地元の野菜が売れる、レストランが繁盛する、地元が潤う。基本はそこですよね」

 「どんな田舎でも、二つ三つ向こうの町まで広げて考えてみれば、大きなホテルとか絶対にあるはずです。そこのメニューは全部地元産になってますか? きっとつまらない食材ばかり使ってるんじゃないですか?

 ようは、農家だけでチマチマ考えていてもダメ。視野を広げて、異業種の人と手を組めば、『地元』というマーケットは、地域の農家を口をあけて待っていますよ」

いま、業務需要はどうなっているか

 業務需要とは、消費者がスーパーや八百屋から生鮮品を買って自分で料理する以外の需要のこと。地元にも、飲食店、レストラン、ホテル、旅館、病院、学校、福祉施設、商工会などさまざまな業務需要がある。合併で大きくなった市町村を「地元」とみれば、地元の業務需要は巨大だ。

 最近の家計調査(総務省統計局)によると、1世帯が1年に支出する食料費の平均は約80万円。内訳は、外食費が18%、中食と呼ばれる調理食品(持ち帰り弁当、惣菜など)が10%、加工食品が42%、生鮮品が30%、つまり7割が業務を経由した食品なのである。野菜にしても、市場経由で小売りされるのが40%台で、中食・外食産業で使われる野菜が50%を超えている、といわれている。

 そして、この業務用には輸入農産物がしっかり入りこんでいる。加工食品では大量の輸入ダイズやムギが使われ、商社による生鮮品(冷凍ものを含む)の開発輸入も盛んになっている。

 中国からの生鮮野菜輸入が急増しているが、その大部分は外食・中食、加工原料など、主婦の目の届かないところで消費される業務用である。これを切り開いたのは、日本の商社による開発輸入だ。日本からタネを持ち込み中国の農家に栽培させ、日本で通用する商品に仕上げる。ホウレンソウの残留農薬事件を教訓にして、トレーサビリティと残留農薬の検査体制も整えてきている。

 日本人の好みにあう品種を持ち込み、施設や技術、流通手段までセットして進められる開発輸入。ある商社のホームページを見てみたら、「私たちの主な事業は食材・食品のグローバルな視点にたっての開発輸入です。おいしく、安全・安心で確かな食材・食品を提供するために、生産者から消費者までを垂直統合するインテグレーションビジネスを展開しています。国内の有力な食品製造メーカーへは食肉・食品原料を、流通企業(問屋・スーパー・コンビニ)へは生鮮食品および加工食品を、外食・中食企業へは業務用食材を、お届けしています」とあり、「『おいしさ』に国境はありません」という、文言が飛び込んできた。

 なかなかの自信である。輸入に負けそうな気にもなってくる。しかし、先の鈴木さんが述べているように、「農業は今、追い風」なのも確かだ。輸入野菜が増えてきたといっても、野菜の業務用需要の9割近くは、国産ものである。 

 さらに最近、メニューに使用する「主たる原材料」の原産地を、消費者に分かりやすい表現で、見やすい位置に表示するという「外食の原産地表示ガイドライン」が策定され、外食産業では国産の野菜、地元の野菜を求める傾向が強まっている。輸入ものより国産もの、さらに地元産の人気が高いからである。

 しかし、国内産地が業務需要を意識しないままでいると、輸入野菜がさらに進出してくる可能性が高い。大事なことは、農家が業務需要をしっかりつかむことだ。それを地元から始める。業務需要に関わる地元の人々や企業と手を結んで「商い」を起こす。その気になって探せば、地元には消費者以外に、地元の農産物を求める人々がたくさんいるはずだ。

 「紅大豆の特産品開発」を進めている山形県川西町役場の佐々木雅彦さんが、こう述べている(本号253ページ)。

 「いま農業においては『地産地消』がキーワードとなり、産直施設が増加傾向にある。一方、商店街は、大型郊外店の進出や後継者問題があり、低迷している。これは川西町のみならず、全国的な傾向だろう。

 『農家は出荷する』『商店は売る』という役割分担は、長い歴史を経てあたりまえのように確立されている。それが、農家と商工業のあいだの『壁』のように感じられるときがある。その壁を取り除くため、紅大豆生産研究会では町内の商工業者に商品開発を積極的に依頼し、『協働による利益』を生もうと考えた。豆腐・味噌・納豆はもちろん、和菓子・もち・パン・惣菜など、さまざまな業種に波及しつつある。

