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農文協トップ主張 2005年2月号

「変わってきたこと」「変わらないこと」
『現代農業』700号を記念して

目次
◆『現代農業』は、農家自身がつくる雑誌
◆農家に学んで変わってきた
◆「変わらない」ことを農家とともに確認していく
◆私も『現代農業』を愛読しています

『現代農業』は、農家自身がつくる雑誌

『現代農業』の歩み
●『現代農業』の前身 『農政研究』(1922(大正11)年創刊当時)
農政研究 農政研究
当時、地主対小作の争議は全国的に広がり、社会の大問題として帝国議会でもしばしば取り上げられた。この社会問題を議論する場として国会議員、農政記者、学者たちが大日本農政学会を組織し、機関誌『農政研究』を発行した。これが現在の雑誌『現代農業』の始まりである。
●農家への直接普及方式を採用
(『農村文化』1949、50(昭和24・25)年の2冊)
農村文化 農村文化
49年春から、農家を巡回し、直接農家の意見を聞き、購読をすすめる直接普及方式を開始。この方式によって農家の求めるものは、いわゆる文化評論ではなく、生産に関する「農業技術と経営」であることが明らかになり、『農村文化』誌は大きく変わった。浪江虔の肥料の使い方についての連載講座第1回も、50年新年号の第39号から始まり、これをもとにまとめた単行本『誰にもわかる肥料の知識』は、10万部という当時としては記録的売れ行きを示した。
●農家への直接普及方式を採用 (『農村文化』1949、50(昭和24・25)年の2冊)
農村文化 農村文化39
49年春から、農家を巡回し、直接農家の意見を聞き、購読をすすめる直接普及方式を開始。この方式によって農家の求めるものは、いわゆる文化評論ではなく、生産に関する「農業技術と経営」であることが明らかになり、『農村文化』誌は大きく変わった。浪江虔の肥料の使い方についての連載講座第1回も、50年新年号の第39号から始まり、これをもとにまとめた単行本『誰にもわかる肥料の知識』は、10万部という当時としては記録的売れ行きを示した。
●『農村文化』から『現代農業』へ改題 (1960(昭和35)年11月号、100ページ)
現代農業11 現代農業1
当時、“日本農業は曲がり角”が流行語になっていた。61年「農業基本法」が施行され、農業の近代化が宣伝された。畜産(養鶏・養豚・酪農・肥育牛)の多頭飼育が叫ばれ、規模拡大が進行した。農家の意欲も高く、山形の稲作農家・片倉権次郎さんの増収技術の掲載が大きな反響を呼んだ。このような農業情勢の中で、『現代農業』に改題。その後、毎年1万部以上の増部を重ね、読者は東北・関東を中心に全国に広がった。
●大幅増ページで366ページに (1969(昭和44)年10月号)
現代農業
この年発行部数は14万部を超えた。182頁の雑誌では読者の多様な欲求に応えられなくなり、本文・グラビア頁を倍増し、カラー口絵を設け、生活・農政ページを大幅に拡大した。農業技術・経営誌から家族の誰もが読める総合誌へと変わったのである。 この年から「減反政策」が始まる。翌70(昭和45)年から主張欄を設け、第1回の主張は「近代化路線にまどわされるな」であった。それ以降、農家の自給を重視し、栽培技術の面でも、化学肥料や農薬などに依存する農業からの脱却をめざす農家の取り組みをさまざまに取り上げるようになった。
●全面カラー化へ (1997(平成9)年6月号、378ページ)
現代農業
作物・家畜の姿や病害虫、田畑のようすはカラー写真でなければわかりにくいということから、本文の全面カラーに踏み切る。この号の巻頭特集は「天敵生かして小力防除」。『現代農業』は、自然の力を生かし、高齢者や女性も楽しくでき、農村空間が豊かになるような農家の「小力技術」を精力的に紹介している。

 1946年(昭和21年)5月号からかぞえて、『現代農業』は今月号で700号を迎えた。年数で60年目。

 残念なことだが、各県の農業雑誌が相次ぎ廃刊となり、かつては大部数を誇った農業以外の月刊総合誌の多くも不振ないしは廃刊されるなかで、月刊誌『現代農業』は半世紀以上も続き、最近、書店での販売部数も伸びている。農家をはじめとする読者の皆さんのおかげである。改めて、お礼申し上げたい。

 『現代農業』には長年読んでくれる読者が多い。千葉の椎名さん宅のように、親子3代に渡る読者もいれば、神奈川県の古山菊太郎さんのように、20代の時から73歳の現在まで、ずっと読んでいただいている人もいる。古山さんからは、「元気なうちは読み続けるよ」とうれしい声を聞かせていただいた。20代の若手から90歳の高齢者まで、男女を問わず読まれている『現代農業』。そんな雑誌もめずらしい。『現代農業』は農村で暮らす農家みんなの雑誌なのである。

 そして、『現代農業』は、農村に暮らす農家自身がみんなでつくっている雑誌だと考えている。日々、自然や作物とのつきあいのなかで技術を磨き、むらの中で暮らしている農家の工夫や知恵に学んで、毎月の『現代農業』ができあがる。編集部の役割とは、それをちゃんと感じ取り、受け止め、よりよい形で表現するという点にあるのだと認識している。バイクで一軒一軒の農家におじゃましている農文協の普及(営業)職員の活動も、農家から聞いたり見たりしたことを他の農家に伝え、雑誌に農村の風を吹き込み、「農家がつくる雑誌」つくりを担っている。

農家に学んで変わってきた

 「農家がつくる雑誌」は農家に学ぶことで成り立つ。学んで働きかけ、働きかけることによって学ぶ。その働きかけ方も、この60年の間に大きく変わってきた。

 『現代農業』が農家の皆さんに本格的に受け入れられるようになったのは、1949年、農家への直接普及方式を採用し、農家の要望を受けて、内容を農業生産中心にしてからである。農村の文化は日々の生産、労働を礎に生まれる。生産重視の象徴的な記事が「誰にもわかる肥料の知識」であった。当時広く出回りはじめた化学肥料をムダなく、上手に使うための科学的知識をわかりやすく表現する。

 この「科学をわかりやすく」はその後、「農家の発想で」科学を使う段階へとむかった。農家が豚を飼うのは経営のためであり、豚の生理の記事を大学の先生にお願いするときも、どのようにしたら儲かる飼い方ができるか、という農家の発想に添って記事を書いてもらう。そして「農家の発想で」はやがて農家の技術のとらえ方の変革をもたらし、「農民的技術体系」の把握へと進んだ。その代表が、山形県の片倉権次郎さんの「五石どり稲作」である。出穂四五日前のイネの姿を基点に稲作全体をしくんでいく。農家の技術は、作業の寄せ集めではなく、タネを播く時から、収穫の秋までの生育像を思い描いている。育ちゆくイネと会話しながら個々の作業を積み上げていくことで農家の技術は成り立っている。

 「科学をわかりやすく」、「農家の発想で」、「農民的技術体系」、こうした農家の技術のとらえ方、学び方の深まりによって、『現代農業』は、農家の立場にたつ技術・経営誌として発展していった。

 そんな『現代農業』に転機が訪れたのは1970年代である。減反政策が始まり、野菜産地では土の悪化、連作障害が深刻になり、農薬中毒による農家の健康破壊など、経営面でも身体面でも農業近代化の矛盾がだれの目にも明らかになっていった。これに対し、『現代農業』は、主張欄を設けて近代化批判を開始する。主張の1回目は、「近代化路線にまどわされるな」であった。

 この農業近代化批判のなかで拠りどころになったのは、農家が農家であるかぎりもっている「自給」の側面であった。堆肥などの農業資材から、ドブロクなど暮らしの面まで、自給のとりもどしを訴えた。時代に逆行する『古代農業』だ、という声も聞かれたが、この「自給」こそ、『現代農業』が農家に教わった農民の思想なのである。

 近代化批判は、その後、これを支えている農薬、肥料、品種、機械などの「資材」の見直しへと進んでいく。当時、有吉佐和子の『複合汚染』が大ベストセラーになり、農薬を多用する農家を加害者とみる風潮が広がったが、『現代農業』は、農薬の最大の被害者は消費者ではなく農家なのだ、という立場に立ち、農薬のムダのない使い方や、農薬依存から脱却する方法を農家に学び、提案していった。こうして1980年代の前半に農薬、肥料、品種の特集号が始まり、この特集号は今日まで続いている。

 一方、自給の見直しは、その後、50万円自給運動など、女性たちの暮らしと農家経営を守る運動へと発展し、これを土台に朝市、産直が各地で始まり、だれも予想しなかったほどの大きな広がりをみせることになった。産直は、女性や高齢者の活躍の場をつくり、『現代農業』では、加工まで含む朝市・産直の取り組みとともに、年をとっても楽しく農業を行なうための「小力技術」の発掘に精力的に取り組んでいった。

 こうした歩みを経て、『現代農業』は、「農業技術の実用誌」「暮らしの実用誌」「販売・経営の実用誌」「地域づくりの実用誌」という4つの顔をもつ総合実用誌になった。

「変わらない」ことを農家とともに確認していく

 60年の間に『現代農業』は大きく変わった。しかし、それは「変わらない」ことを農家に学ぶ過程でもあった。

 育てることは学ぶこと。農家はイネやトマトや牛と会話し学びながら、作物や家畜を育てている。そんな農耕労働の本質は、いかに施設や機械が進歩しても変わることはない。

 “自給”を基本に「お裾分け」するという、農産物の届け方は「地産地消」という形で引き継がれ、大きな動きになっている。専作型の野菜産地でも、自分たちの野菜の料理を工夫し、楽しむという「自給」が始まっている。