 地産地消という言葉から連想されるのは、ある意味、閉鎖的な経済である。だが川西町では、町民と行政による『協働のまちづくり』の理念にもとづき、地域で生産される農産物や農産加工品等を、地域が一体となって商売しよう(売り込もう)と考えた。いわば『地産地商』である」

料理人やシェフとつながれば刺激的な世界が生まれる

 そんな「地産地商」を進めるに当たって、料理人やシェフとの結びつきが大きな力になりそうである。農家は作物を育てるプロであると同時に、それを生かして上手に食べるプロでもある。そんな農家が、食べものをつくり商いをしているプロと結びつくと、なかなかおもしろいことが起きてくるのだ。

 「ホテルのプロの料理人とつきあいだしてからは、品種選びもまたグンとおもしろくなりましたね。黒いトマトとか白いナスとか苦い葉物とか、『直売所では、ちょっと珍しすぎて売れないだろーな』と敬遠してた品種でも、プロは『腕が鳴る』とかいって喜んでくれますよ」と言うのは、先の鈴木光一さんである(46ページ)。

 高知市の熊澤秀治さん(49歳)は、「農家はどんどん飲み屋に乗り込むべきだと思います」という(58ページ)。

「飲み屋でカウンターに座ると、『どんなお仕事されているんですか』って言われるでしょう。農家です、っていうと、『何を作っているんですか』と聞かれる。そこで美味しい食べ方のひとつでも紹介すると、『今度うちに持ってきてくださいよ』って必ず言われるんですよね。これ社交辞令かもしれません。でも、そこでちゃんと持っていくんですよ。すると世界が変わります」

 熊澤さんは、5年ほど前から地元の料理屋や八百屋と関わるようになり、要望される野菜を少しずつ作り始めてからは、農業が面白くてしかたなくなってしまった。気付いてみるとミブナ、サラダシュンギクなど葉物野菜で7品目。「潮江旬菜」と名付けたその野菜は、いまや高知市内の料理店やレストランなどの飲食店の間で絶対的な信頼と人気のあるブランド野菜になった。

 お店で見ず知らずの人が自分の野菜を食べる場面に出くわすこともある。自分でお金を出して食べるので、本音が出る。ある意味恐ろしい瞬間でもあるのだ。でも、そこで「美味しい!」という声が聞けると実に嬉しい。料理人が「あの人が作っている野菜なんですよ」なんて紹介してくれると、消費者とじかに話ができて、結構野菜に詳しい人がいることなんかがわかってくる。かなり刺激的で、市場出しでは絶対に味わえない世界だ、と熊澤さん。

 埼玉県所沢市の中健二さん(66歳)は、1町8反の畑で、味にこだわって約36品目(100品種くらい)の野菜をつくり、半分は約60軒のフランス料理店へ契約宅配している。そんな中さんお気に入りの秋ダイコンは、どれもスーパーでは見かけないものばかり。形もいろいろ。はっきり言って見てくれは悪い。でもその味はフランス料理店のシェフが納得するもので、選び抜かれた顔触れなのだ。

 たまにフランス料理店に顔を見せにいく中さんだが、そんな時は一番大きなバッグに、畑にある野菜をぎっしり詰めてお土産に持って行く。収穫できなかったダイコンの花が綺麗に咲いていたので、お店にでも飾ってもらおうと持って行ったこともあったが、さっそくつくってくれた料理にビックリ。お皿の真ん中の料理の周りには、ダイコンの花びらが一枚一枚、綺麗に敷き詰められていたのだ。観賞用にと思っていたものが、食材に変身。やっぱりダイコンの味がして美味しいし、何といっても綺麗だ。

 こうして中さんは、自分が美味しいと思う食べ方をシェフに提案したり、されたりしながら、いろいろな品種をつくり、またその品種ごとの食べ方や生育ステージごとの食べ方まで考えるようになってきた。シェフとのやり取りで発見した食べ方は、ほかのお店や、直売所などで話しても、とても喜ばれるそうだ(2006年2月号)。