 農家の土地やむらへの思いも変わっていない。自給農家や兼業農家まで含めて、むらを守ろうという動きが、集落営農や、あるいは大規模農家でも始まっている。

 月刊誌だから、農家、農村の新しい動きに注目して記事をつくることになるが、農家の新しい意欲的な取り組みの背景にはいつも、農家が大事にしてきた「変わらない」ものがあった。作物と対話する楽しさや、むらうちの助け合いなど、農家、農村の変わらないありようを、農家は若い編集者や普及者に教えてくれた。そして農家に書いていただく原稿は、その農家ならではの作物の見方や思いを届けてくれる。こうして、農家がつくる『現代農業』は、農村の豊かさ、魅力を満喫できる雑誌になっている。

 そんな『現代農業』の読者は、若い新規就農者や農家以外の人々にも広がっている。新しい読者の声をいくつか紹介しよう。『現代農業』の広がりを農家の読者の方々にも知ってもらいたいと思う。

私も『現代農業』を愛読しています

■新規就農の深瀬雅子さん

 学生時代に農家にふれ、同級生だった夫と農業研修をした後、四年前から大分県玖珠町でサニーレタスを中心に栽培している深瀬雅子さんからのお便り。

 「私が農の世界に出会えたのも、無知無礼な私を温かく受け入れてくださった方々のおかげなのです。そのころ旅先で出会ったのが『現代農業』です。土着菌の話題が出始めた頃で、大学3年生だった私は土着菌、天恵緑汁の虜でした。今考えるとなんだか恐ろしい女子大生です。新聞もとっていない今でも、楽しく『現代農業』を購読しています! 私は『品種特集号』が大好きですが、今は主人のほうがよく読んでいて詳しいのです。」

 「私が農家を巡っていたときに恋いこがれていたものがもう一つあります。それは農村という空間です。ここにあるミミズや虫たち、土、この空気も水も売れません。そして家族も地域も買えません。当たり前にある家族のあたたかさや地域のつながり、みんなとの時間はお金では買えないのです。ニュースを見るたび胸が痛むことが多いなか、私は今、自分たちがここに暮らす温かさ、豊かさ、そして穏やかさについて見つめ直しているところです」

 むらの農家に助けられながら、深瀬さんは、変わることのない農村空間に思いを寄せる。農業・農村に魅力を感じる青年がふえている。

■宅老所で働く渡辺恵子さん

 一方、こちらは、農業の第一線を退いた高齢者の話。長野県の宅老所「大庭の家」で働く渡辺恵子さんから、こんなお便りをいただいた。

 「地域の中へ宅老所を作り、皆さんの希望に応えようと無我夢中の一年が過ぎた頃のこと。お茶を飲みながら『こんな事やりに来たわけじゃない!何もやることがなきゃ帰るぞ』と男性の利用者が大きな声を上げた。働き者のお年寄りたちは暇な時間が大嫌いで、『ゆっくりしようよ』の声には耳を貸していただけません。

 そうだ!『本を買おうよ、読みたい本、ない?』といったら、『昔読んでた本よかったけど、若いもんがもういらないって止めちゃった』、『あ、それうちの父ちゃんも読んでいた』、『しそジュースの作り方載ってたよね』という。こうして、『現代農業』が『大庭の家』にやって来た。

 宅老のお年寄りは農業を生業としてきた方が多く『現代農業』はその方々の生活体験や残された力を引き出してくれ、どんなリハビリよりも生活意欲をよみがえらせる大きなきっかけになっています。時には『貸してください』と持ち帰る方、気に入った記事をメモする人も現れました」

■北海道の小学校の先生、矢口文明さん

 『現代農業』を愛読する小学校の先生もいる。

 「『現代農業』は、私の愛読書の中のベスト3に入ります。毎号届くたびにほとんど隅から隅まで読んでしまいます。

 私は学校や自宅の花壇に植える花の苗を趣味で作っていますが、特に土づくりなどでは大いに参考にさせていただいています。また、学校菜園での野菜づくり、豆腐や納豆づくり、そば打ち体験など、総合的学習の中での栽培から加工までの一連の取り組みを、子どもたちと楽しく学習しています。今年は森林学習で炭焼き体験も行ないました。これらの多くの取り組みの上での必読書が『現代農業』であることは申すまでもありません。

 このように、手にとって楽しい、すぐに役立つというだけではこれほど愛読はしていないでしょう。私が一番共感するのは『現代農業』の姿勢が、常に農業(食)を守り発展させる立場から情報を発信しているということです」

 世代代わりの時代に、そして地域の自給、自治、自立が課題となる時代に、『現代農業』は700号を迎えた。定年帰農を中心に新規就農は毎年八万人(農水省調査)、農家もJAも行政マンも、世代代わりの時代を迎えている。しかしそれは、新しい世代が古い世代にとって代わることではなく、老いも若きも、大きい農家も小さい農家も一緒になって地域をつくる時代がきたということだ。地域住民や子どもたちを巻きこみ、そして、村から送り出した団塊の世代にも働きかけ、豊かなふるさとを築きたい。

 農業を基礎にふるさとをつくる。そんな時代だからこそ、農家がつくる『現代農業』の読者仲間をふやし活用してもらいたいと思う。その手助けになればと、今月号では、「『現代農業』用語集」を増ページして掲載した。700号にふさわしい企画だと思っている。 (農文協論説委員会)