 料理人やシェフとの交流から生まれる農家が知らない食べ方と、農家ならではの食の知恵が合わさると、直売所での売り方、アピールがパワーアップする。

メニュー重視型から食材重視型へ―外食産業の変化

 小田勝己氏(宮城大学食産業学部)が「いまどきの農産物流通事情」(2006年4月号)の中で、外食産業の移り変わりをまとめている。およそ次のようだ。

 昭和50年(1975年)代以降、バブル経済が崩壊する平成5年(1993年)は外食産業の拡大期、市場規模は28兆円にまで達した。しかし、このころから国内経済の低迷の影響を受け、業績が悪化。これは、景気の影響だけでなく、いつでもどの店舗でも「同一品質」「同一サービス」「同一価格」を提供するという従来のビジネスモデルの競争力が薄れたことによるという。

 平成6年ごろになると、高まった消費者の健康・安全志向に対応するために、生鮮野菜を利用したメニュー開発を、産地・生産者との契約等による独自の調達システムを整備しながら進めようとする動きが活発化。平成10年ごろになると、野菜類を中心とした旬の食材を提供する「ビュッフェ」レストランが生まれる。このビュッフェ、あるいは「バイキング」と呼ばれるスタイルは、特定多数の顧客を対象に、限られた時間帯に大量供給するしくみとして生み出されたものだが、今、注目されているのは地元で栽培された食材にこだわった「家庭料理の店」としてのビュッフェスタイルである。

 こうした流れを小田氏は、「ある範囲の売れ筋メニューの定番化(メニュー重視型ビジネスモデル)にたいして、メニューを固定化せず、季節ごとに旬の食材をメニュー化していくスタイル(食材重視型ビジネスモデル)」であるとし、これが、「一般レストラン分野で『地産地消』コンセプトを取り入れるひとつの契機となった」としている。

 さて、この「食材重視型ビジネス」が求めるのは、こだわりの食材である。なんでもいいわけではない。

 食べものに、それをつくる人、食材を生んだ作物やその背景にある自然を感じるとき、人はより一層「おいしく」感じる。国境を超えたおいしさがあってもいいが、なにかつまらない。フランス料理やイタリア料理、ベトナム料理などの人気は、その国の文化としての料理への希求であり、国境のないおいしさではないだろう。

 「食材重視型ビジネス」は地元の食材を求める。農家から直接届けられた素材に、プロは「腕が鳴る」のである。食の本質がそうさせる。それは、農家の食事づくりと共通する。田畑や野山から四季折々に得られる素材を活かして、今あるものを活かして農家は豊かな食を築いてきた。

「地元のお客」には3つある

 さて、「地産地商」を支える「地元のお客」には3つがある。

 第1に直売所のお客、第2にこれまで述べてきた地元の業務需要、そして第3は、地元出身者だ。 

 和歌山県串本町の山間の集落に、ユズの加工で1億円を稼ぎ出している農事組合法人「古座川ゆず平井の里」がある。転機となったのは、町をあげてのダイレクトメールだ。お母さんたちは、今までユズ加工品を買ってくれた人、年賀状を出している人などに片っ端から、あいさつ文を書いた手紙とパンフレット、注文書を入れて郵送した。約4000通。それでは少ないと、今は都会に住んでいる古座川出身者でつくる「古座川町人会」の6000人にも送った。

 その結果、せいぜい1〜2%といわれるダイレクトの返事が、なんと17%も返ってきた。地元出身者恐るべし。

 「都会へ出た人はみんな、故郷が気になっている。でも働き口がないから帰るわけにはいかない。だから故郷を応援したいなーという気分で平井のユズ商品を買ってくれるんとちがうかな」と「平井の里」の倉岡有美さんは言う(66ページ)。

 直売所で地元の消費者に届け、地元の業務需要に応え、そして地元出身者など都市民にも働きかける。直売所に加え、地域の業務需要を地元産で埋めることによって地域の食文化と暮らしが豊かになれば、都市民を引きつける力も大きくなる。団塊世代を地元に呼びもどす力にもなる。

 「直売所革命」から「流通革命」へ。「疲弊する地方」を「地産地商」によって打開し、豊かな地域をつくる。その先陣を農家がつとめることを「地元」は期待している。

(農文協論説委員会)

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